第73話:超・恐慌の獣(ハイパーインフレ・ビースト)と、究極の『超次元・徳政令』
第73話:超・恐慌の獣と、究極の『超次元・徳政令』
多次元市場の絶対的支配者であったCEOアダムの首が飛び、その純白の残骸から溢れ出したのは、彼が長年システムの裏側に溜め込み続けていた「市場の負債」「怨嗟」、そして「底知れぬ大恐慌」のデータであった。
『……ガガガ……ギルルルルルルッ……!!』
赤黒いノイズの泥と化したそれは、アダムの社長室を瞬時に溶かし、本社ビルを喰らい、眼下に広がる【多次元ビジネス・センター】の摩天楼群へ向けて、滝のように流れ落ちていった。
ノイズに触れた超次元ビル群は、物理的に破壊されるのではなく、その存在を維持する「資産価値」を強制的にゼロ以下の【無限の負債】へと書き換えられ、ドロドロに溶けてノイズの一部へと吸収されていく。
「ヒィィィィッ! なんだあの赤黒いゲロみたいなバケモノは! 触れたビルがどんどん溶けて、バケモノの体がデカくなっていきやすぜ!?」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、上空の天魔艦隊・旗艦のバルコニーから悲鳴を上げる。
「御館様! アレはもはや企業でもシステムでもありません! 市場の崩壊そのものが具現化した【超・恐慌の獣】です!」
戦略室の佐吉が、真っ赤に染まった魔導盤のスクリーンから目を背けずに叫ぶ。
「奴は周囲の資産を『負債』として飲み込み、そのエネルギーで無限に自己増殖を続けています! このままでは、ビジネス・センターはおろか、我々が支配したオムニバース全域まで恐慌の波に飲み込まれます!」
インフレ(無限増殖)による物理無効化
「ガハハハハ! 借金まみれのバケモノだと!? なら、腹の底まで叩き割って、溜め込んだモノを全部吐き出させてやらァ!」
オークの猛将・権六が、超絶・次元晶戦斧をフルスイングし、赤黒いノイズの津波へ向けて単騎で跳躍した。
「オラァァァッ!!」
ズバァァァァァンッ!!
権六の放った空間すら切り裂く斬撃が、恐慌の獣の巨体を真っ二つに裂く。
しかし。
『……ブクブク……ギルルル……』
裂かれた断面から、権六の放った「物理的な運動エネルギー」すらも【新たな負債】として強引に吸収し、獣の身体はダメージを受けるどころか、斬られる前よりも二倍の大きさに膨れ上がったのだ。
「な、なんだとォ!? 攻撃を食うたびにデカくなりやがる!」
権六が驚愕に目を見開く。
「オヤジ! 退がれ! 俺の雷で一滴残らず蒸発させてやる!」
又左が超光速で飛び込み、虎と共に極大のプラズマ雷撃を獣の中心に叩き込む。
ドゴォォォォォォォンッ!!
だが、結果は同じだった。雷撃の莫大な熱量もまた「悪性のインフレ」の餌となり、恐慌の獣はついに多次元ビジネス・センターの半分を飲み込むほどの、星雲を凌駕する超絶巨体へと変貌を遂げてしまった。
「……ウフフ。どうやら私の毒も、あの不良債権の塊には『薄められて』しまって効果が薄いようですわ」
南の【腐海魔帝ベルゼビュート】が、自身の猛毒ウイルスがノイズの海に飲み込まれるのを見て、忌々しげに舌打ちをする。
負債を消し飛ばす『魔王の政策』
「攻撃すればするほど相手が巨大化する……文字通りの『悪性のインフレーション』ですね」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、次元反射結界で防戦に回りながら冷や汗を流す。
「物理攻撃も、魔力も、すべてが奴の『借金』に変換されてしまう。いかにアザトスの無限エネルギーを持つ我々でも、これではジリ貧です」
「……ジリ貧、だと?」
絶望的な空気が漂い始めた旗艦の甲板に、低く、しかし絶対的な威圧感を持った声が響いた。
黄金の玉座から立ち上がった織田信長は、眼下で無限に膨張し続ける恐慌の獣を見下ろし、最高に楽しそうに笑っていた。
「てめェら、大日本商会の社員のくせに、商売の歴史ってもんを忘れたのか?」
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担ぎ、猿と佐吉の方を振り向いた。
「借金(負債)が膨らみすぎて、どうにも首が回らなくなった時。……その借金を『ゼロ』にして、経済を強引にぶん回すための、為政者の特権があるだろうが」
「ッ……!!」
その言葉に、佐吉の脳裏に電撃が走った。
「そ、そうか……! 御館様! まさか、アレをやるおつもりですか!?」
猿も、ソロバンを放り投げて泡を吹く。
「ムチャクチャでさァ! いくらなんでも、宇宙規模の借金をチャラにするなんて!」
「ムチャクチャだからこそ、俺がやるんだ。……佐吉! 大日本の全システムを『攻撃』から『概念上書き』へと移行しろ! 俺がこの宇宙に、究極の【徳政令】を布告してやる!」
『超次元・覇王徳政令』の発動
徳政令。
それは、権力者の鶴の一声によって、すべての債権と債務を無効化し、経済を強制的に初期状態へと戻す、ある種の理不尽極まる「リセット」である。
「了解しました! アザトス・ボイラーの全出力を、御館様の火縄銃の『概念書き換えプロトコル』へ直結します! ……対象は、多次元市場の全負債データ!」
佐吉と、西の魔氷魔帝クリオロスの超演算システムが、信長の覇王色とリンクし、究極の「帳消しプログラム」を構築していく。
『ギルルルルルルルルルッ!!!!!』
恐慌の獣が、大日本の旗艦を飲み込もうと、星雲サイズの赤黒い顎を大きく開けた。
「蘭丸! あのバケモノのド真ん中、一番負債が溜まっている『コア』への道を拓け!」
「御意ッ!!」
森蘭丸が、『天叢雲』に大日本の全防衛エネルギーを集中させ、獣の顎めがけて一直線に突撃する。
「我が主君の布告に、遮るものなど無し! 奥義・神断ち――『白銀・覇王十字星』!!」
ズバァァァァァァァァンッ!!
蘭丸の決死の一撃が、インフレの波を強引に両断し、獣の中心に隠されていた「真っ黒な負債のブラックホール(コア)」を一瞬だけ露出させた。
「よくやった、蘭丸」
信長は、バルコニーの縁に足をかけ、火縄銃の銃口をそのブラックホールへと真っ直ぐに向けた。
「俺の天下布武に、てめェらエリートの残したツケ(借金)は不要だ」
信長の全身から、漆黒と黄金が入り混じった、すべてをゼロに帰す圧倒的な覇王色が放たれる。
「大日本・多元宇宙商会、代表取締役! ……【超次元・覇王徳政令】、発布!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
撃ち出されたのは、破壊の熱量ではない。
大宇宙の全生命の「借金(苦しみ)を無に帰す」という、究極の救済にして、究極のルール違反弾。
黄金の光の奔流が、恐慌の獣のコアに直撃した瞬間。
獣が溜め込んでいた無限の「負債データ」が、システム上から『最初から存在しなかったもの』として、猛烈な速度で【ゼロ】へとフォーマットされていった。
『ギャ、アァァァァァァァァァァァァァッ!? 我ガ、我ガ負債ガ……! 全テ、無効化サレテイクゥゥゥッ……!!』
借金で構成されていた獣の身体が、それを支える概念を失い、ボロボロと崩れ落ちていく。
黄金の雨と、完全制覇
「今だ! 借金がチャラになったなら、残ったのはただの『泥』だ! 全軍、一気に叩き潰せ!!」
信長の号令と共に、大日本の全宇宙戦艦、キメラ軍団、そして武功派の家臣たちが、一斉に最大の火力を獣に叩き込んだ。
「「「オラァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」
ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
徳政令によってインフレ能力を完全に失った恐慌の獣は、大日本の圧倒的な暴力の前に、文字通りチリひとつ残さず完全に粉砕された。
そして。
獣が崩壊した後に残ったのは、彼が飲み込んでいた多次元ビジネス・センターの莫大な「純資産」だけだった。
赤黒いノイズは浄化され、キラキラと輝く純度一万パーセントの『新・永楽銭』の雨となって、ビジネス・センターの全域に降り注いだのである。
「ガハハハハ! 金の雨だァ! バケモノの腹の中から、とんでもねェ額のボーナスが降ってきたぜェ!」
権六が、降ってくる永楽銭を戦斧で受け止めて大笑いする。
「へっへへへ! 借金だけチャラにして、資産は全部あっしらのモノ! 御館様、これこそ究極の錬金術でさァ!」
猿が、ソロバンを放り投げて札束の雨の中を泳ぐ。
「……フゥ。騒がしい連中だ」
信長は、火縄銃の硝煙を払い、黄金の雨に濡れる多次元ビジネス・センターを見下ろした。
超次元統括企業の本社ビルは崩壊し、市場を支配していたCEOも、恐慌の獣も完全に消滅した。
ここに、大日本・多元宇宙商会を脅かす競合企業は、大宇宙のどこにも存在しなくなったのである。
「御館様」
蘭丸が、黄金の雨の中で静かに平伏する。
「これにて、メタバース、アウトサイド、そして多次元ビジネス・センター……すべての次元における【真・天下布武】、完全なる達成でございます」
大宇宙の完全独占。
だが、すべての敵を打ち倒し、頂点に立った信長の瞳に、満足の色はなかった。
全100話の完結へ向けて、戦うべき敵をすべて「買収」してしまった魔王が、次なる未知(退屈しのぎ)を求めて大宇宙の法則そのものを書き換え始める、真の神話の領域へと物語は進んでいくのであった。
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