第65話:未踏次元の乱獲(ブルーオーシャン・ハンティング)と、底値の『旧支配者』
第65話:未踏次元の乱獲と、底値の『旧支配者』
神々が定義したシステムの外側、光も闇も上下も存在しない極彩色の混沌の海――【未踏次元】。
大日本・多元宇宙商会が率いる無量大数の『宇宙戦艦』の大艦隊は今、この狂気の泥沼を猛烈な勢いで突き進みながら、空前絶後の「ゴールド・ラッシュ」に沸き返っていた。
「ヒャッハー! 右舷から名状しがてェ触手バケモノの群れだァ! 一匹残らず資源に変えろォ!」
市松が大斧を振り回し、宇宙戦艦の甲板から咆哮を上げる。
ズガガガガガガガガガガッ!!!!!
天魔艦隊の無数の砲門から放たれるのは、大日本の『新・永楽銭』の概念を極限圧縮した【価値付与レーザー】。
混沌の泥から這い出してくる星雲サイズのクトゥルフ的怪物たちは、このレーザーを浴びた瞬間、自らの狂気を「大日本商会における資産価値」へと強制的に変換され、純度一万パーセントの『未踏次元晶コア』となって次々と結晶化していく。
「ガハハハハ! 獲り放題だぜェ! ルールが無ェなら、俺たちが叩き割ったモンがそのまま俺たちのルールになるんだからな!」
オークの猛将・権六が、結晶化した巨大な目玉の山の上で戦斧を天に突き上げる。
「へっへへへ……! 笑いが止まりやせん! この未踏次元のバケモノども、ただの泥の分際で、加工すりゃあメタバースの全資産を軽く上回る超・高純度エネルギーになりまさァ! 利益率(ROI)が天文学的数字を突破して、ソロバンの桁が足りねェ!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、文字通り札束の風呂に浸かりながら狂喜の雄叫びを上げていた。
狂気の無害化(コンプライアンス処理)
ただ暴力で粉砕するだけではない。未踏次元の狂気は、触れるだけで精神を崩壊させる「概念の毒」を孕んでいる。
しかし、大日本が買収した『キメラ軍団』の社員たちにとっては、それすらも格好の「素材」に過ぎなかった。
「ウフフ……。狂気だなんて大袈裟な。私の『超腐食性ウイルス』と掛け合わせれば、とっても素敵な【高機能・抗体薬品】に早変わりですわ」
南の【腐海魔帝ベルゼビュート】が、軍師の官兵衛と共に、這い寄る混沌の泥を巨大な医療プラントでコトコトと煮込み、大日本軍のバフ薬として大量生産している。
「非論理的な空間(非ユークリッド幾何学)の座標計算、完了。大日本艦隊の進行ルートに【強制的・直線道路】を敷設します」
戦略室の佐吉と西の【魔氷魔帝クリオロス】の超演算が、法則のない空間に強引に「大日本のインフラ」を敷き詰めていく。
「見事な荒稼ぎだ。これぞまさに、誰も手をつけていない【新規市場】の乱獲だな」
旗艦の黄金の玉座で、織田信長は最高級の葉巻を燻らせながら、次々と資産に変わっていく混沌の海を満足げに見下ろしていた。
旧支配者の顕現
だが、大日本商会によるあまりにも強引な「自然破壊(市場開拓)」は、この混沌の海に古くから沈殿していた『より深い闇』を刺激することとなった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
突如として、大艦隊の周囲数億光年に及ぶ極彩色の泥の海が、巨大な「すり鉢状の渦」を形成し始めた。
そして、その渦の中心から、先ほどまでのバケモノとは次元が違う、漆黒の宇宙そのものが人型をとったような【名状しがたき極大の影】がゆっくりと立ち上がった。
『■■■■……我ガ、静寂ナル無意味ヲ、薄汚イ「価値」デ汚ス者ドモヨ……』
その影が発した思念は、ただのノイズではない。
明確な「拒絶の意思」を持った、この未踏次元の一部を古来より支配する絶対的上位存在――【無貌の旧支配者ナイアラ】であった。
「ヒィィッ! なんだあのデカブツは! メタバースの監査官よりさらにデカくて、輪郭すらボヤけてやがる!」
猿がソロバンを抱き抱えて震え上がる。
『我ハ旧支配者。意味モ、価値モ、秩序モ存在シナイコノ美シキ泥ノ海ニ、「数字」トイウ低俗ナ概念ヲ持チ込ムコトハ許サン。……貴様ラノ定メタ価値ナド、全テ無ニ還シテクレヨウ』
旧支配者ナイアラが、顔のない頭部を信長たちに向けた瞬間。
ピキィィィィンッ……!
甲板に山積みになっていた『未踏次元晶コア(大日本の資産)』が、突如としてドロドロの極彩色の泥へと逆戻りし始めた。
「な、なんだァ!? せっかく稼いだお宝が、タダの泥水に戻っちまうぞ!」
権六が慌てて泥を掬い上げようとするが、指の間からすり抜けていく。
「御館様! 奴の放っているのは、大日本の永楽銭の概念を打ち消す【超絶・価値暴落】の波長です! 奴の周囲では、『価値がある』というルールそのものが溶かされ、すべての資産価値が『ゼロ』に下方修正されます!」
佐吉が、魔導盤のグラフが垂直落下(ストップ安)していくのを見て絶叫した。
価値暴落と底値買い
『フハハ……。見ヨ。貴様ラノ誇ル富モ、力モ、我ノ前デハ何ノ意味モ持タヌ泥ニ過ギナイ。コレガ【無】ノ恐怖ダ』
旧支配者が、大艦隊に向けて巨大な泥の腕を振り下ろそうとする。
触れられれば、宇宙戦艦ごと「価値のない泥」へと還元される絶対の死の一撃。
「……フン」
だが、資産が目の前でゼロになりかけているというのに、黄金の玉座の信長は、焦るどころか極悪な笑みを深めていた。
「猿。佐吉。商売の基本を忘れたか」
「……え?」
猿と佐吉が、顔を見合わせる。
「てめェの持っている株や資産が暴落し、市場の価値が『ゼロ』に近づいた時、真の商人がやるべきことは一つだろうが」
信長は玉座から立ち上がり、愛用の『魔力火縄銃』を旧支配者ナイアラに向けて真っ直ぐに構えた。
「――【底値で、すべて買い叩く(Buy the Dip)】だ!!」
「ッ……!! そ、そういうことかァァァッ!!」
猿の目に、強烈なドル袋のマークが点灯した。
「佐吉の旦那! 奴が自分で自分の価値を『ゼロ』に下げてくれたんだ! なら、あっしらの手持ちの小銭(永楽銭)だけでも、奴の存在そのものを丸ごと【買収】できるってことでさァ!」
「了解しました! 大日本商会の全システムを『空売り(ショート)』から『絶対買収(LBO)』のフォーメーションへ移行! 対象の存在価値が最底辺に落ちた瞬間を狙います!」
佐吉のキーボードが火を噴く勢いで叩かれる。
旧支配者の敵対的買収
『ナ……ニ……? 何ヲ言ッテイル、貴様ラハ……?』
価値を無に帰したはずなのに、逆に目をギラギラと輝かせる大日本軍を前に、旧支配者ナイアラは初めて「理解不能な恐怖」を覚えた。
「蘭丸! 奴の『底』をこじ開けろ!」
「御意ッ!!」
絶対の剣・森蘭丸が、青白い流星となって跳躍する。
「我が主君が買い取ると決めた品に、拒否権など存在しない!」
蘭丸の『天叢雲』が、ナイアラの振り下ろした泥の巨腕を、神速の斬撃で空間ごとスライスする。
泥が両断されたその一瞬の隙間――ナイアラの放つ「価値暴落の波長」の最も中心たるゼロ地点が露わになった。
「貰い受けるぞ、旧き神よ」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の引き金が引かれた。
放たれたのは、相手の価値がゼロになった瞬間に、強制的に大日本の「所有権」を刻み込む『絶対買収・覇王弾(LBOバレット)』。
漆黒と黄金の弾丸は、蘭丸が切り拓いた隙間を縫って、ナイアラのコアへと正確に突き刺さった。
『ガ、アァァァァァァァァァァッ!? 我ガ……我ガ無ノ概念ニ、強制テキニ「価格」ガ、刻ミコマレテイクゥゥッ!?』
旧支配者の巨体が、激しく明滅を繰り返す。
彼が自ら引き起こした「価値の暴落」を逆手に取られ、底値で買い叩かれた結果、ナイアラの存在そのものが、大日本商会の【完全子会社(手駒)】としてシステム上に登録されてしまったのだ。
ピキキキキキッ……!!
先ほどまで大艦隊を飲み込もうとしていた巨大な泥のバケモノは、純度一万パーセントの超巨大な『黄金の未踏次元晶(本社ビルサイズ)』へと完全に結晶化し、活動を停止した。
アウトサイド支社の設立
「ガハハハハ! 見ろ! 過去最大級のデカい金塊が手に入ったぜェ!」
権六が、結晶化した旧支配者の上でバンザイ三唱をする。
「お見事です、御館様! 暴落を逆手に取った敵対的買収! これで失った資産の数億倍の利益を取り戻しました!」
佐吉が、急上昇(ストップ高)する魔導盤のグラフを見せて歓喜する。
「……フン。相場を乱す奴には、市場の厳しさを教えてやるのが優しさというものだ」
信長は、火縄銃の硝煙を払い、巨大な黄金の結晶体を見上げた。
「五郎左! このデカい旧支配者の結晶、そのままくり抜いて【大日本・アウトサイド支社】の拠点ビルに改装しろ! ここを足場にして、この混沌の泥沼の隅々まで、大日本の営業網を張り巡らせてやる!」
「おうよォッ! 最高の建築資材だぜェ!」
絶対的な法則の外側で、旧支配者というクトゥルフ的恐怖すらも「底値の物件」として買い叩き、自らの不動産へと変えてしまった第六天魔王。
無限の泥沼を舞台にした、大日本・多元宇宙商会の常軌を逸した「宇宙規模のフランチャイズ展開」は、全100話の完結へ向けて、さらなる深淵へとその魔手を伸ばしていくのであった。
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