第63話:全宇宙の戦艦化(リノベーション)と、未踏次元(アウトサイド)への扉
第63話:全宇宙の戦艦化と、未踏次元への扉
すべての宇宙を陳列し、管理する超高次元空間――【真・神の管理室】。
原初の設計者を買収し、この空間のすべてを掌握した大日本・多元宇宙商会・代表取締役たる第六天魔王・織田信長は、玉座からとんでもない「業務命令」を下した。
『このメタバースに陳列されている無量大数の宇宙。そのすべてを「巨大戦艦」に改装し、未知の領域への大航海を開始する』
その号令から数日。
かつて神々が静寂の中で弄んでいたメタバースは、今や大宇宙の歴史上類を見ない、けたたましい金属音と怒号が飛び交う【超絶・重工業ドック】へと変貌を遂げていた。
「オラァッ! 溶接が甘ェぞ! 宇宙の殻(試験管)に直接『超光速次元エンジン』をブチ込むんだ! 重力場の設定はどうなってる!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、自身よりも遥かに巨大な特大スパナを振り回し、黄金のフォーマッター(元・初期化代行者)たちを怒鳴り散らしている。
彼らが物理的な作業を行っているのは、「一つのオムニバース(大宇宙)」が入った巨大な試験管の底面であった。
信長の命により、無数にある大宇宙の一つ一つに、大日本の資本力と技術力を結集した推進装置が強引にボルト留めされようとしていたのだ。
「ヒャッハー! 宇宙のケツにエンジンをくっつけるなんて、頭がおかしくなりそうだぜェ!」
市松が、溶接の火花を浴びながら大斧で次元の装甲板を叩きはめている。
「へっへへへ! 宇宙一個あたりの改装費用、ざっと『新・永楽銭』1兆京垓枚ってとこですかねィ! でも、メインサーバーを握ったあっしらには、予算なんざ無限に等しいでさァ!」
大蔵省長官の猿が、凄まじい勢いでソロバンを弾きながら、湯水のように資金を注ぎ込んでいる。
大宇宙のパラメータ改竄
一方、メタバースの最上層に位置する【神の役員会議室】。
ここは今や、大日本・超次元移動大艦隊の『旗艦』として機能していた。
戦略室の佐吉と、西の魔氷魔帝クリオロスは、コンソールに向かって一心不乱にタイピングを行っている。
「御館様。無数にある宇宙の『内部パラメータ(物理法則)』のアップデート、順調に進行中です」
佐吉が眼鏡を光らせて報告する。
「これまでは各宇宙ごとに光の速度や重力定数が異なっていましたが、大日本艦隊の航行に支障が出ないよう、すべての宇宙の光速上限を『従来の1万倍』に緩和(規制緩和)しました。さらに、内部の生命体がエンジンの加速で潰れないよう、全宇宙に『絶対慣性キャンセラー』をパッチとして当ててあります」
「フフ……。光の速度すら、我が社の都合で書き換えられる。まさに神の権限ですね」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しい顔で優雅に笑う。
「ガハハハハ! これで全宇宙が、俺たちと一緒に殴り込みに行けるってわけだ!」
オークの猛将・権六が、超絶・次元晶戦斧を磨きながら豪快に笑い飛ばす。
東の【狂獣特攻隊】、南の【腐海医療部隊】、北の【機鋼重工部隊】のキメラ軍団たちも、それぞれ新たな戦艦(宇宙)の艦長や乗組員として配置され、新世界の全戦力が一つの巨大な矢となって束ねられつつあった。
未知の領域の壁
「……準備は整ったようだな」
黄金の玉座に座る信長は、愛用の『魔力火縄銃』の手入れを終え、漆黒と黄金に輝く『アルファのコア(マスターキー)』をコンソールにセットした。
「佐吉。メタバースの『外壁』への座標は割り出せたか」
「ハッ。アルファの記憶データを解析した結果、このメタバース空間の果て……システムが『定義不能』として隔離している【未踏次元】への絶対防壁の座標を特定しました」
メタバースの果て。
それは、大宇宙の創造主たるアルファですら「計算不能」として蓋をした、すべての法則やシステムが存在しない真の虚無、あるいは混沌の海。
「定義不能だの、計算不能だの、システム野郎はすぐ蓋をして見ないふりをしやがる」
信長は、玉座から立ち上がり、漆黒のマントを大きく翻した。
「定義されてねェ市場があるなら、俺たちがそこに大日本の旗を立てて、俺たちのルールで定義してやればいい。それだけのことだ」
信長の言葉に、蘭丸をはじめとする家臣たちの目が、狂気と期待で爛々と輝く。
「五郎左! 全宇宙のエンジンに火を入れろ! 旗艦の主砲(次元穿孔砲)を、メタバースの『外壁』に向けろ!」
「おうよォッ! 大日本・多元宇宙商会、全社一丸となってのカチコミだぜェ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
無量大数の大宇宙の底部に取り付けられた超光速次元エンジンが、一斉に火を噴いた。
試験管のような宇宙たちが、メタバースの空間を震わせながら、一つの巨大な「大艦隊」として前進を開始する。
穿孔と、這い寄る混沌
大日本艦隊の眼前に立ちはだかるのは、純白の空間の果てにある、黒く塗りつぶされたような『絶対防壁(システムの果て)』。
「ぶち破れェェェェッ!!!」
信長の号令と共に、役員会議室(旗艦)の主砲から、極限まで圧縮された大日本の総資産が、極太の漆黒のレーザーとなって放たれた。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
アルファが絶対に破れないように設定したはずの「世界の果ての壁」。
それが、魔王の強烈極まる野心と、全宇宙の推進力によって、文字通りガラスのように粉砕された。
パリンッ……!!
壁が砕け散り、その向こう側に広がる光景が、信長たちの目に飛び込んでくる。
「……な、なんじゃこりゃあ……」
権六が、戦斧を握る手を微かに震わせた。
猿も、佐吉も、息を呑んで絶句する。
壁の向こう側――未踏次元。
そこは、星も光も闇も、上下すらも存在しなかった。
ただ、赤、紫、緑といった極彩色の「概念の泥」のようなものが、ドロドロと蠢く狂気の海。
物理法則も、システムの計算式も、時間の概念すらも一切通用しない、純度百パーセントの混沌。
そして。
その極彩色の泥の海の中から、ゆっくりと「巨大な何か」が這い出してきた。
それは、神々のような幾何学模様でも、光の集合体でもない。
無数の目玉と、触手と、獣の牙を併せ持った、星雲の数千倍のサイズを誇る【這い寄る冒涜的な影】であった。
『■■■■■■――……』
影が発した音は、言語でもシステム音声でもなかった。ただ聞く者の精神を直接削り取るような、理不尽なノイズ。
「御館様……! アレは、システムやデータではありません! 純粋な『狂気』と『情念』だけで構成された、別の理で動くバケモノです!」
佐吉が、魔導盤のエラー表示を見ながら戦慄の声を上げる。
「フ、フハハハハハハ!」
しかし。その正体不明の冒涜的な影を前にして、織田信長だけは、最高に楽しそうに腹の底から笑い声を上げた。
「素晴らしい! 計算通りの神様どもより、よっぽど手ごたえのありそうな面構えをしてやがるじゃねェか!」
信長は、愛刀『宗三左文字』をゆっくりと引き抜き、その刃先を混沌の海のバケモノへと真っ直ぐに向けた。
「理屈が通じねェなら、俺たちの泥臭ェ暴力と資本力で、一から分からせてやるまでだ! 行くぞお前ら! ここから先が、本当の『未知の戦場』だ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
恐怖を歓喜で上書きされた大日本の家臣団が、魔王の笑い声に呼応して、かつてない極大の勝鬨を上げる。
すべての宇宙を戦艦として引き連れ、システムという名の「箱庭」を完全に飛び出した第六天魔王。
彼らの真の天下布武は、法則すら存在しない混沌の海に潜む、未知の超次元の化け物たちへの理不尽極まる蹂躙劇へと、その狂気のアクセルをさらに踏み込んでいくのであった。
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