第32話 3番目の主人の嫉妬
どタイプだった。
彼が楽器の国から来た、ピアノの王子だって名乗ったとき、もうそれが嘘か本当かなんて、どっちでも良かった。それほどまでに、見た目がタイプ過ぎた。
そして、話せば話すほど、中身もイケメンなことが分かって、絶対そばから離さない!って、彼は自分のものだって強く思った。運命だとも。
だから、願いを3つ叶えていなくても、彼が1年経過すれば帰ってしまう契約だなんて、認められなかったし、私から離れるなんて薄情なこと、許せなかった。
だから、あえて距離をとって仲良くならないようにしよう、って。そう気持ちを決めたのに。
それなのに、「ごめんね」って、私の手を取って申し訳なさそうに謝るスタインに、やっぱり絆されちゃって、結局、冷たくできなかった。
一緒にお散歩したり、買い物に行ったり、それだけじゃない、1日中一緒だから、本当にまるで恋人のようにずっと寄り添ってくれるスタインに、日に日に気持ちが大きくなっていって、今では心から本当に本当に大好き。
鎖で首輪とか、つけちゃいたいくらい。
だから、許せなかった。
私以外の女に、しかも年齢が私とそんなに変わらないあの女のことを、うっとりした優しい眼差しで見つめるのが。
東堂麗香は、鍵盤の上の指を止める。
「名前——なんて言ったっけ——」
「あれ…演奏が止まった?」
スタインは閉じていた目をパチッと開けると、天井をじっと見つめる。
「まあ、いいっか。とっくにチャージは終わってたし」
スタインはそのままボーっとして、天井を見つめる。
「そういえば、あの子、またレッスンに来るかな」
東堂麗香は日本人だが、レッスンのためにアメリカに滞在している。
東堂麗香の元に召喚されたとき、また日本人の元に来たことに驚いた。同じ「国」に連続して召喚されることはないのだが、「人種」は関係ない。
東堂麗香がアメリカで通っているレッスンの指導者の元で、ある女の子と出会った。その子も同じ日本人で、東堂麗香と同じようにレッスンのために、こちらに短期留学しているらしい。
東堂麗香がレッスン中は、部屋の外の椅子で終わるのを待っていた。そのときに、あの女の子がやってきて、頭を下げて挨拶しながら隣の椅子に座った。
女の子は、大人しそうな雰囲気で、控えめな感じだったが、話してみると優しくてすごく和んだし心地よかった。
「あの子の名前、俺も知りたかったな」
どうやら東堂麗香は、日本では有名らしい。レッスン終了後、部屋から出てきた東堂麗香に出会ったときに、女の子は自ら名乗って丁寧に、恐縮した様子で挨拶をしていたが、東堂麗香に離れるよう手で追い払われ少し離れた場所に移動した俺には、何を話しているかまでは聞こえなかった。
スタインは、ハッとしてガバっと勢いよくベッドから起き上がる。
「今日、主人のレッスン日じゃん…!!」
スタインは飛び跳ねるようにベッドから降りると、片手を上に伸ばして伸びをする。
「また会える…!」
東堂麗香と上手く関係が築けていないスタインにとっては、その女の子と会えることだけが、今の唯一の楽しみだった。




