第56話:神の玉座(メインコンソール)の掌握と、究極の『宇宙投擲』
第56話:神の玉座の掌握と、究極の『宇宙投擲』
無数のオムニバース(大宇宙の集合体)が、まるで試験管やスノードームのようにズラリと陳列された純白の超高次元空間――【真・神の管理室】。
この空間を管理し、すべての宇宙の運命を「数字」として弄んでいた最高次システムエンジニア(アーキテクト)たちは、自らが創り出したバグ――第六天魔王・織田信長とその軍勢の前に完全に粉砕された。
メタバースの中央に鎮座する、光と論理で構成された『神の玉座』。
今、その玉座に足をかけ、葉巻を燻らせているのは、漆黒のマントを羽織った魔王・織田信長であった。
「へっへへへ……! 御館様ァ! とんでもねェことになりやしたぜ!!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、コンソールから引き出した「全次元資産目録」のホログラムを前に、泡を吹きながら狂喜乱舞していた。
「この管理室(部屋)にある『宇宙のストック』、文字通り【無限】でさァ! 剣と魔法の宇宙、機械の宇宙、神話の宇宙……あっしら大日本商会は、このコンソールのボタン一つで、好きな宇宙から好きなだけ資源を引き出せる! もはや大富豪どころじゃねェ、あっしらは【世界そのもののオーナー】ですぜ!」
「フフ、興奮しすぎるな猿殿。計算が狂う」
文官トップの佐吉が、西の極地で完全買収した【魔氷魔帝クリオロス】の脳髄をコンソールに直結させ、凄まじい速度でタイピングを行っている。
「御館様。このメインコンソールの権限を完全に掌握しました。現在、並べられているすべての宇宙の『物理法則』を、我々の手で自由に書き換えることが可能です」
「たとえば、重力を百倍にするのも、光の速度を遅くするのも、すべてはスプレッドシートの数値をいじるようなものです」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しい顔に極悪な笑みを浮かべて覗き込む。
「ガハハハハ! そいつは傑作だ! どっかの宇宙の神様が必死こいて作った世界を、俺たちの指先一つでひっくり返せるってわけか!」
権六が、並べられた「宇宙の入った試験管」を乱暴に小突く。それだけで、その中の宇宙では銀河規模の重力嵐が吹き荒れているはずである。
魔王の退屈と、次なる『敵』
だが。
無数の宇宙を自由に弄れる究極の権限を手に入れたというのに、織田信長の顔には、すぐにつまらなそうな色が浮かんだ。
「……数字をいじるだけ、か」
信長は、手近にあった一つの「試験管(宇宙)」を手に取り、軽く振ってみた。
パチパチと中で小さな光(超新星爆発)が瞬くが、それだけだ。
「さっきぶっ殺したアーキテクトどもは、こんな盆栽いじりみたいな真似をして喜んでいたのか。反吐が出る。俺が求めているのは、血沸き肉躍る『戦』だ。パラメータをいじって勝つゲームなど、三日で飽きるわ」
信長が試験管を放り投げ、つまらなそうに玉座に深く腰掛けようとした、その時。
『――ピーッ! 警告! 警告!』
突如として、神の玉座全体が、禍々しい真紅の光に包まれ、けたたましいエラー音がメタバース空間に鳴り響いた。
「な、なんだァ!? あっしは何も変なボタン押してませんぜ!?」
猿が慌てて飛び退く。
「御館様! メタバースの『外側』から、規格外のアクセスが来ています! これは……我々がアーキテクトを殺害し、管理者権限を奪ったことに対する【自動防衛機構】ではありません!」
佐吉が、激しく明滅するモニターを睨みつけ、戦慄の声を上げた。
「この管理室の異常を検知し、さらに上位の階層……全メタバースを統括する【多次元監査委員会】から、直接『監査官』が派遣されてきました!」
「……監査官、だと?」
信長の瞳に、先ほどまでの退屈を吹き飛ばす、極上の歓喜の炎が灯った。
監査官ジェネシスの襲来
ズズズズズズズズッ……!!!
純白のメタバース空間の天井が、まるで紙を破るようにメリメリと引き裂かれた。
現れたのは、アーキテクトのような無機質な光の集合体ではない。
圧倒的な質量。
星雲をマントのように羽織り、幾千もの銀河を装飾品として身につけた、身長数十万光年にも及ぶ超絶巨神。
その顔には目も鼻もなく、ただ一つの巨大な「天秤」が刻み込まれている。
『――通達。第777管理室における、不法な管理者権限の奪取を確認。我は多次元監査委員会より派遣されし、執行監査官【ジェネシス】』
ジェネシスの声は、メタバース空間そのものを激しく振動させ、陳列されていた「宇宙の入った試験管」のいくつかが、その音圧だけでパリンと割れて中の宇宙ごと消滅した。
『――特異点・オダノブナガ。並びに、その配下の不正データ群。貴様らの行った行為は、大宇宙の運営に対する重大なコンプライアンス違反である。これより、貴様らの組織を【強制解散】し、存在を無に帰す』
「ヒィィィッ!! デカすぎる! オムニバースの社長なんて目じゃねェほどのバケモノだ!!」
猿が腰を抜かす。
「御館様! 奴の持つ天秤は『存在の格』を量る概念武装です! 奴に『価値がない』と判定された瞬間、我々はこの空間から論理的に消去されます!」
佐吉が絶叫する。
「ガハハハハ! いいじゃねェか! 管理室のさらに上に『本社』があったってことだ! 倒し甲斐があるぜェ!」
権六や又左、虎たち武功派は、巨大すぎる敵を前にしても、まったく怯むことなく武器を構えた。
「監査官だか何だか知らんが、大日本商会は『来る者は拒まず、すべて叩き潰して買収する』のがモットーだ」
信長は、玉座から立ち上がり、漆黒のマントを大きく翻した。
『――無駄な抵抗だ。不正なバグどもよ、塵と消えよ』
監査官ジェネシスが、その巨大な腕を振り上げた。
彼の手のひらには、陳列棚から無作為に掴み取られた「十個の宇宙」が握られていた。
『【多元宇宙投擲】』
ジェネシスは、あろうことか「一つの宇宙そのもの」を弾丸として、信長たちに向けて全力で投げつけてきたのだ。
中に兆や京という数の生命や星々が存在する大宇宙を、ただの「石ころ」のように投擲する究極の理不尽攻撃。
それが十個、超光速で魔王軍へと迫る。
「うおおおおッ!? 宇宙が、宇宙が物理的に降ってきやがる!!」
市松が目を剥いて絶叫する。
究極の『宇宙投擲』
「慌てるな! 向こうが宇宙を投げてくるなら、こっちも宇宙で撃ち返してやればいいだろうが!」
信長は、ニヤリと狂暴に笑い、佐吉と五郎左に向けて軍配を振り下ろした。
「五郎左! 佐吉! 俺が今座っているこの『神の玉座』を、天魔艦隊の主砲に直接プラグインしろ! インベントリの全宇宙を弾倉として設定しろ!」
「おうよォッ! 神様の在庫、全部弾玉にしてやらァ!」
五郎左が、ドワーフの神業的スピードでコンソールのケーブルを引き抜き、天魔艦隊の旗艦の『真・次元穿孔砲』へと直結させる。
「御館様! 弾倉の設定完了! この管理室にある【無量大数のオムニバース】、すべて主砲から撃ち出せます!」
佐吉がエンターキーを叩き割る勢いで叫ぶ。
「ガハハハハ! 行くぞ、監査官殿! 大日本商会からの、特大の【業務報告】だ!」
信長が、愛用の『魔力火縄銃』の銃口を、天魔艦隊の主砲のトリガーへと接続した。
「蘭丸! 四大帝国のキメラども! 全エネルギーを俺の銃に回せ!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
大日本の全キメラ軍団(狂獣、腐海、魔氷、機鋼)の莫大なエネルギーが信長の火縄銃に注ぎ込まれ、そして、インベントリから引き出された「百個の宇宙」が、主砲の砲身へと装填される。
「撃てェェェェェッ!!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の引き金と共に放たれたのは、エネルギーのビームではない。
大日本の無限のカオス・エネルギーによって極限圧縮された【百個の大宇宙】そのものが、超光速の散弾となって打ち出されたのだ。
ジェネシスの投げた「十個の宇宙」と、信長が撃ち出した「百個の宇宙」が、メタバースの空間の中央で正面から激突する。
宇宙と宇宙の物理的な衝突。
中で無数のビッグバンとビッグクランチが同時に発生し、メタバース空間の法則そのものがドロドロに溶け落ちるほどの、超絶次元爆発が巻き起こった。
『ガ、アァァァァァァァァッ!? バ、バカナ……!! 管理対象デアル宇宙ヲ、砲弾トシテ撃チ出スダト……!? コンナ、狂ッタプロトコルガ……!!』
監査官ジェネシスは、宇宙同士の衝突によって生じた「概念の嵐」に全身を削られ、巨大な天秤の顔に無数の亀裂を走らせながら後退した。
「狂っているだと? 当然だ」
信長は、主砲の硝煙を払いのけ、黄金と漆黒の覇気をメタバース全域に放ちながら、ジェネシスを冷酷に睨み据えた。
「俺は第六天魔王だぞ。与えられたルールの中で大人しくしているとでも思ったか。この部屋にある在庫(宇宙)は、もうすべて俺の『弾丸』だ」
信長は、再び火縄銃を構え、今度は「一万個の宇宙」を装填する準備を始めた。
「監査官とやら。俺の会社(帝国)を解散させたいなら、この無量大数の弾丸(宇宙)をすべて受け止めてから言え。……全軍! 撃ち方、用意!」
「「「オラァァァァァァァァァァッ!!!」」」
神の玉座を乗っ取り、文字通り「宇宙そのもの」を武器として振り回し始めた大日本・多元宇宙帝国。
次元の監査官すらも力押しで粉砕しようとする第六天魔王の狂宴は、全100話の完結へ向けて、ついに大宇宙の創造主たちを巻き込む『究極の神殺し』の次元戦争へと突入していくのであった。
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