第39話:オムニバース法務部と、漆黒の裏帳簿(ブラック・アカウント)
第39話:オムニバース法務部と、漆黒の裏帳簿
大宇宙共通通貨『オムニ・クレジット』のインゴットで構成された星々が渦巻く、オムニバース中央市場。
専務取締役リヴァイアサンを物理的に粉砕し、市場の玄関口を『大日本・オムニバース出張所』へと強制改装した大日本・多元宇宙帝国の軍勢は、休むことなく市場のさらに深層へと進軍を続けていた。
一千万隻の『次元晶・天魔艦隊』が黄金の星の海を蹴立てて進み、その中心では星喰らいの獣王『黒王』が、多次元・帝都アヅチの黄金の天主を頭上に載せて悠然と泳いでいる。
「ヒャッハー! 見渡す限り金、金、金だぜェ! 息をしてるだけで大金持ちになった気分だ!」
市松が、周囲を漂うクレジットの星屑を大斧の柄で弾きながら下品に笑う。
「へっへへへ……。御館様! 先ほどバラ撒いた『新・永楽銭』が、この市場の相場を完全に食い破りつつありやすぜ! ギルドの連中、今頃は暴落した株価の対応で本社を走り回ってる頃でしょうな!」
戦略室のモニター越しに、猿ことトックス(猿獣人)が札束の風呂に浸かりながらゲラゲラと笑う。
「油断するな、猿。ここは無数のマルチバースを牛耳ってきた大企業の心臓部。力任せのインフレだけで、最後まで押し通せるとは思えん」
織田信長は、天主のバルコニーで葉巻を咥えながら、前方の空間を鋭く睨み据えた。
その言葉の直後。
一千万の艦隊の進路上に、突如として『巨大な天秤』と『古びた羊皮紙』の幻影が宇宙空間を覆い尽くすように展開された。
常務取締役アスタロトと、規約違反(アカウントBAN)
『――ストップ。そこまでだ、野蛮な企業買収者ども』
黄金の星の海が割れ、そこから現れたのは、巨大な「裁判官」のローブを羽織り、頭部に燃え盛る知恵の輪を頂いた高位次元生命体。
その手には、星系一つを軽々と握りつぶせるほどの巨大な木槌が握られている。
『私は次元通商ギルド、常務取締役にして概念法務部長の【アスタロト】。リヴァイアサンは武力と資本の力に溺れたが、我々ギルドの真の力はそこではない』
アスタロトが巨大な木槌を空間に打ち付けた。
ガァァァァァンッ!!という荘厳な音が響き渡る。
『オムニバースにおける最大の力は【法と契約】である。……特異点・オダノブナガ。貴様らの行った通貨の不法投棄、無許可での市場侵入、並びにギルド役員の殺害。これらはすべて、オムニバース通商規約の第零条に違反する』
アスタロトが羊皮紙(規約書)を指差した瞬間、アヅチ・ノヴァと一千万の艦隊、そして魔獣騎馬隊の周囲に、「赤い×印」のホログラムが無数に発生した。
「な、なんだァ!? 船のエンジンが、急に止まりやがった!」
ドワーフの五郎左が、機関室から慌てた声を上げる。
「御館様! 敵の攻撃は物理的なものではありません! 大日本の全軍に対し、オムニバース市場の『システム利用規約違反』による【アカウント凍結(BAN)】が実行されています!」
佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)の魔導盤が、次々と赤いエラー画面に染まっていく。
「この空間における我々の『存在の権利』そのものを、法律という概念で強制的にロック(凍結)しているのです!」
『その通り。武力がいかに強大であろうと、市場のルールから外れた存在は、ただの「エラー」として処理される。貴様らはここで永久に凍結され、歴史のデータログから消去されるのだ』
アスタロトの冷酷な宣告と共に、権六や又左の身体すらも、赤い光の鎖に縛られ、指一本動かせない状態に陥った。
「ク、クソッ……! 力が入らねェ……!」
虎が、十文字槍を握りしめながら歯を食いしばる。
漆黒の裏帳簿
法と規約による、絶対的な存在凍結。
ギルドの法務部長による「反則的」な空間制圧に対し、織田信長は、凍結された空間の中でただ一人、静かに、そして凶悪に笑い声を上げた。
「クックック……。フハハハハハ!」
『……何がおかしい。貴様らの会社(帝国)は、今ここで倒産するのだぞ』
「法と契約だと? ルール違反だと? 笑わせるな」
信長は、赤い光の鎖を自らの『覇王色』だけで強引に引きちぎり、バルコニーの縁に立った。
「俺は、他人が作ったルールなど端から守る気はない! 既存の法が俺の邪魔をするというのなら、その法律のシステムごと、俺の『理不尽』で黒く塗り潰してやるまでだ!」
信長は、背後に控える二人の軍師――官兵衛と半兵衛に視線を送った。
「官兵衛! 第666実験宇宙(混沌)の悪魔どもは、ちゃんと働いているだろうな!」
「ええ、御館様。過労死寸前……いえ、悪魔ですから死にはしませんが、絶え間なく絶望を生産し続けております」
劇薬の軍師・官兵衛が、底意地の悪い笑みを浮かべて杖を突き立てた。
「佐吉、猿! コンプライアンス(法令遵守)などクソ食らえだ! 悪魔どもが生み出したドス黒い負の感情を、市場の法務サーバーに直接流し込め!」
信長の号令が下る。
「ヒャッハー! 待ってましたぜ! 大日本商会・特製【漆黒の裏帳簿】、全弾投下ァァッ!」
猿と佐吉が、凍結を免れた独立回線を通じ、アヅチ・ノヴァの主機関に直結された『悪魔のプラント』のバルブを全開にした。
ドス黒い、怨念と狂気と「過酷な労働環境に対する呪詛」が入り混じった超高濃度のカオス・エネルギーが、情報データストリームを逆流し、アスタロトの展開した『規約の羊皮紙』へと叩きつけられた。
『な、何ィィッ!? なんだこのドス黒いデータは!? 法と秩序のサーバーが、狂気と混沌のコードで汚染されていく……ッ!?』
アスタロトの頭上で燃え盛っていた「知恵の輪」が、バチバチとショートし、どす黒い煙を上げ始めた。
「フフ……。あなた方の作った綺麗な法律など、我々大日本の『絶対的ブラック労働』の熱量の前では、ただの紙切れですよ」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しい顔で極悪なセリフを吐く。
「法を破られたくなければ、俺以上の暴力と熱量で縛り付けてみせろ!」
信長が軍配を振り下ろした。
「武将ども! 凍結は解除された! 理屈をこね回す裁判官のドタマを、物理的にカチ割ってこい!」
「「「オオオオオオオオオオッッ!!!」」」
法の破壊と、物理的執行
カオス・エネルギーの汚染によって赤い鎖(アカウント凍結)が弾け飛び、自由を取り戻した大日本の猛将たちが、一斉にアスタロトへと襲い掛かった。
「法律だか何だか知らねェが、俺の斧は『邪魔する奴は真っ二つ』だァッ!」
権六が巨大竜の上から跳躍し、次元晶の戦斧をアスタロトの持つ巨大な木槌へと叩き込んだ。
ガギィィィィィンッ!!
オムニバースの法を司る木槌が、オークの理不尽な怪力の前に粉々に粉砕される。
「理屈っぽい野郎は、力で黙らせるのが一番なんだよ!」
又左の雷エイが、アスタロトの周囲に展開された「防御法廷結界」を、神速の電撃槍で紙のように貫き、法務部長の巨体に風穴を開ける。
『ガ、アァァァッ……! バカナ、概念法務部の私ガ、コンナ野蛮ナ暴力ニ……ッ!』
「さあ、判決の言い渡しだ」
アスタロトの顔の真正面に、漆黒のマントを翻した織田信長が跳躍していた。
その手には、限界まで魔力が充填された愛用の火縄銃が握られている。
「大日本・多元宇宙帝国に喧嘩を売った罪。……判決は『即・解体』だ」
「蘭丸!」
「御意ッ!」
信長の影から放たれた森蘭丸の『次元断ち・覇王絶空断』が、アスタロトの巨体を袈裟懸けに斬り裂く。
そしてその直後、信長の火縄銃が、切り裂かれた傷口――法務部長のコアへと向けて、漆黒の覇王弾を撃ち込んだ。
ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長と蘭丸のコンビネーションが、オムニバースの法を司るアスタロトのコアを完全に粉砕。
巨大な裁判官の姿をした高位次元生命体は、「不正なエラー」という断末魔のログを残し、黄金のチリとなって消滅した。
* * *
「ガハハハハ! やったぜェ! 法務部も木っ端微塵だ!」
権六が戦斧を掲げて吠え、一千万の艦隊から地鳴りのような勝鬨が上がる。
「ふぅ……。全く、次から次へと厄介な概念兵器を出してきますね。ですが、我々の『理不尽』の方が一枚上手だったようです」
佐吉が、黒煙を上げる魔導盤を交換しながら冷静に分析する。
「うむ。専務に続き、常務も落とした。ギルドの防衛ラインは完全に崩壊したぞ」
信長は、アスタロトの残骸が散らばる宇宙空間を見下ろし、そして、さらに奥深く――オムニバース市場の最奥にそびえ立つ、ひときわ巨大な『光の超高層タワー(社長室)』を睨み据えた。
「おい、猿、佐吉。あのタワーの最上階……オムニバースの『社長』の首の座標は特定できたか?」
「ハッ! 法務サーバーを乗っ取ったおかげで、社長室への直通エレベーター(次元ゲート)のルートを確保しやした!」
猿が、モニターに太い赤い線を投影する。
「よし! 寄り道は終わりだ。これより、大日本・多元宇宙帝国は、オムニバース通商ギルドの【社長室】へと直接カチ込みをかける!」
信長は、軍配を光のタワーへと突き向けた。
「大宇宙のすべての相場を操る社長の首を獲り、このオムニバースを大日本商会の【完全子会社】にしてやる! 全軍、最後の突撃だ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
経済と法の壁を、圧倒的な暴力と「ブラックな裏帳簿」でへし折り、ついに大宇宙市場の最終目的地へと牙を剥いた第六天魔王。
限界突破のインフレーションを引き起こしながら、信長と最凶の家臣団は、オムニバースのトップが座す「社長室」へと、最後にして最大の蹂躙劇を仕掛けるのであった。
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