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つくづく付喪神 Re  作者: 桜鵺
一章:新たなる始まり
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7.新たな居場所


「……私が、柊会に?」


梓の言葉を聞いてから、私は何度もその言葉を頭の中で繰り返していた。


柊会に籍を置く。


それは、昨日まで何も知らなかった私が、付喪神に関わる人たちの中へ入るということだ。


母さんの形見である桔梗を持っている。


ただ、それだけの理由で。


「そんなに難しい顔をしなくてもいいんじゃねえか?」


隣で椿が豪快に笑った。


「お前はもう、あたしたちの仲間ってことだ。仲間が増えるのはいいことだろ?」


「でも、私……まだ何も分かっていないんですけど」


「だから、これから覚えていけばいいんです」


小梅が、椿の言葉を補うように答えた。


「梓様が認めたのは、桜さんが柊会に籍を置くことです。すぐに一人前として扱われるわけではありません」


「籍を置くって……正式な隊員になるんですか?」


「正確には、仮の所属ですわね」


「仮……?」


「桜さん自身が柊会について理解し、桔梗さんとの関係を築き、今後もここにいる意思があるか。それを確認するための期間です」


つまり、まだ試されているということだ。


そう考えると、少しだけ納得できた。


私は何も知らない。戦い方も、付喪神のことも、母さんが何をしていたのかさえ。


そんな私を、いきなり仲間として受け入れられるほうがおかしい。


「……私、本当にここにいていいんでしょうか」


思わず口からこぼれた言葉に、椿さんが首を傾げた。


「梓様がいいって言ったんだろ?」


「それは、そうですけど……」


「なら、いいんだよ」


あまりにも簡単に言われて、私は返す言葉を失った。


椿は、少しだけ真面目な顔をして続ける。


「お前が何者なのか、桔梗が何なのか。そういうのは、これから知っていけばいい。最初から全部分かってる奴なんて、そうはいねえんだからよ」


「椿さんの場合は、何も考えずに突っ込んでいくことが多いだけでは?」


「小梅、お前は一言多いんだよ!」


いつもの調子で言い合う二人を見ていると、胸の奥にあった緊張が少しだけほどけていく。


ここにいることを、まだ完全には受け入れられていない。


それでも、昨日のように「帰れ」と言われているわけではないのだ。


「……分かりました。少しずつ、覚えていきます」


そう答えると、小梅が穏やかに微笑んだ。


「では、まずはこの場所についてご案内いたしましょう」


「この場所?」


「ええ。桜さんは、まだ柊雑貨店の中をきちんと見ていませんでしょう?」


言われてみれば、私が見たのは目を覚ました部屋と、昨日梓さんたちと話した場所くらいだった。


体調も、もうほとんど問題ない。


椿に気絶させられたことを除けば、ここへ来てからまともに歩き回ってすらいなかった。


「無理はしないでくださいね。まだ本調子ではないでしょうから」


「大丈夫です。もう平気です」


そう答えて布団から立ち上がる。


少しだけ足元がふらついた。


「……本当に大丈夫ですか?」


「今、思いっきりふらついたじゃねえか」


「ちょっと立ちくらみがしただけです!」


二人に心配そうな目を向けられながら、私は部屋を出た。


廊下を進み、階段を下りる。


階下へ近づくにつれて、店の外から人の話し声や、戸を開け閉めする音が聞こえてきた。


階段を下りきった先にあったのは、昨日までの緊張した空気とはまるで違う場所だった。


明るい店内。


棚には文房具や食器、日用品が並び、壁際には季節の商品まで置かれている。


店の奥では、年配の女性が店員らしき男性と談笑していた。


「……普通の雑貨店なんですね」


「表向きは、ですけれどね」


小梅が店内を見渡しながら言った。


「ここ、柊雑貨店は、柊家が代々管理してきた店です。商店街の皆様には、昔から普通の雑貨店として親しまれています」


「柊家というのは、昨日の梓さんの?」


「はい。梓様は柊家の当主です」


「では、柊家が柊会を運営しているんですか?」


「そこは少し違います」


小梅は、店の奥にある扉へ視線を向けた。


「柊会の運営や方針を決めるのは、評議会です。柊家は柊会の創設に深く関わった家系であり、現在も重要な立場にありますが、柊家だけですべてを決めているわけではありません」


「でも、梓さんの一言で私の所属が決まったんですよね」


「それだけ、梓様の発言には重みがあるということですわ」


椿が、棚に置かれた小さな置物を手に取った。


「柊家は昔から、この町と柊会を支えてきたんだよ。雑貨店もただの店じゃねえ。付喪神に関する相談を受けたり、必要な道具を用意したりする場所でもある」


「相談、ですか?」


「壊れた道具が勝手に動く。古い物から声が聞こえる。持ち主が変わってから、物の様子がおかしくなった。そういう話だな」


「それって、全部付喪神が関係しているんですか?」


「全部じゃねえ。勘違いもあるし、ただの故障もある。だから調べるんだよ」


小梅が、店の隅に置かれた古い木箱を指差した。


「柊会は、付喪神を退治するためだけの組織ではありません。人間と付喪神の間で起きた問題を解決し、必要であれば付喪神を保護する。それが主な役目です」


「保護……」


「付喪神にも、意思がありますから」


その言葉に、私は自分の腕へ視線を落とした。


袖の下には、桔梗の宿ったブレスレットがある。


昨日、私の手の中で刀へ姿を変えたもの。


力を貸してくれた、母さんの形見。


「じゃあ、このブレスレットも……」


「ええ。そのブレスレットも、ひとりの付喪神です」


小梅は、それ以上を語らなかった。


桔梗が何者なのか。


なぜあれほど強い力を持っているのか。


母さんと、どんな関係があったのか。


その答えは、まだ私の手の届かない場所にあるようだった。


「それで、私はこれから何をするんですか?」


「まずは勉強です」


「勉強……」


「付喪神の性質、扱い方、柊会の規則。そして、桔梗さんとの関係を深めること。桜さんには、まだ知らないことが多すぎますから」


「いきなり現場に出るわけではないんですね」


「そういうことです」


椿が、少し残念そうに肩を落とした。


「まあ、最初は仕方ねえか。桜がもう少し動けるようになったら、訓練くらいはしてやるよ」


「椿さん、桜さんを無理に鍛えようとしないでくださいね」


「分かってるって」


本当に分かっているのだろうか。


昨日のことを思い出し、私は小さく息を吐いた。


けれど、二人のやり取りを聞いていると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。


昨日まで、私は自分が何に巻き込まれたのかも分かっていなかった。


けれど、ここには知っている人がいる。


教えてくれる人がいる。


そして、私自身が向き合わなければならない存在もいる。


「……私、ちゃんと覚えます」


「ええ。焦らずにいきましょう」


そのときだった。


店の入り口から、慌ただしい足音が聞こえてきた。


「すみません! 誰か、柊会の方はいませんか!」


店内にいた全員が、声のしたほうを振り向く。


入り口に立っていたのは、商店街で何度か見かけたことのある男性だった。


息を切らし、困ったような顔で店内を見回している。


椿が、持っていた置物を棚へ戻した。


「どうした?」


「あ、椿さん……! ちょうどよかった!」


男性は、私たちのほうへ駆け寄ってくる。


「また、うちの店で妙なことが起きたんです。今度は、夜になると店の奥から誰かの声が聞こえてきて……」


小梅の表情が、わずかに変わった。


「声、ですか?」


「はい。最初は気のせいだと思ったんですが、昨日は店の中に誰もいないのに、はっきりと……」


男性はそこで言葉を切り、私の腕へ視線を向けた。


「もしかして、その方が新しく入ったという……?」


「え?」


「いや、すみません。今はそれどころじゃなくて!」


椿が、にやりと笑った。


「なるほどな。さっそく仕事が来たじゃねえか」


「椿さん、まだ桜さんを連れていくとは決まっていません」


「でも、見学くらいはいいだろ?」


二人のやり取りを聞きながら、私は自分の腕を見つめた。


ブレスレットの奥で、桔梗が何かを感じ取ったような気がした。


まだ何も分からない。


それでも、これから私は、この町で起きる付喪神の問題に関わっていく。


その最初の出来事が、今、目の前に持ち込まれようとしていた。


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