第58話:神の役員会議室(ボード・ルーム)へのカチコミと、第一の役員マモン
第58話:神の役員会議室へのカチコミと、第一の役員マモン
無量大数の大宇宙が並ぶ、真・神の管理室。
大日本・多元宇宙帝国の魔王・織田信長は、この空間の監視者であった監査官ジェネシスを黄金の『新・永楽銭』で買収し、メタバースのすべてを支配する七人の最高意思決定者が潜む最上層への道案内を命じた。
「……信ジラレマセン。管理対象ノ被造物ガ、メタバースノ『天井』ヲ物理的ニ突キ破ッテ、最上層ヘト昇ッテイクナド……」
人間サイズの光のヒューマノイドへと再構築された元・監査官ジェネシスは、天魔艦隊の旗艦の甲板で、信じられないものを見るように震えていた。
「ガハハハハ! 上がつっかえてるなら、天井ごとブチ抜いて進むのが大日本商会のやり方だ! 案内ご苦労だったな、新入り!」
オークの猛将・権六が、ジェネシスの背中をバンバンと叩く。監査官の光の体がバグったように明滅する。
「御館様。ジェネシスの内部告発データによるナビゲーション、完了しました。この頭上の次元断層を抜けた先が、メタバースの全リソースを独占する【神の役員会議室】です」
戦略室の佐吉が、冷徹な声で報告する。
「よし。五郎左、主砲の準備はいいな?」
黄金の天主のバルコニーで、信長はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「おうよォ! いつでも極太の『挨拶』をブチ込めるぜェ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、さきほどの戦闘で装填したままの「大宇宙の弾玉」を主砲にスタンバイさせる。
「ノックなどという上品な真似は不要だ。扉ごと吹き飛ばして、役員どもに『真のオーナー』の顔を拝ませてやれ!」
信長の軍配が振り下ろされる。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
天魔艦隊の主砲から放たれた極大のカオス・エネルギーが、メタバース最上層を隔てる【絶対不可侵のファイアウォール】を、文字通り紙屑のように粉砕した。
神の役員会議室と、七人の支配者
吹き飛んだ光の扉の向こうに広がっていたのは、想像を絶する空間であった。
そこは、星雲を絨毯として敷き詰め、超新星の輝きをシャンデリアとして飾った、宇宙のスケールを狂わせるほど巨大で豪奢な「円卓の間」。
そしてその円卓を囲むように、七つの巨大な玉座が配置されており、そこには純粋な概念と威圧感で構成された【七人の神々】が座していた。
『――何事だ。我ら多次元監査委員会の聖域に、土足で踏み入る下等なバグどもめ』
七人のうちの一人、全身が黄金の光と無数の「数字」で構成された巨神が、忌々しそうに立ち上がった。
その巨神の背後には、無数のオムニバースから吸い上げられた「生命エネルギー(利益)」が、滝のように流れ込み続けている。
「ヒィィッ! な、なんちゅう金ピカ野郎だ! あっしらの永楽銭が霞んで見えちまいやすぜ!」
猿ことトックス(猿獣人)が、相手の圧倒的な『富の概念』に当てられて目を細める。
「ジェネシス、奴は何者だ?」
信長が火縄銃を肩に担いだまま問う。
『ハッ。彼ハ、七人ノ役員ノ一人……第一の役員にして、メタバースの全資産を独占する【強欲のマモン】。すべての大宇宙のエネルギー(利益)を搾取し、自己の存在価値へと変換し続ける、絶対的資本の管理者デス』
「ほゥ。つまり、俺の『同業者』というわけか」
信長は楽しそうに喉を鳴らした。
『同業者だと? 笑わせるな、下劣な特異点め』
第一の役員・強欲のマモンが、眼下の天魔艦隊を見下ろし、冷酷に宣告した。
『我の計算によると、貴様らはメタバースのインベントリから不当にエネルギーを横領しているようだな。だが、この空間に存在するすべての「価値」は、我ら役員のものだ。貴様らの軍勢も、艦隊も、そしてその命も……我の所有物として【強制接収】してくれる』
マモンが黄金の指を鳴らした瞬間。
ピキィィィィンッ!!
大日本の天魔艦隊や、狂獣特攻隊の獣たちの身体が、突如として「黄金のクリスタル」へと変異し始めた。
物理的な攻撃ではない。マモンの持つ「これは私の資産である」という絶対的な管理者権限が、対象の所有権を強制的に書き換え、ただの金塊に変えようとしているのだ。
究極の毒(不良債権)の押し付け
「うおおおッ!? オ、オヤジ! 腕が金ピカになって動かねェ!」
虎が、十文字槍を持ったまま固まりかける。
「チィッ! なんだこの理不尽な攻撃は! 斧が振れねェぞ!」
権六もまた、足元から黄金化が進行していた。
「……フフ。相手が力ではなく『経済と価値のルール』で攻撃してくるというのなら、こちらの出番ですね」
動揺する武将たちを尻目に、劇薬の軍師・官兵衛と、大蔵省長官の猿が、不気味な笑みを交わし合った。
「猿殿。大日本商会の誇る『最高の毒』を、あの強欲な神様にプレゼントして差し上げましょう」
「へっへへへ! 合点承知でさァ! おい金ピカ野郎! あっしらの資産が欲しいなら、全部くれてやらァ!」
猿が魔導盤を操作し、大日本商会の『全口座』を開放した。
瞬間、天魔艦隊の無数のゲートから、兆や京といった単位を軽く超越する、天文学的な枚数の『新・永楽銭』が、黄金の津波となってマモンへ向けて放出された。
『フン。馬鹿め。我に富で挑むなど。その資産、すべて我が懐に吸収して……な、何ッ!?』
マモンは当初、大日本の放った永楽銭を自身のエネルギーとして吸収しようとした。
……しかし、その永楽銭のデータが自らのシステムに流れ込んだ瞬間、マモンの黄金の巨体がドクンと嫌な脈動を打った。
「クックッ……。ただのお金だと思いましたか? それは、私の『カオスの呪い』と、南の極地で手に入れた『腐海の猛毒』、そして何より……魔王様の底なしの『野心』が限界まで圧縮された【究極の不良債権】ですよ」
官兵衛が、杖を突き立てて残酷に宣告する。
『ガ、アァァァァァァァァッ!? 我ガ、我ガ資産データガ、内部カラ腐食シテイク……!? コレハ富デハナイ! 純粋ナ「悪意ト呪イ」ノ塊ダ!!』
マモンが吸収した永楽銭が、彼の体内で「超絶的なハイパーインフレ(毒の増殖)」を引き起こし、彼の黄金の体を内側からドス黒く染め上げていく。
絶対的な資産家であるマモンにとって、自身の価値を暴落させる不良債権の押し付けは、いかなる物理攻撃よりも致命的なダメージであった。
役員の解任
マモンが苦悶の声を上げ、大日本軍の「黄金化」の呪縛が解けた。
「ガハハハハ! 体が動くぜェ! よくやった、猿、官兵衛!」
権六が戦斧を構え直す。
『キ、貴様ラァァッ! 許サン、絶対ニ許サンゾ! 我ノ純粋ナ富ヲ汚スナド……メタバースノ重力デ、圧シ潰シテクレル!』
激怒したマモンが、両腕を振り上げ、数千のオムニバース分の質量を持つ「黄金のブラックホール」を生成しようとした。
「……やかましい」
その時。
マモンの頭上の虚空から、漆黒のマントを翻した織田信長が、音もなく舞い降りた。
信長の周囲には、すべてを灰に帰す魔王の絶対領域――【真・本能寺】の業火が渦巻いている。
『マ、魔王……!?』
「価値だの、資産だの、てめェのちっぽけな懐で計算できる程度のモノを『絶対』と呼ぶな。この大宇宙すべての価値は、俺の火縄銃が決める」
信長は、生成されかけた黄金のブラックホールの中に、躊躇なく腕を突っ込んだ。
信長の『覇王色』がブラックホールの重力を強引にねじ伏せ、その奥にあるマモンの概念的急所を鷲掴みにする。
「お前の席は、俺が買い取った。……消えろ」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の右腕に握られた『魔力火縄銃』が、マモンのコアに密着した状態で火を噴いた。
魔王の極大の野心と破壊のエネルギーが、強欲の役員を内側から完全に吹き飛ばす。
断末魔の叫びすら上げる間もなく、第一の役員・マモンは、彼が溜め込んでいた莫大なエネルギーと共に光の塵となって爆散し、メタバースの最上層に美しい黄金の雨を降らせた。
残り六人の役員たち
「フゥ……。まずは一人だ」
信長は、硝煙を吹き消し、マモンが座っていた巨大な玉座の上に着地した。
「ガハハハハ! 御館様ァ! 神様のトップも、あっけねェモンだな!」
武将たちが、次々と円卓の間へと突入してくる。
しかし、信長は油断することなく、円卓の向こう側に座る【残り六人の役員たち】を鋭く睨み据えた。
第一の役員が瞬殺されたというのに、残りの六人は微動だにしていない。それどころか、マモンの死を嘲笑うかのように、彼らの放つ概念的なプレッシャーはさらに強大に膨れ上がっていた。
『……愚かなマモン。富の計算に溺れるから、バグ如きに足を掬われるのだ』
『だが、特異点・オダノブナガよ。貴様の底無しのエネルギーと野心……我らメタ・ボードの新たな「動力源」として、完璧な素材だ』
『これより、貴様ら大日本商会を、我ら六人の全権限を以て【完全排斥】する』
六人の神々が同時に立ち上がった瞬間、役員会議室の空間そのものが、無数の物理法則と概念が入り乱れる「究極の死地」へと変貌した。
「フハハハハ! いいぞ! そうでなくては面白くない!」
信長は、マモンの玉座に堂々と腰掛け、足を組みながら残る六人の神々に向けて不敵に笑いかけた。
「七つの席のうち、一つは俺が貰った。残りの席も、すべて俺の家臣どものケツ拭き用として奪い取ってやる。……来い、神々! 究極の株主総会の始まりだ!!」
全次元の真の支配者である神の役員たちと、それに取って代わろうとする大日本・多元宇宙帝国の、大宇宙の存亡すらも超越した理不尽極まる頂上決戦。
全100話のクライマックスへ向けて、第六天魔王の『真・天下布武』は、ついに神々の玉座を血と黄金で染め上げていくのであった。
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