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楽器王子〜楽器の中に宿るは王子様!?〜  作者: めんだCoda
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33/49

第33話 恋人関係に

(あ!…きた!)


 主人の東堂麗香がレッスン室に入って30分程経過した頃、あの女の子がやってきた。

 女の子も俺に気付いて、はにかんで笑ったあと、頭をちょこんと下げる。


「こんにちは」


「こんにちはっす」


 隣の椅子に座った女の子は、レッスンバッグから楽譜を取り出すと、真剣に楽譜を見続ける。


「それ、今日レッスンしてもらう曲ですか?」


「はい、そうです」


 楽譜の至る所に、鉛筆の濃い黒色で何かの記号や言葉やら書かれている。


「…ピアノ、好きですか?」


「はい!好きです!」


 満面の笑みで俺の方に振り向く彼女に心臓を鷲掴みされた俺は、その後ずっと彼女から目が離せなかった。


 ガチャ——


 東堂麗香が、レッスン室から出てきた。


「…終わりました。次、花蓮さんどうぞ」


「あっ、ありがとうございます!」


 花蓮と呼ばれた彼女は、素早く立ち上がり東堂麗香と俺に深々と頭を下げて、急ぎ足でレッスン部屋へと入って行った。


「楽しそうね」


「え?」


「顔が緩んでるわよ」


 そう言って、東堂麗香は苦々しい顔をし、俺を睨みつけるようにして、俺の前から足早に歩き去っていく。


 ◇◇◇


 そして、それからレッスンの回を重ねるごとに、俺と花蓮は部屋の前で話すようになった。毎回30分程の束の間の時間ではあったが、話す度に彼女のことを知ることができた。


 花蓮は俺と同じ十代であること。留学期間はもうすぐ終わり、近いうちに日本へ帰国しなければいけないこと。


「帰っ…ちゃうんだ…」


 俺は、隣に花蓮がいるというのに、はーっと深い溜め息が自然と出てしまった。


「残念だな。俺、ここで花蓮さんと話すことが、唯一の癒しっていうか…その、楽しい時間だったから。…そっかあ」


「そんなっ…私なんかのことで、そう言っていただけて…あ、ありがとうございますっ…」


 花蓮は両膝に手を置き、腕をピント伸ばして下を向く。下を向いた顔が、若干赤い。


「本当だよ。…俺、今の生活では楽しいことなんてなくてさ、辛いことが多いんだけど、この時間だけが唯一の救いなんだ。…それだけじゃない、俺……その、こんな所で言うべきことではないのかもしれないんだけど、知れば知るほど、俺、花蓮さんのことが好きです」


「えっ…わ…私…!?でっ…でもっ!スタインさんは、東堂さんとお付き合いされているのでは、ないですか…?」


「違います。それは、ハッキリと訂正させてください。東堂様との関係は恋人とか、恋愛感情が絡むものではありません。そうではなく、俺はとある国の王子で、まあ、いわゆる東堂様の元に修行に来ている、というようなスタンスでして、東堂様は俺の主人なんです」


「ある…じ…?」


「変な言い方に聞こえるかもしれませんが、とりあえず男女間の関係もありません。だから!その…!花蓮さんさえ良ければ、このレッスン室前以外でも、一緒に、その、歩いたり、とかだけでもいいんです、これからも話したりとかできないですか」


 花蓮を見ると、花蓮の頰は紅潮し目はみるみるうちに、うるうると潤い、その小さめの綺麗な形の唇は小刻みに震えていた。


「あの…実は私も…」


 顔を上げ潤んだ瞳で、俺を見つめる花蓮。


「何回もお会いするうちに、私もスタインさんに惹かれていました。でも、東堂さんとお付き合いされているのかと思って、言い出せなくて…。私で良ければ、これからもお会いしたいです。それに、その、私、お散歩も好きです…!」


 ふふッと笑う花蓮の愛らしさに、俺は思わず手を伸ばし彼女の体に触れると、強く抱きしめる。


「ありがとう…!マジで嬉しい!」



 それからだった。俺は、主人の東堂麗香から部屋から出ていくよう追い払われるたびに、1人外出をして、外で花蓮と会うようになった。


 花蓮は、毎日のように民間の練習部屋を借りてピアノの練習をしており、俺がフラッと外に出たときにそこに行けば必ずといっていいほど彼女と会えた。


「いつも、会うのがこんな感じでごめん。時間とか決められなくて、本当にごめん」


「東堂さんとの契約の関係なんでしょ。分かってるから、大丈夫だよ」


 アメリカの広い公園を俺と散歩する花蓮は、健気に笑ってみせる。けれど、その笑顔は無理やり作っているのは分かっていた。


 でも、現状、契約がある以上、どうにもならないのも現実だった。


「私達、この周辺の公園、全部制覇しちゃったんじゃない?」


 無言の俺を気遣ってか、綺麗に手入れされた公園の芝生の上でクルクルっと回り、あえて元気に振る舞う花蓮は可愛くて眩しくて、この世に天使というものがいるならば、彼女だとら本当にそう思った。


「…あのね、実は私、スタインに話さなきゃいけないことがあるの…。私ね、今週末帰国するんだ」


「…え…?今週…末…?嘘だろ…?」


「本当。早く言い出さなきゃって、ずっと思ってたんだけど…言ったら本当に帰らなきゃ行けないんだって、現実を突きつけられるような気がして言えなかったの…ごめんなさい…」


 泣き出す花蓮を抱き寄せると、そっと唇を重ねる。

 告白をしたあとに、花蓮と恋人らしいことをしたのは、後にも先にもこのキスが最初で最後だった。

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