第54話:次元監視者(デバッガー)の瞳と、箱庭の天井崩壊
第54話:次元監視者の瞳と、箱庭の天井崩壊
狂気と闘争の無限平面宇宙【ネオ・センゴク】。
東の狂獣、南の腐海、西の魔氷、そして北の機鋼。新世界に誕生した四大帝国をすべて大日本・多元宇宙帝国の「子会社(配下)」として完全買収し、魔王・織田信長はついにこの果てしない大陸の完全統一を成し遂げた。
しかし、その統一の歓喜に沸く間もなく。
ネオ・センゴクの空そのものが、まるで薄いガラスが割れるように真っ二つに亀裂を生じた。
無数の星々や次元の海が広がる宇宙空間ではない。亀裂の奥から覗いていたのは、この世界を「水槽の外」から覗き込むような、常軌を逸したスケールの【巨大な眼球】であった。
『――観測完了。指定宇宙【ネオ・センゴク】における特異点の増殖率、許容上限を突破。……これより当該セクターの【初期化】を実行する』
巨大な眼球から発せられた声は、音波ではなく、この世界に存在するすべての原子と魂に直接叩き込まれる絶対的な「システムコマンド」であった。
「ヒィィィィッ!? な、なんですかィあの目玉は! オムニバースの社長よりもヤベェ気配がプンプンしやすぜ!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、天魔艦隊の甲板で頭を抱えて震え上がる。
「御館様! あの眼球から放たれているエネルギー波長……オムニバースの物理法則はおろか、我々が設定したこの新世界のルールすらも上書きしようとしています!」
戦略室で魔導盤を叩く文官トップ・佐吉が、滝のような冷や汗を流しながら絶叫する。
「あれは、神や魔王といった概念ではありません! この大宇宙全体を俯瞰し、管理する上位のシステム……いわば【次元監視者】です!」
「ガハハハハ! 上等だ!」
だが、絶望的な状況下にあって、第六天魔王・織田信長だけは、黄金の天主のバルコニーで狂喜の哄笑を上げていた。
「俺たちが自分たちで創ったこの箱庭は、やはりさらにデカい『管理室』の中に置かれていたというわけだ! 遊び場を統一して退屈するかと思ったが、天井をぶち破れば、まだまだ極上の喧嘩相手がいるじゃねェか!」
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担ぎ、眼球に向けて不敵に葉巻の煙を吹きかけた。
初期化コマンドの襲来
『――プロトコル実行。【存在消去の光】、照射』
巨大な眼球の瞳孔が収縮し、そこから純白の光線がネオ・センゴクの大地に向けて放たれた。
それは熱でも重力でもない。光に触れた端から「最初から存在しなかった」こととしてデータごと消し去る、理不尽極まる初期化の光。
「御館様ァッ!」
蘭丸が信長の盾になろうと飛び出す。
だが、信長は動かない。彼には、今や大日本の「最強の子会社」たちがついているのだ。
「社員ども! 俺が投資した力、今こそ見せてみせろ!」
信長の号令が下った瞬間。
『魔王様ノ御為ニィィッ!!』
東の極地から買収された【狂獣魔帝バロン】率いる数千万の狂獣特攻隊が、一斉に天を仰ぎ、限界突破の『絶対筋力』を大気中に叩きつけた。
ゴアァァァァァァッ!!
空間そのものが筋力によって圧縮され、透明な物理防壁が形成される。純白の光線が防壁にぶつかり、凄まじい火花を散らす。
「ウフフ……。消去の光など、私の毒で『腐らせて』しまえばいいのですわ」
南の【腐海魔帝ベルゼビュート】が妖艶に笑い、天魔艦隊の医療ブロックから極大の化学毒を上空へ散布する。
光のデータ構造そのものに毒が食い込み、純白の光線がドス黒く変色して威力を減衰させていく。
「五郎左殿、同期を!」
「おうよ! 西と北の技術の結晶、見せてやらァ!」
佐吉と五郎左、そして西の【魔氷魔帝クリオロス】の超演算がリンクする。
北の【機鋼帝国】から接収した巨大な『重力炉』と『事象崩壊兵器』が、大日本の重工業プラントによって即座に再構築され、天魔艦隊の主砲として空に向けられた。
「大日本・多元宇宙商会特製! 【四凶統合・超絶反転バリア】!!」
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!!
四大帝国の全能力(筋力、猛毒、超演算、超重力)と、大日本の無限の『新・永楽銭』エネルギーが融合した極彩色の光の奔流が打ち上げられ、次元監視者の「存在消去の光」を正面から完全に相殺し、打ち砕いた。
デバッガーの驚愕と、魔王の反逆
『――エラー。エラー。理解不能。指定宇宙内ノ被造物ガ、管理者コマンドヲ無効化シタ……!?』
巨大な眼球が、信じられないというように小刻みに震え始める。
「ガハハハハ! ざまあみやがれ! こちとらオムニバースの全資産と、この世界の全進化を独占した【超・大企業】だぜェ! ただの管理人のパスワード一つで消されるほど、ヤワな会社じゃねェんだよ!」
オークの猛将・権六が戦斧を天に突き上げて高笑いする。
「その通りだ」
信長は、バルコニーの縁に足をかけ、巨大な眼球を鋭く睨み据えた。
「おい、覗き魔。貴様が神の上を行くシステムだろうが何だろうが知ったことではない。俺の野心と、俺の家臣どもの気合は、貴様らの想定した『プログラミング』の枠には収まりきらんのだ」
信長は、腰に差していた愛刀『宗三左文字』をゆっくりと引き抜いた。
大宇宙の全素材で鍛え上げられ、すべての理不尽を斬り裂く魔王の牙。
「箱庭の中から天井を眺めているだけでは退屈だ。……今度は、俺たちがそっちの『管理室』に乗り込んで、貴様らのシステムを丸ごと俺の永楽銭で【敵対的買収】してやる!」
信長の全身から、黄金色と漆黒が入り混じった極大の『第六天魔王の覇王色』が、太陽の如き炎となって燃え上がった。
天井の破壊
「蘭丸!」
「ここにッ!」
絶対の剣・森蘭丸が、信長の覇気に呼応して青白い流星となり、上空の「次元の亀裂」へ向けて一直線に跳躍する。
『――排除。排除。緊急プロトコル起動。次元隔壁、最大出力で閉鎖!』
眼球が慌てて亀裂を塞ごうとするが、遅い。
「我が主君の野心は、次元の壁すらも超絶する!」
蘭丸の愛刀『天叢雲』が、眼球を覆う次元の隔壁に神速の十字を刻み込む。
「奥義・神断ち――『白銀・覇王十字星』!!」
ズバァァァァァァァンッ!!
空間の修復システムごと、次元の天井に深く、決して塞がることのない決定的な「×」の傷跡が刻まれた。
「武将ども! 俺の道を作れ!」
「「「オラァァァァァァァァァッ!!!」」」
権六、又左、虎、市松、平八郎。大日本の誇る武功派の猛将たちが、四大帝国のキメラ軍団の全闘気を背に受け、蘭丸が刻んだ傷跡に向けて一斉に極大の必殺技を叩き込んだ。
戦斧、雷槍、重力ハンマー。
極限までアップデートされた物理的暴力が、次元の傷跡を強引にこじ開け、眼球の瞳孔へと風穴を開ける。
「チェックメイトだ、システム野郎」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長が放った『宗三左文字』の次元斬撃と、魔力火縄銃から撃ち出された『神滅・覇王弾』が完全に融合し、一本の極太の漆黒の光柱となって天空を貫いた。
魔王の純度百パーセントの野心は、こじ開けられた亀裂を通り抜け、巨大な眼球の真正面へと直撃する。
『ア…………我ガ、観測……機能ガ…………! バグ、ニ……侵食サレ……!』
巨大な眼球は、信長の放った規格外のエゴの前に完全に粉砕され、ガラスの破片のような光の粒子となって、次元の彼方へと散っていった。
パリンッ……!!
そして。
眼球が破壊されたことで、ネオ・センゴクの空を覆っていた「次元の殻(天井)」が完全に崩壊した。
偽りの空が剥がれ落ちたその先に見えたのは――無数のオムニバースや新世界が、まるで「試験管や水槽」のようにズラリと並べられた、無機質で果てしなく広がる超高次元の空間、【真・神の管理室】であった。
上位次元への出陣
「……フハ、フハハハハハ!」
信長は、崩れ落ちる空の欠片を見上げ、腹の底から歓喜の笑い声を上げた。
「見ろ、お前ら! あれが俺たちを管理していた奴らの『本社』だ! 俺たちが制覇したオムニバースすら、あの中の一つの試験管に過ぎなかったというわけだ!」
信長の言葉に、家臣たちも畏縮するどころか、さらに狂暴な笑みを浮かべた。
「ガハハハハ! 試験管だろうが何だろうが関係ねェ! 全部ブチ割って、御館様のモンにしてやりまさァ!」
権六が戦斧を天に突き上げる。
「へっへへへ……! 管理室ってこたァ、あすこにゃあ今まで見たこともねェような莫大な『予算』と『権限』が眠ってるってことですぜ! 大日本商会、いよいよ次元の壁を越えた【究極の上場】でさァ!」
猿がソロバンを弾き飛ばす勢いで狂喜乱舞する。
信長は、漆黒のマントを大きく翻し、砕け散った空の向こう――真・神の管理室へと軍配を突き向けた。
「全軍、空へ上がれ! これより大日本・多元宇宙帝国は、箱庭を飛び出し、すべての宇宙を管理する『最上位の神々(システムエンジニア)』どもに宣戦を布告する!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
無限の平面宇宙を制覇し、ついに「世界の外側」へと牙を剥いた第六天魔王。
大宇宙の全資産と四大帝国の力を統合した究極のキメラ軍団は、空の彼方に広がる未知のメタ次元へと、最後にして最大の「敵対的買収」の第一歩を踏み出すのであった。
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