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楽器王子〜楽器の中に宿るは王子様!?〜  作者: めんだCoda
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第40話 彼女が見つからない

「スタイン、ちょっと!何するの?!」


 階段を駆け上がり、ピアノを弾いている主人、東堂麗香の手首を掴むスタイン。


「ちょっと!離しなさい!!」


 スタインの手を振り解こうと腕を振る東堂麗香に、スタインは身を屈めて椅子に座っている主人と目線の高さを合わせると、じっと両目を見つめる。


 すると、スタインの右目だけが綺麗な翠色に変化し、それを見つめる東堂麗香は顔から徐々に表情が無くなっていく。


 スタインは親指と人差し指の先を合わせると、慎重に東堂麗香のこめかみを、数回小さく弾く。


「…オーケー、うまくできたな…」


 スタインは浅く呼吸を整えると、東堂麗香の目を見つめ、言い聞かせるようにゆっくりと呟く。


「2番目の願いは、花蓮の状態回復を」


 すると、瞬きをしない東堂麗香も同じように繰り返す。


「2つ目の願いは、花蓮の状態回復を」


「がっああっ…!!」


 東堂麗香がそう言った途端、スタインは翠色に変化した右目が激しい痛みに襲われ、慌てて両手で右目抑えその場でうずくまる。


「はっ…はっ…はあっ…くそっ…」


 右目は、まるで針で刺されたような鋭い痛みがまだ続いていたが、ヨロヨロと立ち上がると右目を押さえたまま、東堂麗香を見下ろす。


「願いの残りは、あと1つ…」


 スタインは荒くなった呼吸を整えると、部屋の窓から暗くなった外を見つめる。

 静かな夜だったはずが一転して、強い風におされ木々が斜めにしなり、葉はバサバサと激しく激しく揺れる音が響いている。


「これでいいんだ…彼女のためだ…」


 スタインは右目から手を離すと身を屈め、また東堂麗香の目を覗き込む。


「3つめの願いは——」


 ◇◆◇◆


「3つめの願いは、何にしたんだ…?」


 スタインの部屋の中央の床で、スタインと向かい合う形で座っているバリウスは、スタインの右目に一瞬視線をうつす。


「3つめは、…花蓮の記憶の消去だ。俺と出会ってからの記憶は全て消去させた」


「記憶の消去…!?状態回復は分かる。けれど。記憶を消す必要はなかったんじゃないか?記憶消去で彼女は君との約束も、いや、君の存在も全て忘れてしまったんだ、それでいいのか」


「ああ、いい。…それがベストだったんだ。もし仮に3人目の主人が日本に帰国したとき、花蓮は俺のことが気になり、主人と接触を試みるかもしれない。そんなことは、絶対に許されない…!だから…主人から花蓮を守るためにも、接触をしないようにするためにも…記憶を消去した方がいいと考えたんだ」


「…それで…逆に、3人目の主人は、どうなった?」


 慎重に一言一言ゆっくり話すバリウスに、スタインは、はっ、と息を吐き、引き攣った笑みを見せる。


「願いを3つ、まあ、2つは強制的だが、叶えたことで俺との契約は通常と同様に解除された。普段のときと同じだったさ、願いを叶え契約解除と同時に俺たち王子は楽器の国に体が瞬間的に戻される、あれと同じことが起こった。俺は人間の世界から消える瞬間まで確認していたが、主人は、虚な表情ではあったが、普通に生きていた。…だから、問題ないだろ」


「いや、問題なくはないだろう。現に、だから君はここにこうやって、処罰され拘束され厳しい監視下に置かれているんじゃないか。僕ら王子は、人間の世界で願い以外で魔法を使うことは禁忌とされているのは、君もよく分かっているだろう」


「だから、願いとして使ったんじゃないか」


「違う。スタイン、君がしたことは、願いに見せかけた暴力だ。…自分の思い通りにしたい、その思いから君が3人目の主人にしたことは、主人が花蓮さんにしたことと、何ら変わりはな…」


「やめろ!!!」


 部屋中に響き渡る大声でスタインが叫ぶと、部屋中に浮かぶシャボン玉らが小さく震えた。


「あいつは…3人目の主人は、花蓮を殺そうとしたんだぞ…!?俺は違う、主人を殺してはいないし、殺すつもりもなかった!それに、死んでないだろう?ほら、見ろよ!」


 スタインは荒々しく立ち上がると、シャボン玉をかき分けながら壁際へと歩み進むと、上の方を漂うシャボン玉の1つを指さす。


「あれを見ろよ、3人目の主人は、楽しそうにまたピアノを弾いてるだろ。何も変わってない、元気そうだろ」


 スタインの後をついてきたバリウスは、スタインが指さすシャボン玉を確認した後、周囲を見回す。


「それで…例の花蓮さんはどこに?ピアノを弾いているんだから、この中にいるんじゃないか?」


 バリウスが振り返ると、スタインはふらふらっと歩き、ドサッと壁に背中を預けた。


「……いない」


「いない?」


「ああ…いないんだ…この無数の中をどんなに探しても…毎日、毎日繰り返し確認した…。おそらく彼女は…」


 スタインは眉間に皺を寄せ、目を細めて斜め上を見つめる。


「もうピアノを弾いていない——」

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