第55話:真・神の管理室(メタバース)への侵攻と、最高次デバッガーの絶望
第55話:真・神の管理室への侵攻と、最高次デバッガーの絶望
パリィィィィィンッ……!!
新世界【ネオ・センゴク】の空を覆っていた絶対的な次元の殻が、第六天魔王・織田信長と最強の家臣団の放った理不尽極まる暴力によって、完全に粉砕された。
空の破片がガラスのように降り注ぐ中、大日本・多元宇宙帝国の誇る二百五十万の天魔艦隊と、四大帝国を吸収した数億のキメラ軍団が、ぽっかりと空いた「次元の風穴」を通って、未知の上位次元へと上昇していく。
「ヒャッハー! 空の外に抜け出たぜェ! ……って、なんじゃこりゃあ!?」
市松が大斧を取り落としそうになる。
そこは、星々が輝く宇宙空間などではなかった。
果てしなく広がる純白で無機質な空間。その中空には、先ほどまで彼らが暴れ回っていた【ネオ・センゴク】を含む、無数の「オムニバース(大宇宙の集合体)」が、まるで巨大な試験管やスノードームのようにズラリと並べられ、静かに浮遊していたのだ。
「へ、へっへへへ……! こいつはスゲェ! あの中で神様ぶってた連中も、大宇宙の社長も、全部この『棚に並べられた商品』の一つに過ぎなかったってことですかィ!」
猿ことトックス(猿獣人)が、あまりのスケールの違いに泡を吹きそうになりながらも、両目に強烈な「商魂(ドル袋)」を浮かべて狂喜する。
「ってことは、この棚を全部ブッ倒して乗っ取っちまえりゃあ……あっしら大日本商会は、文字通り『全次元の総支配人』ってわけでさァ!」
「落ち着け、猿。はしたないぞ」
黄金の天主のバルコニーに立つ織田信長は、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担ぎ、悠然と葉巻を燻らせながら、眼前に広がる超高次元の光景を見渡した。
「だが、お前の言う通りだ。試験管の中でふんぞり返るのに飽きたなら、試験管を並べている棚ごと強奪してやればいい。ここが俺たちの新しい戦場――【真・神の管理室】だ」
システムエンジニア(神々)の狼狽
その頃、純白の空間のさらに奥深く、無数の光のホログラムが飛び交う「メインコンソール」の前で、このメタバースを管理する最上位の存在たちが狼狽していた。
彼らは肉体を持たない、純粋な論理と光の集合体――【最高次システムエンジニア(アーキテクト)】と呼ばれる真の神々である。
『――警告。警告。セクター999【ネオ・センゴク】のコンテナが物理的に破損。内部の「特異点」が、管理空間へ流出しました』
『あり得ない! ただの被造物が、次元の防壁を破るなど! デバッガーの「存在消去の光」はどうした!』
『デバッガーは既に破壊されました! 奴らが放つ「野心」という未知のエネルギー値が、メタバースの演算上限を突破しています!』
アーキテクトたちの間に、彼らが誕生して以来初めての「パニック」が走った。
『直ちにアンチウイルス・プロトコルを起動せよ! これ以上の汚染を許すな。特異点・オダノブナガとその軍勢を、論理ごと【強制削除】しろ!』
メタ・エンフォーサー(強制排除部隊)の出撃
ズォォォォォォォォン……!!
純白の空間が歪み、大日本の軍勢を取り囲むように、数百万の巨大な「幾何学模様の天使」たちが実体化した。
彼らは武器を持たない。その代わり、彼らの全身から放たれる光の波長は、触れたものを物理的破壊ではなく「コードレベルで書き換えて消去する」という、まさにシステム管理者の権限そのものであった。
『――不法侵入オブジェクトを確認。対象をゴミ箱(虚無)へ移行シマス』
天使たちから、不可視の「削除コマンド(デリート・ウェーブ)」が天魔艦隊に向けて放たれる。
「御館様! 敵の攻撃は物理や魔力ではありません! 我々の存在を定義する『ソースコード』に対する直接の書き換え攻撃です!」
戦略室の佐吉が叫ぶ。
「フン。小賢しい理屈だ」
信長は鼻で笑った。
「五郎左! 佐吉! 西と北から奪い取った『新入社員』の力、見せてみろ!」
「おうよォ! 任せなせェ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、コントロールパネルを叩き割る勢いで操作する。
天魔艦隊のメインフレームには、西の極地で完全買収した【魔氷魔帝クリオロス】の超演算脳髄が直結されていた。
『――魔王様ノ御為ニ。敵ノ「削除コマンド」ノ構造ヲ完全解析。……逆位相ノ「上書き(セーブ)コマンド」ヲ生成シマス』
クリオロスの超演算と、佐吉のハッキング技術が融合。
大日本軍の周囲に展開されたのは、攻撃を防ぐシールドではなく、放たれた削除コマンドを瞬時に「大日本の新・永楽銭のデータ」に書き換えて無効化する、超絶理不尽な【資本主義的・強制上書き防壁】であった。
『ナ……!? 削除コマンドガ、逆ニ「未知ノ通貨データ」トシテ還元サレテイキマス!』
アーキテクトたちが悲鳴を上げる。
「ガハハハハ! 消そうとしたモンが金(永楽銭)に変わっちまう気分はどうだァ!」
権六が、巨大竜の背から跳躍し、極限までアップデートされた次元晶戦斧をフルスイングした。
「理屈が通じねェなら、あとは俺たち現場の『暴力』の出番だァァッ!」
ズバァァァァァァァンッ!!
権六の放った赤黒い斬撃が、幾何学模様の天使たちを物理法則ごと強引に叩き割る。
「ヒャッハー! ゴミ箱に放り込まれるのはテメェらの方だぜェ!」
虎や市松、そして東の極地から加わった数千万の『狂獣特攻隊』が、空間の法則を無視した絶対筋力で天使たちに飛びかかり、その幾何学の身体を素手で引き裂き、噛み砕いていく。
「ウフフ……。綺麗な空間ですね。私の毒で、少し『飾り付け』をしてあげましょう」
南の【腐海魔帝ベルゼビュート】が、医療ブロックから極大のウイルス(化学毒)をメタバースの純白の空間に散布する。
その毒は、システムの脆弱性を突き、メタバースの無機質な空間をドス黒い腐敗の沼へと変異させていった。
Ctrl+Z(やり直し)の拒絶
『バ、バカナ! 我々の管理空間が、あんな野蛮な泥と暴力とウイルスの塊に蹂躙されていくなど!』
メインコンソールで、アーキテクトの長が絶望の声を上げる。
『ええい、こうなれば奥の手だ! 空間の時間を巻き戻し、奴らが次元の殻を破る前の状態に【復元(Ctrl+Z)】する!』
純白の空間全体が、チカチカと不気味な明滅を始めた。
大日本の武将たちの動きがスローモーションになり、破壊された天使たちが巻き戻るように復元されようとする。システム管理者による、反則的な「時間と事象の巻き戻し」。
「……時間を巻き戻す、か。いかにも神様どもが考えそうな逃げ手だな」
だが、その明滅する空間の中で。
織田信長だけは、まったくその影響を受けることなく、悠然と虚空を歩み進めていた。
『な、何ッ!? なぜ特異点の動きが止まらない!?』
「俺は、本能寺で一度死にかけ、そこから地獄を這い上がって大宇宙を手に入れた男だ」
信長は、愛刀『宗三左文字』をゆっくりと引き抜いた。
「俺の歩んできた道に『やり直し(Ctrl+Z)』など存在しない。進むのは常に前。退路など、俺の覇気がとうの昔に焼き尽くしている!」
ゴオォォォォォォォォォォッ!!!!!
信長の全身から噴出した黄金と漆黒の『覇王色』が、メタバースの空間を焦がし、アーキテクトが実行しようとした「復元コマンド」の処理そのものを、物理的な熱量で焼き切った。
巻き戻りかけていた時間が弾け飛び、再び「大日本の蹂躙」が加速する。
「蘭丸!」
「御意ッ!!」
信長の影から、絶対の剣・森蘭丸が一筋の閃光となって飛び出した。
「我が主君の歴史を、安っぽい計算で巻き戻せると思うな!」
蘭丸の『天叢雲』が、空間の奥に隠されていたメタバースの「メインコンソール(光の柱)」の防壁を、神速の十字斬りで一刀両断する。
「奥義・神断ち――『白銀・覇王絶空断』!!」
ズバァァァァァァァァァァンッ!!
絶対防壁が砕け散り、その奥に潜んでいたアーキテクトたちの姿(純粋な光の集合体)が、信長の目の前に露わになった。
メタバースへの『真・天下布武』
『ヒィィッ……! く、来るな! 我々は創造主だぞ! お前たちのようなバグが、システム管理者に刃を向けるなど……!』
「創造主だと? 笑わせるな。貴様らはただ、安全な箱の外で数字を弄っていただけの『臆病な傍観者』に過ぎん」
信長は、魔力火縄銃の銃口を、アーキテクトの長である巨大な光の集合体の中心に突きつけた。
「安全な椅子に座って神様気取りをしている奴を見ると、どうにもその椅子を蹴り飛ばして、同じ地獄に引きずり下ろしたくなるのが俺の性分でな」
信長が不敵に笑うと同時に、引き金が引かれた。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
大宇宙の全資産と野心を極限圧縮した『神滅・買収覇王弾』が、アーキテクトの長を完全に粉砕した。
悲鳴を上げる間もなく、システム管理者の最高位はログの塵となって四散し、残されたアーキテクトたちも、大日本の武将たちとキメラ軍団によって次々と制圧されていく。
「ガハハハハ! 一番奥の部屋も制圧完了だぜェ! 神様どもの親玉、あっけねェモンだな!」
権六が、へし折られたコンソールの残骸の上に座り込んで酒を煽る。
「……御館様。このメインコンソールを掌握したことで、メタバース全体のシステム権限が、完全に大日本商会のものとなりました」
佐吉が、震える手で眼鏡を押し上げながら報告する。
「今この瞬間から、ここに並べられている無数の大宇宙は……すべて、我々の自由にできる『在庫』です」
その言葉に、天魔艦隊とキメラ軍団から、メタ次元を揺るがすほどの地鳴りのような勝鬨が上がった。
信長は、火縄銃の硝煙を払い、破壊されたコンソールの玉座に片足をかけた。
眼前に広がるのは、無数の光り輝く宇宙の試験管たち。これまでは管理されていた側に過ぎなかった彼らが、今、すべての宇宙を管理する「神の玉座」を物理的に強奪したのだ。
「フハハハハ! いい眺めだ! 試験管一つ一つに、まだ見ぬ敵と富が詰まっていると思えば、退屈する暇など永遠に来ないな!」
信長は、軍配を無数の宇宙に向けて力強く突き出した。
「武将ども! 文官ども! 神の玉座を奪って満足するなよ! 俺たちの『真・天下布武』は、この棚に並んだすべての宇宙を、一つ残らず俺の永楽銭で染め上げてこそ完結する!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
箱庭を打ち破り、次元の管理人を消し飛ばし、ついに「すべての大宇宙を束ねる空間」すらも自らの城としてしまった第六天魔王。
無限に広がる未知の宇宙群を前に、信長と最凶の家臣団の野心は留まるところを知らず、さらなる常軌を逸したスケールの侵略へとその狂気のアクセルを踏み抜くのであった。
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