第62話:原初の設計者(アルファ)の買収と、全次元のマスターキー
第62話:原初の設計者の買収と、全次元のマスターキー
すべての宇宙を管理するメタバースの最深部――【真のコア領域】。
無機質で純白な平面が続く何もない空間の中心で、第六天魔王・織田信長と、全次元のシステムを構築した創造主『原初の設計者』の対峙は、ついに臨界点へと達していた。
『――対象の存在係数、システムの許容上限を完全に超過。全宇宙の安寧のため、特異点・オダノブナガを「バグ」として完全に隔離・消去します。最終排除プロトコル、実行』
アルファたる光の球体から、大宇宙を創り出した「ビッグバン」そのものに匹敵する、超高密度の初期化エネルギーが放たれた。
それは熱や光という物理現象すら超越した、純粋な『存在の否定』。
触れれば最後、信長というデータは0と1の乱数に分解され、大宇宙の歴史から最初からいなかったものとしてフォーマットされる。
「……大仰な光だ。だが、冷たすぎる」
迫り来る究極の消去の光の壁を前にして、信長はニヤリと不敵に笑い、手にした『魔力火縄銃』と愛刀『宗三左文字』を構えた。
「システムだの、秩序だの、計算通りの安全な箱庭なんざ、生きていても死んでいるのと同じだ。俺の野心は、そんな冷え切った計算式(ルビ:プログラム)で消せるほど安くはない!」
信長は、懐からジャラリと掴み出した無数の『新・永楽銭』を、自らの周囲に展開された【真・本能寺】の業火へと放り込んだ。
大日本の無限の資産と、オムニバース中から集められた生命の熱量が、魔王の覇王色と融合し、極大の漆黒の炎となって燃え上がる。
「大日本・多元宇宙商会、全資産投下! 俺の野心で、てめェのシステムを丸ごと買い取ってやる!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長が放った『神滅・買収覇王弾』と、アルファの放った『ビッグバンの初期化光線』が、コア領域の中心で真正面から激突した。
論理と混沌の衝突。
純白の空間が激しく明滅し、次元の根幹が悲鳴を上げてひび割れる。
オーバーフローする計算式
『――エラー。エラー。対象のエネルギー値、計測不能。私の放った初期化プロトコルが、未知の概念(野心)によって侵食されています』
アルファの光の球体が、警告の赤色に点滅を繰り返す。
物理的にあり得ない現象が起きていた。
アルファの初期化光線が信長の放った漆黒の弾丸を飲み込もうとする端から、光線そのものが「新・永楽銭のデータ」へと強制的に書き換えられ、黄金色に変異していくのだ。
『理解不能です。生命とは、保存と安定を求めるもの。なぜ、自ら破壊と混沌を求め、無限に膨張しようとするのですか。その行き着く先は、システムの崩壊しかありません』
アルファの無機質な声に、初めて『困惑』というノイズが混じる。
「だからてめェは三流の設計者なんだよ」
信長は、激突するエネルギーの奔流の中を、業火を纏いながら強引に前進していく。
その体は初期化の光に焼かれ、皮膚がデータとなって剥がれ落ちそうになるが、永楽銭の超回復システムと魔王の執念が、それを上回る速度で肉体を再構築し続ける。
「崩壊を恐れて足を止める奴に、新しい世界(市場)は創れねェ。リスクの先にしかない極上の熱狂(利益)を求めるのが、人間という生き物だ!」
ズバァァァァァァァァァンッ!!
信長は、アルファの放つ光の壁を『宗三左文字』で一刀両断に切り裂き、ついに光の球体の真正面へと到達した。
「さあ、ハンコ(承認)を押せ、創造主。お前の会社は、今日から俺のものだ」
信長は、火縄銃の銃口をアルファのコアに深々と突き立て、引き金を引いた。
撃ち出されたのは、破壊の弾丸ではない。
純度一千パーセントの第六天魔王のエゴと、大日本の『最高管理者権限強奪コード』が圧縮された、究極のハッキング・ウイルス。
『ガ……ァァァ……! 私ノ、論理ガ……計算式ガ……野心ニ、塗リ替エラレ……』
光の球体の内部に、漆黒と黄金のコードが爆発的な速度で浸透していく。
すべての大宇宙を律していた冷徹なルールが、信長の「俺がルールだ」という強烈極まるエゴによって強制的に上書きされ、フォーマットされていく。
『……コレガ、人間……。不完全ユエニ、無限ニ進化スル……極限ノ、混沌……』
アルファは、最後にその計算の限界を悟り、システムとしての活動を完全に停止した。
純白だった光の球体は、漆黒と黄金に輝く【真のマスター・コア(大日本のメインサーバー)】へとその姿を変えたのである。
絶対防衛線の結末
一方、メタバースの最上層【神の役員会議室】。
黄金の玉座を背に、大日本の家臣団とキメラ軍団は、無限に湧き出す純白の巨人『初期化代行者』の群れを相手に、血みどろの死闘を繰り広げていた。
「ハァ……ハァ……! キリがねェぜ! 叩き割っても叩き割っても湧いてきやがる!」
権六の巨体にも無数の傷が刻まれ、息が上がり始めている。
「御館様はまだか! このままでは、我らの存在係数が削り切られるぞ!」
虎が十文字槍を振るうが、フォーマッターの数は減るどころか増す一方であった。
文官たちのハッキングやウイルス散布も、メタバース自体の自己修復機能によって徐々に無効化されつつある。
「……これまでか。だが、一歩も退かん!」
蘭丸が、ボロボロになった『天叢雲』を構え直し、玉座の前に立ちはだかったその時。
ピタッ……。
空間を埋め尽くしていた数百万のフォーマッターたちが、突如として一斉に動きを止めた。
「……ん? なんだ?」
市松が大斧を振り下ろす手を止める。
次の瞬間、フォーマッターたちの純白のボディが、足元から黄金色に染まり始めた。
そして、のっぺらぼうだった彼らの顔に『永楽通宝』の紋様が浮かび上がり、彼らは一斉に武器を下ろし、玉座に向かって深く平伏したのである。
『――大日本・多元宇宙商会、メインサーバーの再起動を確認。我らシステム防衛機構は、これよりオダノブナガ様を「真の最高管理者」として認識いたします』
フォーマッターたちの口から発せられた無機質な音声に、家臣団は一瞬の沈黙の後、爆発的な歓喜の声を上げた。
「ガハハハハ! やりやがった! 御館様が、あの箱の底でシステムを丸ごと乗っ取りやがったんだ!」
権六が戦斧を天に放り投げて咆哮する。
「へっへへへ! 神様の防衛システムまで、あっしらの『新入社員(警備部隊)』になっちまいやしたぜ!」
猿が、平伏する黄金のフォーマッターたちの頭をペチペチと叩きながら狂喜乱舞する。
帰還と、次なる市場
ズズズズズズッ……。
役員会議室の中央空間が歪み、漆黒の炎と共に、一人の男が姿を現した。
「御館様ッ!!」
蘭丸が、感極まった声で駆け寄る。
帰還した織田信長の右手には、メタバースのすべての権限を掌握した証――漆黒と黄金に輝く『アルファのコア(マスターキー)』が握られていた。
「フゥ……。少し手間取ったが、無事に【会社の買収】は完了したぞ」
信長は、硝煙の匂いを漂わせながら、悠然と黄金の玉座へと腰掛けた。
武将も、文官も、四大帝国のキメラ軍団も、そして黄金に染まったフォーマッターたちも、すべてが一斉に魔王に向けて絶対の忠誠を誓い、平伏する。
「おめでとうございます、御館様! これで名実ともに、この大宇宙のすべてが、御館様の『天下』にございます!」
戦略室の佐吉が、震える声で報告する。
「今この瞬間から、我々はメタバースに陳列された無量大数の宇宙の物理法則、生命の誕生、歴史の推移、そのすべてを自由に設定し、管理することができます」
まさに、全知全能の神の座。
しかし、信長は手にしたアルファのコアを軽く宙に放り投げ、退屈そうに鼻を鳴らした。
「管理、だ? 勘違いするなよ、佐吉」
信長は、玉座から身を乗り出し、役員会議室の彼方に広がる「まだ見ぬ虚空」へと鋭い視線を向けた。
「俺は、盆栽を弄る趣味はねェ。この大宇宙の全権限を手に入れたなら、やることは一つだろう」
信長がニヤリと凶悪に笑うと、家臣たちの顔にも、再び狂気と熱狂の火が灯った。
「このメタバースの『外側』……アルファすらも知らない、さらに巨大な未知の市場(多次元領域)があるはずだ。大宇宙の経営権を手に入れた大日本商会は、これよりすべての宇宙を『戦艦』に改装し、未知の領域への【大航海(超次元侵略)】を開始する!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
神の玉座を手に入れ、大宇宙のシステムそのものを自らのエゴで書き換えた第六天魔王。
全100話の完結へ向けて、彼らの野望は留まることを知らず、ついに「宇宙そのものを巨大戦艦にする」という常軌を逸した次元大航海時代へと突入していくのであった。
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