絆、つながり
完結で来ました!
お気に入り登録してくださった方、ここまで読んでくださりありがとうございます。こんな誤字脱字が多い話を、本当に・・・ありがとうございます。感謝しかありません。
※話の筋がおかしいと思ったら、あるいは気づいたら変更する所存です。
「時が経つのって、早いな」
とは、世界樹の太い根に寄り掛かったオルフェの言葉。
ああ、うん・・・確かに早い。
正確な時間は判らないが、オルフェ達が私の前に現れてから軽く・・・・・・・・・うん、たぶん300年は経っていると思う。確信はないけど、それぐらいの時間は経過してそうだ。
「ロイドの奴、神々の王を見つたかな」
別の話題を出したのは、オルフェの隣に寄り掛かるレーヴェ。
あの結婚云々からすぐに、ロイドは神々の王の居場所を見つけたと叫んでこの場所から姿を消した。嬉々として銃を手にするロイドは、悪鬼羅刹よりも恐ろしく思えた私は悪くない。
例え他の神が「あの新米なんなの怖いんだけど!?」と苦情を言っても、私には関係ない。幼馴染で同僚なだけで、私は何も関与していない。
――なんて、現実逃避もいい加減に飽きた。やめよう。
私はおそらく、死んだ魚のような眼で世界樹を見つめているだろう。だって・・・さ。
「平和だな。また世界が壊れたけど」
「そうだな。俺達が来て、これで3回目か」
オルフェとレーヴェの言葉通り、また球体世界が壊れたのだから。
愕然として力の抜けた私は地面に座り込み、項垂れた。
何がどうして、あっさりと世界が壊れるのか。オルフェ達ではない原因が世界にあるのだろうか? ふざけるなよ。
ふつふつと込み上げてくる怒りは、呑気に会話を続ける二人に向けた。
「のほほーんとしてないで、眷属なら眷属らしく働きなさいよ!」
そして原因を追及して来い!
「俺、ロイドの眷属だから出来るのは魂を探すとか捕獲することぐらいだぜ?」
「ルキアの眷属じゃないから、世界について探るのは無理だな」
「そうでしたねっ」
恨み辛みを込めて地面を叩き、怒りを消すように息を吐き出す。
指を鳴らして、世界を再誕させる。ああ、何度繰り返したことか。もう、2桁いったよ。泣いてもいいかな? いいよね? むしろ泣く。
「実はロイドと神々の王が暴れた結果、世界が壊れたりして」
「あり得そう」
「笑いながら言わないでよ! 私が・・・ああもう、私が一体何をしたっていうのよ。私に恨みでもあるのかな」
私が神々の王とロイドを恨むならともかく、両者に恨まれる理由はない!
・・・・・・はず。
「ああ、ルキアに恨みはないけど、早く二人とくっつけよって言う苛立ちはあるかな?」
「唐突に帰ってきて、まさかのそれですか! てか、心を読まないでっ」
もう、やだ・・・この幼馴染達。
自然な動作で、何でもないように爽やかな笑顔を浮かべてここに戻って来たロイドに脱力しかしない。どうして私、この幼馴染達の幸福を願ったんだろう。てか、存在が継続することを望んだんだろう。まさに後で悔やむだ、畜生。
もう泣いてやろうかな、って・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
「ロイド」
オルフェが真剣な声で、ロイドの腕の中にいるモノを指差す。正確には、ロイドに抱っこされた何だか懐かしい面影がある・・・少女。
何だろう、あまり良い予感がしない。
「ロリコンだったのか」
「成程。お前の周りに女っ気がないと思ったが、まさか幼女趣味とは・・・。まぁ、同性愛者じゃなかったことに、俺はほっとしたけど」
「あ、俺も」
呑気に爆弾を投下するなよ!
何故に、そんな躊躇なくロリコンなんて言葉を口に出来るの? ねぇ、馬鹿なの? ロイドの表情と空気に気づいてないの? あわわわわわ・・・閻魔大王が降臨した!!
ガクガクと身体を震わせながら、私は不自然でない程度に距離を取った。
巻き込まれるのはごめんですからねっ。
「いっぺん、死ね」
容赦ない弾丸の雨が、オルフェ達に降り注ぎました。
その間も、腕の中の少女は微動だしない。
むしろ、私を凝視して視線がまったく外れません。試しに少女の死角に逃げたら、身体を動かして追いかけてきた。銃声が煩いが、それ以前に少女が怖い。
何でそんなに私を見るの? いや、何となく理由は解るんだけどね。
出来ればそれが外れていてくれると、私としては非情に嬉しい。これ以上、面倒なことはごめんだから! 本当、切実に!!
「ルキア! 我が妹よ!!」
なんて無情だ!
「逢いたかったよ、愛する妹!」
「私は逢いたくなかったよ、お兄ちゃんっ」
そもそも何故、男から女になった。性転換か? それとも転生して性別が逆転したの?
ロイドの腕から抜け出し、私の腹部目掛けて強力なタックルをお見舞いしたシメロンに私はほろりと涙を流した。ああ、嬉しくない再会。
「お兄ちゃんって・・・え、それシメロン?」
「俺はてっきり、アーシェかと」
「アーシェと似ているのは仕方ないよ。シメロンはアーシェと双子で生まれたんだって。ちなみに性別は列記した男だよ。魂とかで確認したから、間違いない」
「え、じゃあ女装?」
「女装癖があったのか・・・。うわ、引くわ」
「そこ! 好き勝手なことを言うな!!」
コソコソどころか、大きな声で陰口を言う3人にシメロンが青筋をたてて叫んだ。
「これはあの女が、『私の身代わりとして、ヘタレを魅了して来てね』とかふざけた寝言をいい、無理矢理着せたんだ! 断じて、そんな趣味はない!」
「力説する所が怪しいな」
「ああ、怪しい」
「少しは納得しろよ!」
・・・・・・はて、シメロンってこんなキャラだっただろうか?
ああ、シメロンもまたオルフェ達と同じで性格が変わっちゃたんだな。悪い方向に180℃。白い眼でオルフェ達を見る私に、当人達は気付かない。
「髪の色がアーシェと同じ桃色って・・・笑えるくらい似合わないな」
「うん。僕もアーシェかと思ったけど気配やら魂やらがシメロンで、思わず噴き出しちゃったよ」
「噴き出すより、俺を指差して爆笑してただろうがお前はっ」
喚きながら、シメロンが髪の毛に触った。
「これはカツラだ! あの女が『わぁ、これで私と同じ。でも気持ち悪いくらい似合わないわね』とかほざきながら、装着させたんだよ! 俺の髪は、前と同じだ!!」
あら、本当。
懐かしき髪色を見て、桃色よりもこっちの色がシメロンに似合うよな。としみじみ思った。もっとも、女装は似合いすぎていたけれど。
と言うよりも、何故にシメロンの記憶が蘇った?
「そうそう、ごめんねルキア」
・・・・・・・・・果てしなく、嫌な予感。
「僕と神々の王が暴れた結果、世界を3回も壊しちゃって」
「軽く言わないで、そう言うことをさらりとっ!!」
「で、偶然入った世界が運悪くアーシェ達が生きる場所でね。・・・接触したらうっかり」
うっかりで記憶が蘇らせちゃった、とか言うなら殴るよ。ありとあらゆる力を使って、報復させてもらうよ。そんな気持ちでロイドを見れば、図星なのか素知らぬ顔で視線を逸らされた。そして無言。
そうか、そうか・・・当たりなのか。
「ロイド・・・・・・・・・・・・・・・、私の代わりに世界を再誕してね」
もう、私の堪忍袋も限界だからね。拒否権なく、働いてもらおうか・・・。
「ご、ごめんルキア。僕が悪かった。だからその・・・・・・許してください」
「馬車車のように働いて、もう世界を壊さないって言うなら許してあげる」
上から目線だが、怒りが治まらないので仕方がない。ロイドは顔色を青くさせ、何度も首を縦に振った。おやおや・・・たかだか私程度の怒りで、そんなに畏縮しないで欲しいなぁ・・・。他の神の方がよっぽど、怖かったんだよ? 死亡フラグが折れないと嘆くほどにね。
ああ――――何なら、実体験する?
「すいませんでした」
ロイドが土下座した。
でもさ・・・。それで許すほど、私は寛大じゃないからね?
「テオは相変わらず、アーシェにベタ惚れなのか」
「でも残念ながら、あの女は今、ルカに熱烈片思い中だ。邪魔も妨害も出来ず、影で悔しがるだけなら諦めればいいのにな。未練がましい」
「ルカって・・・ルキアの従姉弟だったけ?」
「そう。まぁ、今は幼馴染だけど変わらず姉のノアは存在してるけどな」
和やかに談笑している3人が、場違いでならない。
何だろう。この対照的すぎる場の空気は。ロイドの場合、自業自得だけども。
私は息を吐き出して、土下座するロイドの傍を横切った。瞬間、びくりと大げさなほど身体を振わせたロイドに冷めた視線を向けてしまった。そこまで怖がらなくても。
「ちなみにルカに惚れた理由は、『何だか運命を感じたの』らしい。まぁ、今のルカの容姿はルキアに似てるからな」
「ああ、成程」
「同姓じゃなかったら、ってよく悔しがってたからなアーシェ」
――私は何も聞かなかった。
ゆっくりと泉へと近づき、沈む球体世界を見下ろす。
煌めく光は、おそらく世界に存在した魂だろう。儚いモノほど美しいと言うが、私には見馴れた光景で何も感じない。ただただ、次の生を思い描くだけ。
息を吐きだした。空を仰ぐ。
「シメロン」
お兄ちゃん、ではなくあえて名を言う。
「ここから、帰ってくれるかな?」
シメロンの顔を見ないで、言葉を続けた。
「シメロンには人としての生を過ごし、人としての死を得て欲しいんだ」
「・・・そう言うと、思ったよ」
落胆とも悲観とも違う、困ったような声でシメロンが呟いた。
私はゆっくりとした動作で後ろを振り返り、諦めたような顔をするシメロンに近親感を抱いた。・・・ああ、私がよくしていた顔と似ている。
いや。と首を横に振って、今でも偶にしているなと失笑した。
「なぁ、ルキア」
シメロンが子供らしからぬ、甘い声で私を呼ぶ。
「お前はもう、寂しくないよな」
「―――――――――――――うん、そうだね」
疑問形ではない問いかけに、私は素直に頷いた。
「絆が繋がっているって、実感出来たから。離れていても、記憶を消しても、私のことを覚えていてくれる者がいるから――寂しくないよ」
皮肉だけど、私はオルフェ達がこうして傍にいてくれることに救われている。
確かにあった絆は今もなお、切れていないのだと知ることが出来た。忘却しても繋がり続けることが出来るのだと、シメロンの会話で思い知った。
ああ、私は一人じゃない。
けして――孤独ではない。
「そっか、ならいいんだ」
シメロンは穏やかに笑い、眼を閉じた。
その姿が、儚く消えて行く。ああそうだ、どうして忘れていたんだろう。普通の人間がここに来られないようにしたのは、私だと言うのに。
シメロンが生きていると、何故、疑わなかったんだろうか――?
「だったら俺はただ、妹の幸せを祈り続けるよ。例えまた記憶を失っても、ルキアの存在を忘れても、寂しさに泣かないように願い続ける」
「シメロン・・・」
「出来たら俺はまた、お前の兄でありたかったよ・・・」
「・・・・・・ありがとう、お兄ちゃん」
泡沫だと間違う程に、あっさりとシメロンが姿を消した。
ただ存在した証として、シメロンがいた場所に一つの魂が浮いている。それをロイドが回収し、何とも複雑な表情で私を見た。そんな顔をするなら、魂だけのシメロンをつれてこなきゃよかったのに・・・。
いや、気づかなかった私にも落ち度があるか。苦笑した。
「ロイドにもお礼を言うべきかな?」
「いや・・・。僕はただ、全てを思い出した直後に魂になったシメロンが、ルキアの許に連れて行けって煩かったから」
顔をそむけるロイドに肩を竦め、私は眼を伏せた。
私の兄でありたかった、と言うシメロンの願いが叶うことはない。
そんな私がシメロンに出来ることと言えば、天寿を全うできるように世界を維持し続けること。これはもう、あれだね。
何が何でも、世界を長生きさせないと。
――とすれば、だ。
「働かざる者、住むべからず」
小さく呟いてから私は眼を開け、オルフェ達を見た。
ただ私は笑っているだけだと言うのに、オルフェ達の顔が引きつっている。失礼だな。
「あの・・・ルキア」
「ん?」
「何か、変なこと言った?」
「言ってないよ。そうだ、そうだロイド」
意味が違うと叫ばれ、話が脱線するのを避けて誤魔化し、私はロイドへ声をかけた。
あからさまに肩を振わせる姿に、おおよその見当はついているのかなと首を傾げる。まぁ、拒否権はないから逃がさないけど。
「さっさと世界、再誕させてきて。世界樹の管理者が許すから、手早く」
「はい!」
どこぞの軍隊のように敬礼、しなくていいよ。
足早に泉に近づき、ロイドは世界を再誕生させる。本来これは世界樹の管理者が許さないと出来ないし、させてはいけないんだけど自分で壊したモノは自分で何とかするのが道理だよね? と言うことで、他の神に何か言われたらこれで通そう。
むしろ、貴方達も碌に守護、していませんよね? とか言ってやろうか。
死亡フラグをたてそうだから、本当には言わないけど。
「オルフェ達にも、働いてもらうからね。あ、眷属じゃないからって理由で拒否するのはなし。した瞬間、ここから追い出すから」
「ルキアが怖い・・・」
「ああ、眼がマジだ」
「何か?」
「いいえ、何もっ」
背を向けて仕事を求めにロイドの許へ行ったオルフェ達を見送り、私は世界樹へと近づいた。
ロイドが上手く、世界を再誕生させたようで枝には硝子の球体世界がある。煌めく魂はその世界で住んでいた住人のだろう。うむうむ、思った以上に働いてくれている。満足気に頷いて、私は世界樹を仰いだ。
揺れる葉を見上げながら、一歩、一歩と世界樹の幹に近づく。
右腕を伸ばし、幹へ掌を押し付ける。胎動が聞こえた気がした。
「私はもう大丈夫。寂しくない。孤独じゃない。辛くない。哀しくない。だから――――もう、世界を終わらせなくていいよ」
問いに答えるように、葉が大きく揺れた。
ああ、ああ。なんて大樹なんだろう。私が奥底に隠した本音を見つけて、だから救いを求めるように私と関係の深いオルフェ達の記憶を蘇らせた。結果、世界が何度も滅ぶことになって、自らの命が脅かされるというのにそれを気にも留めず。
大樹は世界があって初めて、存在することが出来ると言うのに。ああ、不甲斐ない
「ありがとう、ごめんなさい」
未熟な管理者だったばかりに、大樹を悩ませ、苦しませてしまった。
葉が何でもないと言うように、音を鳴らす。それが涙腺を刺激して、泣きそうになった。
私は幸せ者だな・・・。
眼を伏せて、こつりと額を幹にあてた。
「心配しなくていいよ。今度は、ちゃんと自分のことを気にしてね・・・?」
君がいないと、私は寂しいよ。
その思いを込めて幹を撫でると、枝から葉が落ちた。これは了承の証なのだろうか? 首を傾げて、そうだといいなと笑う。
「世界樹よ、永劫であれ」
世界よ、永久に巡れ。
「世界樹よ、不変であれ」
世界よ、不滅であれ。
「優しき大樹に、言祝ぎを贈ろう」
精一杯の感謝の気持ちを込めて、私は・・・嫌、私達は世界を存在させ続けよう。
背後で名を呼ぶ声が聞こえ、私は大樹からゆっくりと手を放した。笑みを浮かべたまま大樹に背を向け、私を呼ぶオルフェ達の方へ向かって歩いて行く。
葉が揺れる音が聞こえた。
世界樹は私が誓ったことを、どう思ったんだろうか?
気になったが、振り返ることなく前を歩く。だって・・・どうしてか大樹が「振り返るな」と言った気がして、喋るはずがないのにと苦笑してしまう。ああ、なんて馬鹿馬鹿しい。
風が吹いた。
長い髪を押さえ、私は眼を細める。
些細なことを気にかけず、私はただただ――世界を管理し、維持し続けよう。
それが役目であり、世界樹に誓ったことなのだから。
「それじゃあ、仕事をしようか」
私は笑って、そう告げた。




