第25話:聖王星陥落と、白銀の絶刃(ぜつじん)
第25話:聖王星陥落と、白銀の絶刃
ズドガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
アヅチ・ノヴァの主砲たる『魔導電磁超砲』から放たれた極太の閃光が、純白の天体・聖王星サンクチュアリの地表を無慈悲に抉り取った。
数千年にわたり、ただの一度も外敵の侵入を許さなかった神聖なる最高評議会議事堂。その白亜のドーム屋根は一瞬にして蒸発し、星の内部の深層へと続く、直径数百メートルに及ぶ巨大な『風穴』が穿たれた。
「ヒャッハー! 御館様の特大の花火だァ! 道は開いたぜェ!」
宇宙空間に待機していた市松が、魔導スラスターを全開にして吠える。
「行くぞ若造ども! 一番槍は俺たち武功派の特権だ! 坊主どもを一人残らず叩き潰せ!」
権六が巨大な戦斧を掲げ、五百隻の天魔艦隊から無数の強襲部隊がカタパルトから射出された。
だが、その血の気の多い猛将たちすらも置き去りにし、一筋の青白い流星となって風穴へと突入していく影があった。
主君の命を受け、教皇の首を狙う一の太刀――森蘭丸である。
「御館様の創る新世界に、旧き腐敗は不要……断ち切る!」
* * *
最高評議会議事堂の最深部。
先ほどの主砲の衝撃で崩落した瓦礫の山の中、教皇グレゴリウスは、頭から血を流しながら這い蹲っていた。
「お、おのれ……おのれぇぇッ! 私を、この神の代行者である私を、ただの虫ケラのように……!」
周囲には、下敷きになって絶命した司教たちの死体が転がっている。
「そこまでだ、教皇とやら」
土煙を裂いて、静かに、しかし絶対的な死の気配を纏って蘭丸が降り立った。
その背後には、権六、又左、虎、市松、そして無傷の平八郎が次々と着地し、教皇の逃げ道を完全に塞ぐ。
「観念しろ、タヌキジジイ。てめェの星間詐欺ビジネスは今日で完全倒産だ」
虎が十文字槍を肩に担いで鼻で笑った。
「ふ、ふざけるなァァァッ!」
グレゴリウスは、血走った目で懐から一つの禍々しい「黒い結晶」を取り出した。それは、歴代の教皇たちが万が一の事態に備え、密かに蓄積してきた『負の信仰心(絶望のマナ)』の塊であった。
「原住民どもが! 思い上がるな! 神の代行者たる私には、究極の救済が約束されているのだ!」
教皇がその結晶を自らの胸に突き立てる。
次の瞬間、彼の肉体が異様な音を立てて膨張し始めた。
「な、なんだァ!?」
市松が顔をしかめる。
ゴキャッ、メチャァッ……!
グレゴリウスの背中を突き破り、十二枚の巨大な「光の翼」が生え出た。しかしそれは美しい天使の姿ではなく、無数の人間の顔や腕がボコボコと浮かび上がる、肉塊と魔力が融合したおぞましい異形の『狂神(熾天使)』の姿であった。
『ォォォォォォォ……我ハ、神ナリ……! スベテノ罪ヲ、浄化セン!』
何十メートルにも巨大化した狂神グレゴリウスから、空間そのものを歪めるほどの圧倒的な重力波と、致死量の光のレーザーが乱れ飛んだ。
「チィッ、往生際が悪いぜ!」
平八郎が轟槌を盾にし、権六と又左が迫り来る光の触手を斬り払う。
だが、狂神の放つ熱量は凄まじく、大日本の武将たちすらもじりじりと後退を余儀なくされた。
「……見苦しい」
しかし、ただ一人。蘭丸だけは、そのおぞましい光の嵐の中を、静かに、そして真っ直ぐに進み出ていた。
彼の瞳には、恐怖も驚きもない。ただ、絶対的な主君への忠誠心だけが、青白い炎となって燃え上がっていた。
『死ネェェェッ! 神ノ威光ニ焼カレヨォォ!』
狂神グレゴリウスが、十二枚の翼から極大のレーザーを蘭丸の一点に集中させる。星の地殻すらも貫くほどの熱線。
蘭丸は、愛刀『天叢雲』をゆっくりと中段に構えた。
「貴様の放つ光は、他者の命を啜って光るだけの『偽物の光』だ」
ヴィィィィンッ……!!
蘭丸の刀身から、狂神の光を真っ向から喰い破るような、超高密度の青白い魔力の炎が立ち上った。
それは、本能寺で主君を守り抜くために彼が身につけ、信長という真の太陽の傍らで鍛え上げられた、純粋にして究極の『熱』。
「我が主君の創る未来は、自らの足で歩む者たちの光で満ちている! 偽りの神よ、塵に還れ!」
「奥義――『炎刃・覇王紅蓮断』!!」
蘭丸の姿がブレた。
彼が踏み込んだ瞬間、足元の超高硬度の岩盤が爆発するように砕け散り、神速を超えた『光の一閃』が狂神の懐へと突き刺さる。
極大のレーザーの嵐を真っ二つに斬り裂き、蘭丸の刃は、狂神グレゴリウスの巨大な胴体を、十二枚の翼ごと斜めに両断した。
『ガ、ァァァァ…………!? バ、カ、ナ……神ノ、私ガ……』
数十メートルに及ぶ肉塊が、斜めにズレていく。
超高温の魔力炎によって切断面から蒸発が始まり、狂神は断末魔の叫びを上げる間もなく、跡形もなく燃え尽きて光の塵へと消え去った。
残心をとる蘭丸の背後で、チリン、と澄んだ音がした。
焼け残ったのは、教皇グレゴリウスの被っていた「教皇の宝冠」だけであった。
* * *
「……見事な太刀筋だ、蘭丸」
崩落した議事堂の風穴の上から、重厚な足音が響いた。
漆黒のマントを翻し、黄金の輿から降り立った織田信長が、大日本の家臣たちを従えてゆっくりと歩み寄ってくる。
「御館様。……申し訳ありませぬ。首を、とおおせつかりましたが、あまりの穢れに塵一つ残さず焼き払ってしまいました」
蘭丸は、拾い上げた教皇の宝冠を恭しく差し出して片膝をついた。
「構わん。ゴミは焼却するのが一番だ」
信長は宝冠を受け取ると、そのまま指先に魔力を込め、あっさりと握り潰して粉々に粉砕した。
数千年にわたり銀河を支配してきた絶対的権威の象徴。それが、今、第六天魔王の手によって完全に終わりを告げたのだ。
「へへっ、これで銀河聖教連盟は完全に壊滅でさぁ! 全銀河の経済も流通も、明日からあっしら大日本・堺商会の独占市場ですぜ!」
猿が、鼻息を荒くして報告する。
だが、信長は破壊された議事堂の奥――教皇の玉座の裏に隠されていた『巨大な扉』に目を向けていた。
「……終わったと思うか? 猿」
「え?」
信長の視線を追い、佐吉と金柑が魔導盤を操作する。
「御館様、あの扉の奥から、異常な波長の通信ログが検出されました。……連盟のものではありません。もっと、次元の違う上位の言語コードです」
佐吉が珍しく驚愕の表情を見せる。
信長が軍配で瓦礫を吹き飛ばし、その巨大な扉を強引にこじ開けた。
そこにあったのは、星の核に直結された、古びた、しかし不気味なほど高度な『魔導端末』であった。画面には、教皇が死の直前に送信しようとしていた一つのメッセージが残されていた。
『――観測者へ告ぐ。第774実験宇宙の管理権限を喪失。特異点の排除を要請する』
「観測者、だと?」
官兵衛が隻眼を細める。
「フハ、フハハハハハハ!!!」
信長の高笑いが、廃墟となった聖王星の中心で響き渡った。
「やはりな! この銀河も、あの教皇とやらも、さらに上位の存在が用意したただの『中間管理職』に過ぎなかったというわけだ!」
信長は、魔導端末を前にして、最高に楽しそうに凶悪な笑みを浮かべた。
「面白いではないか! 一つの宇宙を制覇したくらいで天下布武が終わってしまっては、俺の野心は退屈で飢え死にしてしまうところだった!」
信長はマントを翻し、果てしなく広がる宇宙の天井を指さした。
「聞け、皆の者! 次なる標的は、この宇宙を外側から眺めている『観測者』とやらだ! 俺たちの理で、次元の壁ごとあの無礼な傍観者どもをブチ破るぞ!」
「「「おおおおおおおッッ!!!」」」
銀河聖教連盟の崩壊は、真の戦いの序章に過ぎなかった。
第六天魔王・織田信長と最強の家臣団の野望は、ついに一つの宇宙の枠を超え、無数の並行世界と次元の支配者たちが跋扈する『多元宇宙』へと、その侵略の魔の手を伸ばしていくのである。
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