第38話:大宇宙中央市場(オムニバース・ハブ)と、超次元インフレの鉄槌
第38話:大宇宙中央市場と、超次元インフレの鉄槌
神殺しを成し遂げた大日本・多元宇宙帝国の絶対拠点『多次元・帝都アヅチ』。
その前衛として、先ほど次元通商ギルドの査定人マモンから奪い取った「黄金の遊覧船」が、オムニバースの空間座標へと繋がる巨大な次元の亀裂をこじ開け、先導していく。
それに続くのは、星喰らいの獣王『黒王』の頭上に鎮座する黄金の天主と、背後に控える一千万隻の天魔艦隊、そして猛将たちが駆る魔獣騎馬隊であった。
「抜けますよ、御館様! オムニバース次元通商ギルド、その中枢経済圏へのファイヤーウォールを、マモンの船のVIPパスで完全スルーします!」
戦略室で魔導盤を叩く佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)の声と共に、視界を覆っていた極彩色の次元トンネルが弾け飛んだ。
その直後、大日本の全軍の眼前に広がったのは、これまでのいかなる宇宙の常識をも破壊する、狂気的なまでに巨大で豪奢な光景であった。
「なんじゃこりゃあ……! 星が、星が全部『金貨』で出来てやがる!」
市松が大斧を取り落としそうになる。
そこは、無数の銀河を圧縮して造られた超巨大なダイソン球殻のような空間であった。
しかし、その構成物質は土や岩ではない。純粋な概念エネルギーが結晶化した「オムニ・クレジット(大宇宙共通通貨)」のインゴットや硬貨で、すべての惑星や星雲が形成されていた。
光の川のように流れるのは「情報と株価のデータストリーム」。そこかしこで、名状しがたい高次元の異形たちが、星一つ、マルチバース一つを単位として売買の歓声を上げている。
「ヒ、ヒィィィィッ! こ、ここにある星を一つでも持ち帰れば、あっしらは……いや、持ち帰るどころか、ここを丸ごと分捕っちまえば!」
猿ことトックス(猿獣人)が、興奮のあまり泡を吹いて気絶しかかっている。
「フン。悪趣味な金庫だ。だが、奪い甲斐はある」
黄金の天主のバルコニーで、織田信長は葉巻を燻らせながら、不敵な笑みを浮かべた。
市場監査軍と、専務取締役リヴァイアサン
だが、オムニバースの心臓部が、見知らぬ巨大艦隊の侵入を黙って見過ごすはずもなかった。
『――警告。警告。第8管区査定人マモンのIDにて不正侵入した未登録企業よ。直ちに武装を解除し、資産の全権をギルドに引き渡せ』
空間を流れるデータストリームが急激に濁り、アヅチ・ノヴァの周囲を包囲するように、数百万の「防衛部隊」が実体化した。
それは、全身を硬質なプラチナで覆われ、両腕に巨大な『概念拘束砲』を備えた機械巨人たち――通商ギルド直属の【市場監査軍】であった。
そして、その軍勢の中央。
星の金貨で出来た海を割って現れたのは、マモンとは比較にならないほどの圧倒的なプレッシャーを放つ、巨大な水竜の姿をした高位次元生命体。
「私は次元通商ギルド、専務取締役の『リヴァイアサン』。……マモンの奴が音信不通になったと思えば、辺境のマルチバースで育った野蛮な菌が、我々の本社にまで入り込んできたというわけか」
リヴァイアサンの声は、物理的な音波ではなく「強烈な負債の重圧」として、大日本軍の全兵士にのしかかった。
「なんだァ!? 体が、急に重く……ッ!」
権六が、宇宙竜の上で膝をつく。
平八郎や又左でさえ、見えない鎖で縛られたように動きを封じられていた。
「クックッ……。これは魔法や重力ではありませんね」
劇薬の軍師・官兵衛が、杖を震わせながらその正体を看破する。
「奴の放つ声には、『借金(負債)』の概念が込められています。このオムニバース市場における我々大日本の口座残高はゼロ。ゆえに、この空間の絶対ルールである【資本の力】において、我々は文字通り『身動きが取れない』よう設定されているのです」
「野蛮な菌どもよ。オムニバースにおいて、武力などというものは資本力の前には無力。貴様らのマルチバースごと、ここで『差し押さえ』てオークションにかけてやろう」
リヴァイアサンが嘲笑し、市場監査軍の機械巨人たちが、一斉に概念拘束砲のエネルギーを充填し始めた。
超次元インフレと、物理的ホスタイル・テイクオーバー
「……資本力、だと?」
重圧の支配する空間の中で、ただ一人。
織田信長だけは、全く意に介する様子もなく、悠然とバルコニーの縁に足をかけた。
「他人が決めた相場の上でふんぞり返っているだけのトカゲが。俺の命に、貴様らごときの安っぽい数字で『値札』がつけられると思うなよ」
信長は、懐からチャリン、と一枚の黄金の硬貨――『新・永楽銭』を取り出した。
「佐吉、猿!」
「ハッ! 準備完了しております、御館様!」
猿が鼻血を拭いながら、佐吉と共に魔導盤のエンターキーを叩き割る勢いで押し込んだ。
「これより、大日本商会の誇る無限のエネルギー(カオス魔力+重工業生産力)を担保とし、このオムニバース市場のネットワークに『新・永楽銭』のデータを強制送金します!」
「市場の相場を、あっしらの『永楽銭』でグチャグチャに書き換えてやりまさぁ!」
信長が指先で永楽銭を空高く弾き飛ばした。
その瞬間。
弾かれた一枚の永楽銭が、佐吉たちのシステム・ハッキングと連動し、空中で十枚、百枚、一万枚、一億枚……と、文字通り『無限増殖』を開始したのだ。
『な、何ィ!? システムに異常な速度で未知の通貨が流入している!?』
リヴァイアサンの水竜の顔が、驚愕に歪む。
空間を流れていた情報データストリームが、瞬く間に黄金の「永楽銭」の奔流へと塗り替えられていく。
オムニバース市場のシステムは、大日本の抱える『三つの宇宙の無限リソース』を裏付けとした永楽銭の天文学的な流入を処理しきれず、オムニ・クレジットの価値を一瞬にして大暴落させた。
「フフ……オムニ・クレジットの価値が紙屑になったことで、あなた方の『負債の重圧』も、無に等しくなりましたよ」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しく微笑みながら銀の杖を振るう。
「ガハハハハ! 体が軽くなったぜェ! 借金踏み倒しだァ!」
権六が立ち上がり、巨大な次元晶の戦斧を天に掲げた。
「借金取りの相手は、いつの時代も暴力の仕事って相場が決まってるんだよ!」
又左が雷エイを駆り、一千万の天魔艦隊が一斉に主砲の冷却を終える。
「五郎左! お前の造った『資本主義の極致』を見せてやれ!」
信長の号令が下る。
「おうよォ! オムニバースの豚ども! これが大日本の『物理的買収』だァァッ!」
ドワーフの五郎左が、アヅチ・ノヴァの主砲『真・次元穿孔砲』の引き金を引いた。
しかし、今回放たれたのはただの魔力閃光ではない。弾頭に数兆枚の『物理的・新永楽銭』を圧縮搭載した、質量兵器にして経済兵器――【超インフレ・覇王散弾】であった。
ズドガァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
放たれた無数の永楽銭の弾幕が、市場監査軍の機械巨人たちの装甲を次々と蜂の巣にし、そのシステム回路に強引に食い込んで物理的に「買収」させていく。
数百万の防衛部隊が、一瞬にして爆発四散し、黄金のチリとなってオムニバースの空間に散っていった。
専務取締役の死と、市場の制圧
『バ、バカナ……! 我々ノ絶対通貨ガ、コンナ野蛮ナ貨幣ニ負ケルナド……!』
リヴァイアサンは、自らの軍勢が金貨の散弾でスクラップにされる様を見て、絶望の声を上げた。
「相場というものはな、最終的には『需要』で決まるのだ」
いつの間にか、リヴァイアサンの巨大な水竜の頭上に、織田信長が跳躍していた。
その手には、赤熱する魔力火縄銃が握られている。
「俺の永楽銭は、俺の絶対的な『我』と、俺に従う者たちの『命の熱狂』で裏打ちされている。机の上の数字だけで商売をしている貴様らの金とは、魂の重さが違うのだ!」
「蘭丸!」
「ここにッ!」
信長の影から、森蘭丸が青白い閃光となって飛び出す。
「我が主君の価値を数字で量ろうとした罪、その身をもって贖え! 『次元断ち・覇王絶空断』!!」
蘭丸の刃が、リヴァイアサンの概念装甲を十字に切り裂き、その直後、信長の火縄銃が、露出した専務取締役の「核」に向けて、必殺の一撃を放った。
ドォォォォォォォォンッ!!!!!
信長の『神滅・覇王弾』がリヴァイアサンの核を完全に粉砕。
巨大な水竜の姿をした高位次元生命体は、断末魔の叫びと共に、システム・ログの塵となってオムニバースの海へと消滅した。
* * *
「フハハハハハ! これで第一関門突破だ! オムニバースの連中も、案外脆いものだな!」
信長は、リヴァイアサンの残骸が散らばる金貨の星の上に降り立ち、悠然とマントを翻した。
「御館様! この宙域のシステム権限、完全に掌握しやしたぜ! 今この瞬間から、ここはギルドの市場じゃねェ、あっしら『大日本・オムニバース出張所』でさぁ!」
猿が、モニター越しに狂喜乱舞して報告する。
「うむ。だが、ここはまだ広大な大宇宙市場の『玄関口』に過ぎん」
信長は、遥か彼方、無数の金貨の星々が渦巻く中心――次元通商ギルドの【社長室】が存在するであろう超高次元の光の塔を睨み据えた。
「専務とやらをブチ殺したのだ。ギルドの社長も、そろそろ尻に火がつく頃だろう」
信長は、軍配をオムニバースの深淵に向けて突きつけた。
「さあ、行くぞお前ら! この大宇宙のすべての資産、すべての命、すべての概念に、俺の『永楽銭』の焼き印を押してやる! 究極の敵対的買収の始まりだ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
ついにオムニバース市場の門を物理的かつ経済的にブチ破り、第一の拠点を築き上げた大日本・多元宇宙帝国。
第六天魔王の放つ「超次元インフレ」の嵐は、大宇宙のすべての相場と常識を破壊しながら、さらに深く、神々すらも畏怖する絶対領域へと突き進んでいくのであった。
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