最後の花火は誰がために咲くか
今回かなり文字多いです。
人間界において最も有名な英雄と言えば、『異界の勇者』であることは間違いないだろう。しかしながら、『異界の勇者』は1時代に1人しか存在せず、また召還される時期も時代ごとで決まっていない。
そのため、『異界の勇者』とは別に、人間界には英雄と呼ばれる人物たちがいる。通称『三大将軍』と呼ばれる彼らは、その1人1人が太陽神からの恩恵を授かっており、『異界の勇者』に負けず劣らずの強者である。そして、同時に全員かなりの変人だ。
1人目は、『毒蛇将軍』ブラッド・ローズ。2人目は、『天剣将軍』シャルル・アレックス。この2人もかなり個性的だが、最後の1人⋯⋯『殲滅将軍』ラブ・ハートは、その外見からして異彩を放つ、三代将軍の中でも最も個性的な人物であった。
太陽帝の居城、その中庭では今まさに戦いに赴く兵士たちが整列し、隊長の号令を待っているところだった。兵士たちの視線が集まる先に立っているのは、成人男性の2倍の背丈はありそうな大男だ。それだけでもかなりインパクトのある見た目だが、彼の場合は背丈などより遙かに目立つ特徴がある。それは、あまりにも変態的な彼の格好だ。
筋肉質な肉体を包む衣装は、股間を覆うハート型の布地のみ。正確に言えば布ではなく下着で、両端の紐は肩まで伸び、辛うじて乳首も隠している。ただ、鋭すぎるブーメランのようになった下着は、彼をより変態的に見せる役目しか果たしていなかった。
くいっくいっと肩の紐の位置を調節したラブ将軍は、ねっとりとした視線で自らの部下を舐めるようにして見回し、こう告げた。
「さぁて、ワタシの可愛い可愛い子豚ちゃんたち。殲滅する準備は出来ているかしらぁ~ん?」
「「「おおおおーーーー!!!!」」」
その口調はゴリゴリの肉体を持った男が出して良いようなモノではない。しかし、彼の隊の兵士たちは将軍のこの喋り方には慣れているので、動じることなく野太い雄叫びで応える。
そんな彼らの反応に満足そうに身体をくねらせていたラブ将軍だったが、ふいにその視線がある1点で止まった。隊員を見渡せるように先程まで立っていた台から飛び降りると、鼻をクンクンとひくつかせながら大股で兵士たちの間を掻き分け、先程視線が止まった場所まで近づく。
そこに立っていたのは、背の低い中性的な顔立ちの兵士だった。ラブ将軍がその兵士に近づくのを見た他の兵士は、そっとその兵士に黙祷を捧げた。可愛そうに、彼はもう二度と女性を愛することは出来ないだろう。
「え、えっと⋯⋯しょ、将軍、何故私のところに⋯⋯?」
おどおどと慌てている兵士の様子からして、彼はラブ将軍がこれまで数多くの部下を自分の恋人としてきたことをどうやら知らないらしい。隊に入ったばかりの新人なのだろうか。誰もが彼が今夜のラブ将軍の犠牲になることを想像する。しかし、その想像が現実になることはなかった。
「貴方⋯⋯と~っても臭うのよね。ワタシが大っ嫌いな、魔族の臭いがプンプンして、ゲロ吐きそうだわ~!!」
そう叫ぶと同時に、ラブ将軍は兵士の頭を掴み、そのまま果物をもぎ取るかのように頭と胴体をちぎり取ってしまった。突然の将軍の凶行にざわつく兵士たちに、ラブ将軍は首をもぎ取った兵士の死体を指さしてみせた。
「見なさいアンタたち。この死体、皮しか残っていないわ。さっきこいつを殺した時、中からどろっとした液体が垂れたのが見えたの。恐らく、スライムが兵士の死体の中に潜り込んでたのね」
「まさか! 太陽帝の結界により、人間界に魔族は侵入出来ないようになっているはずでは!?」
「普通はね。でも、スライムの体積はごく僅かだった。あれくらいじゃあ結界は反応しないってことでしょ。ワタシも魔族の血がついているからって理由で結界に阻まれるのは嫌だし、しょうが無いんじゃないかしら。まあ、ワタシの鼻はごまかせなかったわけだけれど」
ラブ将軍は、首に提げたネックレスをいじりながら首の取れた死体を見下ろす。そのネックレスは、様々な魔族の目玉を縫い合わせて作られたモノであった。普段なら魔族を殺した時は歓喜の表情を浮かべ股間のハートを大きくするラブ将軍なのだが、この時は考え込むようにして黙っている。その将軍の様子に疑問を抱いた副将がラブ将軍に声をかけた。
「ラブ将軍、どうしました? 魔族を殺したならもう問題ないのではありませんか?」
「⋯⋯おっ勃たないのよねぇ。いつもならワタシのラブ・ハートが反応するのだけれど、ピクリとも動かないわぁ。恐らく、この死体の中に入っていたスライムの本体は死んでない。それどころか、普通に情報を持ち帰った可能性すらあり得るわね」
「そ、それは⋯⋯!?」
前半こそ変態的だったが、将軍の言ったことが事実なら一大事だ。戦争において情報を握ることは最も重要と言っても過言ではない。その上、この場では先程まで魔界への進行ルートも話し合われていたのだ。その情報すら敵に漏れているとすれば、魔族は必ず何らかの策を用いて人間軍に対抗してくるだろう。
「どうしますか将軍。敵に情報が漏れているならば、今からでも進行ルートを変更しますか?」
一応尋ねてみたものの、長年彼の副将、そして恋人として側に仕えてきた彼は、答えが分かっていた。そしてその予想通り、ラブ将軍は再び肩の紐の位置を直し、こう告げたのであった。
「馬鹿言ってんじゃないわよ。なんでワタシが魔族のために妥協しなきゃならないの? 魔族が小細工をしてきたところでたかが知れているわ。その小細工ごと殲滅してあげましょう! ああ、魔族を殲滅するところを想像すると⋯⋯おっ勃ってきたわね♡」
ラブ将軍の戦意を表すかの如く、股間のハートも激しく脈動する。そんなヤル気満々の指揮官の様子を見て、兵士たちの士気は若干の恐怖を伴いながらも、確かに上がっていたのであった。
ラブ将軍の鶴の一声で、人間軍は当初の予定通りのルートで魔界へと進軍することになった。魔界と人間界の間にはちょうど壁のように山脈が連なっており、お互いに行き来するには山脈を迂回し大平原を横切るルートか、山脈を越えていくルートかのどちらかを選ぶのが基本となる。
人間軍が選んだのは、山脈を越えていくルートだった。本来なら、戦争とあれば戦いやすい平原のルートを選ぶ方が普通だが、今回は初戦ということもあり、奇襲の意味もかねて敢えて山脈を越えるルートを選んだのだ。最も、情報が敵軍に筒抜けであることが先程分かったため、奇襲とは呼べないものになってしまったが。
山脈に整備した道は、狭く細い。そのため、ラブ将軍は部隊の人数を5000人に絞った。あまり多すぎると進軍の妨げになるからだ。それでも、魔族相手に戦うなら十分な数だろうとラブ将軍および兵士たちは誰もがそう思っていた。
だからこそ、目の前に300程の武装した魔族の集団が現れた時も、特に慌てることなく武器を構えることが出来た。
「どうやら早速お出ましのようね。挨拶代わりに一発ブチ込んでやりなさい!! 放てぇ!!」
ラブ将軍の号令と共に、前線に立っていた兵士たちが『ショットガン』を放つ。これは『異界の勇者』がもたらした武器の1つであり、多数の小さい弾丸を散弾発射することでより広範囲の敵に殺傷力のある一撃を与えることを可能にしたモノだ。ラブ将軍はお気に入りの武器があるため使うことはほとんどないが、この武器で殺した魔族はいい悲鳴を上げるのでよく部下に使わせていた。
今回もまた開戦早々よい悲鳴が聞こえるだろうとワクワクしながら耳を澄ませていたラブ将軍は、悲鳴とは正反対の凜々しく力強い声を聞いたのだった。
「『―利己主義の塊―《プロテクション》』!! さあ、敵の攻撃は俺が全て防ぐ!! こちらも撃てぇ!!」
敵軍との間に突如現れた半透明な壁は、兵士たちが放った銃弾を全てはじき返してしまった。さらに、その壁の向こうで魔族の兵士が奇妙な形の銃をこちらに向けている。
敵軍の将軍らしき人物の号令と共に放たれた銃弾は、光の玉のように見えた。自分の方に飛んできたそれを、ラブ将軍は股間から取り出した棒で打ち返す。先程まで股間に収まっていたとは思えないほどのサイズまで巨大化したその金色の棒は、先端に大きな玉を取り付けた形をしている。これこそ、人間軍の兵器担当局がラブ将軍の要望に応えて作りだした専用武器、名付けて『金玉砕』であった。
2対の金玉砕を振り回し、敵の放つ謎の銃弾を打ち返すラブ将軍であったが、打ち返した弾もまた壁によって阻まれ敵までは届かない。その上、捌ききれなかった弾丸は後ろに逸れ、兵士たちに着実に被害を与えていた。
「⋯⋯魔族のくせになかなかやるじゃないのよぉ!!」
状況は決して良くはない。しかしながらラブ将軍は、かつて無い危機に興奮し、さらに闘志を滾らせるのであった。
〇〇〇〇〇
俺は今、前線から少し下がった中央部分から、皆に指示を送りつつ、戦線の様子を眺めていた。今のところこちらが優勢だが、いつ何があるか分からない。特に、俺が貼っている結界が崩れたらそれこそ全てが終わりだ。決して気を緩めることはない。
「あぁん!! 今からでもわたくし、あっちの方に行って銃弾を浴びまくりたいですわぁ~!!」
人間軍の方もヤバい格好をしたオーガのような大男が金色のへんてこな棒を振り回してかなり注目を集めているが、変態度ならうちの軍師も負けていない。ムエは、今も俺の左隣で頬を上気させ身体をくねらせていた。
そんな軍師の様子を苦笑しつつ見守っているのは、俺だけではなかった。右隣には、俺と同じく複雑な表情を浮かべたククルが居る。変態性が目立つせいであまり他の皆⋯⋯チャラなどの共感は得られないが、これでもうちの軍師はかなり優秀なのだ。俺は、戦場を眺めながら、開戦前に行った作戦会議のことを思い起こしていた。
「ライム様から頂いた情報によりますと、敵軍はどうやら山脈を越えるルートを選ぶようです。そこで、わたくしとしては細い山道で敵を待ち構え、一気に攻めることを提案致しますわ」
「何馬鹿なこと言ってんスか。山道なんかじゃ隊列もろくに組めないじゃないッスか。シルバ様、こんなドMの提案無視して、普通に開けた場所で戦いましょうよ」
ムエのその提案に呆れた表情を浮かべ即反発したのは、部隊長を任されたチャラだ。見た目は派手だが真面目なチャラと、見た目は清楚だが変態的なムエはどうにも相性が良くないようで、会う度に言い争いをしているように思う。まあ、基本的に何か言うのはチャラの方で、ムエは罵声を浴びるのが嬉しいのか身体をビクンビクンさせているだけなのだが。
まあそれはそれとして、確かにチャラの言うことには一理あるが、ムエの策がどんなものか興味があった俺は彼女にもっと詳しく説明するように頼んだのであった。
「もっと命令するような感じで言ってくださってもよろしいのに⋯⋯。策と言っても単純なモノですわ。シルバ様が結界を張り、その外からククル様の魔術具を使って遠距離から敵軍を攻撃する。魔術具なら魔力があれば何回でも使えますし、魔力もシルバ様の魔界ニンジンがあれば回復出来ますでしょう? 横に並べた兵士を数列配置し、魔力が尽きた兵は後ろに回すというローテーションを組めば、弾幕を途切れさせることなく攻撃することが可能ですわ。さらに、敵の攻撃は結界で防がれる上、結界を迂回して攻撃しようにも、細い山道だとそれは困難。まあざっと説明するとこんなところですわ」
一気に説明を終えたムエに、誰も何も言うことが出来なかった。あのチャラでさえ何も言い返さない。ムエは自らの策を単純だと評したが、これまでの戦いでは一度も用いられたことのなかった策であった。しかも、各々の能力を把握した上での完璧な作戦に思えた。ただ1つだけ問題があるとするならば⋯⋯。
「⋯⋯なあ、その策、俺の負担重くないか? 俺が最後まで結界を貼り続けないとその作戦は通用しないよな?」
「わたくしは、シルバ様を信頼しておりますので」
普段は変態的な言動が多いムエも、この時ばかりは眼鏡をキリリとあげて真剣な表情で俺に一言、そう告げたのであった。
その後、開戦直前にライム様から敵に潜入がバレたという情報が入り、作戦を変更するかで少しだけもめたが、結局ムエの「変態には変態の思考が分かります。敵は絶対に進軍ルートを変えません」という説得に全員が納得し、現状に至るというわけである。
そして、こうして必死に結界を貼り続けている今、あの言葉すらムエの策の1つだったのではないかと思えてくる。俺1人ならとっくに結界は放棄していた。しかし、愛する妻が隣に立ち、信頼してくれた部下もまた隣に居るなら、俺が今ここで諦めるわけにはいかない。
「いつまでも壁の向こうからちまちま撃ってこないで、早くこっちに出てきなさいよぉ~う!!」
さっきからあの変態大男が、俺の結界をガンガン攻撃してきている。恐らく⋯⋯いや、ほぼ確実に奴が殲滅将軍ラブ・ハートだろう。事前にライム様に聞いていた特徴と完璧に一致する。
既に敵軍の部隊は壊滅状態だ。前線はほぼ崩壊しているし、逃走する途中で崖から落ちた兵の姿も見えた。しかし、そんな状態に陥ってもなお、ラブ・ハートは傷1つなくピンピンしていた。魔弾による攻撃は当たっているのだが、その分厚い筋肉に阻まれてダメージが通っている気配がしない。それどころか、苛烈さを増す攻撃に俺の結界の方が悲鳴を上げていた。
だが、この状況は想定の範囲内だ。結界はもってあと数秒。宣誓魔術は1日に1度が限度なので、再び結界を貼り直すことはできない。それならば、その残り数秒で勝負を決める!!
「総員伏せろぉぉぉ!!!」
そう叫び、全員が伏せたのを確認すると同時に、前方に貼っていた結界を1度手の中に縮小させる。そして、先程と同じサイズの結界を今度は地面と平行に貼り直した。
「⋯⋯は?」
その結果何が起こるかは、目の前のラブ・ハートが体現していた。呆けたように自分の下半身を見下ろすラブ・ハート。彼の上半身と下半身は、俺が貼り直した結界によって完全に分断されていた。
勿論ラブ・ハートだけではない。彼の後ろに立っていた兵士たちも、その多くが同様の被害を受けている。ただ、ラブ・ハートを基準にして考えたため、彼とは違って頭と胴体が分断された死体が地面に転がることとなった。背の低い一部の兵士は頭が少し削れた程度で生き残っている者も居るが、最早戦う意志は残っていないだろう。
そのことを確認すると同時に、身体からふっと力が抜け、俺は地面に崩れ落ちる。宣誓魔術の酷使による体力の限界だ。すかさず寄り添って肩を貸してくれたククルに礼を言い、俺はゆっくりとラブ・ハートの元へと歩み寄った。
「まさか、このワタシが魔族相手にここまで良いようにしてやられるとはね⋯⋯。最大の屈辱だわ」
上半身と下半身を分断されてなお、ラブ・ハートはしぶとく生きていた。まあ、戦闘中に見せたあの驚異的なタフネスから考えると、ある意味当たり前と言えるかもしれない。俺は、憎々しげにこちらを睨み付けるラブ・ハートを正面から見つめ返した。
「お前はこれまで数多くの同胞を殺してきた。その報いを受けるときが来たんだ。⋯⋯さあ、覚悟を決めろ」
俺は、ラブ・ハートの顔面に銃口を突きつける。体力は限界だが、魔力はまだ残っているし、流石にこの至近距離から放てば跡形も残らずに吹き飛ぶだろう。
しかし、そんな絶体絶命の状況にも関わらず、ラブ・ハートは突然笑い始めた。
「アッハッハッハ!! ねえアナタ、もしかしてワタシがこのままただで殺られるようなタマだと思っているわけ!? ⋯⋯見くびってもらっちゃ困るわね。お前ら全員道連れだゴミカスめぇぇぇーーーー!!!」
鬼のような形相でそう叫ぶと同時に、ラブ・ハートはカチッと奥歯を噛み鳴らす。すると、ただでさえ大きいラブ・ハートの身体が風船のように膨れあがり始めた。
「おいお前、一体何をしたんだ!?」
「見ればわかるじゃなーい!? ワタシの身体には爆弾を仕込んでたのよ!! 山1つは丸ごと消し飛ぶ威力のこの爆弾、逃げることは不可能だわ!! ざまあないわね!!」
「なっ⋯⋯!?」
まだ生き残っている部下も居るというのに、そんな規模の自爆を行うとは信じがたいが、こいつの目は本気だ。それを皆感じ取ったのだろう。絶望から泣き出す者、慌てて逃げ出す者など、先程まで統率が取れていたのが嘘のように場は混沌に包まれてしまった。
「お、落ち着け皆!! とにかく落ち着くんだ!!」
「んなこと言われても、シルバ様の結界ももう無いじゃないッスかぁーー!! オイラたち皆、ここで死ぬんだぁぁーー!!」
チャラの言うとおり、落ち着けとは言ったもののどう対処することも出来ないのが俺にも分かっていた。
――いや、本当にそうだろうか? 確かに宣誓魔術は1日に1度が限度と言われたが、2度使えないとはヴィオレッタさんも言っていなかった。大切な仲間を守るためなら、この命を削ることなんて、惜しくもなんとも⋯⋯
「ダメだよシルバ君。今、もう一回宣誓魔術を使おうとか思っていたでしょう? そんなこと許さないんだから。⋯⋯ここは、私に任せてくれないかな?」
「ククル!? 何かいい案があるのか!?」
もう一度宣誓魔術を使おうとした俺を止めたのはククルだった。自分に任せろと言うククルに何をするつもりかと尋ねると、ククルは黙って微笑み、今や破裂寸前に膨れあがったラブ・ハートの元に近づき、そっとその身体に触れた。
「私は今、転移魔術が使える魔術具を持っている。⋯⋯でも、この魔術具、1人用なんだ。一緒に転移できるのは、触れたモノだけ。そして、この魔術具を上手に使えるのは、この場では私しか居ない」
俺は、ククルがこれからしようとしていることをようやく察した。必死で止めようと手を伸ばす俺に向け、ククルは笑顔で手を振り、こう告げた。
「バイバイシルバ君。短い間だったけれど、君との結婚生活は最高に幸せだったよ。⋯⋯愛してる」
その言葉を最後に、ククルの姿は消えた。ラブ・ハートも一緒にだ。その事実を受け止めきれない俺は、さっきまでククルが居た場所に必死で呼びかける。
「おい、ククル⋯⋯? どこに行ったんだよ、ククル。ククル、ククル、ククル⋯⋯? あああああ!!! ククル、ククルぅ!? なんでどこにも居ないんだ!? どうしてだよ、なんであんなことをしたんだ!! 俺は⋯⋯俺は、お前がいないとダメなんだよ!! 戻って来てくれ、ククルぅぅーーー!!!!!」
――それからのことは、ほとんど覚えていない。力尽きて倒れた俺を、部下たちが家まで運んでくれたらしいが、礼を言う気力は残っていなかった。目が覚めた瞬間、台所に立つククルの幻影を見たが、まばたきの後にはその幻影は跡形もなく消えていた。
確かに、人間軍との戦いには勝利した。しかし、その勝利の代償はあまりにも大きく、そして重いモノだった。その日から俺は⋯⋯家の外に出ることをやめた。
「⋯⋯アナタ、正真正銘の馬鹿ね。1人で犠牲になるなんて。ところで、ここは一体どこなのかしら?」
「⋯⋯ここは、私とシルバ君の故郷。どうせなら最後に花火でも打ち上げようかな~とか思ってさ」
「フフ、滑稽ね。アナタ、まさか自分が勝ったつもりでいるんじゃないかしら? それは大間違いよ。アナタが消える瞬間、アナタたちの指揮官の顔は絶望に塗れていたわ。あれじゃ、再起はできないんじゃないかしら?」
「私は、シルバ君を信じているから。彼ならきっと、私が居なくても大丈夫」
「男ってのはアンタたち女が思うよりも弱い生き物なのよ。オカマの私が言うんだから間違いないわ」
「確かにそれは説得力あるな~。ま、シルバ君は貴方より強いから、心配していないけれどね!!」
「今から死ぬって言うのにその余裕、ムカつくわね。これだから魔族って嫌いなのよ。ホント⋯⋯」
「⋯⋯でも、本音を言うならいつまでも一緒に居たかった。人間なんて、戦争なんて大っ嫌い。本当⋯⋯」
「「お前ら全員、死ねばいいのに」」
――その日、地図から1つの村が消えた。
ククル好きな人は本当すいません。でも最初からこの展開は決まっていたんです。私も辛い。
傷心のシルバは果たして立ち直れるのか。




