第80話:混沌の特異点と、絶対虚無の覇帝『ゼロ』――魔王の原点回帰
第80話:混沌の特異点と、絶対虚無の覇帝『ゼロ』――魔王の原点回帰
第六天魔王・織田信長が引き起こした第二のビッグバンによって誕生した、闘争と野心のるつぼ――【真・戦国宇宙】。
大日本・多元宇宙商会の大艦隊は、特許、確率、進化、闘争といった新宇宙のルールそのものを司る覇王候補たちを次々と「強制買収(M&A)」し、自社のインフラ(子会社)として組み込みながら、星海の最深部へと猛進していた。
そしてついに、大艦隊は「その場所」へと到達した。
『――ピーッ! 警告! 全センサーの数値が消失! ここは……空間の座標も、時間の流れも、すべての概念が『無』に収束しています!』
戦略室の佐吉が、魔導盤のスクリーンが完全にブラックアウトしたのを見て、震える声で報告した。
「なんだここは……。今までの騒がしい星海がウソみたいに、音が一つも聞こえねェぞ」
オークの猛将・権六が、超絶・次元晶戦斧を構えながら、不気味な静寂に包まれた漆黒の空間を睨む。
そこは、星も光も、狂気すらも存在しない【混沌の特異点】。
大日本商会がこれまで築き上げてきた「価値」や「騒騒しさ」をすべて拒絶するような、絶対的な無の空間であった。
「……嫌な予感がしやする。あっしのソロバンの玉が、急に重たくて弾けなくなっちまいやした」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、脂汗を流しながら自らの商売道具を抱きしめる。
絶対虚無の覇帝ゼロ
その時。
漆黒の特異点の中心から、音もなく「人影」が浮かび上がった。
それは、巨大なバケモノでも、異形の神でもなかった。信長と同じ人間ほどのサイズで、全身が光も闇も吸い込むような【完全な透明色】で構成された、名状しがたい青年。
『……来たか。やかましい俗物ども』
青年が口を開いた瞬間、大日本艦隊の全乗組員の心臓が、見えない氷の刃で貫かれたように凍りついた。
彼が発するプレッシャーは、これまでのどんな覇王候補とも違った。殺気もない。闘争心もない。ただ、存在そのものが「相手の価値を否定する」という、底知れぬ虚無感。
「てめェが、この新宇宙のド真ん中に陣取ってる『一番デカいバケモノ』か」
黄金の玉座から立ち上がった信長が、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担いでニヤリと笑う。
『我は【終焉覇帝ゼロ】。お前が引き起こしたビッグバンのエネルギーの「反発」から生まれた、この宇宙の影であり、すべての終わりを司る者』
ゼロは、感情のない冷たい瞳で信長を見上げた。
『お前たちは、この宇宙に「価値」や「野心」という無駄な概念をばら撒きすぎた。……金、会社、インフラ。そんなものは、絶対的な「無」の前では何のイミも持たない幻影だ』
「ガハハハハ! 無意味だと!? なら、俺たちの暴力がどれだけ重てェか、その透き通った体に刻み込んでやらァ!」
権六が吠え、天主の甲板から跳躍。空間ごと両断する極大の斬撃をゼロの頭上へと振り下ろした。
しかし。
スッ……。
権六の次元晶戦斧がゼロの身体に触れた瞬間。赤黒く燃え盛っていた戦斧のエネルギーが、一瞬にして「色を失い」、ただの脆いガラスのようにパキンと砕け散ってしまったのだ。
「な、なんだとォ!?」
権六が、柄だけになった斧を見て驚愕する。
「オヤジィ! 退がれ!」
又左と虎が、超光速の雷撃とプラズマを同時に放つ。だが、その莫大な熱量もまた、ゼロの周囲数メートルに到達した瞬間に「無色透明」の粒子に変わり、音もなく消滅してしまった。
資本の無効化
『……言ったはずだ。すべては「無価値」だと』
ゼロが指を軽く弾く。
それだけで、権六、又左、虎の三人は、見えない絶対的な虚無の力によって吹き飛ばされ、血を吐きながら甲板に叩きつけられた。
「ウフフ……物理や魔力が消されるなら、内側から腐らせるまでですわ!」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)と、南の極地で買収された【腐海魔帝ベルゼビュート】が、極大の次元反射結界と致死の猛毒をゼロに向けて放つ。
だが、ゼロは歩みを止めない。
『毒に「殺す価値」などない。結界に「防ぐ価値」などない』
ゼロが呟いた瞬間、金柑の結界もベルゼビュートの毒も、スウッと霧散してしまった。
「御館様! これはマズいです! 奴は物理や魔力を防いでいるのではありません。相手の攻撃や概念の【存在価値をゼロに書き換える】能力です! 価値がゼロになったものは、この宇宙に存在し続けることができずに消滅してしまいます!」
佐吉が、魔導盤のエラー画面を叩き割る勢いで叫ぶ。
「……フン。価値をゼロにする、か」
信長は、倒れる家臣たちを見下ろし、ゆっくりと火縄銃を構えた。
「なら、俺の『永楽銭』の重さならどうだ。佐吉! アザトスの無限資本を全開でブチ込め!」
「了解しました! 大日本商会の全資産を充填!」
信長の火縄銃が、黄金の資本エネルギーで限界まで膨れ上がる。
「大日本・多元宇宙商会! 絶対買収……!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
放たれた究極の黄金の覇王弾。いかなる神もルールも買収してきた、大日本商会の「最強の武器」。
それが、ゼロの顔面めがけて一直線に殺到する。
しかし。
『……金。最も愚かで、最も無価値な幻想』
ゼロが静かに右手を前に突き出すと。
信長の放った無限の黄金エネルギーが、ゼロの掌に触れた瞬間に【灰色の砂】へと変わり、サラサラと虚空に崩れ落ちてしまったのだ。
「な……ッ!?」
猿が、目ん玉を飛び出させて絶叫する。
「ウソだろォ!? 御館様のアザトス・ボイラー直結の買収弾が、ただの砂になっちまった! カ、カネが通用しねェ!!」
魔王の原点回帰(本能)
『……終わりだ、織田信長』
ゼロは、ゆっくりと信長の待つ黄金の天主へと歩みを進める。
『お前が頼りにしてきた「会社」も、「資本」も、私の前ではただのゴミだ。……すべてを失ったお前に、もはや覇王の玉座に座る資格はない』
大日本の社員たちが、最大の武器である「買収」を無効化され、絶望的な沈黙に包まれる。
だが。
「……ククッ。ハハハハハハ!」
信長は、火縄銃をあっさりと床に投げ捨て、肩を揺らして笑い始めた。
「御館様……?」
蘭丸が、怪我を押して信長を見上げる。
「金が通用しねェから終わりだと? 会社が役に立たねェから負けだと?」
信長は、漆黒のマントを脱ぎ捨て、首の骨をゴキリと鳴らした。
「勘違いするなよ、透かしっ屁野郎。俺はたまたま『社長』という肩書きが便利だから使っていただけだ。……金も、会社も、部下も、すべて失って裸一貫になった時。最後に残る俺の【本性】が何か、てめェに教えてやる」
ゴオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
信長の全身から、これまでとは全く異質のエネルギーが立ち昇った。
黄金の「資本エネルギー」ではない。それは、本能寺で己の身を焼き尽くした【純度一万パーセントの紅蓮の炎と、漆黒の殺意】。
大日本・多元宇宙商会の代表取締役という「システム」の殻を破り捨て、一人の戦国武将『織田信長』としての、剥き出しの本能が空間を焦がす。
「蘭丸! 『天叢雲』を貸せ!」
「はっ!!」
蘭丸が、自身の白銀の神剣『天叢雲』を信長に向かって投擲する。
信長は、右手で自身の愛刀『宗三左文字』を抜き放ち、左手で『天叢雲』をガシリと受け止めた。
二刀流。それは、理屈も魔法もカネも関係ない、究極の近接戦闘の構え。
『……無駄だ。武器も、力も、すべては私の前で価値を失う』
ゼロが、絶対無のオーラを纏って信長を消滅させようと手を伸ばす。
「価値がねェなら、無理やり創り出してやるよ!!」
ドンッ!!
信長が甲板を蹴り抜いた瞬間、黄金の天主の床が爆発四散し、信長自身が紅蓮の流星となってゼロの懐へと飛び込んだ。
炎と虚無の二刀流
「オラァァァァァァァッ!!」
右手の『宗三左文字』が、漆黒の覇王色を纏ってゼロの首筋に迫る。
『無意味――』
ゼロがその刃の価値を「ゼロ」にしようとした瞬間。
「てめェが消すより速く、俺の『殺意』を上乗せすればいいだけだろうが!」
信長は、刀がガラスのように脆くなるそのコンマ一秒の隙間に、圧倒的な腕力と踏み込みで、刃を強引にゼロのクリスタルの皮膚に叩き込んだ。
ガキィィィィィィンッ!!!!!
無効化される前に物理的衝撃をねじ込むという、常軌を逸した力技。ゼロの完璧な身体に、初めてピシリと亀裂が走る。
『ガ……!? バカナ……私の能力の発動速度を、純粋な「踏み込み」で凌駕したと……!?』
「休んでる暇はねェぞ! 左(天叢雲)が空いてるぜ!」
信長は、返す刀で左手の『天叢雲』を下段からカチ上げる。
ズバァァァァァァァァァンッ!!
白銀の剣閃がゼロの胴体を切り裂き、透明な血液(概念)が宇宙空間に噴き出した。
「ガハハハハ! スゲェ! 御館様が、カネも魔法も使わずに、ただの剣術で最強のバケモノを圧倒してやがる!」
権六が、血だらけになりながらも拳を握りしめて熱狂する。
「……あれが、御館様の真のお姿。戦国の世を自らの血と刃で切り拓いた、真の覇王の姿……!」
蘭丸が、主君の荒ぶる背中を見て感涙を流す。
『キサマァァァァァッ!!』
初めての痛みと屈辱に、ゼロが絶対の虚無を両手に圧縮し、信長を空間ごと消し飛ばそうとする。
「俺の魂は、てめェの虚無なんざで消せるほど軽くねェんだよ!!」
信長は、宗三左文字と天叢雲の二振りの刀を十字に交差させ、自身の魂の底で燃え盛る「本能寺の紅蓮の炎」を限界まで注ぎ込んだ。
「大日本商会の社長は今日だけ有給休暇だ! ……これより先は、第六天魔王の【独壇場】だ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
十字の刃から放たれた極大の紅蓮の斬撃が、ゼロの放った絶対虚無のブラックホールを真っ向から切り裂き、そのままゼロの透明な巨体を十字に両断した。
『ア……ガ……! 私ノ……無価値ガ……キサマノ、絶対的ナ「熱」ニ、焼カレテ……!!』
絶対的な無と虚無を司る覇帝ゼロは、カネでもシステムでもなく、ただ一人の武将の「純粋すぎる殺意と野心(価値)」によって完全に否定され、光の粒子となって消滅した。
真の中心
「……フゥ。たまには自分で刀を振るうのも、悪くねェな」
信長は、二振りの刀についた透明な血糊を振り払い、刀を鞘に納めた。
「「「オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」
社長業というチートを捨てて、純粋な武力で最強の敵を打ち破った主君の姿に、大日本の全社員が割れんばかりの歓声を上げる。
「御館様! お怪我は!」
蘭丸が駆け寄る。
「かすり傷だ。お前の剣、いい切れ味だったぞ」
信長は笑って天叢雲を蘭丸に返した。
ゼロが消滅したことで、混沌の特異点の空間が晴れ、その奥底に隠されていた【真・戦国宇宙の絶対的コア(大宇宙の心臓)】が姿を現した。
「へっへへへ! 御館様! あれがこの宇宙のド真ん中、すべてのエネルギーが湧き出す【真の玉座】でさァ!」
猿が、黄金に輝くコアを指さして狂喜する。
「ああ。どうやら、この狂暴なハコニワの『お掃除』も、いよいよ最終段階のようだな」
信長は、マントを拾い上げて再び羽織り、極悪な笑みを浮かべてその黄金のコアを見据えた。
真・戦国宇宙のすべてのバケモノを平定し、ついに大宇宙の中心へと到達した大日本・多元宇宙商会。
だが、この玉座を手にした時、信長たちを待ち受けるのは、神々やバケモノすらも超越した「宇宙の真理」そのものとの対峙であった。
全100話の完結へ向けて、第六天魔王の「真・天下布武」は、ついに神話の最終章へとその歩みを進めていくのであった。
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