第24話:聖王星の絶対防壁と、第六天魔王の「大演説」
第24話:聖王星の絶対防壁と、第六天魔王の「大演説」
銀河の中枢宙域。
漆黒の宇宙空間に、眩いばかりの純白の光を放つ超巨大な人工天体が浮かんでいる。
無数の尖塔が立ち並び、天使の彫像が星全体を覆い尽くすその星こそ、数千年にわたり宇宙の星々を支配してきた『銀河聖教連盟』の総本山――聖王星サンクチュアリである。
その最高評議会議事堂の最深部。
教皇グレゴリウスは、純金の玉座に深く腰を沈め、血走った目で眼下のホログラムモニターを睨みつけていた。
「……ユリウスの聖騎士艦隊が、全滅しただと? 星雲の伏兵戦術で、原住民の鉄船に返り討ちにされたというのか!」
「は、はい……。敵艦隊は無傷のまま星雲を突破し、現在、このサンクチュアリの絶対防衛圏内にワープアウトしつつあります!」
司教の一人が、泡を吹きながら報告する。
「おのれ、おのれぇぇッ! 野蛮な下等生物どもめ!」
グレゴリウスは玉座の肘掛けを力任せに叩き割った。
金融の心臓を奪われ、兵器廠を奪われ、最強の盾であった聖騎士団も失った。もはや、この総本山を守る手駒は残されていない。
「……致し方あるまい。これを使うのは数百年ぶりだが、背に腹は代えられん」
グレゴリウスは、震える手で玉座の隠しコンソールを開き、赤いスイッチに手をかけた。
「『創世の光盾』を起動せよ! 全銀河の信徒どもから『信仰』を強制徴収し、この星を絶対の結界で覆い尽くすのだ!」
スイッチが押された瞬間、サンクチュアリの地下深くに張り巡らされた巨大な魔導回路が起動した。
それは、連盟の支配下にある数万の惑星に設置された「教会」のアンテナを通じ、祈りを捧げる何兆という信徒たちの生命力を、強制的に吸い上げる外道のシステムであった。
ズズズズズズ……ッ!!
宇宙空間に、とてつもない密度の「純白の壁」が形成されていく。
それは星一つを完全に包み込む、厚さ数百キロにも及ぶ超高密度の魔力結界。いかなる物理攻撃も魔法攻撃も、兆を超える信徒の命のストックが尽きない限り、無限に再生し続ける絶対無敵の防壁であった。
* * *
「……フン。趣味の悪い電飾だ。ただでさえ眩しい星が、さらにデカい光の殻に引きこもりやがった」
アヅチ・ノヴァの黄金の天主。
織田信長は、バルコニーから迫りくるサンクチュアリの威容を見据え、葉巻の煙を吐き出した。
信長の背後には、五百隻の量産型『天魔』艦隊が整然と陣形を組み、主砲の照準を定めている。
「御館様。先行して放った権六殿の主砲が、あの結界に直撃しましたが……表面で完全に弾かれました」
佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が、魔導盤のデータを解析しながら眉をひそめる。
「しかも、ただ硬いだけではありません。こちらの攻撃エネルギーを、結界のネットワークを通じて『他の星系の信徒たち』に分散させてダメージを肩代わりさせています。つまり、我々があの盾を物理的に叩き割ろうとすればするほど、関係のない辺境の星の民が命を落とす仕組みです」
「……なんという外道。自らの民を、ただの肉の盾として使い潰すシステムですか」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、美しい顔に明らかな嫌悪感を浮かべた。
「美学も何もない。支配者としての誇りすら捨てた、究極の寄生虫ですね」
「クックッ……。まさに宗教の腐敗の極致。あそこまで厚顔無恥だと、いっそ清々しいほどです」
劇薬の軍師・官兵衛が、杖を鳴らしながら嘲笑する。
信長は、葉巻を灰皿に揉み消し、スッと目を細めた。
その瞳に宿るのは、燃え盛るような『怒り』であった。
「俺は、戦場で死ぬことを良しとする。兵が将のために命を懸けるのも当然だ。……だがな」
信長から放たれる圧倒的な覇気が、天主の空気をビリビリと震わせる。
「民から搾取し、何の対価も与えず、ただ己の保身のためだけに彼らの命を『電池』扱いするような輩は……俺の創る『理』において、絶対に許さん。トップが無能なブラック企業は、即座に倒産させるのが俺のやり方だ」
信長が軍配を振り下ろす。
「猿! 佐吉! 準備はいいな!」
「「ハッ!!」」
帳簿を抱えた猿ことトックス(猿獣人)が、獰猛な笑みを浮かべて前に出た。
「先日のクリソール乗っ取りで、連盟の通信ネットワークと金融システムの根幹は、すでにウチの商会が完全に『合鍵』を作ってやす! 全銀河の教会モニターをジャックする準備、いつでもイケまさぁ!」
「ネットワークへの魔導ウイルスの注入、および逆探知防止の暗号化も完了しています」と、佐吉も淀みなく答える。
「官兵衛、半兵衛! 情報工作の原稿はどうなっている!」
「すでに推敲済みです。民の恐怖を煽り、怒りを教皇へと向けさせ、最後は御館様の寛大なる救済で締めくくる。完璧な扇動のシナリオかと」
半兵衛が穏やかに扇を広げ、官兵衛が悪魔のように微笑む。
「よし。ならば、俺が直接、銀河の民に語りかけてやろう。宇宙の果てまで、俺の声を届けろ!」
* * *
銀河の各地。連盟の支配下にある何万という惑星の、荘厳な大聖堂や広場。
信徒たちは突然の倦怠感と、命が削られるような苦痛に喘いでいた。空からは「教皇猊下のために祈りを捧げよ」という無機質なアナウンスが響き続けている。
だが次の瞬間。
すべての星の、すべての教会の巨大ホログラムモニターが、砂嵐と共に「ノイズ」に覆われ……やがて、一人の男の姿を鮮明に映し出した。
漆黒のマントを羽織り、威風堂々と玉座に座る、圧倒的な覇気を纏った若き覇王。
第六天魔王・織田信長である。
『――銀河に住まう、すべての民よ。苦しいか? 命が削られるような思いをしているか?』
信長の声は、魔法による自動翻訳を通じ、全宇宙のあらゆる種族の脳内に直接、重々しく響き渡った。
『当然だ。貴様らが信じる「神の代行者」とやらが、貴様らの命を吸い上げて、自分の星を守るための防壁に使っているのだからな』
モニターの脇に、佐吉の計算した「マナの強制徴収システム」の構造図と、聖王星サンクチュアリが信徒の命を吸い上げて輝く映像が、動かぬ証拠として映し出された。
『よく見ろ。これが、貴様らが祈りを捧げ、莫大な税を納めてきた相手の真の姿だ。連盟は、貴様らを守るどころか、自分の首が涼しくなった途端に、貴様らを「肉の盾」として使い捨てる気でいる』
信長は、画面越しに全銀河の民を睨みつけた。
『俺は、大日本・第六天魔王の織田信長。連盟の艦隊を粉砕し、彼らの財布を奪い、今まさに、その腐りきった総本山に銃口を突きつけている男だ』
『俺は貴様らに「祈れ」とは言わん。命を差し出せとも言わん。俺が求めるのは、公平な「取引」だ』
信長は、手にした一枚の黄金の硬貨――『新・永楽銭』をカメラに向けて弾き飛ばした。
『今すぐ、教会への祈りをやめろ! 神のシステムから接続しろ! そして、俺の創る「大日本」の経済圏に入り、俺の提示する仕事をし、正当な対価を受け取って豊かに生きろ!』
『俺の理に従う者には、絶対の安全と、未来永劫の繁栄を約束する! さあ、旧き神との契約を破棄し、新しい宇宙の夜明けを選べ!!』
* * *
その演説は、銀河の歴史を決定的に変える「雷」となった。
自分たちの命が吸い上げられているという真実と、圧倒的な力を持つ魔王からの「救済と繁栄」の提示。
「お、教皇は私たちを見捨てたのだ!」
「ふざけるな! もう祈りなど捧げるものか! 教会のアンテナを破壊しろォ!」
数万の惑星で、一斉に暴動と反乱が勃発した。
信徒たちは祈りをやめ、物理的に教会の魔導施設を破壊し始めた。信長という新たな「絶対的強者」が背盾にいるという事実が、彼らから権力への恐怖を完全に払拭させたのだ。
「教皇猊下! 各星系からの信仰の供給が……急速に低下しています! 暴動です! 全銀河で一斉に反乱が起きています!」
サンクチュアリの議事堂で、司教が絶叫する。
「ば、馬鹿な! 数千年の信仰が、たった一回の通信で崩れ去るだとォ!?」
グレゴリウス教皇は、ハゲ頭を抱えて崩れ落ちた。
「あの男は、ただの野蛮な武将ではないのか! なぜ、宇宙の金融システムと通信網を完全に掌握しているのだ!!」
宇宙空間。
サンクチュアリを覆っていた絶対無敵の純白の結界『創世の光盾』が、電力を失ったホログラムのように、ノイズを走らせて明滅し……やがて、パリパリと音を立てて崩壊していく。
供給源を絶たれたシールドは、もはやただの薄いガラス板と同義であった。
「御館様! 敵結界の強度が十パーセント以下に低下! 完全に無力化しました!」
佐吉が、勝利を確信した声で報告する。
「フハハハハ! 見たか、腐れ坊主ども! 力だけで世界を統べようとするから、足元をすくわれるのだ!」
信長は玉座から立ち上がり、軍配をサンクチュアリのド真ん中へと真っ直ぐに突きつけた。
「五郎左! 俺の『火縄銃』の用意はいいな!」
「おうよォ! アヅチ・ノヴァ主砲、魔導電磁超砲、魔力充填百二十パーセント! いつでもブッ放せまさぁ!」
「蘭丸!」
「はッ!」
信長の傍らで、愛刀の柄に手をかけた森蘭丸が、静かに、しかし凄まじい闘気を発してひざまずく。
「主砲で敵の議事堂に風穴を開ける。お前は武功派どもを率いて、その穴から直接乗り込め。……俺の前に、あの醜い教皇の首を引きずり出してこい」
「御意。……主君の天下布武を阻む愚か者どもに、最上の絶望を与えてご覧に入れます」
蘭丸が立ち上がり、天主のハッチへと向かう。
「全艦隊、およびアヅチ・ノヴァ主砲! 目標、聖王星サンクチュアリ!」
信長の凶悪にして壮絶な覇気のこもった号令が、宇宙空間を切り裂いた。
「――放てェェェェェェッ!!!!」
ズドガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
アヅチ・ノヴァから放たれた極大の閃光と、五百隻の天魔艦隊の一斉射撃が、防御を失った純白の聖王星へと情け容赦なく突き刺さる。
神の代行者を自称した者たちの支配が終わる、物理的かつ決定的な「破滅の光」。
銀河聖教連盟の総本山・陥落の時は、もはや秒読み段階へと突入した。
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