第34話:多次元・帝都アヅチと、本社の特務監査官(オーディター)
第34話:多次元・帝都アヅチと、本社の特務監査官
神々の管理領域であった純白と黄金の絶対空間は、今や見る影もなく「大日本」の極彩色に染め上げられていた。
無機質だったクリスタルの床には、鈍色に輝く巨大な魔力パイプラインが縦横無尽に張り巡らされ、その合間を無数の歯車天使(重工業宇宙の機械)と、下級悪魔(混沌宇宙の労働者)たちが慌ただしく飛び交っている。
空間の中心には、絶対管理者オメガから奪い取った光の玉座をさらに巨大に、かつ禍々しく改装した『多次元・帝都アヅチ』の黄金の天主がそびえ立っていた。
「へっへへへ……! 笑いが止まらねェ! この数万のローカル宇宙のすべての資源、エネルギー、そして命の数! 全部あっしら『大日本商会』の独占市場でさぁ!」
天主の下層に設けられた巨大な大蔵省(戦略室)で、猿ことトックス(猿獣人)は、星の数ほど並んだホログラム帳簿を見上げながら、よだれを垂らして歓喜のステップを踏んでいた。
「浮かれるのは構いませんが、手と頭は動かし続けなさい、猿殿」
その隣で、佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が、目にも留まらぬ速度で数十台の魔導盤を同時に叩き続けている。
「現在、我々の支配下にある三万二千の実験宇宙のシステムを、すべて『永楽銭フォーマット』に書き換える作業が進行中です。カオス魔力プラントの出力も、さらに四百パーセント引き上げてください。次の戦い(本社へのカチコミ)には、一千万隻の艦隊では到底足りませんからね」
「ヒィィッ! 相変わらずのブラック労働! だが、金(永楽銭)の桁が宇宙規模で増えていくのを見るのは、麻薬よりキクぜェ!」
文官たちが狂ったような熱量で多次元の事務処理をこなしている頃、黄金の天主の最上階。
織田信長は、漆黒のマントを翻し、バルコニーから己の新たな「庭」を見下ろしていた。
「フン……。随分と賑やかになったものだ。純白の無菌室より、やはりこの泥臭い熱気こそが俺の天下布武に相応しい」
「御館様。三つの宇宙の特性を融合させた新兵装、全軍への配備が完了いたしました」
信長の背後で、森蘭丸が恭しく片膝をついて報告する。
「うむ。五郎左と金柑の仕事ぶりはどうだ?」
「はい。次元晶とカオス・エネルギーを融合させた『絶望次元装甲』。そして、魔獣たちの闘気を増幅させる『機械化魔導鞍』。武功派の皆様は、今すぐ暴れたくてウズウズしているご様子にございます」
その時であった。
帝都アヅチの上空――純白のクリスタルの天井が、突如として『黒いノイズ』に侵食され始めた。
『――【緊急警告】。ローカル・セクター07にて、深刻な論理崩壊を検知。絶対管理者オメガの消滅を確認』
空間全体を震わせる、オメガの時よりもさらに高次元の、絶対的な冷たさを持ったシステム音声。
『――これより、セントラル・ハブ(上位創造主領域)直属、【多次元特務監査局】が介入する。当該セクターを物理法則、概念、時間軸を含めて【完全フォーマット】する』
黒いノイズの裂け目から、無数の「巨大な目玉」と「幾何学の輪」が組み合わさったような、聖書に記される天使の原典とも呼ぶべき、名状しがたい超高次元の存在が数万体、滝のように溢れ出してきた。
その中心には、ひときわ巨大な「四面体」の姿をした特務監査官――『シグマ』が鎮座している。
「ほう。どうやら『本社』のお偉方から、直々に監査が入りに来たようだな」
信長は、全く動じることなく、腹の底から楽しそうに笑みを深めた。
『――観測外のウイルス(特異点・オダノブナガ)よ。貴様らの増殖は、システムの許容限界を超えた。抗体による駆除ではなく、水槽そのものを熱湯で消毒する。存在の痕跡すら残さず消え去れ』
特務監査官シグマが幾何学の身体を回転させると、帝都アヅチの空間そのものが「無」へと還元される【消去の光】が、全方位から放射された。
絶対管理者オメガの攻撃すら凌駕する、真の創造主たちの「削除コマンド」。
しかし。
「フフ……。監査官殿。我々大日本の『セキュリティ・ソフト』は、すでに最新版に更新済みですよ」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、銀の杖を天に掲げた。
「『美しき拒絶の鏡面、次元の理を曲げて咲き誇れ』!」
帝都アヅチ全域を覆うように、極彩色のオーロラと漆黒の悪魔の魔力が混ざり合った、超弩級の【多重・絶望次元シールド】が展開された。
消去の光がシールドに激突する。
だが、光はアヅチを消し去るどころか、シールドの表面でグニャリと屈折し、逆に監査官たちの群れへと反射されていった。
『――ナ、何ッ!? 本部ノ消去コマンドガ、弾カレタ!? タダノ魔力障壁デハナイ、コレハ……強烈ナ『拒絶の意志』!』
シグマの四面体が驚愕に震える。
「さあ、武将ども! 本社の連中に、大日本商会の『極悪な歓迎会』を開いてやれ!」
信長の号令が響き渡った。
「「「オオオオオオオオオオッッ!!!」」」
待ち構えていた大日本の武功派たちが、一斉に天に向かって牙を剥いた。
その姿は、かつてのものとは次元が違っていた。
「ヒャッハー! この『機械化魔導鞍』、最高にクレイジーだぜェ!」
市松と虎が跨る宇宙亀の甲羅には、重工業宇宙の技術で造られた超巨大なプラズマ・ブースターが突き刺さっており、亀の鈍重な動きを神速の機動兵器へと変異させていた。
「オラァァァッ!! 本社の監査官だろうが何だろうが、俺の斧で三枚下ろしだァ!」
権六が操る超巨大竜は、そのすべての口に「次元晶のガトリング砲」を咥え、猛毒の息と共に次元を削り取る弾幕を全方位に乱れ撃つ。
『――エラー。対象ノ攻撃力ガ、物理法則ノ上限ヲ突破。概念防御、貫通サレマス……ッ!』
名状しがたい幾何学の天使たちが、大日本の『機械×魔獣×悪魔×武将』という理不尽すぎるキメラ軍団の暴力の前に、次々と粉砕され、悲鳴を上げて消滅していく。
「馬鹿の一つ覚えみたいに『消去、消去』ってウルセェんだよ!」
又左が、雷エイの電撃を自身の長槍に極限まで纏わせ、空間を縮地してシグマの懐へと潜り込んだ。
「俺たちは生きて、戦って、ここに存在してんだ! 机の上の計算式で、俺たちの命を消せると思うなァッ!」
ズバァァァァァァァァァンッ!!
又左の槍撃が、特務監査官シグマの四面体の外殻を深々と抉り取った。
『ガ、アァァァァァッ!! 下等生物ドモガ、我々『監査局』ニ、牙ヲ剥クナド……!』
「その監査とやら、隨分と杜撰だな」
シグマの頭上。
いつの間にか、黄金の光を放ちながら、漆黒のマントを揺らす織田信長が跳躍していた。
その手には、愛用の魔力火縄銃ではなく、大悪魔王のコアと次元晶を圧縮して造り上げた『真・魔王軍配』が握られている。
「本社に引きこもって数字だけを見ているから、現場の『熱量』を見誤るのだ」
信長は、軍配をシグマの頂点に向けて真っ直ぐに突き下ろした。
「俺は、他人の作った会社のルールに従う気はない。俺がルールだ。俺が理だ!」
ゴオォォォォォォォォォォォォォッ!!!
信長の【第六天魔王の覇気】が、軍配を通じてシグマの幾何学の身体へと直接叩き込まれた。
それは、概念や物理法則を超えた、純度百パーセントの「支配の意思」。
『――システム・崩壊。論理回路、焼却……! ア、アルファ様……オメガ様……特異点ハ、既ニ、我々ノ手ニオエヌ、次元ノ……』
特務監査官シグマは、信長の圧倒的な覇気の前に己の存在概念を維持できなくなり、巨大な四面体の身体をパラパラと崩壊させ、完全に霧散した。
数万の監査官の群れも、親機を失ったことで一斉に動作を停止し、武功派の猛将たちによって文字通り「塵一つ残さず」スクラップにされた。
* * *
「フハハハハハ! 他愛もない! 本社のエリートとやらも、大日本の現場の勢いには手も足も出んようだな!」
信長は、監査官の残骸が散らばるクリスタルの空から、悠然と天主のバルコニーへと舞い戻った。
「御館様! やりましたぜ!」
戦略室から、猿が興奮冷めやらぬ声で通信を入れてくる。
「監査官の野郎が死に際に残した通信ログから、『セントラル・ハブ(本社)』への正確な次元座標の逆探知に成功しやした! これでもう、いつでも相手のド真ん中にカチ込めますぜ!」
「でかしたぞ、猿、佐吉!」
信長は、バルコニーから全軍に向けて、高らかに軍配を掲げた。
「武将ども! 文官ども! 聞け!」
全次元に響き渡る、覇王の号令。
「監査局は潰した! 次はいよいよ、この理不尽な水槽を造り出した神々(取締役)どもの首を物理的に刎ね飛ばす時だ!」
信長の瞳に、これまでにないほど狂暴で、純粋な野心の炎が燃え上がる。
「全艦隊、全魔獣、全プラント、出力を限界突破させろ! 大日本・多元宇宙帝国、これより『セントラル・ハブ』への最終侵攻を開始する!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」
神の管理領域すらも自らの城とし、ついに「創造主の本拠地」へと牙を剥いた第六天魔王。
無数の宇宙を巻き込んだ、神と人間の意地と野心が激突する真の最終戦争の火蓋が、今ここに切って落とされたのである。
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