第37話:大宇宙市場(オムニバース)と、次元通商ギルドの「査定人」
第37話:大宇宙市場と、次元通商ギルドの「査定人」
真の創造主ジェネシスを物理的かつシステム的に粉砕し、全多元宇宙の最高経営責任者(CEO)となった織田信長。
彼が新たに座した白紙の空間――『新・帝都アヅチ(旧最高役員会議室)』の中心には、今や常識を絶する規模の星系図がホログラムとして展開されていた。
それは、彼らがたった今征服したばかりの「マルチバース(無数の宇宙の集合体)」すらも、ただの一つの『光る細胞』として扱う、真の無限領域。
無数のマルチバースが星の数ほど連なる超次元の大渦、【オムニバース(大宇宙市場)】の全体マップである。
「……計算が、計算が追いつきません。これまでの宇宙の数が『砂浜の砂』だとしたら、このオムニバースの規模は『海そのもの』です」
無表情を崩さない文官トップの佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)ですら、新しい魔導盤から煙を上げながら、わずかに声に震えを混じらせた。
「ガハハハハ! 海だろうが何だろうが、全部あっしら『大日本商会』の独占市場になるってことでしょう!? 御館様、これ全部制覇したら、あっしらの資産は数字じゃ表せなくなりやすぜ!」
猿ことトックス(猿獣人)が、目を¥マークならぬ永楽銭マークにして、ヨダレを垂らしながらマップに抱きつこうとしている。
「フン、慌てるな猿。これだけ広大な市場となれば、当然、他のマルチバースを牛耳っている『同業者』がいるはずだ」
信長は、玉座で葉巻(魔の森のハーブ)を燻らせながら、不敵に目を細めた。
その言葉を証明するかのように。
突如、新・帝都アヅチの白紙の空間に、これまで遭遇したどの神々とも異なる、異質な【空間の亀裂】が走った。
『――システム・アラート。オムニバース共通プロトコルによる、外部からの次元跳躍申請を受信。……強制的にこじ開けられます!』
佐吉の警告と同時に、空間が「ジッパーを開けるように」物理的に開き、中から一隻の巨大な宇宙船が姿を現した。
それは、大日本の天魔艦隊のような武骨な鉄甲船でもなく、神々のクリスタルのような無機質なものでもない。全体が「極彩色の宝石と純金」で装飾された、悪趣味なまでに豪奢で巨大な遊覧船のような艦であった。
次元通商ギルドの「査定人」
黄金の船の甲板から、重力バリアに守られながら数名の異形が降り立ってきた。
先頭に立つのは、三つの目と四本の腕を持ち、全身をプラチナのスーツで包んだ爬虫類型の宇宙人。その後ろには、用心棒と思しきエネルギー生命体の巨漢たちが控えている。
「やあやあ、初めまして。新興企業の皆サン」
三つ目の男は、信長たちを見上げて、胡散臭い営業スマイルを浮かべた。
「私は【オムニバース次元通商ギルド】の第8管区査定人、マモンと申します。いやはや、辺境の第404番マルチバースで『経営陣の入れ替わり』があったとアラートを受信しましてね。早速、ご挨拶と【査定】に伺った次第です」
「査定、だと?」
信長の傍らで、劇薬の軍師・官兵衛が杖を突きながら底意地悪く笑った。
「我々がたった今手に入れたマルチバースを、品定めしに来たということですか」
「ええ、その通り!」
マモンは四本の腕を大げさに広げた。
「創造主サンが管理していた頃は、ただの『箱庭実験室』でしかなかったこのマルチバース。ですが、貴方たちのような特異点がトップに立ったことで、ようやく我々オムニバース市場における『未上場のベンチャー企業』として認識されたのです」
マモンは、値踏みするように大日本の家臣団――獣人、エルフ、ドワーフ、オークたちを見回し、鼻で笑った。
「とはいえ、所詮は生まれたての田舎企業。オムニバースの荒波を単独で渡るのは不可能でしょう。そこで! 我が通商ギルドが、貴方たちのマルチバースを【丸ごと買収】して差し上げようというわけです」
マモンが指を鳴らすと、部下が巨大なアタッシュケースを開いた。
中には、眩い光を放つ、オムニバース市場の共通通貨『オムニ・クレジット』のインゴットが敷き詰められていた。
「どうです? ざっと100億オムニ・クレジット。辺境のマルチバース一つにしては破格の買収額ですよ。これを元手に、貴方たちは我々ギルドの『下請け』として、永遠に安泰な暮らしを……」
「プッ……ギャハハハハハハ!!!」
マモンの営業トークを遮ったのは、床を転げ回って爆笑する猿の笑い声であった。
「な、何がおかしいのですか、猿の獣人サン」
「いや、ヒィーッ! 腹痛ェ! おい佐吉、聞いたか!? 100億だってよ!」
猿の笑い声に応え、佐吉が冷ややかに魔導盤の数値を空中に投影した。
「……査定人マモン殿。貴方の提示した『オムニ・クレジット』の市場価値を、我々の支配下にある三万の宇宙のエネルギー総量で逆算・換算しました。結論から言うと、その100億オムニ・クレジット……大日本の法定通貨『新・永楽銭』に直すと、たったの【3文(駄菓子数個分)】の価値しかありません」
「なッ……!?」
マモンの三つの目が驚愕に見開かれた。
「てめェら、あっしら大日本商会をナメてんのか?」
猿が笑いをピタリと止め、マフィアのような極悪な目つきでマモンを睨みつけた。
「御館様が手に入れた『三つの特化宇宙』と『無限のエネルギー』の価値が分からねェとは。オムニバースだか何だか知らねェが、てめェらの通貨、インフレ起こして紙くず同然じゃねェか」
「バ、バカな! オムニ・クレジットは全次元共通の絶対通貨だぞ! 貴様らのような辺境のサルが作ったローカル通貨などと……!」
「黙れ、三流の詐欺師が」
絶対的な覇気を伴った、織田信長の低く冷酷な声が、白紙の空間を支配した。
信長は玉座から立ち上がり、マモンを見下ろした。
「俺の家臣に、たった『3文』で会社を売れと抜かしたな。……それがどれほどの無礼か、オムニバースの流儀で教えてやろう」
3文の命と、次元通商ギルドへの宣戦布告
「蘭丸!」
「御意!!」
信長が軍配を振るうよりも早く、絶対の剣・森蘭丸が跳躍した。
神の領域すら切り裂いた愛刀『天叢雲』が、抜刀の閃光と共に空間を薙ぎ払う。
「ヒィッ! や、やっちまえ!!」
マモンが叫び、背後のエネルギー生命体の用心棒たちが蘭丸に襲い掛かる。彼らはオムニバースの最新武装である「概念崩壊兵器」を構えていた。
しかし。
「我が主君の価値を3文と侮った罪、万死に値する!」
蘭丸の『次元断ち・覇王絶空断』は、用心棒たちの概念崩壊兵器ごと、彼らのエネルギー体を音もなく真っ二つに両断し、虚空へと霧散させた。
「ヒ、ヒィィィィッ!?」
最強の護衛を一瞬で失い、マモンは腰を抜かしてへたり込んだ。
「オイオイ、もう終わりか? オムニバースの連中ってのは、口ばっかりで随分と脆いじゃねェか」
虎が十文字槍を肩に担ぎ、市松が大斧を引きずりながら、獲物を囲む肉食獣のような笑みを浮かべてマモンににじり寄る。
「ま、待て! 私を殺せば、オムニバース通商ギルドが黙っていないぞ! お前たちのマルチバースごと、経済封鎖で干上がらせてやる!」
「経済封鎖? 笑わせるな」
信長が、ゆっくりとマモンの前まで歩み寄り、その頭に魔力火縄銃の銃口を突きつけた。
「俺たちは、たった今、神様をぶち殺して自給自足の無限インフラ(マルチバース)を手に入れたばかりだ。干上がる要素など一つもない」
信長は、指先でチャリン、と一枚の『新・永楽銭』を弾き飛ばし、マモンの顔面に叩きつけた。
「これは手付金だ。あの黄金の悪趣味な船は、俺がもらってやる」
ズドンッ!!!
火縄銃が火を噴き、オムニバース次元通商ギルドの査定人マモンの頭部は、プラチナのスーツごと完全に粉砕された。
* * *
「フハハハハハ! これで交渉決裂だ! 向こうから出向いてきてくれたおかげで、オムニバースへの『直通ルート(座標)』が手に入ったぞ!」
信長は、マモンが乗ってきた黄金の船を指差して笑った。
「佐吉、猿。あの船の航法データと、オムニバース市場のネットワークを全力でハッキングしろ」
「ハッ! すでに通信ログから、ギルドの【中央統括市場】の座標を割り出しつつあります」
「へっへへへ! ギルドの連中の資産状況も丸裸にしてやりまさぁ!」
信長は、漆黒のマントを翻し、一千万の天魔艦隊と武将たちに向かって高らかに宣言した。
「聞いたな、お前ら! 外の海には、俺たちの『永楽銭』を紙くずだと思っている無知な豚どもが、星の数ほどいるらしい!」
「「「オオオオオオオオオオッッ!!!」」」
武功派の猛将たち、そして魔獣騎馬隊が、腹の底から歓喜の咆哮を上げる。
「大日本・多元宇宙帝国の次の標的は決まった! オムニバース次元通商ギルドの本部へカチ込み、奴らの市場をすべて俺の永楽銭で【敵対的買収】する!」
信長は、軍配をマモンが開いた「オムニバースへの次元の亀裂」へと真っ直ぐに突き向けた。
「神殺しの次は、大宇宙の市場荒らしだ! 全軍、オムニバースのド真ん中へ向けて、出陣せよ!!」
マルチバースの神々を打倒したのも束の間。第六天魔王と大日本の最凶の家臣団は、一息つくどころかさらに野心のアクセルを踏み抜き、真の無限領域である「オムニバース市場」へと、その圧倒的な暴力と経済力の波を雪崩れ込ませていくのであった。
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