グレアvsローズ
本当は20話で納めるためにも戦闘シーンはスキップ気味で行く予定だったのですが、思った以上に筆が進んだので四天王全員の戦闘シーンを書くことにしました。
そんなわけで20話超えるの確定です。もう少しお付き合いください。
ヴィオレッタの大規模魔術が敵陣で発動し、見事戦況を掻き乱していることを確認した魔族軍は、それを合図に進軍を始めていた。
「よーし、ようやく出番か! 一番乗りはアタイが貰ったぁ!! ついてきな、お前達ぃ!!」
その中で真っ先に1人飛び出したのは、四天王のグレア・デストロイだ。グレアの声に従い後ろを付いていくのは、直属の部下である『紅蓮隊』の兵士たちである。
グレアを先頭にした一行は、矢のような速さで人間軍の構える陣の左翼目掛けて突っ込んでいく。本来なら人間軍はこれに即座に対応が出来たはずだが、ヴィオレッタの魔術による混乱の影響で、その突撃を防ぐことは出来なかった。
「ふはははぁぁぁ!! 邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁーー!!」
魔獣に騎乗している部下とは異なり、自らの足で地を駆けるグレアは、そのハンデをもろともせずに真っ先に敵陣に突っ込み、人間たちをなぎ倒していく。まさに文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げの大暴れで、グレアが通り過ぎた後には首のもがれた人間族の死体だけが転がっていた。
その後ろに続く『紅蓮隊』の兵士たちも負けていない。グレアほどの勢いはないものの、魔族特有の剛力と魔術でもって、白銀の鎧を真っ赤に染めていた。
「ハッハッハ!! おいおい、これじゃあつまらねえぞ!? もっとアタイを楽しませる強い奴はいねぇのかよぉ!!」
グレアの暴れっぷりを間近で見ていた人間軍の兵士たちは一様に恐怖に震えていた。顔を血で濡らしながら、強敵を求め笑みを浮かべるその姿は、まさしく魔族に相応しい恐ろしいものだ。さらに、兵士の中には四天王グレアの直属部隊である『紅蓮隊』の名前の所以が、白銀の鎧を敵の血で紅蓮に染めるからだという噂話を思い出して顔を青くする者も居た。
しかし、そんな兵士たちの視界が突然白いモヤのようなものに覆われる。兵士の中にはこのモヤを産みだした人物を知っている者も居たが、慌てて目と口を閉じた者以外は皆謎の吐き気に襲われ蹲ってしまう。
そして、それと同様の事態が魔族側でも起こっていた。『紅蓮隊』の兵士たちは謎の吐き気により倒れた者が出たことで慌ててモヤから飛び出し、戦線から退く。そして、モヤの中にはグレア1人が残された。
「なんだぁ、この白い霧みたいな奴。誰の仕業だコラ。隠れてないで姿見せろよ!!」
「⋯⋯ローズの『毒白』の中で何故ピンピンしていられるんですか。理解出来ません早く死んでください目障りなんです」
「そこにいんのか!! オラぁ!!」
ボソボソと囁くような声と共に、霧の中から飛来してきた針を寸前のところでかわすと、グレアは針が飛んできた方向へと突進する。それはほぼ反射的な行動だったが、結果としてモヤを晴らし、隠れていた人物の姿を視界に入れることが出来た。
その人物⋯⋯味方を巻き込むことも気にせず辺りに気体状の毒を撒き散らした『毒蛇将軍』ブラッド・ローズは、未発達な身体を妖艶にくねらせ、今まさに腹部から上昇させた自身の胃液をグレア目掛け吐き出そうと構えていた。
「馬鹿の行動は読みやすくて助かります⋯⋯『毒吐燐』」
「⋯⋯っ!? クソっ!!」
グレアは咄嗟に両手で顔を覆い、両目に毒が入ることを防いだ。毒を浴びた両腕は焼けるように痛いが、視界が奪われるよりマシだ。間髪入れず反撃のために蹴りを入れるも、ひらりと跳躍してかわされ、思わず舌打ちをする。どうやら見た目通り身軽らしい。
距離を離したローズは再び『毒白』を吐き、白いモヤの中に姿を隠す。
「その馬鹿力、貴女は四天王のグレア・デストロイですね? 正直貴女がこっちに来てくれてローズも安心しました。パフェット・スパイダーやマリー・ゴールド相手だとローズの得意な絡め手はあまり効果があると思えませんし。それに、貴女は馬鹿そうですし」
「あぁん!? おい、馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!! 取り消せよ今の言葉ぁ!!」
「馬鹿って言われて怒るのが馬鹿な証拠です。そろそろ無駄な会話も飽きましたし、何よりローズはとっとと帰りたいので、さっさと殺されてください。『毒追矢』」
ローズの袖の中から、2匹の毒蛇が飛び出し、グレア目掛け放たれる。グレアは流石の勘でモヤの中からいきなり現れた蛇をかわすも、すれ違いざまに首を伸ばした蛇に脇腹を噛まれてしまう。
「痛っ!! 何しやがんだこんにゃろー!!」
しかし、本来一噛みで死に至らせる毒を持つ蛇の牙は、グレアの筋肉に阻まれ毒を送り込むことは叶わずにはたき落とされてしまう。恩恵による体質変化の影響でモヤの中でも視界のきくローズはその様子を見て忌々しげに爪を噛む。
「なんなんですかあの筋肉ダルマは。ローズのペットに噛まれても平気だなんてどうかしてます。こうなったら⋯⋯」
一方、グレアもまた隠れてばかりのローズに対し怒りをつのらせていた。タイマン勝負を好むグレアにとって、ローズのこの戦い方は邪道と呼べるものだった。怒りに任せ地面の石を蹴り飛ばすも、ローズに当たった様子はない。それどころか、ローズは何やらブツブツと呟いている様子だった。
声が小さかったためよく聞き取れなかったそれが、どこかで聞いたことのある詠唱と似たモノだと気付き驚きに目を見張ったその時には、ローズの詠唱はほぼ終わりに近づいていた。
「おいてめぇ!! 何で人間のお前が『宣誓魔術』の詠唱なんてしてやがるんだよ!?」
「⋯⋯加速と混沌の象徴の翡翠よ、我に力を。『宣誓魔術』なら、昔手に入れたエルフの奴隷から教えて貰ったんですよ。この魔術、契約さえできれば魔力はいらないみたいですしね。さて、ローズの全力、お見せします。『―言いたいことも言えないこんな世の中じゃ―《ポイズン》』!!」
ローズが詠唱を完了した瞬間、それまで立ちこめていたモヤが消え、グレアの視線がローズの姿を捉える。しかし、その姿は先程チラリと見た時とは全く異なっていた。
幼女に見間違う程未発達だった身体は大人の女性の豊満な身体付きへと変化し、元々長かった髪はさらに長くなり、宙で生き物のように蠢いている。しかし何よりも変化したのは、身体の色だろう。ローズの身体は、全身が髪と同じ紫色に染まっていた。
「ふふふ、どうです? ローズのこの姿は。”毒”創的な魅力に満ちあふれているでしょう?」
「⋯⋯確かにこっちの方が好みだな。なあお前、今ほとんど人間やめてるぜ? それ気付いているか?」
「ローズは別に特別魔族に特別嫌悪感を抱いているわけじゃありませんので。ローズが嫌いなのは、ローズの敵になる奴とローズを馬鹿にする奴です。なので、さっさと死んでください。『毒線浴』」
ローズは殺意と共に、グレア目掛け髪の毛を線のように伸ばし襲いかかる。グレアは向かい来る髪の毛に対し大声で吠え、その衝撃で髪の毛を吹き飛ばす。
しかし、衝撃を逃れた髪の毛が数本グレアの肩や膝に突き刺さった。今度は先程の毒蛇の時のように弾かれることなく、毒が送り込まれたことでグレアの動きが止まる。
「く、クソっ⋯⋯! 身体が動かねぇっ!!」
グレアは無理矢理にでも身体を動かそうともがくが、もがけばもがくほど髪が刺さった箇所からは血が噴き出し、無駄なダメージを負うだけであった。そんなグレアをぬらっとした視線で舐め回しながら、ローズはゆっくりと近づいていく。
「無理に動かない方がいいですよ。ローズの毒は特別ですから、血清もありませんし無理に動けば筋肉の方が壊れます。ただ、さっき撃ち込んだ毒は致死量じゃありませんから、今すぐ楽にしてあげます。感謝してくださいね。⋯⋯『毒露』」
徐にグレアの頬に手を添えたローズは、成長した身体でも届かない身長差を埋めるべく背伸びをして、動けないグレアにそっと口づけをした。
ローズの奇行に目を丸くするグレアだったが、ローズの舌がねっとりと口内で絡み付き、自分の喉の奥に唾液を送り込んだところでその行為の意図を察した。
しかし、気付いた時には防ぐ術はない。グレアの見開かれた目からはたちまち血が噴き出し、全身がビクンビクンと痙攣を始める。それでも構わずに口づけを続けるローズの表情は、どこかうっとりとしたものであった。
「ふう、ふう⋯⋯! やっぱり、これは、病みつきに、なりますね! ローズの手で”死”を贈り付けている感じが、たまらなく、興奮します⋯⋯!!」
ちゅぱっ! と息継ぎのために口を離したローズ。口から垂れた毒液を拭いながら、グレアを見つめるその視線には、どこか愛しさも込められているように見えた。それに対し、グレアは瞳から血を流しながらも、未だに敵意剥き出しでローズを睨み付けている。
「クソ女⋯⋯! ぜったい、許さ、ねぇ⋯⋯!!」
「⋯⋯驚きました。貴女、まだ喋れたんですね。ねえ、ローズ実は、今貴女に恋をしているんですよ。だって、ローズの全てを受け止めて死んでくれるって、それって最高に素敵な愛のプロポーズだと思いませんか? 貴女はローズの何人目の恋人になってくれるんでしょうか。ローズ、貴女が死ぬのが本当に待ち遠しいです!!」
キラキラと瞳を輝かせ両手を握りしめるローズは、まるで恋する乙女のようで、グレアからしてみればとても不気味に見えた。
ローズの言っていることは、全く理解出来ないし、理解したくも無い。グレアに分かっていることはただ1つ。
⋯⋯このクソ女の思い通りに死んでなんかやるもんかよ!!
グレアの心の叫びに答えるように、全身に怒りがみなぎる。怒りは、グレアにとっての原動力だ。種族的に魔力を持たない魔族であるグレアにとって、この状況を覆せるのは魔術でも、そして『宣誓魔術』でもない。そもそも、グレアは宣誓魔術を学んでいない。
グレアが信じるのは、己の肉体。そして、己の心だ。グレアが信じる己の心と身体は、これくらいで諦めて止まるほど弱くは無い。何故なら⋯⋯
「アタイは”力”の四天王、グレア・デストロイだぁぁぁぁ!!」
気合い一発、雄叫びと共に筋肉を唸らせ、グレアは目の前のローズに殴りかかる。その一発で、上の空だったローズの上半身は簡単に吹き飛び、呆気なく命を散らした。
「弱っちいな⋯⋯。お前、もうちょい身体鍛えた方がいいぞ? まあ、死体に何を言っても無駄、か⋯⋯」
先程の一発で力を使い果たしたグレアは、地面に倒れる。しかし、その身体が地面に着く前に支える者が居た。
「ふぅ~! シルバ様に頼まれてグレア様の部隊の様子を見に来たかいがあったッス。⋯⋯これ、死んでないッスよね? とりあえず転送用の魔術具でヴィオレッタ様のところに送れば、あの人なら何とかしてくれるはず⋯⋯ッスよね?」
不敬とは知りつつもぺしぺしと頬を叩いても全く反応を示さないグレアのことを若干心配に思いつつも、チャラは四天王随一の肉体派であるグレアの生命力を信じ、魔術具でヴィオレッタの元へとグレアを運んだのであった。
こうして、左翼でのぶつかり合いはローズが死亡したことで魔族側に分配が上がった。しかし、グレアが戦線を離脱したことにより、魔族軍も大幅に戦力を削られることとなる。
そしてその同時刻、右翼側でも人間軍と魔族軍の衝突が起こっていた。
次回、パフェットvsアレックスです。




