第41話:覇王の退屈と、超次元創世炉『アマテラス』の起動
第41話:覇王の退屈と、超次元創世炉『アマテラス』の起動
大宇宙のすべての価値を決定していた次元通商ギルドの最高経営責任者(CEO)バアルを物理的に消し飛ばし、大日本・多元宇宙帝国(商会)がオムニバースの全権を掌握してから、現世の感覚で数ヶ月が経過していた。
かつてバアルが座していた「最高役員会議室」は、今や大日本の本拠地たる『超次元・帝都アヅチ』として完全に改装されていた。
無数のマルチバース(並行宇宙の集合体)が、まるで黄金のシャンデリアのように天井を彩り、床には全次元から吸い上げられた莫大な富とエネルギーが、光の川となって流れている。
「へっへへへ……! 御館様! 今秒の売り上げ報告ですぜ!」
大蔵省の長官となった猿ことトックス(猿獣人)が、札束の山をサーフボードにして滑りながら、黄金の天主へとやってきた。
「全次元の経済システムを『永楽銭』に一本化したことで、あっしらの口座には一秒ごとに【無量大数】のさらに上の単位の富が転がり込んでいやす! もはや数字の桁が尽きやした! 大日本商会は、文字通り『無限の金持ち』でさぁ!」
「……そうか。ご苦労」
しかし、玉座に座る第六天魔王・織田信長の反応は、酷く冷淡なものであった。
頬杖をつき、退屈そうに紫煙を吐き出すその瞳には、かつてのギラギラとした野心の炎が微塵も感じられない。
「あ、あれ? 御館様、ご機嫌斜めですかぃ?」
猿が首を傾げる。
「当然でしょう、猿殿」
文官トップの佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が、最新型の超次元魔導盤から顔を上げて眼鏡を押し上げた。
「『征服』とは、未知なる強敵と理不尽な障害が存在して初めて熱狂を生むもの。今やこのオムニバースに、我々大日本に逆らう者は一人としていません。御館様にとって、平和で安全な絶対的支配など、生ぬるい牢獄も同然なのです」
「……その通りだ、佐吉」
信長は、玉座から立ち上がり、忌々しげに舌打ちをした。
「神も、悪魔も、大宇宙の社長も、全員ブチ殺して俺の軍門に降した。誰も彼もが俺の顔色を窺い、システム通りに永楽銭を納めるだけの機械になり下がった。……つまらん。反吐が出るほどつまらん!」
ドォォォォォンッ!!
信長が足を踏み鳴らしただけで、オムニバースの空間全体が恐怖に震え、いくつかの小さな宇宙が消滅しかけた。
「俺は、書類にハンコを押すためにこの大宇宙まで這い上がってきたのではない! 血沸き肉躍る『戦』がしたいのだ!」
信長の覇気に当てられ、控えていた武功派の猛将たち――権六、又左、虎、平八郎たちもまた、飢えた獣のように一斉に牙を剥いた。
「御館様の言う通りだぜェ! 俺の斧も、この数ヶ月間、金庫の警備ばっかりで完全に錆びついちまってる!」
「ああ! 命のやり取りがねェと、飯も酒も不味くてしょうがねェ!」
暴の化身である彼らもまた、戦いがない「平和な大宇宙」に窒息しかけていたのである。
新世界創生計画
「だからこそ、俺は決めたのだ」
信長は、漆黒のマントを翻し、空間の中心に浮かぶ巨大なホログラム・テーブルに軍配を突き立てた。
「敵がいないのなら、俺たちの手で『最高に狂っていて、最高に強い敵』が無限に湧き出す【究極の戦場】を創り出す! 佐吉! 金柑! 設計図はどうなっている!」
「ハッ! すでに完成しております」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しい銀の杖を振りかざした。
ホログラム・テーブルの上に、これまでのいかなる宇宙の法則にも当てはまらない、異様な形態をした「巨大な平面宇宙」の立体図が浮かび上がる。
「オムニバースの全次元のエネルギー、機械の演算力、魔獣の生命力、悪魔のカオス魔力……そのすべてを『一つの坩堝』にぶち込み、限界まで圧縮して爆発させる。名付けて【超次元創世炉・アマテラス】」
佐吉が、冷徹な声で解説を始める。
「このアマテラスによって誕生する新世界(新宇宙)は、球体の惑星ではありません。無限に広がり続ける『平らな超巨大大陸』です。そこでは、これまでの常識(物理法則)は一切通用せず、『闘気』と『野心』の強さだけがすべてを決定する、純度百パーセントの力と混沌の世界となります」
「クックッ……。まさに、御館様の脳内にある『戦国時代』を、宇宙規模で具現化したような狂気の箱庭ですね」
劇薬の軍師・官兵衛が、杖を突きながら底意地の悪い笑みをこぼす。
「そこには、我々が意図的に仕込んだ『進化のバグ』が組み込まれています。新世界に誕生する生命体は、我々大日本軍の存在を【打倒すべき魔王】として本能的に認識し、無限に進化と闘争を繰り返すように設定してあります」
風の軍師・半兵衛も、穏やかな顔で恐ろしいことを言う。
「自分たちをぶち殺しに来る敵を、わざわざ自分たちで創るってのか!? 最高にイカレてやがるぜ!」
市松が歓喜のあまり大斧を振り回す。
「五郎左! 炉の組み上がりは!」
「おうよォ、御館様! 大日本の全重工業プラントをフル稼働させて、ついさっき完成したところでさぁ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、太い指で空間をスワイプする。
帝都アヅチの窓の外――遥か彼方の暗黒空間に、数百万の銀河を材料にして組み上げられた、常軌を逸したスケールの超巨大建造物【創世炉アマテラス】がその禍々しい威容を現した。
ビッグバンならぬ、ノブナガ・バン
「よし! 全軍、準備はいいな!」
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担ぎ、バルコニーの先端へと歩み出た。
その傍らには、絶対の剣・森蘭丸が静かに控えている。
「これより大日本・多元宇宙帝国は、全財産と全エネルギーを投資して、俺たちのための『究極の遊び場』を創世する!」
信長が火縄銃を構え、その銃口を遥か彼方の『創世炉アマテラス』のコアへと向けた。
普通、新たな宇宙を創り出すための「ビッグバン」には、神々の繊細な計算と途方もない時間の蓄積が必要である。
しかし、第六天魔王の創世に、そのようなまどろっこしい手順は不要であった。
「俺の野心が火薬だ。俺の覇気が弾丸だ」
ゴオォォォォォォォォォォォォォッ!!!
信長の全身から、全オムニバースを震わせるほどの極大の『覇王色』が黄金の炎となって噴出し、火縄銃の銃身へと一気に吸い込まれていく。
それは、神を殺し、大宇宙の市場を喰い破ってきた男の、純粋すぎる「退屈しのぎ」の熱量。
「蘭丸」
「御意!!」
蘭丸が抜刀し、自身の持つ最強の次元晶エネルギーを、主君の銃身へと惜しみなく注ぎ込む。
「新しい時代の幕開けだ! ……『火縄の光』、あれ!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の引き金が引かれた瞬間。
火縄銃から放たれた極太の黄金の閃光が、暗黒空間を切り裂いて『創世炉アマテラス』のコアへと直撃した。
ピシッ……パリンッ!
宇宙の法則そのものが砕け散る音。
直後、創世炉を中心に、言葉や色彩では表現できない「超次元の光の大爆発」が引き起こされた。
光の奔流は、古いオムニバースの空間を次々と呑み込み、塗り潰し、全く新しい概念で構築された【無限の平面宇宙】をゴリゴリと力任せに削り出していく。
新世界の誕生と、大日本の再出陣
光が収まった後。
帝都アヅチの眼下に広がっていたのは、信長の望んだ通りの光景であった。
果てしなく続く超巨大な大陸。そこには、天を突くほどの巨大な霊山がそびえ、カオス魔力が渦巻く魔海が広がり、重工業の残骸が融合した機械仕掛けの森が脈動している。
『――オオオオオオオオオオッッ!!』
そして、その新世界の大地からは、誕生してわずか数秒しか経っていないにもかかわらず、圧倒的な闘気と殺意を持った「未知の超生命体」たちの咆哮が響き渡ってきた。
「ガハハハハハ! 見ろ、あの活きのいい連中を! あいつら、もう俺たちを睨みつけて牙を剥いてやがるぜ!」
権六が、巨大竜の上で歓喜の涙を流して戦斧を打ち鳴らす。
「最高だ! 書類の束じゃなくて、生肉と鉄の匂いがプンプンしやがる!」
又左も、雷エイを撫でながら獰猛な笑みを浮かべた。
「……見事な世界です、御館様」
蘭丸が、眼下に広がる狂気と闘争の坩堝を見下ろし、うっとりと目を細める。
「フン。退屈しのぎの箱庭にしては、上出来だな」
信長は、火縄銃の銃口から立ち上る硝煙を吹き消し、ニヤリと凶暴に笑った。
「武将ども! 文官ども! 大日本の全軍に告ぐ!」
信長が軍配を天に掲げると、一千万の天魔艦隊と、数万の魔獣騎馬隊が、一斉にエンジンを吹かし、闘気を爆発させた。
「平和な大宇宙の社長席など、俺には退屈すぎる! 俺たちはこれより、自ら創り出したこの『究極の戦国(新世界)』のド真ん中へと降下し、最強の魔王軍として全生命体を蹂躙し尽くす!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
かつてないほどの熱狂と歓喜が、大日本の軍勢を包み込んだ。
「行くぞお前ら! 第二次・天下布武の幕開けだ!!」
神々を打倒し、大宇宙を制覇した第六天魔王。
しかし彼の野望は満たされることなく、自らの手で創り出した「未知にして最凶の新宇宙」へと、絶対的な魔王軍として侵略の第一歩を踏み出すのであった。
真の戦いは、永遠に終わらない。
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