第79話:闘争の狂神(アシュラ)と、究極の『強制労働(オーバーワーク)ノルマ』
第79話:闘争の狂神と、究極の『強制労働ノルマ』
第六天魔王・織田信長が自らの手で創り出した、闘争と野心のるつぼ――【真・戦国宇宙】。
大日本・多元宇宙商会の大艦隊は、法務・知財部門(特許神の残骸)を獲得し、宇宙のあらゆるルールを「自社の特許」として盾にできる絶対的な安全網を手に入れた。
だが、彼らが次に足を踏み入れた第18セクターは、特許も確率も、一切の理屈が存在しない「ただの破壊の痕跡」だけが広がる荒野のような宙域であった。
「……ひでェ有様だな。星も、銀河も、資源鉱脈すらも、文字通り『粉々』に砕かれてやがる」
オークの猛将・権六が、超絶・次元晶戦斧を肩に担ぎ、眉をひそめて空間の残骸を睨む。
彼ら大日本商会が行うのは「市場開拓」であり、相手を資源やインフラとして再利用する買収(M&A)だ。しかし、この宙域にあるのは、再利用すら不可能なほど徹底的に叩き潰された「完全な無」であった。
「御館様。ルーレットの予測通り、この宙域には『純粋な暴力』だけを目的とする危険な覇王候補が存在します」
戦略室の佐吉が、魔導盤の激しいノイズを処理しながら報告する。
「奴は陣地を広げることも、資源を奪うこともせず、ただ目についたものを破壊し、相手の『闘争心』を喰らって無限に闘い続ける【闘争の狂神】です!」
闘争の狂神アシュラ
ズドォォォォォォォォンッ!!!!!
佐吉の報告を遮るように、数万光年先の空間が物理的に「殴り飛ばされ」、大日本艦隊の真正面に六本の腕を持つ赤銅色の巨大な阿修羅――【闘争の狂神アシュラ】が姿を現した。
『オォォォォォォォォッ!! 強者ノ、匂イガ、スルゥゥッ!!』
アシュラの六つの目には、知性も野心も一切ない。ただ、より強い相手と殴り合い、相手を叩き潰すことだけを至上の喜びとする、純度一万パーセントの殺意だけが爛々と輝いていた。
「ヒィィッ! 今度は話の通じねェ脳筋のバケモノですかィ! 交渉の余地すらありやせんぜ!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、ソロバンを抱えて天主の柱の陰に隠れる。
「ガハハハハ! 上等だぜェ! 理屈をこねる神様より、よっぽど俺たち向きの相手じゃねェか!」
権六が、全身から猛烈な闘気を立ち昇らせて跳躍した。
「オラァッ! 六本腕のデカブツ! 俺と力比べといこうぜェ!」
権六の放った全力の次元切断斬撃が、アシュラの六本の腕と真正面から激突する。
――ドゴォォォォォォォォォォッ!!
空間がひび割れ、強烈な衝撃波が星海を揺るがした。
しかし。
『……ヌゥゥ? 足リヌ。モット、闘争心ヲ寄越セェェッ!!』
アシュラは権六の斬撃を腕で受け止めながら、その傷口から権六の「熱き闘気」をジュルリと啜り上げたのだ。
瞬間、アシュラの赤銅色の筋肉がさらに肥大化し、その反撃の拳が権六を天主の甲板まで殴り飛ばした。
「ぐわぁぁぁッ!?」
権六が甲板を削りながら吹き飛ぶ。
闘争吸収
「オヤジィッ! てめェ、よくもオヤジを!」
又左と虎が激高し、超光速の雷撃とプラズマの槍を同時に叩き込む。
だが、二人の怒りと殺意が込められたその一撃もまた、アシュラの皮膚に触れた瞬間に「極上の栄養」として吸収されてしまった。
『ハァァァァ……! イイ殺意ダ! モット、モット我ヲ熱ク、楽シマセロォォォッ!!』
二人の力を喰らったアシュラは、星雲サイズからさらに倍の大きさへと膨れ上がり、その六本の腕から放たれる熱量は周囲の空間を蒸発させるほどになっていた。
「ダメです! 奴は相手の『戦意』や『殺意』、つまり【闘争という概念そのもの】をエネルギーに変換する能力を持っています!」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、自身の次元反射結界が「闘争の熱」で溶かされていくのを見て叫ぶ。
「私たちが熱くなり、相手を倒そうとすればするほど、奴は無限に強くなってしまいますわ!」
戦えば戦うほど相手が強くなる。
純粋な暴力の化身を前に、大日本の武功派たちは完全に手玉に取られていた。
ブラック企業の『業務命令』
「……フン」
だが、絶望的な状況下で、黄金の玉座に座る織田信長は、呆れたようにため息をついた。
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を片手に立ち上がり、倒れ伏す権六や又左たちを見下ろした。
「てめェら。遊びじゃねェんだ。仕事中に『熱く』なってどうする」
「お、御館様……?」
「いいか。相手をぶち殺してやろうだの、俺の方が強いだの……そんな個人的な感情(闘争心)を乗せて攻撃するから、相手のオモチャにされるんだ」
信長は、マントを翻してバルコニーの先端に立ち、巨大化して咆哮を上げるアシュラを冷たい目で見据えた。
「これは『戦い』じゃねェ。……大日本商会の領地開拓という、ただの【業務】だ」
『……アァ? 何ヲ、言ッテイル、小サキ者ヨ。我ニ殺意ヲ向ケヌカ? 闘争心ヲ燃ヤサヌカ!?』
アシュラが、信長から一切の闘気や殺意が感じられないことに苛立ち、六本の腕を振り上げる。
「殺意など不要だ。俺はただ、邪魔な障害物をシステムから『排除』するだけだからな」
信長の瞳には、魔王としての狂暴な熱ではなく、すべてを数字と利益で割り切る【究極の冷徹な経営者】の氷のような光が宿っていた。
究極の『無限タスク押し付け(オーバーワーク)』
「佐吉! 五郎左! 俺の火縄銃に、アザトスの出力を直結しろ! ただし、攻撃の概念を【絶対的業務命令】に書き換えろ!」
「了解しました! 一切の感情と闘争心を排除した、純粋な『作業データ』として資本エネルギーを充填します!」
「おうよォ! 冷え切った残業代をブチ込んでやりなァ!」
信長の火縄銃が、黄金の光ではなく、無機質で冷徹な「青白いデータ光」に包まれる。
『闘争心ノ無イ攻撃ナド、我ニハ通ジヌゥゥッ!!』
アシュラが、星を砕く六本の拳を一斉に信長へと叩き下ろそうとした。
「なら、味わってみろ。戦いの高揚感など微塵も存在しない、終わりのない【ブラック労働の地獄】をな!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長が引き金を引いた。
撃ち出されたのは、相手にダメージを与えるための攻撃ではない。
大日本商会が抱える宇宙規模の莫大な情報処理、インフラ整備、書類のハンコ押しといった【無量大数年分の終わらない単調作業】を、相手の脳に直接叩き込む『絶対・強制労働覇王弾』であった。
青白い光線がアシュラの巨体に直撃する。
アシュラはいつものようにそのエネルギーを「闘争心」として吸収しようとした。だが――。
『ガ、アァァァ……!? ナ、ナンダコレハ!? 熱クナイ……! タダ、果テシナク退屈デ、重苦シイ……!!』
アシュラの六つの目が、驚愕に見開かれた。
彼の脳内に流れ込んできたのは、血湧き肉躍る戦いの光景ではない。
ただひたすらに、無限に積まれた書類の山にハンコを押し続け、クレーム処理を行い、予算の計算をさせられるという、殺意も闘争心も一切湧かない【純度一万パーセントの事務作業】の概念だったのだ。
『ヤ、ヤメロォォッ! 闘争ヲ……我ニ闘争ヲ寄越セェェッ!!』
「甘ったれるな。給料を貰うなら、黙ってノルマをこなせ。……期限は『昨日』までだ」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長がアザトスの出力をさらに引き上げ、「追加の残業タスク」を無限に叩き込む。
『ア、ガ、アァァァァァ……! 頭ガ、パンク、スル……!! 過労……過労……!!』
闘争心しか処理できないアシュラの脳は、一切の感情を伴わない膨大な「業務命令」の前に完全にキャパシティを突破。
六本の腕はダラリと垂れ下がり、赤銅色の巨体は限界を超えたオーバーワークによってショートし、黄金に輝く巨大な『防衛警備ロボット』へと強制的にフォーマットされてしまった。
第一特攻警備部の設立
「ガハハハハ! やりやがった! 戦いのバケモノが、過労死してただの警備員になっちまったぜェ!」
権六が、黄金のロボットと化したアシュラを見上げて腹を抱えて笑う。
「へっへへへ! 闘争心をエサにする奴に、感情ゼロの『事務仕事』をぶつけるとは、御館様のブラック社長っぷりも極まりやしたね! こいつは我が社の【第一特攻警備部】の最高の番犬になりまさァ!」
猿が、新たに大日本商会の社章が刻まれたアシュラの足元でタップダンスを踊る。
「……フゥ。仕事に個人的な感情を持ち込むからこうなる」
信長は、火縄銃の硝煙を吹き消し、無機質な警備ロボットとなったかつての狂神を冷ややかに見下ろした。
「御館様、お見事です。相手の長所を完全に殺し、自社の利益に変える。これぞ究極の経営手腕」
佐吉が恭しく一礼する。
「ああ。だが、この宇宙のバケモノ狩りも、そろそろ『大詰め』の気配がしてきたな」
信長は、玉座に座り直し、真・戦国宇宙の中心から発せられる「これまでとは次元の違う、静かで、しかし絶対的な重圧」を感じ取っていた。
「特許、確率、進化、闘争……。小手先のルールや暴力を司る連中を片付けた。次はいよいよ、この宇宙の【玉座】に陣取る『一番デカい存在』との直接対決だ。……全軍、気を引き締めろ。最強の買収劇の幕開けだ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
純粋な暴力すらも「終わらない残業」で過労死させ、自社の警備システムに組み込んだ第六天魔王。
あらゆる概念を買収し、大日本商会の巨大なインフラを完成させた信長は、全100話の完結へ向けて、いよいよこの『真・戦国宇宙』の頂点に君臨する「最後にして最強のバケモノ」との最終決戦へと向かっていくのであった。
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