第32話:神々の管理領域(マネジメント・フロア)と、全次元統合艦隊の進撃
第32話:神々の管理領域と、全次元統合艦隊の進撃
大日本・多元宇宙帝国の絶対拠点『ゼロポイント・アヅチ』。
純白の虚無空間(次元の海)に浮かぶその巨大な浮遊星砦は、今や一つの宇宙そのものと言っても過言ではない、圧倒的で禍々しい威容を放っていた。
アヅチ・ノヴァの背後に連結された【第666実験宇宙(混沌)】の大魔力プラントからは、悪魔たちが二十四時間体制で生み出す莫大な『カオス・エネルギー』が極太の光のパイプを通じて供給されている。
その無限の魔力を受けて稼働するのは、【第775実験宇宙(重工業)】の自動工場群が吐き出した一千万隻の『次元晶・天魔艦隊』。
そして艦隊の合間を縫うように陣形を組むのは、【第802実験宇宙(野生)】から引き連れた星サイズの宇宙魔獣たちを駆る『大日本・多元宇宙騎馬隊』の猛将たちであった。
「……計算、完了しました。カオス・エネルギーの完全な魔力変換、並びに全艦隊および全魔獣への次元晶コーティング、異常なし。いつでも全出力での次元跳躍が可能です」
戦略室のメインコンソールで、佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が、三つの宇宙のシステムを完全に統合した魔導盤から顔を上げ、冷徹な声で報告した。
「ふぅ……。全く、美しさとは無縁の継ぎ接ぎ(キメラ)軍団ですが、これほどの質量とエネルギーとなれば、もはや『究極の暴力美』と言わざるを得ませんね」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、銀の杖を弄びながら、アヅチ・ノヴァの周囲に渦巻く極彩色の次元オーラを見上げて微笑む。
「へっへへへ! あっしらの大日本商会の『敵対的買収(M&A)』の集大成ですぜ! さあ、いよいよ神様どもの本社の金庫を破る時が来やしたね!」
猿ことトックス(猿獣人)が、札束ならぬ次元晶の欠片をジャラジャラと鳴らしながら下卑た笑いを浮かべる。
「武将ども! 文官ども! 準備はいいな!」
アヅチ・ノヴァの天主を頭上に載せた、数千キロの巨体を誇る星喰らいの獣王『黒王』。その巨大な鼻先から、織田信長の声が次元の海全域に響き渡った。
「「「おおおおおおおッッ!!!」」」
一千万の艦隊、数万の魔獣、そして億を超える悪魔たちの歓声が、物理法則のない次元の海を激しく震わせる。
「これより、俺たち『バグ』が、水槽の外側でふんぞり返っている観測者どものメインサーバーを物理的に叩き割る! 五郎左!!」
「おうよォ、御館様! 待たせやしたぜ!」
ドワーフの鍛冶長・五郎左が、アヅチ・ノヴァの先端に新造された、惑星サイズにも及ぶ超弩級の砲身――『真・次元穿孔砲』の安全装置を解除した。
「三つの宇宙のエネルギーを全部乗せだ! 天井だろうが神の壁だろうが、木っ端微塵にブチ抜いてやらァ!!」
「撃てェェェェェッ!!」
信長の軍配が、頭上の『見えざる天井』に向けて振り下ろされた。
ズドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
悪魔の魔力、機械の演算、そして大日本の理不尽な闘気が一つに圧縮された極大の閃光が、純白の虚無空間の「真上」へと放たれた。
光の柱が虚空に激突した瞬間、空間そのものがステンドグラスのようにパリンッ!とけたたましい音を立てて砕け散った。
水槽の陳列棚のさらに上。観測者たちが座す【管理領域】への扉が、暴力によって無理矢理こじ開けられたのである。
「全軍、突撃ィィ!! 神の玉座を俺の『永楽銭』で買い取ってやれ!」
黒王の咆哮と共に、大日本・全次元統合艦隊は、砕け散った次元の天井の奥へと、雪崩を打って突入していった。
* * *
神々の管理領域
次元の壁を突破した信長たちの眼前に広がったのは、これまで見てきたどの宇宙とも異なる、異常なまでに「整然とした空間」であった。
果てしなく続く、純白と黄金の幾何学的なクリスタルの床。
空中には、無数の「実験宇宙(水槽)」の内部データを映し出すホログラムのウインドウが、図書館の本棚のように億万の単位で整然と並んでいる。
空気は無菌室のように澄み切り、ノイズの一つすら存在しない。まさに、絶対的な法則と計算だけで構築された、神々の管理領域であった。
「……チッ。綺麗に掃除されすぎてて、逆に吐き気がするぜ」
宇宙竜に跨った権六が、居心地悪そうに鼻を鳴らす。
「俺たちの泥と煤煙で、真っ黒に汚してやろうぜ!」
雷エイを操る又左が獰猛に笑う。
侵入者の登場に対し、完璧な静寂を保っていた管理領域のシステムが、けたたましいエラー音を鳴らし始めた。
『――【致命的エラー】。管理領域への不正アクセスを検知。ファイアウォールの物理的破壊を確認。これより、高位管理官による強制排除を実行する』
純白のクリスタルの床が隆起し、光の粒子が集束して、数万体の「巨大な天使」のような存在が顕現した。
かつてゼロポイント・アヅチで遭遇した「端末」の上位互換。六枚の幾何学的な光の翼を持ち、手には次元を切り裂く『裁定の光剣』を握る、システム防衛の最高戦力。
「クックッ……。ようやく、神様の手足らしい連中が出てきましたね」
劇薬の軍師・官兵衛が杖を突く。
「彼らの持つ光剣は、対象の『存在確率』をゼロにする概念兵器。触れられれば、一千万の艦隊といえど瞬時に消去されます」
「ならば、触れられる前に物理でスクラップにするまでだ!」
無傷の狂戦士・平八郎が、巨大な宇宙亀の甲羅の上から、愛用の轟槌を天に向かって掲げた。
「行くぞ武功派! 機械どもに、大日本の『命の熱さ』を叩き込んでやれ!」
「「「オオオオオオオオッッ!!」」」
大日本・多元宇宙騎馬隊が、一斉に高位管理官の群れへと襲い掛かった。
セラフィムが裁定の光剣を振るい、空間の概念ごと魔獣たちを消去しようとする。
しかし。
「遅ェよポンコツ!!」
又左の操る雷エイが、光剣の軌道を神速の三次元機動で回避。そのまま又左の長槍が、セラフィムの光の頭部を正確に貫き、次元晶の力で概念ごと粉砕した。
「オラァァァッ! まとめて消え失せろ!」
権六のヒドラが猛毒のブレスを吐き出し、セラフィムの陣形を崩す。そこに市松と虎が突っ込み、次元晶の斧と槍で、神の兵器たちを次々と物理的なブロックの破片へと解体していく。
「ヒャッハー! 神様の兵器だろうが、俺たちの闘気の前じゃただのガラス細工だぜェ!」
野生宇宙で鍛え上げられた武功派の生命力と、重工業宇宙の技術(次元晶)、そして混沌宇宙の魔力。すべての法則を無視した『究極のキメラ部隊』の前に、完璧な計算で動く高位管理官たちは、完全に処理落ちを起こし、次々と破壊されていった。
絶対管理者の顕現
「御館様! 敵防衛ライン、突破! 管理領域の中心部へ到達します!」
佐吉の報告と共に、全軍がクリスタルの空間の最深部へと進出する。
そこには、これまで見てきたどのホログラム・ウインドウよりも巨大な、すべての宇宙のデータを統括する『光の玉座』が存在していた。
そしてその玉座に座していたのは、数千メートルの巨体を持つ、黄金と純白の光で構成された一体の神。
『――不愉快だ。水槽の中の微生物が、ガラスを割って私の足元を汚すとは』
その存在が声を発した瞬間、管理領域全体の時間が「ピタリ」と停止したかのような錯覚に陥った。
一千万の艦隊のエンジン音が消え、魔獣たちの動きが泥沼に沈んだように鈍くなる。
「……こいつは、ただのシステムじゃねェな」
虎が冷や汗を流して槍を握り直す。
『我は観測者の筆頭・絶対管理者【オメガ】。全多元宇宙の物理法則、時間、生と死をプログラミングした創造主である』
オメガが指先を軽く振ると、アヅチ・ノヴァを囲んでいた天魔艦隊のうち、前衛の約十万隻が「音もなく、光すら発せず」、一瞬にして消滅した。
爆発ではなく、最初からそこに存在しなかったかのような、完璧なる『消去』。
「なッ……!? 十万隻の艦隊が、指先一つで!?」
猿が腰を抜かして床にへたり込む。
『次元晶による抵抗は計算済みだ。だが、私は【次元の管理者】。貴様らがどれほど他宇宙の資源をかき集めようと、私がこの領域のソースコードを一行書き換えるだけで、貴様らの存在はデリートされる』
絶対管理者オメガは、冷酷な光の眼差しを、黒王の頭上に立つ織田信長へと向けた。
『特異点・オダノブナガ。貴様の強烈な自我には辟易した。これ以上の保存は不要。今この瞬間をもって、貴様と、貴様の帝国を、全次元から完全に抹消する』
オメガの背後に、全宇宙のエネルギーを圧縮したような、数万の「絶対消去の光弾」が出現し、信長へと向けられた。
一発でも被弾すれば、大日本帝国ごと概念が消滅する絶望的な状況。
しかし。
織田信長は、その絶対的な神の威圧を前にして――腹の底から、愉快でたまらないというように大笑いした。
「フハ、フハハハハハハハハハ!!!」
『……何が可笑しい、バグめ』
「可笑しいに決まっているだろう! お前たち『観測者』とやらは、さぞ高尚で絶対的な存在かと思っていたが……いざ自分の玉座に火の粉が降りかかれば、やってることはパソコンのキーボードを叩いて【削除】ボタンを押すだけの、ただの『根暗なシステム管理者』ではないか!」
信長は、黒王の頭上から一歩前へ踏み出し、漆黒のマントを大きく翻した。
「ソースコードを書き換えるだと? 削除ボタンを押すだと? ……やってみろ。俺たち大日本が、そんな安っぽい机上の計算で消せるものかどうか!」
信長が軍配を空に掲げた瞬間。
彼の影から、一筋の白い閃光が、時間を停止させるオメガの重圧を完全に無視して跳躍した。
「御館様の御前に、何人たりとも玉座でふんぞり返ることは許さぬッ!」
絶対的な忠誠の刃、森蘭丸である。
『――愚かな。私の絶対領域内において、物理的な移動など』
オメガが蘭丸の存在を「削除」しようとコードを走らせた。
しかし、蘭丸の姿は消えなかった。
「消去できない!? なぜだ!?」
オメガの光の顔面が、初めて驚愕に歪む。
「フフ……。管理領域の法則を書き換えられるのが、あなた方だけだと思わないことです」
後方で、佐吉と金柑が、並べられた数十台の魔導盤から煙を上げながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「第775宇宙と第666宇宙の演算能力をフル稼働させ、この管理領域のソースコードに、大日本商会の『強制買収ウイルス』を叩き込ませていただきました。今この空間の【削除権限】は、五分五分です!」
『貴様ら……神のシステムをハッキングしたとでも言うのか!?』
「神だか何だか知らんが、セキュリティの甘い三流企業だ!」
信長が火縄銃を構え、オメガの眉間を正確に狙い定めた。
「兰丸! その腐りきった神の頭を、物理的にカチ割ってこい!!」
「御意!!」
蘭丸の愛刀『天叢雲』が、次元晶の輝きと、主君への絶対的な忠誠心の炎を纏って、数千メートルの神の巨体へと肉薄する。
神と魔王。次元の頂点を決する真の最終戦争が、今、管理領域のクリスタルの空で激突した。
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