第26話:第774実験宇宙の終焉と、次元穿孔(ディメンション・カノン)の設計図
第26話:第774実験宇宙の終焉と、次元穿孔の設計図
銀河聖教連盟の総本山、聖王星サンクチュアリの完全陥落。
それは、数千年にわたり全銀河を縛り付けていた旧き神の時代の終焉であり、同時に、第六天魔王・織田信長を頂点とする『大日本・星間帝国』の誕生を意味していた。
陥落からわずか数日で、サンクチュアリの白亜の議事堂跡地は、大日本の規格外の技術力によって、漆黒と黄金に彩られた壮大な『星間天主』へと作り変えられていた。
「へっへへへ……! 笑いが、笑いが止まらねェでさぁ!」
新築されたばかりの広大な宝物庫の中で、猿ことトックス(猿獣人)は、山のように積まれた純金、希少魔石、そして銀河全土から集約された電子帳簿(魔導データドライブ)の海を泳いでいた。
「銀河中の教会が隠し持っていた裏金、それにクリソールを足掛かりにした永楽銭の爆発的普及! 御館様、あっしら今、文字通り『星を買い占める』ほどの金持ちですぜ!」
「フハハ! 猿よ、それは俺の財布だ。せいぜい大事に管理しろ。一銭でも使途不明金を出せば、貴様の首が飛ぶと思え」
玉座で葉巻を燻らせながら、信長は上機嫌で笑った。
「ヒィッ! わ、分かってやすよ! 大日本の商会は宇宙一のホワイト労働・超高収益企業! 不正は一切いたしやせん!」
猿が慌てて土下座する横で、無表情の文官トップ、佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が冷ややかに算盤を弾いた。
「喜ぶのはまだ早すぎます、猿殿。銀河全土のインフラ整備、旧連盟の残党処理、および新規に帰順した数万の惑星への『大日本法』の適用。事務処理の計算だけで、私の魔導盤が三個焼き切れました。早急にサカイウスの文官を数千人単位で宇宙へ召喚してください」
「ひえぇぇ……金はあっても休みはねェのか!」
武力で制圧し、経済で縛り、法で統治する。
信長の天下布武は、宇宙規模になっても一切の隙を見せなかった。
だが、信長の視線はすでに、この銀河の統治などという「些事」を通り越し、さらに遥か遠く――見えざる上位次元へと向けられていた。
* * *
「……御館様。あの教皇の玉座の裏にあった『魔導端末』の解析、初期段階が完了しました」
玉座の前に進み出たのは、美しきハイエルフの金柑ことルーギスであった。彼の銀の杖の先から、空中に複雑な多次元ホログラムが投影される。
「この宇宙は、教皇が発信しようとしていた通り『第774実験宇宙』。どうやら我々が存在するこの空間は、上位の次元に存在する『観測者』と呼ばれる者たちが、マナの生成効率をテストするために造り出した、無数の培養槽の一つに過ぎないようです」
金柑の言葉に、居並ぶ武功派の面々が顔を見合わせた。
「おいおい、金柑のダンナ。じゃあなんだ、俺たちはデカい水槽の中で飼われてる魚だってのか?」
市松が大斧を肩に担ぎながら、不満げに鼻を鳴らす。
「その通りです。そして、魔王というシステムを破壊し、管理機関である聖教連盟を全滅させた我々『大日本』は、観測者から見れば、水槽の中の生態系を狂わせる『致死性のウイルス』……バグに他なりません」
佐吉がホログラムのデータを切り替える。
「教皇の死と同時に、この宇宙の『外側』から、異常な質量のエネルギー波が接近しているのを感知しました。計算上、それはおよそ十日後にこの銀河を包み込みます」
「なんだそりゃ? 新しい敵の艦隊か?」
権六が牙を剥く。
「いえ、艦隊などの物理的なものではありません」
影から現れた劇薬の軍師・官兵衛が、杖を突いて不敵に笑う。
「それは、水槽の水を丸ごと入れ替えるための『初期化プログラム(リセット・フラッド)』。星ごと、いや、この宇宙ごと次元の彼方へ消し去る、観測者の『お掃除機能』ですよ」
宇宙そのものの消去。
その絶望的な報告を聞いても、信長はただ一人、腹の底から愉快そうに笑い声を上げた。
「フハハハハハ! 素晴らしい! 神と名乗る坊主どもを掃除したら、今度は宇宙の外側から俺たちを掃除しに来るというわけか! だが、ただ待って消される俺ではないぞ!」
信長は玉座から立ち上がり、マントを翻した。
「壁があるなら、ブチ破るまで! 水槽の水を抜かれる前に、水槽のガラスを叩き割り、観測者とやらのドタマに俺の火縄銃の鉛玉をぶち込んでやる! 五郎左!!」
「おうよォ!! 待ってましたぜ御館様!」
宝物庫の奥から、ドカドカと重い足音を立ててドワーフの鍛冶長・五郎左が現れた。
「宇宙戦艦(天魔)の量産で肩が温まってたところだ! 次元の壁を破る『最強の筒』、もう図面は佐吉と金柑の坊主から受け取ってまさぁ!」
「佐吉、理論上は可能か?」
「はい。この宇宙のすべてのマナを束ねても、次元の壁を『破壊』することは不可能です。しかし、針の穴を通すように、一点にエネルギーを超極限圧縮すれば、次元の境界に一瞬だけ『ひび割れ(ディメンション・ホール)』を生じさせることは可能。その穴に、アヅチ・ノヴァを楔として突入させます」
それは、狂気の沙汰であった。
次元のひび割れに、数十キロに及ぶ浮遊星砦ごと突っ込む。一歩間違えれば、都市ごと四次元の彼方に引き裂かれ、永遠の虚無を彷徨うことになる。
「フフ……美しく、そしてゾクゾクするほど危険な賭けですね。アヅチ・ノヴァの星間防御結界を、次元圧に耐えうる『多重次元断層シールド』へと即座にアップグレードしましょう」
金柑が、狂気をはらんだ笑みを浮かべて銀の杖を振るう。
「猿! 五郎左の造る『次元穿孔砲』に要る資材、銀河中からありったけかき集めろ! 金はいくらでも使っていい!」
「ひぇぇッ! 了解でさぁ! 宇宙のブラックマーケットまで総動員して、明日までに揃えてみせやす!」
「武将ども! 観測者の『お掃除プログラム』が来る前に、俺たちはこの宇宙から脱出する! だが、ただ逃げるのではない。これは、次元の彼方への『侵略の開始』だ!」
「「「おおおおおおおッッ!!!」」」
* * *
そして、十日後。
佐吉の計算通り、第774実験宇宙の『外殻』にあたる暗黒の虚空から、すべてを無に還す純白のエネルギー波――『初期化プログラム』が、音もなく、しかし光の速さで迫ってきた。
星々が、光が、空間そのものが、白い波に飲まれて「最初から存在しなかった」かのように消滅していく。
「御館様! 初期化の波、到達まであと百二十秒! このサンクチュアリ宙域も完全に消去されます!」
魔導盤を叩く佐吉の手が、かつてないほどの速度で動いている。
「慌てるな。ギリギリまで引きつけろ」
アヅチ・ノヴァの黄金の天主。信長は、バルコニーの最前列で軍配を握りしめ、迫り来る「世界の終わり」を不敵な目で見据えていた。
傍らには、森蘭丸が静かに愛刀に手を添え、主君の影として完璧に控えている。
アヅチ・ノヴァの先端には、十日間不眠不休で五郎左が組み上げた、星のコア(天使の心臓・極)の出力を千パーセントまで増幅させる異形の極大砲――『次元穿孔砲』が接続されていた。
「波の到達まで、六十秒……三十秒……十秒!」
佐吉の声が響く。
純白の波が、アヅチ・ノヴァの鼻先まで迫ったその瞬間。
「今だ! 撃ち抜けェェェッ!!」
信長の軍配が振り下ろされた。
――ピシャァァァァァァァンッ!!!!
音ではない。宇宙の法則そのものが悲鳴を上げるような、次元のきしむ音。
次元穿孔砲から放たれた極限圧縮の魔力光が、迫り来る初期化の波のド真ん中に着弾し、波そのものをドリルように抉り、さらにその奥にある「見えない宇宙の壁」へと突き刺さった。
パキ、パキパキパキッ……!
漆黒の宇宙空間に、巨大なガラスのひび割れのような『亀裂』が走る。
そこから覗くのは、眩いばかりの極彩色の光が渦巻く、未知の次元の通り道。
「穴が開いたぜェ! 御館様!」
五郎左が歓喜の声を上げる。
「金柑! シールド全開! アヅチ・ノヴァ、全速前進! 初期化の波に飲まれる前に、次元の彼方へ跳べッ!!」
「承知いたしました! 我が究極の美学、次元の圧力など跳ね除けてご覧に入れます!」
ゴオォォォォォォォンッ!!
アヅチ・ノヴァの主機関が火を噴き、巨大な浮遊星砦は、初期化の白い波が背後を飲み込むほんの数秒前、開かれた『次元の亀裂』の中へと、間一髪で飛び込んだ。
直後、第774実験宇宙は完全に白一色に染まり、初期化された。
しかし、その水槽の中に発生した最凶のウイルス――第六天魔王と大日本の家臣団は、すでにその枠組みを完全にブチ破り、外の世界へと解き放たれていたのである。
* * *
極彩色の光が流れる、次元のトンネル。
多重次元断層シールドが激しく火花を散らす中、信長は天主のバルコニーから、これから向かう未知の領域を見据えて、狂暴に笑った。
「さあ、見に行くぞ! 俺たちを虫ケラのように見下ろしていた『観測者』とやらの間抜けなツラをな! 多元宇宙の天下布武、ここからが本番だ!」
異世界転生から星の海へ、そして次元の彼方へ。
神すらも恐れる信長の飽くなき野望は、ついに究極の領域へと突入していく。
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