第41話 禁忌魔法の反動
「そっか、私そのせいで、あのとき弾けなかったんだ…」
辺り一面まっ暗闇の中、海の上を静かに走り続ける列車の窓に視線をうつした花蓮は、窓にうつる自分を見ながらも、その奥に映るスタインの横顔をぼーっと見つめる。
「私ね、たぶんその時だと思うんだけど、気が付いたらいつものピアノの練習室にいてね、なんかカーペットの床の上に寝転んでたの。それで、なんでだろう?て思いつつも、起きてピアノを弾こうと思ったら全然弾けなくて。本当に、どうやって弾いてたのか全く分からないほどに、弾けなくて、ピアノは弾けてた記憶はあるのに。それで、泣きながら両親に電話して迎えに来てもらって、そのまま帰国したの」
「なるほど…もしかすると、それはスタインが使用した禁忌魔法の反動によるもの、の可能性もありますね」
バリウスが指を顎に当てて思慮している間に、花蓮は隣に座るスタインに視線をやる。
スタインは今にも泣きそうな表情で俯き、口を真一文字に固く結んでいた。
花蓮はスタインの顔に両手を添えると、そっと顔を上に持ち上げる。
「一時的にスランプに陥ったけど、でも今は弾けるし、それに何より…私のことを助けてくれて、ありがとう…今までそれを知らずに、ごめんなさい」
花蓮はふんわりとスタインの唇に自分の唇を重ねると、すぐに離れてニコッと笑う。
向かいの席で見ていた涼太は、本能的に花蓮がしようとしていることが分かり止めようと花蓮に手を伸ばしたが、途中で自然と手が止まってしまった。
前の席ではスタインと花蓮が見つめ合い互いに微笑み、隣では主人の涼太があっけに取られた顔で固まっているのを見たバリウスは、涼太の背中に手を伸ばし、軽く、そして優しく叩いた。
涼太は大きく息を吸い込み咳払いをした。すると、見つめ合っていた花蓮とスタインは、ハッと我に返り互いに顔を晒して俯いた。
「ゴホン…えーっと…ここまでの話で、いくつか疑問がある。まずだ、花蓮がピアノを弾けなくなっていたにも関わらずだ、なぜスタインは花蓮の所に来れたんだ?そもそも、召喚先の相手を選べないって話でもあったよな?それが、こんな偶然があるか?」
スタインは、両指を合わせて親指をくるくる回しながら少し考え込む。
「ここにいる全員が薄々感じて入るとは思うが、俺が花蓮の元へ現れたのは、偶然…では、ない。だが、花蓮の元へ行けたのは、偶然ではない」
目を大きく開け瞬きをする花蓮は、少し首を傾げてスタインを見つめる。
「俺が使った禁忌魔法の、おそらく反動で、花蓮はピアノが弾けなくなっただろ。ピアノを弾かなければ、俺のこの部屋の玉に映らない。だから、俺は数年間、花蓮を見つけられずにいた」
「あっ…そっか…!私、なかなかうまくピアノ弾けなくて、嫌になっちゃってピアノから離れてるときあったわ…」
花蓮は涼太と目を合わせると、互いに頷きながら話を続ける。
「あー、そういや、あったな。確かに。アメリカから戻ってきた後だよな、全然花蓮の家からピアノの音が聞こえなくてさ、ピアノのために渡米してたってのに、おかしーなーて思ってたな」
「そうそう!だけど、涼太が就職してから、演奏会でアンサンブルをしよう、ってお誘いをしてくれるようになったんだよね、それから、私も徐々に感覚を取り戻していって」
花蓮と涼太は当時を思い出し、2人だけで2人の共通の話題で、楽しそうに話し始めた。




