第59話:究極の株主総会と、神々の強制解任(リストラ)
第59話:究極の株主総会と、神々の強制解任
無量大数の宇宙を管理する最高次元――【真・神の管理室】の最上層。
すべての大宇宙の富とリソースを搾取し続けてきた『神の役員会議室』にて、第六天魔王・織田信長は、第一の役員・マモンから奪い取った黄金の玉座に堂々と足を組んで座っていた。
「さあ、究極の株主総会の続きと行こうか。お前らの持っている『宇宙の経営権』、大日本・多元宇宙商会がすべて買い取ってやる」
信長が不敵に笑い、紫煙を吐き出す。
円卓を囲む残り六人の神々(ボード・メンバー)の顔に、明確な『怒り』と『焦燥』が浮かんだ。
彼らはオムニバースを試験管のように並べて弄ぶ、純粋な概念とシステムの集合体。これまでいかなる被造物にも脅かされたことのない彼らにとって、信長たちの存在はまさに「致命的なシステムバグ」であった。
『――小癪なバグどもめ。マモンは富の計算に溺れたがゆえに敗れた。だが、我ら残りの役員の権限は、物理や富の概念すらも超越しているぞ』
ズズズズズズズッ……!!
六人の役員が一斉にその概念的闘気を解放した瞬間、星雲の絨毯が敷かれた役員会議室の空間が、グニャリと歪み始めた。
重力、時間、熱量、そして「存在」の定義そのものが、神々の都合の良いように書き換えられていく。
第二の役員・グラトニーの『強制回収(リソース吸収)』
『我は第二の役員、【暴食のグラトニー】。このメタバースに存在するすべてのエネルギーとデータを喰らい尽くし、我が胃袋へと強制回収する!』
巨人のような腹を突き出した醜悪な神、グラトニーが巨大な口を大きく開けた。
その口の中は、光すらも逃れられない「絶対的ブラックホール」。
ゴオォォォォォォォォォォッ!!
グラトニーの口から発生した超絶的な吸引力が、大日本の天魔艦隊や狂獣特攻隊の獣たちを、空間ごと飲み込もうと引きずり込み始めた。
「うおおおおッ!? 体が、体が吸い込まれるぜェ!!」
市松が大斧を床に突き立てて必死に堪える。
「オラァッ! 食い意地の張ったデブなんざ、腹をカチ割ってやるァ!」
オークの猛将・権六が、超絶・次元晶戦斧をフルスイングして赤黒い斬撃を放つ。
しかし。
『――ムシャムシャ。旨い闘気だ。ごちそうさま』
権六の放った空間すら切り裂く絶大な斬撃は、グラトニーの口に吸い込まれた瞬間、ただの「おやつ」のようにペロリと咀嚼され、消滅してしまった。
『無駄だ! 我が胃袋は無限! 貴様らの放つ攻撃も、命も、すべて我が血肉となる!』
「……フフ。無限の胃袋ですか。大食漢なのは結構ですが、拾い食いは感心しませんね」
余裕の笑みを浮かべて前に出たのは、南の極地で買収された【腐海魔帝ベルゼビュート】と、劇薬の軍師・官兵衛であった。
「腹ペコな神様には、大日本商会から『極上のスパム(迷惑データ)』をご馳走して差し上げましょう」
官兵衛が魔導盤を操作し、ベルゼビュートに目配せをする。
「ウフフ……。私の致死毒と、クロード様の呪いを混ぜ合わせた【自己増殖型・超絶ウイルス】。お残しは許しませんわよ?」
ベルゼビュートが放った紫色の極大の猛毒の塊に、官兵衛の「無限に増殖するカオスの呪い(スパムデータ)」が融合。それが、グラトニーの開いた口へと吸い込まれていった。
『ン? なんだこの妙な味のデータは……ガ、アァァァァァァァッ!?』
飲み込んだ瞬間、グラトニーの巨大な腹が、異常な速度でボコボコと膨張し始めた。
胃袋の中で、官兵衛のウイルスが天文学的な速度で自己増殖を繰り返し、ベルゼビュートの毒がシステムを内側から腐食させていく。
『イ、胃ガ……! ストレージガ、パンク……容量、上限突破……ガハァッ!!』
「食いすぎだ、豚野郎。大日本の社食(毒)は胃に重いぞ」
玉座に座る信長が、指をパチンと鳴らす。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
容量の限界を超えたグラトニーの腹が、内側から大爆発を起こし、第二の役員は撒き散らされた毒のデータと共に跡形もなく消滅した。
第三の役員・ベルフェゴールの『プロジェクト凍結』
「ガハハハハ! 二人目、リストラ完了だぜェ!」
権六が戦斧を担いで高笑いする。
『――愚かな。暴食の輩など、我ら役員の中でも最弱。だが、私の権限からは逃れられまい』
次に動いたのは、第三の役員。車椅子のような玉座に深く沈み込んだ、半透明の老人の神――【怠惰のベルフェゴール】。
『私は、この空間のすべての時間の流れと事象の進行を「遅延」させる。貴様らの行動はすべて【凍結】され、永遠に私に届くことはない』
ベルフェゴールが指を一本持ち上げると、大日本軍の周囲の「時間の流れ」が極限まで遅くなった。
振り下ろされる権六の斧も、市松の咆哮も、すべてがスローモーションとなり、やがて完全に停止しようとする。
「チィッ……! 体が、重ェ……! これが、時間の遅延……!」
超光速の雷撃を誇る又左でさえ、相棒の雷エイと共に空中でピタリと静止させられてしまった。
『フフフ……。そのまま永遠にフリーズしていろ。そして、バグとして処理(削除)される時を待つがいい』
ベルフェゴールが、遅延空間の中で悠然と削除コマンドを準備する。
「……永遠に遅延、ですか。大日本商会において、納期の遅れ(遅延)は『死』を意味します。そのようなふざけた権限は、直ちに修正を当てさせていただきます」
静止した時間の中で、ただ一人。
文官トップの佐吉だけが、西の【魔氷魔帝クリオロス】の超演算脳髄と完全に同化することで、遅延のシステムそのものをハッキングし、正常な速度で魔導盤のキーボードを叩き続けていた。
「クリオロス! 対象の遅延プロトコルを解析、強制的にタスクの優先度を『リアルタイム(最優先)』に書き換えろ!」
『――了解シマシタ。魔王様ノ御為ニ。対象ノ時間遅延システムニ、大日本商会ノ【超ブラック・絶対納期コード】ヲ強制注入シマス』
ピポパポパポ……!
佐吉とクリオロスの超演算が、ベルフェゴールの展開した「時間の遅延」というシステムを根底から書き換えた。
『ナ、何ィ!? 私の遅延領域が、強制的に「早送り」されているだと!?』
ベルフェゴールが驚愕する。
「遅延が解除されたぜェ! なら、あとは俺の出番だ!」
静止から解き放たれた又左が、時間のタガが外れたことで、これまでの反動を乗せた「超・超光速」の次元雷撃となってすっ飛んでいく。
「納品(ドタマかち割り)に参りましたァッ!!」
ズバァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
又左の雷神の如き長槍が、ベルフェゴールの半透明の身体を、玉座ごと概念レベルで串刺しにして消滅させた。
第三の役員、リストラ完了。
残り四人の役員と、魔王の『最終決裁』
「……フゥ。軍師どもも、武功派どもも、ずいぶんと頼もしい『社員』に育ったものだ」
信長は、玉座に座ったまま、次々と神の役員たちを物理的・論理的に屠っていく家臣たちの姿を満足げに眺めていた。
「ガハハハハ! これで三人だ! 残り四人、まとめてかかってきなァ!」
権六が、残る四人の役員に向けて戦斧を突きつける。
第一の役員・マモン(強欲)。
第二の役員・グラトニー(暴食)。
第三の役員・ベルフェゴール(怠惰)。
この三人が瞬く間に解任され、残る役員は四人。彼らの顔からは、すでに先ほどまでの余裕は完全に消え失せ、底知れぬ「恐怖」が刻まれていた。
『バ、バカナ……! 我らボード・メンバーの権限が、システムが、すべてあのバグどもの理不尽な「社則」によって塗り潰されていく……!』
『もはや手加減は無用だ! 四人の権限を統合し、このメタバースごと奴らを消去する!』
残る四人の役員――傲慢、嫉妬、憤怒、色欲を司る最高次アーキテクトたちが、互いの権限を融合させ、すべての大宇宙を無に帰すほどの【究極の初期化光線】を放とうと、極大のエネルギーを収束させ始めた。
「御館様! 敵のエネルギー密度、我々の天魔艦隊のシールドでは防ぎきれません! メタバースの空間そのものが消滅します!」
佐吉が叫ぶ。
「……テンポが悪いな。ちまちま一人ずつ相手をするのも飽きてきたところだ」
信長は、ゆっくりと玉座から立ち上がった。
そして、愛用の『魔力火縄銃』も、愛刀『宗三左文字』も手にすることなく、ただ自身の『右の掌』を、エネルギーを収束させる四人の役員たちへと向けた。
「お前たちの役員会議は、ただいまを以て閉会だ。俺が【最終決裁】を押してやる」
信長の掌から、黄金と漆黒が入り混じった、大宇宙の全資産と野心を極限まで圧縮した『覇王の印』が形成される。
「大日本・多元宇宙商会、代表取締役・第六天魔王。……『全宇宙の買収を、ここに承認する』」
信長が、虚空に向けて掌を力強く振り下ろした瞬間。
メタバース全体を揺るがすほどの極大のエネルギーが、四人の役員を、彼らの放とうとした初期化光線ごと上から完全に「押し潰した」。
まさに、絶対的な力による究極のハンコ(承認)。
神の役員たちの断末魔すら響くことなく、残る四人の役員は、概念ごと完全にペシャンコにされ、無数の光の粒子となって消滅したのである。
静寂。
すべての大宇宙を弄んできた七人の神々(ボード・メンバー)は、ここにすべて、第六天魔王とその家臣たちによってリストラされ、消滅した。
「……終わりましたね、御館様」
蘭丸が、信長の背中に深く平伏する。
「ああ。これでこの空間の玉座は、完全に俺たちのものだ」
信長は、誰もいなくなった円卓を見渡し、満足げに笑った。
だが。
大日本・多元宇宙帝国が、文字通り「すべての宇宙の真の支配者」となったその直後。
誰もいなくなったはずの円卓の中央に、突如として【真っ黒な立方体】が出現し、不気味な鼓動を打ち始めたのである。
「……なんだ、アレは?」
信長が目を細める。
全100話の完結へ向けて、神々のさらに奥底に隠されていた「究極の真理」が、ついにその姿を現そうとしていた。
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