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ヴィオレッタvsラブ・ハート

お待たせしました。最近サボり気味でいけませんね。この物語もあと数話で終わりますので、是非最後までお付き合いください。

《sideシルバ》


 現状、士気的にはやや魔族軍が有利といった感じだ。しかし、未だ人間軍の方が数が多い。俺以外の四天王が活躍しているおかげでだいぶ数は減ったが、それでもまだ油断できない。


 飛んできた矢を腕にはめた魔術具ではじき飛ばしつつ、俺は戦場に視線を巡らせる。この戦場における俺の役割は遊撃。攻め込まれている場所があるならすぐさまそこに行き、手助けしてはまた別の場所に殴り込む。


 最初に宣誓魔術を使ったことで体力がもつかという心配はあったが、事前に作っておいた回復薬とスタミナ剤を飲んだので問題なく動くことが出来ていた。


 目の前の弓兵を魔術具で倒したところで、俺の傍にマリーが駆け寄ってきた。四天王およびヴィオレッタさんの操る人形でもある彼女は、確か後方から支援する役割だったはずだ。何故こんな前線近くまで出てきているのか。


「おいシルバ。貴様に伝えておくべきことがある。⋯⋯マスターが今戦っている相手は、ラブ・ハートだ。奴は貴様の敵とも呼べる人間だろう?」


 しかしそんな疑問は、マリーの口から出てきた名前を聞いてたちまち吹き飛んだ。ラブ・ハート⋯⋯。奴は確かに、ククルの命懸けの転移魔術で道連れになり死んだはずだ。しかし、ヴィオレッタさんが俺にこのタイミングで嘘をつく理由がない。何があったかは分からないが、奴は生きていたのだろう。


 それならば、俺が取るべき行動は1つしか無い。


「⋯⋯すいませんマリー。俺は奴のところへ行かないといけません。ここを頼みます!」


「元よりそのつもりだ。最も、マスターはお前に知らせるつもりは無かったようだがな。したがってこれは我の独断だ。後で庇ってくれよな?」


「もちろんです!! 感謝します!!」


 マリーに持ち場を任せ、俺は戦場のド真ん中へと駆けていく。ヴィオレッタさんが居る場所はここからでも分かりやすい。道中の兵士たちの攻撃は極力かわして余計な体力を消耗しないようにしつつ、俺はククルの仇を討つべくその場所へと向かうのであった。




《sideヴィオレッタ》


「喰らいなさ~い! 新兵器『金玉砕(きんぎょくさい)・改』の力を!! オンドリャアぁー!!」


 ラブ・ハートの武器『金玉砕』は、元々巨大な棒の先端に巨大な金色の玉が付いた形であった。しかし、身体のほぼ全てを機械化したラブ将軍に合わせ、その武器も改良・進化を加えられていた。


 巨大な玉の代わりに棒の先端に付いたのは、高速回転する巨大円錐だ。その尖った形状を最大限に活用し、抉るようにヴィオレッタの掌を突いてくる。


「くっ⋯⋯! 魔術で防御しているのにダメージが入るなんて、あの武器はかなり危険ですね⋯⋯」


 遠距離から手を魔術で投影させ戦場に顕現させているヴィオレッタ本人にもダメージが入る程の鋭い攻撃に、ヴィオレッタは一旦手を空高くへと引っ込める。


「しかし、まさかあのラブ・ハートが生きているとは⋯⋯。これはシルバさんに知らせるわけにはいきませんね。彼を動揺させたくはありませんし。ただ、マリーには一応知らせておきましょう」


 まさかそのマリーがシルバに伝えるとは思わずに、ヴィオレッタはマリーに通信を送りラブ・ハートの生存を知らせる。そして改めて手元の本に映るラブ・ハートの姿を見た。


「以前聞いていた姿とはだいぶ変わったように見えますね⋯⋯。帝国の科学力で何とか一命を取り留めたといったところでしょうか? それとも、彼の恩恵による力か⋯⋯。まあ、そんなことはどうだっていいです。シルバさんの代わりに仇を討たせて貰いますよ」


 ククルが死んで打ちひしがれていたシルバの姿はヴィオレッタの記憶にも新しい。彼を悲しませた元凶とも言えるラブ・ハートを前にして、ヴィオレッタは珍しく怒っていた。


 一方、ラブ・ハートもまた目の前で数多くの部下を殺した巨大な手に対し怒りを抱いていた。元々彼は魔族が大嫌いなのだ。その上殺された部下の中には彼の愛人(男)も混ざっていた。怒り心頭なラブ・ハートは、空中に浮かぶ巨大な手に追撃を加えるため、新兵器を稼働させる。


「空に逃げようたって、そうは問屋が卸さナッシングよ~!! 『Hバーナー』、点火!! Hチチチチチチ、勃ッ!!!!」


 股間のネジがいきり立つのをスイッチに、ラブ・ハートの足の裏に装着されたバーナーが点火、同時に彼の巨体は宙に飛び上がり、上空のヴィオレッタの元へ向かう。


「⋯⋯汚らわしい。堕ちなさい」


 そんなラブ・ハートを冷ややかな瞳で一瞥したヴィオレッタは、指先から魔術を放ち、ラブ・ハートを撃墜せんとする。しかし、ラブ・ハートは慣れた動きで向かってくる魔術をかわし、避けられない魔術は武器で弾き徐々にその距離を詰めてくる。


「ちょこまかとめんどくさい奴ですね⋯⋯。いい加減堕ちてください!!」


 ヴィオレッタは掌の中心に魔方陣を展開、その魔方陣の効果で掌と地面の間の空間の重力を数倍に膨れあがらせた。回避のしようのないこの魔術にはラブ・ハートも地面に叩きつけられてしまう。それでも立ち上がることが出来るのは流石といったところだろうか。


「グギギ⋯⋯!! ワタシはやられるわけにはいかないのよ⋯⋯!! ワタシは『三大将軍』の1人、ラブ・ハート!! ワタシがここで地面に膝を付くことは、愛するスイートハニー達が絶望することを意味するのよ。この名を背負った以上、もうワタシに敗北は許されないのよぉぉ!!」


 天に向かって吠えるラブ・ハート。その口の中で眩しい光が生成される。咄嗟に防御魔術を張ったヴィオレッタであったが、ラブ・ハートが口から放った球状のエネルギー弾は、その防御魔術を打ち破り巨大な手の中心に大きな穴を空けた。


「ハア、ハア⋯⋯! ど、どうかしら? これはワタシが以前魔族を道連れにした爆弾の威力を1点に集中させることでさらに破壊力を増した新兵器、『愛・恥球吐(ちきゅうはく)』よ!! ざまあみやがれこのクソ魔族!! ハニー達の仇は討たせて貰ったわよぉぉぉ!!!」


 穴が空いた箇所から、真っ黒な液体のようなモノがボタボタと滴り落ちている。その液体を全身で浴びながら、ラブ・ハートは高らかに勝利宣言をした。



「なんか勝ち誇っているところ悪いですけれど、あの手は魔術であの場所に投影させているだけなので、リンクさえ切ればこちらにダメージは一切入りませんよ? まあ、こちらの声は聞こえないでしょうが⋯⋯。とはいえ、あれを壊されたのはムカつくので反撃します」



 いつの間にか空から消えていた巨大な手の代わりに、滴り落ちる黒い液体で地面に魔方陣を描いていたヴィオレッタは、そこから無数の手を顕現させた。ここでようやくまだ倒せていなかったことに気付いたラブ・ハートは慌ててHバーナーを稼働させ上空へ逃げようとしたが、その前にヴィオレッタが雷魔術でHバーナーを破壊していたためそれは叶わなかった。


「最初からこうしておけば良かったですね。相手が機械なら、機能を停止させれば全く怖くありません」


 雷魔術で機械部分の機能を停止させられたラブ・ハートは、ろくに抵抗することも出来ずにヴィオレッタの手によって拘束されてしまった。これはまさに機械でパワーアップした故の弊害だろう。一応雷魔術対策で電気を通さない部品なども使っていたようだが、それだけではヴィオレッタの高度な魔術の前には無力であった。


「このっ⋯⋯!! 離しなさいよこのクソ魔族!! アンタらなんかに触られたらこっちまで穢れるじゃないの!!」


「失礼ですね。私は毎日手も洗っていますし、お風呂にも入っています。貴方が何故そこまで魔族を毛嫌いするかは知ったこっちゃないですが、変な偏見を押しつけないでください」


「アンタら魔族はいっつもこうよ!! その理不尽さでワタシの大切なモノを皆奪っていく!! ワタシの両親も、妹も、皆皆魔族に殺された!! だからワタシは誓ったのよ!! アンタらに大事なモノを壊される前に、アンタら魔族をワタシが殲滅してやるって!!」


「理不尽と言うならば、この世界そのものが魔族にとっては理不尽です。私たち魔族は何度も何度も人間に倒され、生きる場所を奪われてきた。自業自得とまでは言いませんが、貴方に同情する気は微塵もありません。⋯⋯では、さようなら」


 地面から伸びた無数の腕が、ラブ・ハートに絡み付き、その身体を魔方陣の中に引きずり込む。ラブ・ハートは最後まで抵抗しようともがいていたが、身体のほとんどをろくに動かせない状態では踏ん張ることは出来ず、結局魔方陣の中に吸い込まれ姿を消してしまったのであった。


「⋯⋯1度死んだと思ったら生きていたような貴方をすぐ殺す方法が思いつかないので、異空間の中に引きずり込ませて貰いました。私が手を離せば、貴方は永久にその空間の中で彷徨うことになります。時は止まったままですので、運が良ければいつか出られるかもしれませんね? まあ、何百年後になるかは分かりませんが。さて⋯⋯」


 ラブ・ハートの処理を無事終えたヴィオレッタは、再び視線を上空に飛ばして戦場の様子を眺めることにした。マリーが教えたのか、シルバがすぐ近くまで迫っているのが見えた。あと少し遅れていたら彼とラブ・ハートが顔を合わせることになっていただろう。彼の仇を先に倒したことは少々申し訳なく思うが、これで良かったと思う。ヴィオレッタは彼のあんな姿をもう一度見たくはなかった。


 しかし、安心したのも束の間、シルバが立ち止まった視線の先に居る相手を見て、ヴィオレッタは思わず息を呑んだ。


 そこに座り込んで居たのは、人間軍の最終兵器、『異界の勇者』。何を思ったかシルバは、『異界の勇者』を睨み付けその正面に立っていたのであった。 


次回、『最弱の四天王』と『異界の勇者』です。

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