第36話:最高役員会議室の崩壊と、大日本・多元宇宙商会の「完全子会社化」
第36話:最高役員会議室の崩壊と、大日本・多元宇宙商会の「完全子会社化」
すべての次元、すべての宇宙を束ねる中枢領域【セントラル・ハブ】。
運命と因果律を管理していた三体の女神を物理的に粉砕した大日本・多元宇宙帝国の軍勢は、ついに真の創造主たちが座す『最高役員会議室』の巨大な扉の前に到達していた。
「五郎左! ノックの時間は終わりだ! 扉ごとブチ破れ!」
星喰らいの獣王『黒王』の頭上から、織田信長が軍配を振り下ろす。
「おうよォ! 大日本商会、渾身のカチコミでさぁ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、アヅチ・ノヴァの主砲『真・次元穿孔砲』の引き金を引いた。
カオス・エネルギーと次元晶が極限圧縮された極太の閃光が、絶対破壊不能とされた神の扉を、紙屑のように粉砕して吹き飛ばす。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!!
開かれた扉の奥。そこには、これまでのようなクリスタルの床も、データのホログラムすらも存在しない、ただひたすらに広がる【絶対的な白紙の空間】があった。
筆頭株主との対峙
「……何もない空間ですね。いや、空間という概念すら曖昧だ」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、目を細めてその深淵を覗き込む。
『――無礼なノイズだ。誰が私のキャンバスに泥を塗ることを許可した』
白紙の空間の奥から、声が響いた。
姿はない。しかし、空間そのものが意思を持ち、圧倒的な「圧」となって大日本の全軍にのしかかる。
やがて、白紙の空間の中心に、一つの巨大な『黒い球体』が現れた。光も時間もすべてを吸い込む、概念の特異点。
『我は【ジェネシス】。この多元宇宙の設計図を描き、すべての観測者を創造した筆頭株主。……下等なバグ風情が、私の玉座まで土足で踏み込んでくるとは』
「筆頭株主だと? 偉そうな肩書きだが、要するにこのふざけた水槽を一番最初に造り出した『元凶』ということだな」
信長は、黒王の頭上で腕を組み、黒い球体を不敵に見据えた。
「俺は第六天魔王・織田信長。貴様らの会社の経営方針が気に入らなくてな。今日をもって、俺がこの宇宙の社長に就任してやる。さっさとその玉座を明け渡せ」
『――理解不能な傲慢。貴様らの存在という【線】を、私のキャンバスから消しゴムで消し去ってやろう』
ジェネシスが意思を放った瞬間。
大日本軍の周囲の空間に、無数の「超高密度の光の点」が出現した。
「御館様! あれは魔力ではありません! 宇宙の始まり……【ビッグバン(初期宇宙の爆発)】の種です!」
佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が、魔導盤を弾きながら戦慄の声を上げる。
「奴は、我々の周囲の空間に『新たな宇宙』を無数に誕生させることで、その創世のエネルギーで我々を圧殺しようとしています!」
ポンッ、ポンッ!と、軽快な音を立てて光の点が弾ける。
しかしその実態は、一つ一つが一つの銀河を丸ごと吹き飛ばす規模の、純粋な創世の爆発。数万のビッグバンが、アヅチ・ノヴァと一千万の艦隊へと襲い掛かった。
創世の炎 VS 覇王の闘気
「チィッ! 宇宙の爆発だァ!? 規模がデカすぎて笑えてくるぜ!」
市松が大斧を構えながら吠える。
「慌てるな若造ども! 相手が宇宙を創るなら、俺たちはそれをカチ割るまでだ!」
権六が、超巨大竜の上で赤黒い闘気を爆発させた。
「大日本の前衛の分厚さ、神様に教えてやれェ!」
「「「オオオオオオオオオオッッ!!!」」」
武功派の猛将たちが、一切の怯みを見せず、創世の爆発の波に真っ向から突進した。
平八郎の重力ハンマーが、爆発のエネルギーを局地的なブラックホールで強引に相殺する。
又左の雷エイが、爆発の熱線が広がるより速く空間を駆け抜け、ビッグバンの種を弾ける前に次々と串刺しにしていく。
「フフ……力任せの創世など、制御を乱せばただの自爆です」
後方では、官兵衛と半兵衛の両軍師が杖と扇を重ね合わせていた。
「『因果を縛り、時を澱ませる絶望の呪縛』!」
「『凪ぎ払え、万物を平定する静寂の神風』!」
軍師たちの絶大な魔術がビッグバンの連鎖反応に干渉し、その爆発の威力を強引に百分の一まで減衰させる。
「猿! 佐吉! 本社のメインサーバーはまだ落ちんのか!」
信長が怒喝を飛ばす。
「へっへへへ! 神様の口座のパスワード、あと少しで割れやすぜ!」
猿が、鼻血を流しながらも笑い声を上げ、佐吉と共にジェネシスの「世界書き換え権限」を奪うためのハッキング・コードを叩き込み続けていた。
『――愚かな。システムを弄ろうとも、私はキャンバスの持ち主。貴様らの論理ごと、すべてを【無】に還す』
黒い球体ジェネシスが、さらに巨大に膨張し始めた。
その直後、白紙の空間に「絶対的な虚無」が広がり、アヅチ・ノヴァの多重・絶望次元シールドすらも、音を立ててひび割れ始める。
物理も魔法も関係ない。ただ「存在を許さない」という、創造主の絶対的な意思。
「……御館様。シールドが限界です。このままでは、大日本帝国がキャンバスから完全に消去されます!」
金柑が、血を吐きながら銀の杖を支える。
「ならば、俺が直接、あの黒いボールをブチ抜いてやる」
信長は、黒王の頭上で愛用の火縄銃を構え、その銃身に己の『覇王色』と、三つの宇宙の全エネルギーを注ぎ込み始めた。
銃身が赤熱し、次元晶のフレームすらも溶け始めるほどの圧倒的な熱量。
「蘭丸」
「ここに」
信長の影から、森蘭丸が音もなく進み出る。その手には、抜刀された『天叢雲』が、静かに、しかし宇宙を切り裂くほどの殺意を帯びて輝いていた。
「創造主だろうが何だろうが、俺の野心の前にはただの障害物だ。……行くぞ!」
「御意ッ!!」
完全子会社化
信長が引き金を引いた。
放たれたのは、弾丸ではない。
第六天魔王・織田信長の「俺が世界を統べる」という、純度百パーセントの傲慢と意思の極太の光――『神滅・覇王弾』。
そして、その光の弾丸を追うように、蘭丸が一閃の流星となって跳躍する。
「奥義・神断ち――『白銀・覇王十字星』!!」
信長の放った光が、ジェネシスの展開した「絶対虚無の壁」を強引にこじ開け、その直後に蘭丸の神速の刃が、黒い球体のド真ん中へと深々と突き刺さった。
『――ガ、アァァァァァァァッ!?』
絶対なる創造主ジェネシスから、悲鳴が上がった。
『バ、バカナ……! 私ガ描イタ絵ノ中ノ存在ガ、絵筆ヲ握ル私自身ヲ、切リ裂クダト……!?』
「絵筆を握っているだけで、偉くなったつもりか」
信長が、火縄銃を下ろしながら冷酷に言い放つ。
「俺たちは、絵の中で血を流し、泥をすすり、進化を続けてきた。安全な外の世界で絵を描いているだけの貴様に、俺たちの『生きる熱量』が止められるはずがないのだ!」
「今です、猿殿!!」
佐吉が叫んだ。
「おっしゃァァァッ! 大日本商会・特製ウイルス『永楽銭フォーマット』、完全インストール完了でさぁ!!」
蘭丸の刃によってジェネシスの「核」が露出したその一瞬の隙を突き、佐吉と猿のハッキング・プログラムが、ジェネシスの根源コードへと完全に突き刺さった。
白紙だったキャンバス空間に、黄金に輝く『永楽銭』の模様が無数に浮かび上がり、空間の支配権が強制的に書き換えられていく。
『シ、システム……乗ッ取リ……。私ノ、私ノ宇宙ガ……ただの……人間ニ…………』
「買収完了だ、創造主(元社長)殿。お前の会社は、今日から俺のモノだ」
信長が不敵に笑う。
パァァァァァンッ!!
黒い球体ジェネシスは、大日本のシステムに完全に上書きされ、その存在を維持できなくなり、黄金の粒子となって四散し、消滅した。
* * *
『――システム・アナウンス。筆頭株主の変更を確認。これより、全多元宇宙の最高経営責任者(CEO)を、【オダ・ノブナガ】様に設定します』
全次元に響き渡る無機質な声と共に、空間に無数に浮かんでいた宇宙のデータ・ホログラムが、一斉に大日本の家紋(織田木瓜)へと変化した。
「ガハハハハハ! 終わった! 終わったぜェ! 神様の本社、完全制圧だ!」
権六が戦斧を天に掲げて吠え、一千万の天魔艦隊から爆発的な勝鬨が上がった。
「ふぅ……。なんとか、計算通りですね。これで文字通り、このマルチバースのすべての星、すべての命、すべての資源が、我々の管理下に置かれました」
佐吉が、完全に焼き切れた魔導盤を捨てながら、安堵の息を吐く。
「へっへへへ! 宇宙規模の不労所得! あっしらは永遠の富を手に入れたんでさぁ!」
猿が札束(次元晶)の雨を降らせて狂喜乱舞している。
信長は、黒王の頭上に新たに出現した『真の玉座』に深く腰を下ろし、葉巻(魔の森のハーブ)に火をつけた。
「大儀であった、お前ら。これで、この箱庭の天下布武は完了だ」
「御館様。……おめでとうございます。これで、御館様の御前に立ち塞がる者は、もう誰もおりませぬ」
蘭丸が、血振るいをして刀を納め、感無量の面持ちで平伏する。
だが。
信長は紫煙をゆっくりと吐き出しながら、玉座のコンソール(かつてジェネシスが使っていたもの)を操作した。
「……蘭丸。誰もいないと思うか?」
「え?」
信長がコンソールを叩くと、白紙の空間に『巨大な星系図』のようなものが投影された。
しかしそれは、彼らがたった今征服した「多元宇宙」の図ではない。
彼らの多元宇宙すらも、たった一つの『小さな細胞』に過ぎないほど、果てしなく広がる……超次元の大渦。
無数のマルチバースが連なる、真の無限領域――【オムニバース(大宇宙市場)】のマップであった。
「フハ、フハハハハハ!!!」
信長は、その絶望的なまでに広大なマップを見て、最高に楽しそうに大笑いした。
「素晴らしい! 神様をぶち殺して会社を乗っ取ってみれば、ここすらも巨大な市場の中の、ちっぽけな『零細企業』に過ぎなかったというわけだ!」
信長は玉座から立ち上がり、マントを翻して全軍を見渡した。
「休んでいる暇はないぞ、お前ら! 俺たちの会社(大日本)は、まだ上場したばかりだ! この果てしない【大宇宙市場】のすべてのシェアを独占し、すべての次元に俺の永楽銭をバラ撒いてやる!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
神を殺し、宇宙の玉座を奪い取ったことで、ついに「真の無限の戦い」へと足を踏み入れた第六天魔王。
織田信長と大日本の最強の家臣団の野望は、とどまることを知らず、永遠に広がるオムニバースの海へと、さらなる侵略の帆を上げるのであった。
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