1人じゃないから
少し久々の投稿になります。この空白期間、作者が何をしていたかと言うと、『ドキドキ文芸部』にハマったりスプラトゥーン2を買ったり新しいソシャゲを開拓したりとか、まあ色々ですね。
⋯⋯本当にすいません。モニカ可愛いです。Just monika
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。外に出ていないから時間感覚が全く分からない。何をするのも億劫で、朝目覚めることすら気怠く感じる。
食事も全く取っていない。たぶん腹は空いているんだろうが、食べる気力がないからだ。このまま何も食べなかったらいずれ死んでしまうのだろうか。⋯⋯それもいいな。そうすれば、アイツのところに行くことが出来る。
自分を責めることにはもう疲れた。どうせ後悔したところでアイツは帰ってこないんだ。今はもう、何もしたくない。このまま何もせず、ゆっくりと死に近づいていくのを待つだけだ。
そのまま眠りにつこうと再び目を閉じた俺の耳に、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。まさか死神が俺を迎えに来たのかと少し期待して目を開けた俺に、ドアの向こうから誰かが話しかけてくる。
「アー、お、おいシルバ。起きているカ? ちゃんとご飯食べてるカ?」
どこか心配そうなその声は、パフェットのものだ。期待していた死神の声ではなかったことに失望した俺は目を閉じるが、パフェットはまたこちらに声をかけてくる。
「最近全然見ないかラ、心配してたんダ⋯⋯。お前の部下カラ話は聞いたゾ。その⋯⋯大変だったナ」
⋯⋯うるさい。俺のことを心配なんかしないでくれ。俺には心配されるような価値はないんだ。
「お、お前のために弁当作ってきたんダ。お腹がぺこぺこだと元気出ないからナ! だから、これ食べて元気出してクレ!!」
「⋯⋯さい」
「シルバ、起きてるのか!? ヨカッタ!! じゃあお弁当を⋯⋯」
「うるさい!! 俺に構わないでくれ!! もう放っておいてくれないか!!」
感情に任せてそう叫ぶと、外から短く「ひっ!?」と悲鳴が聞こえてきた。その後、パフェットはしばらく黙り込んでいたが、こっちがもう何も話さないということが分かったのだろう。震えたか細い声でこう言い残し、去って行った。
「ご、ゴメン⋯⋯。シルバを怒らせるつもりはなかったんダ⋯⋯。弁当は置いていくから、気が向いたら食べてクレ。⋯⋯バイバイ」
パフェットの気配が完全に消え去った頃、俺は激しい自己嫌悪に襲われていた。パフェットはただ俺を元気づけようとしてくれただけじゃないか。それなのに俺は、感情にまかせて酷いことを言ってしまった。⋯⋯最悪だ。
やっぱりこんな最低な俺はもう居ない方がいいのかもしれない。視線を動かし、刃物のようなモノがないか探す。寝室には、武器になりそうなモノはない。それならばと重たい足を動かし、台所へと足を進める。
その途中で、再びドアをノックする音が聞こえてきた。パフェットが帰ってきたのかと思い足を止める。しかし、ドアの向こうから聞こえてきた声はパフェットではない。その声は、ヴィオレッタさんのモノだった。
「シルバさん、そこに居ますか? ⋯⋯いえ、そこに居ることはもう分かっています。もしよろしければ、その足を止めて、少し私の昔話に付き合っては頂けないでしょうか?」
まるで俺が今から台所に行こうとしていたことが分かっているような口ぶりだ。この人はいつもこうだ。何故かはよく分からないが、色んな人と接点を持っていたり、俺が知らないことを知っていたりする。ただ、それだけに、彼女の昔話とやらには少し興味があった。自然と台所へと向かっていた足が止まる。そして、そんな俺の様子が見えているかのように、ヴィオレッタさんはゆっくりと語り始める。
「――昔、エルフの里に1人の少女が居ました。その少女は、他のエルフと髪や瞳の色が違うせいで、皆から苛められていました。
唯一少女の味方になってくれたのは、少女の母親です。その母親は、少女にたくさんのことを教えてくれました。それは、魔術だったりおとぎ話だったり⋯⋯それは、少女が今でもとっても好きなモノばかりでした」
ヴィオレッタさんの口から語られるのは、1人のエルフの少女の話だ。一人称こそ濁しているが、これは間違いなくヴィオレッタさんの過去だろう。それを語るヴィオレッタさんの表情こそ見えないが、弾んだ声の調子から、語られる母との思い出が楽しいモノであったことが分かる。
しかし、楽しげだったヴィオレッタさんの声色が急に平坦なモノへと変わる。ヴィオレッタさんが淡々とした口調で告げたのは、病気によって母が死んだという事実だった。
「――母が死んでからのことは、正直あまり思い出したくはありません。あえて触れていませんでしたが、母とは違い私の父は、異質な私のことをとても疎んでいました。
そして、母が死んだことで守ってくれる人がいなくなった私は、それから父に激しい暴行を受けるようになりました。
幸いだったのは、女としての尊厳だけは守られたことでしょうか。それでも、幼い私にはその暴力はあまりにも痛く、辛かった。しかし、そんなことよりももっと辛かったのは、誰も側に居てくれる人が居なかったことです。
私は母の代わりを欲し、そして父がいつか私に優しく接してくれる日を熱望した。そんな私の欲望が作りだした、私の初めての友達⋯⋯それこそが、マリー・ゴールド。母の容姿と、父の声を持った殺戮人形です。
⋯⋯いえ、少し語弊がありますね。正確に言えば、元はただの動く人形でした。マリーがその名で呼ばれるようになったのは、私の願いに応えた彼女が、父を殺したからです。
エルフにとって親族殺しは、髪や瞳の色が異なること以上に最も忌むべき大罪。その大罪を犯した私は里を追い出され⋯⋯その後は、魔王さまに拾われて図書塔の司書をすることになりました。そこからのことは、シルバさんもよく知っているはずです」
いつからか、一人称が私に変わっている。ヴィオレッタさんがそれほど思いを込めてこの過去を語っている証拠だろう。予想以上に壮絶な過去に、俺は動揺していた。出会う度いつも穏やかな笑みを向けてくれるヴィオレッタさんにまさかこんな過去があったなんて。
⋯⋯いや、違うか。ヴィオレッタさんも最初から今みたいな感じではなかった。俺が最初に会った時のヴィオレッタさんは、フードを深く被り髪と顔を隠し、周りを寄せ付けない雰囲気を出していた。あの頃のヴィオレッタさんは、確かに先程の過去話のイメージに合う気がする。
俺が出会った当初のヴィオレッタさんのことを思っていると、ヴィオレッタさんもちょうどその頃のことを語り始めた。
「――餓死しかけていたところを助けられ、図書塔という居場所も与えてくれた魔王さまには感謝していましたが、その頃の私はまだ人前に出る勇気も、誰かと話す勇気もありませんでした。だから、魔王さまに四天王にならないかと言われた時も、マリーに代わりになって貰うことにしたんです。
そして私は、名ばかりの図書塔の司書として、時折魔王さまやマリーとの交流する時以外は誰とも話すことなく、1人本を読んで毎日を過ごしていました。
しかし、そんな日々はある日突然終わりました。⋯⋯そう、貴方がやって来たからです。
それまで図書塔にやって来る魔族は居ても、私に話しかけてこようとする者は誰も居なかった。自分でもあんな怪しい格好の魔族に近づきたいとは思えませんし、そう思われるように振る舞っていたので当然と言えるでしょう。それなのに、貴方は全く臆することなく私に話しかけてきましたよね。
あの時、私がどれほど動揺したか、貴方は分からないでしょう? 全くの初対面の相手と会話をするのは私にとってかなり久しぶりでしたから、かなり素っ気ない態度を取ってしまったことを覚えています」
⋯⋯その時のことは、俺も覚えている。あの時の俺は、魔界に来たばかりで右も左もよく分かっていない状態だった。早々に魔術具の生成という仕事を見つけたククルとは対称的に何もすることが見つけられなかった俺は、手元に残っていたニンジンを魔界でも栽培出来たら農家としてやっていけるのではないかと考え、知恵を求めて図書塔に行ったのだ。
フードを深く被っていたヴィオレッタさんは確かに見た目こそ怪しかったが、声はとても綺麗だったし、何より俺は奴隷時代に見た目が整っていても心が汚れている人間たちを散々見てきた。だから、見た目だけで判断するのは嫌だったのだ。
実際話してみたら、確かに最初の頃は無愛想だったし必要最低限のことしか答えてくれなかった。けれど、話し方がとても丁寧で分かりやすく、頭のよくない俺でも理解出来るように色々と教えてくれたのを覚えている。
「⋯⋯貴方と会話する内に、貴方がとても素直で優しい方だと言うことが私にも分かりました。貴方との会話は、長い間人形だけが友達だった私にとってはとても新鮮で、楽しかった。だからこそ、この髪や瞳の色のことがバレてしまい、貴方に嫌われることが怖くなった。
しかし、そんな私の恐れを、貴方はたった一言で吹き飛ばした。あの日のことは、今でも鮮明に覚えています。私が貴方に本を渡そうと、梯子を使って棚の上の方にある本を取ろうとした時、フードが捲れてしまった。
その時、私を見て貴方はこう言ったんです。『驚きましたヴィオレッタさん。凄く綺麗な髪ですね!!』
⋯⋯その言葉が、私にとってどれ程嬉しかったか、貴方は分からないでしょう。貴方はその言葉1つで、私のこの髪を、忌むべきモノから誇れるモノへと変えてしまった。貴方はよく大袈裟だと言いますが、確かにあの時私は救われたのです。
そして、私はその時、貴方に恋をしました」
一瞬聞き間違いかと耳を疑った。ヴィオレッタさんから好意のような感情を感じることは確かに何度かあったが、まさかこのタイミングで告白されるとは予想だにしていなかった。
しかし、今の言葉が聞き間違いではないかを確かめるかのように、ヴィオレッタさんは再び思いを伝えてくる。
「シルバさん、私は貴方が好きです。あの時から、ずっと、ずっと、ずっと⋯⋯。こんな時に思いを伝えるなんて、我ながらズルいと思います。それでも、貴方に知って欲しかったんです。ここに、貴方を必要としている者が居ることを。⋯⋯そして、それはどうやら私だけではないみたいですね」
どこからか、こちらに迫り来る激しい足音が聞こえてくる。それと、必死に制止する叫び声も。叫び声の方には聞き覚えがある。さっき俺が傷つけてしまった子だ。そして、こんな激しい足音を立てる者への心当たりも、俺は1人しか居ない。
――ガッシャーン!!
玄関のドアがいきなり吹き飛ばされた。そして案の定、我が家を破壊して中に入ってきたのは、怒りの形相を浮かべたグレアだった。その背中には、涙目のパフェットがくくりつけられている。
グレアは、呆然と突っ立つ俺にビシッ! と指を向け、怒鳴るように叫んだ。
「なんだお前のその間抜けな面は!! パフェットを泣かせたこと、アタイは許さねえぞ!! 決闘だ!!」
グレアが俺の前に乱暴に放り投げたのは、愛用の籠手だ。場所こそ違うが、俺はグレアと初めて会った時のことを思い出す。あの時も、こうやって決闘を申し込まれた。そして、あの時と同じように、グレアは俺に決闘の条件を突きつける。
「お前がもしアタイに勝てば⋯⋯アタイはもう何も言わない。そのままここでくたばっちまえよ。でも、アタイがお前に勝ったら⋯⋯とりあえずパフェットに謝れ!! それとお前らの部下、そして魔王様にライム様にヴィオレッタ!! そして勿論このアタイにもだ!!」
「⋯⋯うるせぇ!! 勝手に人の家壊して、好き勝手言ってるんじゃねぇ!!」
グレアのあまりにも強引な言動に、何故か無性に腹が立った俺は、反射的にグレアに殴りかかっていた。しかし、魔術具の補助もなく、しかもここ数日何も食べていなかった俺の弱り切った身体から放たれたパンチは、グレアを動かすことすら出来なかった。そして、隙だらけの俺の腹にグレアの拳が突き刺さり、その衝撃で俺は屋根を突き抜けて家の外へと飛び出してしまった。
天高く打ち上げられた俺は、落下する途中で様々なものを見た。玄関の近くに置いてある弁当、こちらを心配そうに見上げるヴィオレッタさん。そして⋯⋯追撃のために宙に跳び上がってきたグレア。
グレアの踵落としで強制的に地面に突き落とされた俺は、地面に直撃する直前でふわりとした感触に支えられた。首を動かして横を見ると、ヴィオレッタさんが魔術を発動しているのが分かった。彼女が助けてくれたのだろう。
しかし、情けないことに俺はあの踵落としだけでもう満身創痍だ。衝突のダメージこそ緩和されたものの、全く動くことが出来ない。そんな俺にズカズカと大股で近づいてきたグレアは、乱暴に俺の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「いいかシルバ!! お前がもしまたこうしてうじうじ悩んで家の中に引きこもっても、その時もまたアタイがこうしてぶん殴って外に連れ出してやる!! ⋯⋯だってよ、それが友達ってもんだろ。諦めろよシルバ。お前の周りには、アタイみたいなお節介な奴がたくさん居るんだ。いつまでも1人になんかしてやんねぇぜ?」
グレアのその声は、行為の乱暴さとは裏腹に、とても優しいものだった。ふと視線をずらすと、パフェットとヴィオレッタさんもいつの間にかすぐ近くに来て、俺のことを見つめていた。
「さっきはその、ゴメンナ? 今度はお前がすぐにでも食べたくなる美味しい弁当作るカラ、覚悟しておけヨナ?」
「ほら、私の言った通りでしょう? 貴方を必要としている人が、少なくともここに3人居る。貴方が私にしてくれたように、私にも、貴方を救わせてください」
視界が、ぼやける。もう枯れ果てたと思っていた涙が、いつしか自然と零れていた。
あの時から、後悔ばかりしていた。自分には何の価値も無いと思い込み、前に進むことを諦めて殻の中に閉じこもっていた。
だが、そんな俺をこうして必要としてくれる人達が居る。もうすっかり価値がないと思い込んでいた俺のことを、好きだと言ってくれた人が居る。
それならば⋯⋯もう少しだけ、生きてみてもいい気がした。もう少しだけ、前を向いて頑張ってみようとそう思えた。
ごめんねククル、そっちに行くのは、もう少し先になりそうだよ。そう心の中で呼びかけると、ククルがにこっと微笑んでくれた気がした。
〇〇〇〇〇
ここは、シルバとククルがかつて奴隷として過ごしていた、人間界にある小さな村、その跡地。すっかり原型を無くしたその地を今、光を帯びた少女が、優雅な足取りで歩いている。
「おい、いつまで眠っておるのじゃ。我自ら『不死者』の恩恵を与えたお主が、これしきで死ぬわけがなかろう。⋯⋯お? ここにおったか」
少女が足を止めた場所には、辛うじて原型を残した人間の頭部のようなモノが転がっていた。少女がソレをコツンと蹴り飛ばすと、生首だけのはずのソレがかっと目を見開いた。
「あら~!? 太陽帝ちゃん御自らお出迎え!? 私流石にビックリしたわ。それにしても、死ぬのって初めてなんだけれど、こんな感じなのね。何だか新鮮で⋯⋯癖になりそう♡」
――『殲滅将軍』ラブ・ハート。『不死者』の恩恵を持った彼はこの後、帝国の科学力によって機械の身体を得、無事復活を果たすこととなる。このことを知るのは、軍の中でも一部の者のみ。魔族が彼の生存を知ることは、後に起こる大戦までなかったのであった。
次回更新は3月10日以降になります。少し用事がありまして⋯⋯。その代わり、10日以降は連続投稿で一気に大戦まで終わらせたいと思っています。作者のやる気が出るよう、応援よろしくです。




