第43話 住んでいた所だよ
「…そっか…。もしかしたらさ、ピアノ以外の楽器を初めたのかもしれないし、僕も自分の部屋に戻ったらよく見てみ……る…」
バリウスが話している途中、急にスタインが勢いよく起き上がる。
「どうした、スタイン?」
スタインは瞬きせずに、ある一点をじっと見つめたまた密集するシャボン玉を掻き分けて一直線に進んでいく。
スタインは1つのシャボン玉の前に来ると、両手をシャボン玉にそっと添える。その両手は、小刻みに震えている。
「……いる…ここに…彼女が…うつってる…!」
シャボン玉を見つめながら涙するスタインに、バリウスはシャボン玉に近寄り、そのときに初めてピアノを弾く花蓮を目にした。
「良かったね、スタイン。それに花蓮さんは君が話していた通り、綺麗な人だね」
それから数年、スタインは毎日のように花蓮のうつるシャボン玉だけを見つめて過ごしていた。
「スタイン」
扉を開けて入ってきたのは、バリウスだった。バリウスはシャボン玉の中に花蓮を見つけた日から、毎日のようにスタインの所を訪れていた。
「今日も花蓮さんは変わりないか」
「ああ、楽しそうに弾いているよ」
優しく微笑むスタインは、罰を言い渡された当初と比べると、随分と元の優しい雰囲気に戻っていた。そしてその変化は内面にも良い影響があり、素直に罰を受け数年も謙虚な姿勢でい続けるスタインを見て、国王はスタインの部屋への人の出入りは自由と決め直したのだ。
以前は伸び放題だった髪の毛も短く切ったスタインは、楽しそうに花蓮がうつるシャボン玉を見つめている。
「…バリウス、次の召喚はいつ頃になりそうなんだ?」
「次?ああ、そうだなぁ…数週間後くらいだと思うよ」
「そうか…それなら、俺と同じ場所へ召喚される可能性もあるよな」
「…何を言ってるんだ、スタイン。君はまだ拘束されている身で、新しい主人の元に召喚されることは許されていないだろう」
なぜか嫌な予感がしたバリウスは、スタインの前に周り正面から顔を見る。
少しの間、無言で互いに見つめあった後、スタインは笑顔を見せて離れた。
「この数年間、いつも俺の部屋に来て長い時間過ごしてくれたこと、感謝している。ありがとな、バリウス。だが、悪いが今日はもう帰ってくれないか」
「…ああ…分かった。また明日来るよ」
スタインの部屋の扉を閉めたバリウスは、スタインの言葉に言いようのない不安に襲われていた、が、まるでその不安を打ち消そうとするかのように、頭の中で言い訳を並べる。
俺が、もうすぐまた新しい主人の元に召喚されると知って、羨ましくなったのかもしれない。現に彼は拘束されていることで、何十回と召喚のチャンスを逃しているんだから)
そうだ、きっとそうだ。と、バリウスは自分を納得させ歩き出したそのとき、突然何も音が聞こえなくなり、辺りを見回す。
すると、背後のスタインの部屋から神々しいほどの金色の光が漏れ始め、その漏れる光が多くなったその後に——。
◇◆◇◆
「その後に?」
前のめりになった花蓮の顔は、バリウスの顔と数cmしか離れていなかった。
「どうなったの?バリウス、その後?」
「…コホン。花蓮様、少しお顔が近いかと…」
「あっ…ごめんなさいっ…!」
離れた花蓮は、慌てて席の背もたれに背中をつける。
「その話の先も気になるが、まずは陸に上がってからだな」
涼太の言葉に全員が窓の日除を外し上にあげ外に目をやると、いつの間にか上り始めた太陽の光に照らされ、終着の駅が見えてきた。
「夜中の到着だったはずですが、どうやら更に予定よりも大幅に到着が遅れたようですね」
バリウスが眩しそうに目を細め窓の外を見つめると、列車は白いトンネルに吸い込まれるように入って行き、徐々にスピードを落としその先にある駅ホームに着くとゆっくりと止まった。
駅ホームは簡素な作りで、出発した駅の広さと高さと比べると、都会と田舎の違いが浮きぼりだった。
「ここが海生島…」
先にホームに降りたスタインが、花蓮に手を伸ばす。スタインの手を掴んだ花蓮は、ゆっくりと列車を降りホームから続く島を見渡す。
すると、スタインが花蓮の指を力強く握る。
「そうだよ、俺とアメリカで会ったとき…花蓮が住んでいた所だよ」




