第22話:機巧惑星アグニと、鍛冶神の杭打ち機(パイルバンカー)
第22話:機巧惑星アグニと、鍛冶神の杭打ち機
異端審問長官ザビエルが率いた三千の艦隊と、星を消し飛ばす『神罰の槍』。
それが大日本の誇る「八咫魔鏡シールド」によって完全に反射され、無残に宇宙の塵と化した映像は、電脳空間を通じてまたたく間に全銀河へと拡散された。
その反響は、文字通り宇宙を揺るがすものであった。
「へっへへへ! 御館様! 連日、通信回線がパンク寸前でさぁ!」
浮遊星砦アヅチ・ノヴァの戦略室。猿ことトックス(猿獣人)が、何十枚ものホログラムモニターを宙に浮かべながら歓喜の悲鳴を上げていた。
「連盟の重税と弾圧に苦しんでいた辺境の星々から、『大日本に帰順したい』『永楽銭の経済圏に入りたい』という嘆願が山のように押し寄せてやす! 昨日だけで、新たに十二の星系が連盟の旗を降ろして、あっしらの傘下に入りやした!」
恐怖による支配が破られた時、民衆の反逆は燎原の火の如く広がる。
織田信長は玉座に深く腰掛け、魔の森産ハーブの葉巻を燻らせながら、悪びれる様子もなく不敵に笑った。
「フハハ! 当然だ。旧き神のメッキが剥がれたのだ。美味い飯と安全な暮らしを提示すれば、民は自然と俺の理に集まる」
「しかし、御館様。嬉しい悲鳴ばかりでもありません」
無表情な文官トップ、佐吉ことイシオン(ハーフエルフ)が算盤を弾きながら冷徹な事実を突きつける。
「降伏してきた星系の防衛、および志願兵たちの武装化。現在のアヅチ・ノヴァ内部の生産ラインだけでは、まったく追いつきません。特に五郎左殿の鍛冶工房は、すでに稼働率四百パーセントを超え、ドワーフの職人たちが文字通り過労で泡を吹いています」
「あぁん!? 誰が泡を吹いてるって!? 俺の辞書に『不可能』の文字はねェんだよ!」
ドカカカッ!とけたたましい足音を立てて、煤だらけの五郎左が戦略室に飛び込んできた。
「御館様! 気合と根性で魔力火縄銃の量産は進めてやすが、宇宙戦艦(天魔級)の増産となると、さすがにアヅチのドックじゃ手狭でさぁ! デカい『工場』が要りやす!」
「五郎左の言う通りだ。兵站と武器の枯渇は軍の死を意味する」
信長は紫煙を吐き出し、影に控える軍師に視線を向けた。
「官兵衛。手頃な『武器庫』の目星はついているな?」
「クックッ……。御館様のお心のままに。すでに、この宙域で最も都合の良い『金庫』を見繕ってあります」
劇薬の軍師・官兵衛が、ホログラム星図の一点を杖で叩いた。
そこに映し出されたのは、赤黒いマグマの海に覆われ、惑星の周囲を巨大な金属のリングが幾重にも取り囲んでいる異様な星だった。
「銀河聖教連盟・第4兵廠惑星『アグニ』。連盟の宇宙戦艦や機動兵器の約四割が、この星の自動工場で生産されています。ここを落とせば、敵の牙を折りつつ、我が軍の巨大な生産ラインを確保できる、まさに一石二鳥の盤面です」
「よし! 目標は機巧惑星アグニだ! アヅチ・ノヴァ、全速前進! あの星の工場群を、傷一つつけずに俺の所有物にしろ!」
* * *
兵廠惑星アグニ。
その星は、大気そのものが分厚いスモッグと熱波に覆われた「巨大な溶鉱炉」であった。
惑星の軌道上に静かにワープアウトしたアヅチ・ノヴァの天主から、信長たちはその無骨な星の姿を見下ろした。
「……酷い星ですね。美しさの欠片もない。完全に効率と生産性のみを追求した、ただの機械の塊です」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、忌々しそうに美しい顔をしかめる。
『警告。警告。未登録の巨大質量物体。ただちに聖教連盟の認証コードを送信せよ』
アグニの防衛システムが、無機質な電子音と共にアヅチ・ノヴァをロックオンした。
惑星を囲む金属リングから、無数のハッチが開き、中から這い出してきたのは、人間ではなく、純白の装甲に身を包んだ全長十メートルに及ぶ「無人機巧騎士」の大群であった。
「工場を無傷で手に入れるなら、艦砲射撃はご法度ですね。……久しぶりに、我ら武功派の出番というわけか!」
無傷の狂戦士・平八郎が、魔導スラスター鎧の出力レバーを限界まで押し込み、巨大な轟槌を構えて獰猛に笑う。
「ヒャッハー! ただの機械人形のスクラップ解体なら、俺の斧のいい的だぜェ!」
「行くぞ市松! 誰が一番多く壊すか勝負だ!」
市松と虎が、カタパルトから真っ先に宇宙空間へと飛び出していく。
「待て若造ども! 俺も行くぜ! 他人の造った兵器がどれほどのモンか、この目で見てやらァ!」
今回は、なんとドワーフの鍛冶長・五郎左までもが、分厚い特注の重装甲スラスターを身に纏い、背中に「巨大な円筒形の鉄の塊」を背負って戦場へと飛び出した。
無重力の宇宙空間で、大日本の武将たちと、一万機を超える無人機巧騎士の激突が始まった。
虎の十文字槍が、機巧騎士の関節を正確に貫き、市松の大斧が純白の装甲を叩き割る。平八郎に至っては、轟槌の一振りで三機のゴーレムをまとめて粉砕するという規格外の暴れっぷりを見せていた。
しかし。
『――神の設計図に逆らう異端ども。我らが聖なる炎で消し炭となれ』
アグニの地表から、他の機巧騎士とは明らかに次元の違う、禍々しいほどのマナを放つ超巨大な機体がゆっくりと浮上してきた。
全長五十メートル。全身を分厚い黄金の装甲で覆われ、背中には巨大な溶鉱炉を背負っている。その機体の頭部には、この星の管理者である兵廠司教・ヴァルカンの脳髄が直接組み込まれていた。
「な、なんだあのデカブツは!」
虎が槍を構え直す。
『我は兵廠の管理者ヴァルカン。旧き神が遺した完璧なる設計図を具現化する者なり!』
超巨大ゴーレムの腕が変形し、数千度の超高温マグマ砲となって、平八郎たち目掛けて放射された。
「チィッ!」
平八郎が轟槌を盾にしてマグマの直撃を防ぐが、その圧倒的な熱量と質量に、無傷の狂戦士すらも数十キロ後方へと弾き飛ばされた。
『無駄だ。我が機体は「絶対防壁」の小型版である「神の偏向盾」を装備している。物理攻撃も魔法攻撃も、すべて無効化する!』
ヴァルカンが狂ったような電子音の笑い声を上げる。
「ちぃっ、アイギスのパクリかよ! なら、逆位相の魔力で――」
佐吉が通信越しに演算を始めようとした時、五郎左がそれを大声で遮った。
「やめな佐吉! そんな面倒な計算はいらねェ!」
五郎左が、巨大ゴーレムの正面へとスラスターを吹かして躍り出た。
彼の背中に背負われていた「巨大な円筒」が、ガシャン!と音を立てて右腕に展開される。それは、先端に極太のミスリル製の「杭」を備えた、異形の重兵器であった。
「てめェ、旧き神の設計図が完璧だァ? 笑わせんじゃねェ! 俺たち大日本の技術はな、昨日より今日、今日より明日、常に進化し続けてんだよ!」
五郎左は、右腕の兵器に、自身の莫大なドワーフの魔力を注ぎ込んだ。
「御館様の無茶振りに応え続けた俺の執念! とくと味わえ!」
『愚かな。いかなる兵器だろうと、この盾は貫け――』
「こいつは兵器じゃねェ! ただの『鍛冶屋の金槌』だァァァッ!!」
五郎左が引き金を引いた瞬間。
火薬と、極限まで圧縮された魔力螺旋の爆発的な推進力を得て、極太のミスリルの「杭」が、音速の数十倍の速度で射出された。
大日本・鍛冶神の最高傑作――『超魔力圧縮・杭打ち機』。
それは、ビームでも魔法でもない。ただの「純粋な質量と圧倒的物理的圧力」の塊。
神の偏向盾が魔力を分散させる前に、その限界突破した運動エネルギーが盾の表面を強引にブチ破り、ヴァルカンの黄金の装甲を紙屑のように貫通。巨大ゴーレムの中心にある動力炉――そしてヴァルカンの脳髄ごと、文字通り「粉砕」した。
『ガ、バカ、ナ……神ノ、設計図、ガ…………』
ドガァァァァァァァァンッ!!!!!
超巨大ゴーレムは、宇宙空間で大爆発を起こし、無残なスクラップと化した。
管理者を失った無人機巧騎士たちは、一斉に機能を停止し、宇宙の漂流物となって沈黙した。
「ガハハハハハ! 見たか! これぞ大日本のドワーフ魂だ!」
五郎左が、煙を吹くパイルバンカーを肩に担ぎ、宇宙空間で高らかに勝利の雄叫びを上げた。
* * *
数時間後。
アグニの地表に降り立った信長は、無傷で手に入れた巨大な自動工場群を見渡し、満足げに頷いた。
「大儀であった、五郎左。貴様のその泥臭い杭打ち、見事な火力だったぞ」
「へへっ、恐縮でさぁ御館様! この星の設備があれば、天魔級の宇宙戦艦を月に数百隻単位で建造できやすぜ!」
五郎左はすでに、工場の端末をハッキングし、大日本の設計図を上書きインストールしていた。
「佐吉、金柑、猿! 直ちにこの星の生産ラインを最適化し、新兵器の量産体制に入れ! この星を『大日本・宇宙造兵廠アグニ』と改名し、俺たちの銀河制覇の心臓部とする!」
「「「ハハッ!!」」」
銀河聖教連盟の金融の心臓に続き、兵器の心臓までも完全に手中に収めた第六天魔王。
大日本の軍事力は、この機巧惑星を手に入れたことで爆発的に膨れ上がり、いよいよ数千、数万の「宇宙・織田艦隊」が星の海へと解き放たれる準備が整った。
旧き神々の震え上がる音が、銀河の中心から聞こえてくるようであった。
天下布武の野火は、宇宙全土を焼き尽くす勢いで拡大し続けている。
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