第44話 禁忌魔法の代償は
「私が住んでいた…?ここに…?えっ…でも私、都内に一軒家で…えっ…?」
花蓮は困惑した顔で涼太を見ると、涼太もわけがわからないといった顔をする。
「何を言ってるんだ…?花蓮はずっと俺の家の隣にいたぞ」
「違う、それは作られた記憶だ」
スタインは深刻そうな顔をして花蓮を見つめると、深々と頭を下げる。
「すまない。俺が禁忌魔法を使用したせいで、さまざまな余波が…影響が出た。それにより、当時花蓮に関わった者たちの記憶を作り変えたんだ。だが、花蓮がアメリカへ短期留学していたとき、ご両親とここに住んでいたのは確かだ。…大切な記憶を、俺の身勝手な行動のせいで奪ってしまい、すまない」
しばらく沈黙が続き、スタインは頭を下げたまま、目を力一杯つぶる。
(花蓮に嫌われても…もう仕方ないな…)
諦めていたスタインだったが、頭を優しく撫でられる感触に驚き、腰を折ったまま顔をあげる。
すると、優しく微笑む花蓮がこちらを見つめていた。
「スタインは、死ぬ寸前だった私を生かしてくれたんじゃない。あなたを責めたりしないわよ。それに、どこに住んでいたかなんて、私にはどうでもいいことだよ」
ニコッと優しく笑う花蓮が眩しくて、スタインは思わず目を細める。
「花蓮、ありが——」
「それよりっ!」
スタインの言葉を、ピシャッと思い切り遮る花蓮は、少し怒ったような顔をしている。
「さっきの話の続きっ!光が〜の後は、どうなったのっ?」
大きな瞳で、下からじっと見上げる花蓮に、スタインは、へへっとニヤけながら笑う。
「ちょっと〜!なんで笑うの〜!」
「ははっ、ごめん、可愛かったから、ごめんごめん。あっ、いてっ」
花蓮とスタインがじゃれ合う様子を、またかと思って見ていた涼太は、ふと隣に立つバリウスが2人を見つめていて、その眼差しが少し寂しそうなことに気が付いた。
「わかった、わかった、花蓮、さっきの続き話すから!でもさ、東堂さんの用件も早く済ませたいからさ、歩きながら話すよ」
4人は、東堂麗香の要望を叶えるため、店が密集している場所を目指す。
「端的に言うと、バリウスが見た光は、俺が2回目の禁忌魔法を使ったところだ」
スタインがバリウスをチラッと見ると、バリウスは小さくため息をつく。
「やはり。まあ、そうだとは思ってはいたが。スタイン、君が拘束を破り花蓮様の所に召喚されに行ったのを知ったとき、使用したのは禁忌魔法だと直感ですぐに分かったよ」
「悪かった、一番親しかったバリウス、お前に何も言わずに飛び出したこと…」
「はっ。君が突発的に行動することは、いつものことだろう」
「そうか、ふっ、バリウスが俺の親友だってことが、一番ラッキーなことかもな」
スタインはバリウスと視線を合わせた後、何かを決心したかのように上を向く。
「我慢ができなかったんだ、花蓮の姿を見つめるたびに、もう一度会いたいという気持ちが膨らむ一方だった。どうにかそれを処理しようと、覚えていた禁忌魔法を使った」
「その禁忌魔法って…?」
「花蓮を自ら指定して、人間の世界にやってきてしまうものだ。つまりは、花蓮が呼び出したのではなく、俺があたかも呼び出された如く現れるんだ」
「つまりは、自作自演てことだろ?」
それまで黙って聞いていた涼太だが、明らかに不機嫌そうだ。
「自分は花蓮と運命的に召喚だとか、はっ、ふざけた芝居だな」
「ちょっと、涼太!」
「事実だろ」
「そうかもしれないけど…」
「いいんだ、花蓮。涼太の言う通りだ」
スタインは肩をすくめると、目の前の店で注文した食事をカウンターで受け取る。
「…あれは、ないのか?」
「あれ?なんのことだ?」
ぶっきらぼうな口調で尋ねる涼太に、スタインは努めていつも通りに接する。
「最初に使用した禁忌魔法にも、副作用みたいなのがあっただろ?右目の痛み。そういうのは、2度目はなかったのか」
「涼太は話をよく聞いていて、すごいな」
「ちっ、子どもみたいに扱うのかよ」
「いやいや、ごめん。すぐにその部分に疑問がわくってのが、すごいなって思ってさ。…まあ、結論から言うと、…あった」
スタインの言葉に、3人は思わず歩く足を止め息を飲む。
「なんだ、そんな驚くことでもないだろ。禁忌を使ったんだ。本当は指名できないにも関わらず、花蓮を指定してこっちの世界にきた。まあ、その代償は大きいよな」
「その代償って…」
震える声の花蓮が、大きく目を開けスタインをじっと見つめる。
「それは……」
「それ…は…?」
「花蓮の願いが1つ減る、でした」
「……はあ?」
花蓮は思わず力が抜けて、膝に手を置き苦笑いをする。
「それだけ?」
「ああ、笑えるだろ。俺を早く楽器の国に戻して、今度こそ二度と永久拘束でもして罰を与えたいんだろうなー」
「あ〜っ!だから、私の願いは涼太と違って、最初から2つだったの〜?!」
「そう、ごめんな、俺の勝手で」
「なんか大したことない罰で良かったような、でも、私の願いが勝手に1つ減って損したような」
花蓮とスタインが笑い合いながら並んで歩く後ろを、バリウスは会話には加わらず1人で静かについて行った。




