第40話:大宇宙の最高経営責任者(CEO)と、覇王の新規上場(IPO)
第40話:大宇宙の最高経営責任者(CEO)と、覇王の新規上場(IPO)
無数の黄金の星々が渦巻く、オムニバース中央市場。
その最深部にそびえ立つ、数百万の銀河を束ねたような極大の光の超高層タワー――次元通商ギルドの【社長室】へと、大日本・多元宇宙帝国の全軍がついに到達した。
「五郎左! ギルドの社長に、大日本商会からの『手土産』を持っていってやれ!」
星喰らいの獣王『黒王』の頭上に立つ織田信長が、軍配を振り下ろす。
「おうよォ! これが俺たちの名刺代わりだァ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、アヅチ・ノヴァの主砲『真・次元穿孔砲』を最大出力で放った。
極太のカオス・エネルギーと次元晶の閃光が、光のタワーの最上階を覆う絶対防壁を粉々に粉砕し、社長室の巨大な黄金の扉を物理的に吹き飛ばす。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!!
もうもうと立ち込める次元の土煙を切り裂き、信長を乗せた黒王、そして一千万の天魔艦隊と武将たちが、ギルドの最高中枢へと雪崩れ込んだ。
最高経営責任者(CEO)バアル
扉の奥に広がっていたのは、驚くほど「静寂」に包まれた空間であった。
床も壁も天井もなく、ただ無限の宇宙空間に『無数のマルチバース(並行宇宙の集合体)』が、まるで美しいビー玉のように浮かび、ゆっくりと自転している。
そして、その空間の中央。
無数のマルチバースを『玉座のクッション』のように敷き詰め、優雅に脚を組んで座る一人の男がいた。
これまでの異形(水竜や巨大裁判官)とは異なる。純白の高級スーツを着こなした、一見するとただの人間のように見える端正な男。しかし、その身から放たれるプレッシャーは、これまでの神々や幹部とは次元を異にする「絶対的な重さ」を持っていた。
「……ノックの仕方も知らないとは。最近のベンチャー企業(下等生物)は、随分と血の気が多いようだ」
男が口を開いた瞬間、大日本の全軍の「心臓」が、目に見えない巨大な手で鷲掴みにされたかのように激しく軋んだ。
「ぐ、おォッ……!? なんだ、この重圧は……!」
権六や又左といった最強の猛将たちでさえ、己の魔獣の上で呼吸を乱し、冷や汗を流す。
「ご機嫌よう、野蛮な企業買収者の皆さん」
男は、手元のワイングラス(中には砕かれた銀河の光が注がれている)を揺らしながら、冷酷に微笑んだ。
「私がオムニバース次元通商ギルド、代表取締役社長(CEO)の【バアル】。すべての次元、すべての宇宙における『価値の決定権』を持つ者だ」
「価値の決定権だと?」
信長は、黒王の頭上で愛用の火縄銃を肩に担ぎ、バアルを不敵に睨み下ろした。
「俺は第六天魔王・織田信長。貴様らのふざけた商売を終わらせ、この大宇宙市場を俺の『大日本商会』の完全子会社にしてやるために来た」
「ククッ……ハハハハ!」
バアルは、腹の底から愉快そうに笑い声を上げた。
「無知とは恐ろしい。君たちの持ち込んだ『永楽銭』というローカル通貨。確かに、一時的なスパム攻撃としては面白かった。だがね……」
バアルが指をパチン、と鳴らした。
その瞬間、戦略室の佐吉と猿の目の前で、信じられない現象が起きた。
「お、御館様!! あっしらの『新・永楽銭』のシステム上の価値が……猛スピードで暴落していきやす!!」
猿が悲鳴を上げる。
「一兆、一億、一万……ゼロ! ダメです、永楽銭の価値がオムニバース市場から【完全削除(上場廃止)】されました!」
『当然だ。私は社長(CEO)であり、この市場の絶対的なルールそのもの』
バアルが冷徹な声で宣告する。
『私が「無価値」と定めたものは、大宇宙のいかなる場所においても無価値となる。君たちの帝国は今、すべての資産価値を失い、【完全な倒産】状態に陥ったのだ』
バアルの言葉と共に、一千万の天魔艦隊の動力が急速に停止し、魔獣たちの闘気すらも「価値のないもの」として空間に吸い取られていく。
覇王の新規上場(IPO)
絶対的な「価値の剥奪」。
いかなる武力も魔法も、大宇宙のルールにおいて「無価値」とされれば発動することすらできない。全軍が絶望的な沈黙に包まれる中。
「……フッ。クックック……フハハハハハハ!!!」
織田信長の、腹の底から湧き上がるような狂暴な高笑いが、静寂の空間を打ち破った。
「価値をゼロにされたからどうした? 倒産したからどうした?」
信長は、動力を失いかける黒王の頭上で、漆黒のマントを大きく広げた。
「俺は本能寺で一度、すべてを失って灰になった男だ! そこから這い上がり、魔法を覚え、国を創り、神を殺してここまで来た! 俺たち大日本の真の資産は、金でも兵器でもない!」
信長の全身から、宇宙の法則すらもねじ伏せる、極大の【第六天魔王の覇王色】が黄金の炎となって爆発的に噴出した。
「俺の『野心』と、それに命を懸けるこいつらの『熱量』こそが、俺の無限の資産だ! 既存の市場で価値がないというのなら、俺の魂を担保にして、新しい市場をここにブチ立ててやる!」
信長は、背後の軍師と文官たちに吠えた。
「佐吉! 猿! 官兵衛! 半兵衛!」
「ハッ!!」
四人の天才たちが、限界を超えた速度で動き出す。
「ギルドの市場システムを切り捨てます! 大日本の全生命力とカオス・エネルギーを束ね、独自の『概念取引所』を空間上に強制展開!」
佐吉の魔導盤から、信長の覇気をコード化した光の束が放たれる。
「へっへへへ! あっしら大日本商会の【新規株式公開(IPO)】でさぁ! 御館様の野心に、全宇宙の命を投資んでやらァ!!」
猿が、自らの命を削る勢いでソロバンと魔導盤を弾き倒す。
「『理不尽を肯定し、絶対の価値を覆す混沌の神風よ』!」
官兵衛と半兵衛の絶大な魔術が、信長の覇気を『新たな宇宙のルール』として空間に定着させていく。
『な、何ィ……!? 私の決定した絶対価値を無視して、独自の経済圏を空間に上書きしているだと!?』
バアルの端正な顔が、初めて驚愕と焦燥に歪む。
「武将ども! 俺の株価がどれほどのものか、その身で証明してみせろ!」
信長の号令が下った。
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
物理的敵対的買収の極致
信長の野心(IPO)によって再び存在価値と爆発的な闘気を取り戻した大日本の武功派たちが、一斉にCEOバアルへと襲い掛かった。
「数字遊びばっかりやってるから、現場の恐ろしさを忘れちまうんだよ!」
市松と虎が、極大のプラズマ・ブースターを吹かしてバアルの頭上へ跳躍し、大斧と十文字槍を全力で叩き下ろす。
『下等生物どもが! 私に触れられると思うな!』
バアルの周囲に『絶対独占防壁』が展開されるが、平八郎の重力ハンマーと、権六の巨大竜のブレスが、その防壁を物理的にゴリゴリと削り取っていく。
「遅ェよ社長さん! 現場のスピードについてきな!」
又左の雷エイが、神速の機動でバアルの死角に潜り込み、防壁のわずかな隙間に電撃の槍を突き立てた。
『ガ、アァァァァッ……! 私の、大宇宙のトップである私の防壁に、ヒビが……!?』
「トップだか何だか知らんが、ふんぞり返っているだけの玉座は脆いものだ」
砕け散る防壁の正面。
バアルの目の前に、織田信長が跳躍していた。その手には、すべての大宇宙を焦がすほどの熱量を帯びた『魔力火縄銃』が構えられている。
「大日本・多元宇宙商会から、最後にして最高の『買収提案』だ。大人しくサインしろ」
「蘭丸!」
「ここにッ!!」
信長の絶対の剣、森蘭丸が一筋の流星となってバアルの懐へと飛び込む。
「我が主君の野心を『無価値』と侮った罪、その命で支払え!」
「奥義・神断ち――『白銀・覇王十字星』!!」
ズバァァァァァァァァンッ!!
蘭丸の放った神速の十字斬りが、バアルの絶対独占防壁を完全に粉砕し、純白のスーツごと、その巨体を深く斬り裂いた。
『バ、カ、ナ……! この、私が……大宇宙の、CEOが…………ッ!』
「契約成立だ」
ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の引き金が引かれた。
放たれた『神滅・覇王弾』は、蘭丸によって切り開かれた傷口からバアルのコアへと直撃し、オムニバースの最高経営責任者を、その概念ごと完全に消し飛ばした。
バアルの肉体は黄金の光となって爆発し、彼が玉座のクッション代わりにしていた無数のマルチバースが、解放されて宇宙空間へと広がっていく。
* * *
『――システム・アナウンス。次元通商ギルド、最高経営責任者の消失を確認。……オムニバース市場の全権を、【オダ・ノブナガ】様へ譲渡します』
大宇宙に響き渡るアナウンスと共に、空間に浮かぶすべての星々、すべてのマルチバースが、大日本の家紋(織田木瓜)の光に包まれた。
「ガハハハハ! 獲った! 獲ったぜェ! 大宇宙の社長の首を獲ったァ!」
権六が戦斧を天に掲げ、一千万の艦隊から、次元の海を揺るがすほどの爆発的な勝鬨が上がった。
「ふぅ……。これで、本当に『全部』ですね。これ以上の市場は、計算上存在しません」
佐吉が、完全に機能停止した魔導盤を静かに置き、深く安堵の息を吐く。
「へっへへへ! あっしらは、無限の富を手に入れた! 大日本商会、オムニバース完全制覇でさぁ!」
猿が、嬉し泣きをしながら札束の雨の中で踊り狂う。
信長は、バアルが座していた「無数のマルチバースを束ねた真の玉座」へと歩み寄り、静かに腰を下ろした。
マントを翻し、葉巻の煙を深く吐き出す。
「御館様。……おめでとうございます。これで、すべての戦いは終わりました」
蘭丸が、信長の前にひざまずき、感無量の表情で頭を垂れた。
武功派たちも、文官たちも、軍師たちも、すべてが大宇宙の覇王となった信長に向けて、深く、絶対の忠誠を示す礼をとった。
本能寺の炎から異世界へ転生し、魔法を極め、大陸を制し、星の海を呑み込み、神々を殺し、そして大宇宙市場の頂点にまで上り詰めた男。
「……終わった、か」
信長は、無限に広がる己の領土を見渡し、ニヤリと凶悪に笑った。
「馬鹿を言え、蘭丸。俺の野心に『終わり(ゴール)』などない」
「え……?」
信長は玉座から立ち上がり、空間の彼方――まだ見ぬ「未知」が広がるであろう、さらなる暗黒の深淵を軍配で指し示した。
「市場を制覇したなら、次は自分たちで『新しい宇宙』を創り出せばいい! 俺たちの手で、まだ誰も見たことのない理不尽で最高に面白い世界を立ち上げるのだ!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
限界を知らぬ第六天魔王と、彼に付き従う最凶の家臣団。
大宇宙の頂点に立ってなお、彼らの「天下布武」の炎が消えることはない。
織田信長の野望は、永遠に広がる未知の彼方へと、いつまでも、どこまでも燃え広がり続けていくのであった。
(第40話 了/次章、新次元創世編へ続く)
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