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最弱の四天王と『異界の勇者』

なんだかんだ平静最後の日にこの話を投稿できるのは嬉しいですね。お待たせしました。

 俺がそいつの姿を見て足を止めたのは、偶然か、はたまた必然だったのか。後から思えば、これは必然だったのだろう。


 最初は、進路上に蹲っている兵士が1人居るくらいにしか意識していなかった。しかし、そいつが普通の兵士とは違うと分かったのは、そいつの周りに飛んできた魔術や矢が勝手に見えない障壁のようなモノで弾かれていたからだ。


 人間は魔術は使えないので、結界魔術は使えないはずだ。しかも、地面に蹲って震えているそいつが意識的に攻撃を防いでいる様子はない。それなのに勝手に障壁が張られている状況は、はっきり言って異常だった。


 そして、俺は人間軍でこのような異常を起こせる人物の名を、1人しか知らない。


「お前⋯⋯まさか、『異界の勇者』か? なんで異界の勇者がこんなところで座り込んでるんだ。巫山戯ているのか?」


 思わずそんな言葉が口から出ていた。自分でも声に若干の怒りが籠っていることが分かる。何故、俺は目の前の異界の勇者らしき人物のことをこんなに意識しているのだろうか。俺はラブ将軍を倒しに向かっていたはずなのに。自分のこの行動が、自分でもとても不思議だった。


 異界の勇者は、俺を見てビクッと身体を震え上がらせ、その態度が俺をさらに苛つかせる。こいつは、異界の勇者の癖に俺みたいなゴブリンなんかにビビっているのか。


 しばらくおろおろと視線を泳がせていた異界の勇者だったが、俺が目を逸らさずにじっと睨み付けていると、ようやくその口を開いた。


「しょ、しょうがないだろ! 戦場がこんな酷い場所だなんて思わなかったんだ!! 勇者の力さえあれば簡単に勝てるって⋯⋯。でも実際は違った。人がゴミみたいにドンドン死んでいく。こんな悪夢みたいな光景には耐えられない。俺はもう⋯⋯元の世界に帰りたい!!」


 悲痛な声でそう訴える異界の勇者の言葉には、嘘が混じっているようには聞こえなかった。まさか異界の勇者に戦場に出た経験がないとは。しかし、驚きはしたもののその事実を知って怒りが収まることは無かった。それどころか、一層怒りが込み上げてくる。


「⋯⋯だからどうした? 戦場に出たことが無いからって、お前がここでこうして震えてていい理由にはならない!! 何故力を与えられたのにそれを活かそうとしない!! 何故必死になって仲間を守ろうとしないんだ!!」


「こんなに苦しむくらいなら力なんていらなかった!! そもそもなんでお前に説教されなきゃならないんだ!!」


「純粋に気にくわないからだ。俺はゴブリンだ。見ての通り魔術具に頼らなければろくに戦うことすら出来ない。お前は俺の欲した力を持ちながら、その力を使うことを放棄してこんなところで惨めに蹲っている。そのことがたまらなく腹立たしい!!」


 怒りに任せて魔術具を放つも、俺の放った魔力の弾丸は異界の勇者に当たる前に障壁で弾かれる。ならばと直接殴ろうと近づくも、やはり触れることすら出来ない。


 あまりに圧倒的な力の差。しかしながら、異界の勇者も俺に何もしようとしないので、お互いに傷つけることすら出来ないまま時間だけが虚しく過ぎていく。


「⋯⋯なあ、お前たち魔族は何でここまでして俺たち人間を殺そうとするんだ? そんなに俺たちが憎いのか?」


 ふいに、それまで黙って俯いていた異界の勇者が口を開いた。何を当たり前のことを聞いているのだろうか。


「そんなの当然だろ。俺はお前達人間のことが大嫌いだ。俺は、お前達人間が俺たちにしてきたことを忘れない。お前人間がこれまで、一体どれ程の数の魔族を奴隷にしてきたと思っているんだ? どれ程の数の魔族を殺してきた?」


「そ、それを言うならお前達魔族だって人間を殺しているじゃないか!? それに、人間が魔族を殺すのは、魔族が人間を襲ってきたからだと聞いたぞ!?」


「魔族と人間、どちらが先に手を出したとかはどうでもいい。どちらにせよ、お互い争う理由と憎むべき理由があって、今ここに居るんだ。それがないのは『異界の勇者』、お前ただ1人だけだ」


 異界の勇者はそれ以上何も言い返すこと無く、再び俯いてしまった。⋯⋯これ以上こんな奴と関わるのは時間の無駄だ。


 俺は、動かなくなった異界の勇者を無視して、ラブ将軍の元へ向かおうとした。


 ――その時だった。視界の端に眩い光の塊が突然現れ、その光の塊が蹲る異界の勇者へとそっと近づく。それが放つ圧倒的なオーラは、俺を振り返らせるには十分だった。


 そして俺は、初めてその光の塊の姿をはっきりと見た。それは、人間の少女の姿をしていた。衣服を纏わず、凹凸の無い身体をさらけ出している。はっきり言って俺の好みとはかけ離れているが、彼女には何となく畏怖のようなモノを感じさせるオーラがあった。


 異界の勇者は、俺以上にその幼女に恐怖しているように見えた。さっき俺が異界の勇者を見つけた時よりも身体が激しく震え、全身から汗を吹き出している。


 そんな異界の勇者に、光り輝く幼女はにこっと微笑むと、すっとしゃがみ込み、異界の勇者の耳に手を当ててこう囁いた。


「⋯⋯役立たず。お主に期待した我が阿呆じゃった。その身体、しばらく借りるぞ?」


「⋯⋯え?」


 呆けた声で聞き返した異界の勇者の胸を、俺の目の前で幼女が一突きした。あれだけ俺の攻撃を弾いていた障壁は作動していない。それだけで、この目の前の幼女がただ者ではないことが分かった。


 変化は一瞬だった。突如眩い光が視界を覆ったかと思えば、先程まで居た幼女の姿が消え、異界の勇者が目の前に立っていた。しかし、その纏う雰囲気は全く違う。


 コキコキと二、三度首を鳴らした異界の勇者は、金色に輝く瞳を俺に向け、ぺろりと唇を舐めて湿らせる。そして、おもむろに掌を前に突きだした。


「とりあえず、目障りなゴミには消えて貰おうかのう」


 咄嗟に発動した魔術具で回避行動をとったが、避けきれずに左腕が消し飛ぶ。異界の勇者が放った光線は、そのまま真っ直ぐ突き進み、進路上の障害物全てを消し炭にした。


 それは、まさに異界の勇者が開戦時に放った聖剣の一撃、それ以上の威力の一撃だった。あまりに突然の出来事に呆然と無くなった右腕を見つめる俺の前で、異界の勇者⋯⋯いや、彼の身体を乗っ取った太陽帝は、両手を大きく天に掲げ、さらに俺たちに絶望を叩きつける。


「さてお前達、我は死ぬことなど許可しておらぬ。さっさと戦線に復帰するがよい」


 高く掲げた両手から溢れんばかりの光が飛び出し、戦場に流星の如く降り注ぐ。すると、それまで物言わぬ死体と化していた兵士たちが一斉に息を吹き返し始めた。


「あれ、ローズは一体⋯⋯?」


「ボ、ボクは確か死んだはずでは⋯⋯? いや、カッコイイボクが負けるなんてあり得ない。あれは夢だったのだな!!」


 そして最悪なことに、異空間に放り込まれたラブ将軍を除いた三大将軍まで復活を果たしてしまった。そんな絶望的な状況にいち早く気付いたのは、この戦場においてはシルバただ1人。しかし、その外では同じくこの自体に気付き戦慄している者が居た。


「まさか⋯⋯!? こ、こんなことがあっていいはずがない!! これじゃあ、グレアやパフェットたちが頑張った意味が⋯⋯」


 魔術を用いて戦況を見ていたヴィオレッタは、先程の光によって人間軍の兵士が全て復活したのを見てしまった。これからまた数を減らそうにも、最初に放った大規模魔術を放てるだけの魔力はもう残っていない。あまりにも絶望的すぎる状況に、ただただ言葉を失っていた。


「⋯⋯これは酷いね。あいつ、お互いに直接戦争に関与しないっていう我々の決まりをギリギリのラインで踏み越えてきやがったわけか。こりゃあ、相当本気だね。⋯⋯流石の魔王様も、ちょっぴり怒っちゃったよ」


「魔王様!? いつからそこに!? ⋯⋯いや、今はそんなことどうでもいいです。魔王様のお力でどうにかなりませんか!? このままでは、皆死んでしまいます!!」


 ヴィオレッタの背後に突然現れた魔王は、普段あまり見られない無表情でヴィオレッタの映す戦況をじっと眺めていた。その隣には、不安げな顔のライムも付き従っている。


 そんな魔王に、ヴィオレッタは必死に懇願した。自分の力ではこの状況を覆すことは困難でも、魔王なら何とかしてくれるのではないか。しかしそんな期待は、すぐに打ち砕かれることとなる。


「残念だけれど、魔王様には何も出来ないんだ。かつて⋯⋯どの時代の魔王かは分からないけれど、遙か昔にも同じように人間と魔族で争いが起こったことがあったんだ。その時は、当時の太陽帝も、その時代の魔王も全力を出してお互い争った。その結果、世界の機能が停止するほどの大災害が起こってね。それ以来、魔王とそれに対抗する太陽帝は直接争いに関与することを禁じたんだ」


「でも⋯⋯!! 現に太陽帝が戦場に出ているじゃないですか!!」


「あれは一応、『異界の勇者』の身体を借りて、その力で出来ることを少しだけパワーアップさせているだけに過ぎないんだよ。⋯⋯ギリギリのラインって言ったのは、そういうことさ」


「それじゃあっ⋯⋯!! 私にただ皆が死ぬのを黙って見ていろと言うのですか!?」


「そんな酷なことは言わないよ。それに、魔王様だってこのままやられっぱなしは癪だからね」


 魔王は、戦場を睨み付け、自分がこれから行おうとしていることを託すのに最も相応しい人物を探す。魔王が行おうとしているのは、大規模転移魔術。それを用いて兵士たちを魔王国の領土へと一斉に返す撤退策だ。


 しかし、それを行うためには時間がややかかる。魔術を発動させるまでにある程度時間を稼ぐ必要があり、その役目を誰かに託す必要があった。


 なるべく戦場の前線に出ている者、そして単独でもある程度の実力を持っている者。その2つの条件を持っている人物を、ようやく魔王は探し当てた。


「⋯⋯彼がここに居るのは、果たして偶然なのかね。我ながら、自分の勘って奴が怖いよ」


 そして魔王は、どっちみち後でヴィオレッタに罵倒されそうだななどと思いつつ、シルバに通信を送ったのであった。



〇〇〇〇〇



『あー、もしもしシルバ、聞こえるかい? 魔王様だよ』


 魔王様からの通信が俺に届いたのは、目の前で絶望的な蘇生行為が行われている真っ最中のことであった。止めようにも相変わらずあの障壁に阻まれて攻撃できず、途方に暮れていた俺にとってその通信はまさに天からの救いであった。


「聞こえます!! 魔王様、戦況は最悪です!! このままでは全滅しかねません!!」


『分かっているよ。だから君に通信を送ったんだ。今から私が大規模転移魔術で戦場に居る兵士を皆マ王国に転移させる。ただ、そのためには時間がかかるんだ』


「⋯⋯つまり、俺に時間稼ぎをして欲しいというわけですね?」


 それだけで、俺には魔王様が俺に何を求めているかが理解出来た。姿は見えないが、魔王様は無言で頷いているに違いない。


『察しが良くて助かるよ。時間稼ぎのための力は貸す。だから⋯⋯悪いシルバ、死んでくれ』


「魔王様の望みのままに」


 この状況で時間稼ぎをするということは、すなわちここから生きて帰れる可能性は限りなく低いということだ。それを分かっているからこそ魔王様は俺にそう命じ、そしてそう命じられた以上俺は任された使命を果たすだけだ。


「⋯⋯森羅万象、大地讃頌!! 絶対不可侵の防壁を我が手に!! 『―利己主義の塊―《プロテクション》』!!」


 とりあえず、俺の背後に大きな結界を張る。復活している兵士たちは全員身体を乗っ取られた異界の勇者よりも後ろに居る。ここで結界を張っておけば仲間たちには手が出せないはずだ。結界の向こうにも少し兵士が残っているが、あれくらいの数ならパフェットやマリーが何とかしてくれるだろう。


『シルバ。君に私の力の一部を貸す。私の得意とする魔術は、言葉に魔力を乗せる『言霊魔術』。君の言葉で、太陽帝のクソババアに乗っ取られた勇者の意識を取り戻すんだ。そうしないと、結界魔術は簡単に破られてしまうぞ!』


「ありがとうございます!!」


 魔王様からの通信が切れると同時に、身体に魔力が漲ってくるのを感じた。魔王様から貰った力を頼りに、俺は異界の勇者へと語りかける。


「おい勇者!! 聞こえているのか!? いつまでも操られたままでいいのか!? 勇者ならもっと根性みせろよ!!」


 俺の言葉に、蘇生行為を続けていた勇者の耳がピクッと動いたのが見えた。攻撃は防がれてしまうが、言葉なら防ぐ手段はない。続けて声をかけようとしたところで、辺りが白いモヤに包まれていることに気が付いた。


「『毒白(どくはく)』。⋯⋯あの方に再び貰った命、ローズは無駄にはしませんよ」


 どうやら、先程蘇った『毒蛇将軍』、ブラッド・ローズが妨害してきているみたいだ。おそらくこの白い霧みたいなのは毒だろう。身体が丈夫なグレアならともかく、俺が吸ってしまったらそれだけで致命傷になりかねない。慌てて息を止める。


 しかし、息が出来なくては勇者に声をかけることが出来ない。しかも、視界は未だに不透明なまま、毒蛇将軍の相手もしないといけない最悪な状況だ。


 一体どうすればよいのか。焦りだけがつのる中、急にモヤが何かに吸い込まれるかのように消えていく。驚いてそのモヤが吸い込まれた先を見ると、そこには腕の中にツボの形をした魔術具を持ったムエが立っていた。


「ムエ!? なんでここに居るんだ!? お前はチャラと一緒に行動しているはずじゃ⋯⋯」


「水くさいですわよ、シルバ様。わたくしのドMセンサーに従うがままに前線へ来てみれば、目の前で結界が張られそうになっているではありませんか。慌てて滑り込んでみればこちら側には味方はシルバ様1人という状況⋯⋯ご褒美を独り占めなんてさせません。わたくしも共に戦いますわ!!」


「やめてくれムエ!! 俺は目の前で誰も死なせたくない!! 頼むから結界の向こうに下がってくれ!! これは命令だ!!」


 それは、俺の本心からの叫びだった。魔王様の命令をすんなりと受け入れたのも、元々俺は誰かを目の前で死なせるくらいなら自分が死ぬと決意していたからだ。しかし、いつもなら命令を素直に聞くムエも、この時は首を縦に振ろうとはしなかった。


「⋯⋯その命令だけは聞けませんわ。こんな変わったわたくしを軍師として扱ってくれる人なんて、シルバ様以外におりませんもの。わたくしは最期まで、貴方の軍師として隣に立っていたいのです」


 俺を見つめるムエの瞳には、揺るぎない決意が見えた。それならば、俺の下すべき命令はただ1つ。


「⋯⋯ああ分かった。お前はホントとんだ変態ドM馬鹿野郎だな!! そこまで言うなら、俺の隣で死ぬまで立ってろ、この雌豚ぁぁぁl!!」


「ぶ、ブヒィィィ!!! こんな時にご褒美なんて、わたくし、興奮してしまうじゃないですかぁぁぁぁ!!!!」


 歓喜で身体をくねらせたムエは、ブヒブヒと荒い鼻息を立てながら、宣誓魔術を唱え始める。


「せ、『宣誓』!! 我は全てを受け入れる者なり!! 悠久なる大地は全ての生き物に慈愛を与え、大いなる恵みをもたらすモノ。大地の慈愛をもってして、我は今、全てを受け入れる!! ⋯⋯さあ、わたくしに熱いキスの雨を降らせて!? 『―私だけを見て―《スポットライト》』!!」


 ムエが宣誓魔術を唱えた途端、目の前の敵全員の視線がムエの方へと向かった。そして、そのまま一斉にムエ目掛け攻撃をし始める。その中にはローズ将軍の放つ毒の霧もあったが、その全てがムエに集まり、俺には攻撃は届かなかった。


「アハハハハ!! さいっこうに、気持ちイイですわぁぁぁぁ!!!!」


 ズタボロになりながらも歓喜の声を上げるムエ。彼女の献身は決して犠牲にはしない。俺は、蘇生行為を終え再び聖剣の一撃を放とうとしていた勇者に向かい、魔力を乗せた声をかける。


「おい勇者!! お前はこのままだと一生何も出来ずに地面に蹲った敗北者のままだぞ!! それでいいのか!! 男なら、少しは意地を見せやがれくそったれぇぇーーー!!!」


 すると、勇者は聖剣を振り下ろそうとした腕を止め、こちらの方を見た。その表情には、確実に怒りが籠っている。俺の声が届いたのだ!!


「誰が⋯⋯誰が敗北者だこの野郎ーー!!」


「やればできるじゃないか!! よし、勇者、俺とお前で勝負をしようぜ!! 邪魔の入らない一騎打ちだ!!」


「上等だ⋯⋯オラぁぁぁ!!!!」


 常に叫んでいるのはそうしないと精神が乗っ取られてしまうからだろうか。若干五月蠅いがこの際構わない。今は兎に角、勇者の意識を完全に引っ張り出すことが最優先だ。


「お前の聖剣の一撃を俺に撃ってこい!! もし俺がそれを止められたら、お前はもう魔族を攻撃するな!! その代わりに俺が止められなかったらその時はお前の好きにしろ!!」


「分か⋯⋯った!! やってやろうじゃねえかぁぁぁぁーーーー!!!!!!」


 勇者は叫んだ勢いそのまま、聖剣を俺目掛け振り下ろす。その一撃を受け止めるべく、俺は全力で宣誓魔術を唱える。


「⋯⋯『宣誓』、我は全てを守る者なり!! 悠久なる大地は全ての生き物に慈愛を与え、大いなる恵みをもたらすモノ。しかし今は我が後ろに立つ者たちだけを守る力を我に授けたまえ!! 森羅万象、大地讃頌!! 絶対不可侵の防壁を我が手に!! 自分勝手に、命を賭けて!! たとえ誰かに恨まれることになろうとも、俺は全てを守る盾となる!! 『―絶対利己主義の塊―《アブソリュート・プロテクション》』!!!」


 直後、とてつもない衝撃が襲い来る。最初に受け止めた時の倍以上の衝撃だ。どうやら、勇者も勇者で吹っ切れてかなり本気を出しているらしい。


「「うおおおおおおおおおおお!!!!!」」


 お互いに叫びながら、互いの全力をぶつけ合う。勇者の聖剣にヒビが入り、俺の左腕の先端が崩れゆく。霞む視界の中で、ムエが力尽きて倒れ伏すのが見えた。⋯⋯よく頑張った。あいつは自慢の軍師だ。


 徐々に後ろに押されながらも、必死に結界を維持する。踵が自分の張った結界に触れた。そういえば、転移魔術の発動はもう済んだだろうか。確認したいが、そんな余裕はない。


 結界に僅かなヒビが入った。そのヒビから光が飛び込み、顔面にぶつかる。顔の右半分が吹き飛んだ。痛みで意識が飛びそうになるが、ここで気を失うわけにはいかない。


 下半身は既に動かなくなっていた。どうやら、魔術を使い続けた影響で身体が石化していっているようだ。だが、それならそれで構わない。石になった方が、固い分踏ん張りがきく。


 未だに衰える気配のない光の本流。それを一身に受け止める俺の頭上から、柔らかな光がすうっと差し込む。その光が照らすのは、俺が愛したたった1人の女性、クルルだった。


 天使の羽根を生やしたクルルは、ゆっくりと俺の傍に降り立つと、頬に軽く口づけをする。その瞬間、俺の魂は身体から抜け落ち、魂の抜けた身体は完全に石と化した。それと同時に、勇者の聖剣がバラバラに壊れる。


 聖剣の一撃は、俺の結界を破壊することは出来なかった。俺は、勇者との勝負に勝ったのだ。


「なあ、クルル。俺やったよ。ゴブリンが、勇者との勝負に勝ったんだぜ? 凄いだろ」


「うん、シルバ君は凄いよ。最高にかっこよかった」


 クルルに手を引かれ、俺は光の柱の中を天へと昇っていく。


 俺は、四天王では最弱だったが⋯⋯異界の勇者に勝利した、唯一人の四天王となったのだ。



あと2話で完結します。

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