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戦いの前に

お久しぶりです。ここからラストスパート。なるべく近いうちに投稿する予定ですので、最後までお付き合いください。

 太陽帝の居城、その中の一室に置かれた円形状のテーブルを囲むようにして座るのは、この国の実力者たち。その中には『異界の勇者』である俺、イトウ・ユウキも不本意ながら数えられている。


 別に、勇者として扱われることが不本意と思っているわけではない。町を歩くだけで町人たら「あ、イトウ・ユウキ様だ!」と尊敬の籠った眼差しで見つめられるのは少々照れくさいが、悪い気はしない。


 俺が不本意と感じているのは、この場に居る俺以外の面子と同列だと見なされてしまうことである。もっと具体的に述べるならそう、今俺の正面に座ってこちらに熱い視線を投げかけてくる『殲滅将軍』ラブ・ハートだ。


「あ~ん! 勇者くん、相変わらずいい顔してるわね~ん! 興奮してワタシの股間のネジがいきり勃っちゃうわ~ん♡」


 先日の戦いにおいて負傷したラブ将軍は、現在身体のほとんどを機械で補っている。そんな将軍の股間から機械の起動音のようなモノが聞こえてくるこの状況、軽くホラーだ。彼とだけは関わりたくない。いや、マジで。


「⋯⋯ローズの視界に汚いモノを映さないでくれませんかこの変態オカマ野郎。そもそも敵軍に無様に負けた癖によくここに顔が出せましたね? ローズなら情けなくて死んでますよ」


 ラブ将軍に軽快な罵声を浴びせたのは、俺の右隣に座る三代将軍の紅一点、『毒蛇将軍』ブラッド・ローズだ。

 

 とっくに成人しているはずなのだが色々と未発達な身体と、常に小脇に抱えているペットの蛇が特徴の彼女は、とにかく口が悪い。外見だけだと紫色の髪の大人しそうな少女といった感じなのだが、1度その小さな口が開かれるととんでもない毒舌が飛び出してくる。


 彼女が『毒蛇将軍』と呼ばれる所以はその毒舌もさることながら、太陽帝から『毒食』の恩恵を得ているのが大きいだろう。ローズ将軍は、この恩恵によって、毒の入った物しか摂取できない代わりに、体内で毒を生成出来る能力を得、その力でもってこの地位を若くして獲得した女傑だと聞いている。


「あぁん? どこもかしこもぺらっぺらな雌ガキが誰に向かって口きいてんのよ。ぶん殴るわよ?」


「ローズは正論を吐いているだけです。変態オカマ野郎ってだけでも生き恥曝しているのに、その上さらにガラクタに成り下がったゴミなんて、速攻スクラップにするべきだとローズは思うのですよ」


 今にも殺し合いを始めそうな程の殺気を放ち合う2人。その間に挟まれる俺の気持ちになって欲しい。この2人は俺が見る限り毎回こんな感じで衝突している。相性が悪いのだろう。


 そして、こんな時必ず2人の仲裁に入るのが、『三代将軍』の最後の1人、『天剣将軍』シャルル・アレックスだ。


「ちょっとちょっと2人とも~! 喧嘩は良くないっていつも言ってるだろ? ほら、ボクのかっこよさに免じて、ここは抑えてくれないかな?」


 バチン☆とウインクを決め、さらさらの金髪を掻き上げるアレックス将軍。この言動で分かる通り、彼は極度のナルシストである。2つ名と同じ『天剣』の恩恵を与えられているため、剣術なら彼の右に出る者はいない。しかし、その言動の絶妙なウザさ故に人望はあまりないなんとも悲しい奴である。


「⋯⋯ちょっと気が変わったわ。先にあのウザい顔面をブン殴りましょう」


「ローズもそれには賛成です。あのウザい顔面に毒ぶっかけて2度と家の外を歩けないようにしましょう」


「わっつ!? 2人とも何でボクの方に殺意を向けているんだい!?」


 この僅かな時間で一気に場が混沌としてしまった。ラー様に鍛えられたおかげで多少は強くなったと自負している俺だが、この3人相手だとあまり勝てる気がしない。というより、そもそもこの争いに加わりたくない。


 巻き込まれないようそーっと部屋の端の方に移動しようとした俺は、この数ヶ月で嫌ほど覚えさせられた強烈なオーラが近づいてくるのを感じ、慌てて姿勢を正した。俺同様あの人のオーラに気付いた将軍たちも、途端に大人しくなって黙り込む。


 そして、太陽帝アーマテ・ラー・スサンシャ様が、眩い光と焼け付くような強いオーラを放ちながら、俺たちの居る部屋へと堂々とした足取りで入ってきた。当然ながらいつもの如く全裸である。


 ラー様は、俺たちの顔をゆっくりと見回した後、ぴょんっとジャンプして俺たちの囲む円形状のテーブルの上に飛び乗り、そこにあぐらをかいた。そして正面に座る俺を見てにいっと笑みを浮かべ、こう告げる。


「さて、第9675回円卓会議を始めようではないか。今回の議題は、魔族との全面戦争についてじゃ。我からぬしらに求めることはただ1つ。⋯⋯魔族を皆殺しにせよ。以上じゃ。細かい作戦などは、お主たちで考えろ。我はここで、お主たちの熱き議論を見守ろうではないか」


投げやりで簡潔だが、有無を言わせぬ絶対的な命令。この中に、ラー様の言葉に異を唱える者は居ない。俺たちはラー様が見守る中、来る全面戦争に向け議論を重ねていくのであった。



〇〇〇〇〇



 俺は今、四天王の仲間たちやムエやチャラ、そして魔王様とライム様と一緒に、先日パフェットがライブを行っていた洞窟にやって来ている。ここは多くのスペースが存在しているので、色々な用途で使われる便利な場所だ。


 俺たちがここを訪れた理由⋯⋯それは、ククルの葬式を行うためだ。


「あの後爆発があった村を訪れてみましたが、流石に死体は残っていませんでした。ですが、辛うじて焼け焦げた手のような物体は見つかりました。これが本人のモノかどうかお確かめください」


「⋯⋯ありがとうございます、ライム様」


 ライム様に礼を言って、黒焦げの物体を受け取る。確かに、辛うじて手のような形をしているが、一目でこれがククルの手と判別するのは難しい。しかし、その手のある部分を見て、俺はこれがククルの手であることを確信した。


「これは⋯⋯俺があげた指輪だ。間違いない、これはククルの手です。でも、どうして、これが残っているんだ?」


「先程鑑定魔術をかけた際、指輪を中心とした防護魔術が使用されていた痕跡が見られました。⋯⋯余程愛されていたんですね。正直羨ましいです」


「ククル⋯⋯!」


 たまらずにククルの手を力強く抱きしめる。すっかり冷えて固くなっている上に、黒く焦げていてかつて握っていた時に感じた柔らかさは残っていないが、それでも彼女の愛はここに残っている。思わず泣きそうになったが、今はその時ではない。まずは、ククルを無事見送らなければならない。


 魔族の葬式では、遺体を木で造った船に乗せ、その船を燃やすことで冥界へと死者の魂を送る。冥界へと送られた死者の魂は、長い年月を経て再び新たな命となり現世に蘇ると、そう信じられている。


 俺は先程ライム様から受け取ったククルの手を、指輪だけ外して祭壇の上に置かれた船の中にそっと入れる。船の中には、生前ククルが造っていた魔術具や大量の花も敷き詰められていた。


 船に火を点けるのは、俺の役割だ。俺には火の魔術は使えないので、俺の持つ松明にヴィオレッタさんが火を点けてくれる。後ろから近づいてきたヴィオレッタさんに、俺はそっと尋ねる。


「⋯⋯ヴィオレッタさん、冥界なんて、本当に存在するのでしょうか。誰も行って帰ってきた人なんて居ないのに」


「信じれば、そこにあるんですよ。少なくとも私は、信じたいと思います」


 信じればそこにある。それならば、俺も信じたいと思う。再びククルに出会える未来を。皆が平和に暮らせる、誰も死なない未来を。


 松明から船に火を点けると、船はたちまち炎に包まれる。きっと、ククルの手も灰になって消えていくのだろう。だがそれでいい。そうすることで、きっとククルも冥界に行けるはずだから。


 

 

 葬式が終わると、今度は場所を変えて人間との戦争に備えての作戦会議だ。これ以上死者を出さないためにも、感傷に浸っている暇はない。しかし、状況は最悪に近い状態だった。


「うーん、こっちの軍が頑張って3万弱ってところなのに、人間軍は最低でも100万ってところは辛いよね~。しかも、あのクソ太陽帝が結界を強化したせいで、ライムも潜入出来なくなっちゃったから情報も入ってこないし」


「すいません、私の力が至らないばかりに⋯⋯」


「いや~、それはライムのせいじゃないよ。こればかりは仕方ないさ。とはいえ、この状況、どうするかね~?」


「決まってるぜ魔王様。アタイたち四天王で皆ぶっ倒しちまえばいいんだ! えっと⋯⋯1人で1万人くらい倒せばいけるか?」


「イヤ、それじゃあ計算合わないダロ!」


 魔王様のその問いかけに真っ先に答えたのは、力強く拳を掲げたグレアだった。その脳筋理論に、あのパフェットでさえも冷静にツッコミを入れた。しかし、グレアのおかげで緊迫した空気が緩んだのは確かだ。


「まあ、集団戦ならヴィオレッタの独壇場でしょ。期待しているよ、影の四天王ちゃん?」


「⋯⋯その呼び方はやめてくれませんか、魔王様。恥ずかしいです」


 影の四天王とは言い得て妙な呼び名である。照れくさそうに頬を赤らめて俯くヴィオレッタさんの肩をバシバシと笑いながら叩く魔王様は、こんな時でも平常運転だ。


「まあ、何にせよ全力を出すしかないわけだし、細かい作戦なんて逆にいらないかもね。各自臨機応変に全力で戦うこと! 魔王様からの命令は以上であ~る!!」


「それ、結局何も考えていないのと同じじゃないですか。相変わらず馬鹿丸出しですね」


 隣でため息を吐くライム様も、悪態をつきつつも反対する様子はない。俺を含めた四天王も魔王様の言葉に頷き、お互い全力を出して戦うことを誓い合った。




 決戦の日は、もうすぐだ。




 

次回、いよいよ開戦です。

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