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異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜  作者: 盆ちゃん


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第7話:白銀の散華と、完璧主義者(エルフ)への知的包囲網

これまでの壮大な設定とプロットを引き継ぎ、物語の大きな山場となる第7話を執筆いたしました。

無能な帝国本隊の壊滅と、かつての「明智光秀」の才を持つエルフの軍師・ルーギス(金柑)に対する、信長の恐ろしくも鮮やかな「心理的包囲網」の展開を、詳細な描写と大ボリュームでお届けします。

# 第7話:白銀の散華と、完璧主義者エルフへの知的包囲網

 ルミナ神聖帝国の最高司令官ヴァンガード枢機卿は、己の目を疑っていた。

 彼が率いる五万の帝国軍本隊は、尾張の国境に辿り着く前に、すでに半ば死に体となっていたからだ。

「ええい、兵糧はどうした! サカイウスの商人どもが手配した小麦はどこだッ!」

「げ、猊下! 届けられた小麦袋の中身はすべておが屑と砂利でした! さらに行軍ルート上の井戸という井戸が、謎の獣人部隊によって徹底的に破壊されております!」

 サカイウスの経済を掌握した佐吉イシオンによる兵站の完全破壊。そして、トックス率いる工作部隊による焦土作戦。

 空腹と渇きで兵の士気は暴動一歩手前まで落ち込んでいた。そこへ追い討ちをかけるように、尾張の国境線を守る『織田混成軍』が姿を現した。

「怯むな! 我が帝国には神の加護を受けた『白銀聖騎士団』がいる! 野蛮な農民や獣どもなど、聖なる魔法障壁で弾き返し、蹂躙して――」

 ヴァンガードが叫んだ、その直後だった。

 尾張軍の陣地から、空気を鋭く切り裂くような甲高い破裂音が連続して響き渡った。

 ――ピチュン、ピチュン、ピチュンッ!!

「な……がはッ!?」

 先陣を切って突撃していた白銀聖騎士団の先頭集団が、見えない『何か』に撃ち抜かれ、次々と馬から転げ落ちた。

 彼らが展開していた分厚い魔法障壁は、まるで薄いガラスのように粉々に砕け散り、ミスリル製の重装甲ごと肉体を紙屑のように貫通されていた。

「ひゃーはっはっは! 佐吉の坊主が考えた『魔力螺旋陣』と五郎左の新型筒、最高じゃねえか! 帝国の鎧が豆腐みたいにスパスパ抜けやがる!」

 狼獣人の又左マティアスが、新型の魔力火縄銃を肩に担ぎながら狂笑する。

「撃て! 三段に連なり、絶え間なく撃ち続けよ! 一匹の豚も逃すな!」

 オークの権六ゴルグの号令の下、尾張の農民鉄砲隊が無慈悲な『死の雨』を降らせ続ける。魔法を神秘から「物理法則(兵器)」へと貶めた信長の圧倒的な火力の前に、帝国の誇る精鋭部隊は文字通り挽肉へと変えられていった。

     * * *

 一方、本隊から遠く離れた山岳地帯の稜線を、別働隊として進む五千の部隊があった。

 ハイエルフの軍師、ルーギス率いる遊撃隊である。

(……聞こえる。南から、大気が異常なマナの振動を起こしている。まさか、本隊の魔法障壁が一方的に破られているのか?)

 ルーギスは、美しく整えられた金糸の髪を風に揺らしながら、鋭い耳をピクリと動かした。

 彼の部隊は本隊とは違い、一人の餓死者も出していなかった。ルーギス自身が水質浄化の魔法で泥水を飲み水に変え、配下の兵たちに魔獣狩りを指示し、完璧な自給自足の兵站を維持していたからだ。

「ルーギス様! 本隊との通信用魔水晶が完全に沈黙しました! 中継地点の魔導士たちが、何者かによって暗殺された模様です!」

「……やはりな。尾張の指揮官は、こちらの兵站の弱点だけでなく、情報伝達のかなめすら正確に潰してきている」

 ルーギスはギリッと唇を噛んだ。

 敵の指揮官は、間違いなく規格外の化け物だ。ヴァンガードのような無能な狂信者では束になっても勝てない。

「全軍、直ちに反転。本隊の敗北は免れない。我々はこのまま渓谷ルートを抜け、帝都へ一時撤退し、防衛線を再構築する」

 ルーギスは一切の感情を交えず、最も合理的で生存率の高い判断を下した。

 彼の頭脳は、尾張軍の進軍速度と地形を計算し、撤退戦における「完璧なルート」を瞬時に導き出していた。

 ――しかし。その「完璧」すらも、あの男の手のひらの上であった。

「……ルーギス様! 前方の渓谷の出口に、見たこともない城塞がッ!」

「なんだと?」

 ルーギスが馬を走らせて前線に出ると、思わず息を呑んだ。

 昨日までただの荒野だったはずの渓谷の出口が、巨大な丸太と魔法で強固に固められた土塁――一夜にして造り上げられた『一夜防壁』によって完全に塞がれていたのだ。

「馬鹿な……。たった一晩で、これほどの防衛陣地を構築したというのか!? どれほどの人員と計算があればこんな芸当が……!」

 ルーギスの完璧な計算に、初めて決定的な「誤差」が生じた。

 防壁の上では、猿の獣人トックスが「へっへへ、佐吉の計算とあっしの土木作業のコンビネーション、見事間に合いやしたぜ!」と下品に笑っている。

「右翼の森へ迂回しろ!」

 ルーギスが叫んだ瞬間、森の中から無数の殺気が膨れ上がった。木々の間から姿を現したのは、全身を黒装束で包み、暗殺武器を構えたダークエルフや獣人たちの部隊――蘭丸率いる『八咫烏』であった。

「退路はありませんよ、帝国軍の皆様」

 蘭丸が冷ややかな声で告げる。

 前方は一夜防壁。右翼は暗殺部隊の森。左翼は切り立った崖。そして後方からは、本隊を蹂躙し終えた又左と権六の部隊が砂埃を上げて迫ってきている。

(……チェックメイト、か。まるで私の思考をすべて先読みしているかのような、息が詰まるほどの完璧な包囲網……。敵の総大将は、どれほどの怪物なのだ)

 ルーギスは自身の敗北を悟り、静かに目を閉じた。

 もはやこれまで。せめて指揮官である自身の首を差し出し、部下たちの命だけでも助命する交渉をしなければならない。彼がそう覚悟を決めた、その時だった。

「――見事な行軍であった。五千の兵を率いながら、ただの一人も隊列を乱さず、自給自足でこの死地を潜り抜けるとはな」

 防壁の門が重々しく開き、そこからゆっくりと進み出てきたのは、巨大なオークが担ぐ輿こしに乗った、まだあどけなさすら残る十五歳の少年だった。

 しかし、その少年から発せられる覇気は、ルーギスが知るいかなる帝国の皇帝や将軍よりも、圧倒的で、重く、底知れなかった。

「貴様が……尾張の領主、織田信長か」

 ルーギスは馬から降り、剣の柄に手をかけたまま鋭く睨みつける。

「いかにも。そして貴様が、エルフの軍師だな。美しい金色の髪だ……俺は貴様を『金柑キンカン』と呼ぶことにした。光栄に思え」

「……人を果物呼ばわりとは。悪趣味な小僧だ」

 信長は輿から飛び降り、護衛も連れずに、たった一人でルーギスの数歩手前まで歩み寄った。周囲の帝国兵たちがどよめく。今ここでルーギスが剣を抜けば、信長の首を撥ねることも可能な距離だ。

「殺気立たずともよい、金柑。俺は貴様を殺しに来たのではない。スカウトに来たのだ」

「スカウト……だと?」

「ああ。ヴァンガードのような無能な豚に仕え、理解もされず、ただ一人で完璧なことわりを構築しようと胃を痛める日々……。さぞ、窮屈であったろう?」

 その言葉に、ルーギスの肩がビクッと震えた。

 図星だった。彼の心の最も奥底にある、誰にも理解されなかった孤独と絶望を、目の前の少年は初対面で正確に言い当てたのだ。

「俺は貴様の陣形を見た。味方の無能すら計算に入れ、あらゆる事態を想定したその神経質なまでの采配。俺の知る『ある男』にそっくりだ。……最高に優秀で、最高に面倒くさく、そして俺が最も必要としている頭脳だ」

 信長は懐から、一冊の分厚い羊皮紙の束を取り出し、ルーギスに向かって無造作に放り投げた。

「なんだ、これは……?」

「俺が考案した魔法の論理式(魔力火縄銃の設計図)と、サカイウスの経済を掌握するための物流計算書だ。読んでみろ」

 ルーギスは警戒しながらも、その束を手に取り、目を通した。

 次の瞬間、彼の美しい瞳が見開かれた。そこには、神の奇跡などという曖昧なものではなく、マナの波長、エネルギー変換率、市場の需給バランスなど、彼が喉から手が出るほど求めていた『究極の理と論理』が、完璧な美しさで構築されていたのだ。

「こ、これを……貴様が一人で考えたというのか……!? これほどの知と理があれば、世界から飢えも不条理も無くせる……ッ!」

 ルーギスの手が震える。彼が長年、帝国の狂信の中で一人追い求めていた理想郷が、この紙束の中にあった。

「帝国に帰れば、貴様は敗戦の責任を負わされて処刑されるか、無能な上官の尻拭いを一生させられるだけだ」

 信長は手を差し出した。

「俺の元へ来い、十兵衛……いや、金柑。俺は貴様に、最高の環境と権限を与えてやる。旧き神に仕えてすり減るか、俺と共に新たなことわりを創るか。選べ」

 かつて本能寺で、己の器量不足から光秀を謀反へと追い込んでしまった信長。

 だからこそ、今世においては武力でねじ伏せるのではなく、彼の『知の渇望』と『承認欲求』を完璧に満たすという、最高のホワイトマネジメントを以て屈服させる。

 ルーギスは、紙束を胸に抱きしめ、しばらくの間、静かに目を閉じた。

 そして。

「……私の名はルーギス。ですが、あなたが金柑と呼ぶのなら、今日から私は金柑なのでしょう」

 美しきハイエルフの軍師は、帝国の紋章が刻まれたマントを自ら引きちぎって捨て去り、織田信長の前に深く、臣従の膝をついた。

「我が知と理のすべてを、あなたに捧げます。御館様」

 かくして、武の又左・権六、理の佐吉・金柑、裏の蘭丸・猿という、常識外れの強固な家臣団が完成した。

 かつてのトラウマ(明智光秀の影)すらも懐に引き入れた第六天魔王は、異世界の歴史を塗り替える真の『天下布武』へと、その歩みをさらに加速させていく。


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