慟哭
予定通り、更新できました。残りわずか、恋愛をどこにいれようっ。
世界樹には、いくつもの世界があった。
けれど滅びは回避できず、幾度も世界は壊れて――そして再生された。
それは世界が悲鳴を上げた結果、管理者が起こす滅びであったり、その世界の住人が起こす破壊でもあった。その度に世界は再誕を繰り返す。
不変だと思っていたそれが変わったのは、一人の男が世界を支配しようとした時だ。
男は自らを龍皇と名乗り、境界線を越えて世界を一つ、一つと支配して行った。そして全てを支配し終えた龍皇は、何を思ったのか支配した世界を集約して他を消した。
目的は――管理者を奪うためだった。
雪の乙女に心を奪われ、我が物にしようとした結果の行動だ。故に、黙示録に綴られるような物語もなければ、恋もしていない。
完全に、龍皇の片思いだ。
しかし、現実は龍皇の思う通りにはならなかった。
雪の乙女は拒絶ことしないが、龍皇の物になることを拒否し、世界樹の根元から離れることを嫌がった。何度、龍皇が甘言を囁いても、何度、龍皇が手を差し伸べても、何度、龍皇が乞うても、是とは頷かない。頑なに首を横に振り、優しい言葉で諭すように「諦めて」と龍皇が行動する度に告げた。
龍皇は焦れた。
焦れて、焦れて、恋焦がれて。そしてとうとう、行動に移してしまった。
世界樹の根元で、雪の乙女を凌辱した。
世界樹に存在する世界の子たる龍皇を、雪の乙女は攻撃できなかった。我が子のように慈しみ、愛した存在に力を使うことを躊躇う気持ちを龍皇は利用し、雪の乙女の身体を自分の好きなように抱いた。
愛を囁き、幾度も繋がり、何度も果て、快楽を雪の乙女に教え込んだ。呪いのように「孕め」と言葉を繰り返す。雪の乙女が泣こうが、喚こうが、龍皇はもう気にかけることが出来なかった。
無理矢理で、一方的だが、身体だけは手に入った。その事実に、龍皇は嬉しくなった。同時に、悲しくなった。欲しかったのは、望んだのはこんな結末ではない。
雪の乙女が「もうやめて」、「許して」懇願しても、龍皇は止めなかった。否、止められなかった。抑えつけていた理性が暴走し、本能のまま動き続けた。
その行為は、雪の乙女が孕むまで何度も続けられた。
「事実は残酷だ。故に、改ざんされて隠蔽される」
刈り取る者が語った言葉に、オルフェ達は衝撃的だったのか言葉もなく絶句している。うんまぁ、黙示録の歴史が真実だと当たり前に想っていたから当然なんだよね。仕方ない、仕方ない。けど、残念ながら刈り取る者の言葉が正解なんだ。
私の中の何かが、肯定しているからね。
「どうした、龍皇の血族」
刈り取る者に視線を向けられ、エレンの身体がびくりと大きくはねた。
「血縁者がした罪に、押しつぶされそうか?」
けたけたと笑う刈り取る者はしかし、冷やかな双眸でまったく笑っていない。形だけの、笑みだ。
「続きを語ろうか。嘘偽りのない、真実の出来事を――」
何でもないように装っているが、辛そうな声で刈り取る者が過去を語りだした。
雪の乙女の精神は、他の神々が心配する程に異常をきたしていた。
無理矢理に犯され、子を孕み、愛する子に呪いをかけられ、雪の乙女は自我を保てなくなっていた。何度も「殺せ」と呟き、己を取り戻して「駄目」と繰り返す。
虚ろな眼で世界を見つめ、膨らんだ腹を見て徐々に心が壊れていった。
白の六騎士は龍皇が元凶と知り、報復にはしった。けれど、雪の乙女が殺すなと命じたことで何も出来ず、逆に悪として龍皇によりその存在を貶められた。それがより一層、雪の乙女の心を壊す原因となった。
『私は誤ってしまった。私の存在そのものが罪であり、生きていることが罰なのです』
雪の乙女は己が過ちを悔み、嘆き、そして死を渇望した。だが、どうしても腹の子を道連れに死ぬことは出来なかった。
苦悩の中に現れた機械王は、雪の乙女に腹の子を己れに託すよう話した。不安材料があるのならば、記憶を弄っても構わない。壊れかけた心でも、その言葉を信じたいと思った雪の乙女は子を産み落とした後、機械王の記憶を操ってから預けた。
機械王が語った言葉は、雪の乙女によって操作された記憶だ。
雪の乙女は子を産んだ直後、自らで命を絶つより先に呪いによって死に絶えた。
それを知った龍皇は怒り、嘆き悲しみ、雪の乙女を呪った許嫁を殺した。
白の六騎士は雪の乙女の死を悲しみ、雪の乙女が残した最後の言葉を聞いた。それは管理者が執行者に命じる、滅びの言葉だった。
『全てを狂わせろ。全てを殺せ。全てを壊せ。世界なんてもう、いらない。堕ちろ、堕ちろ、堕ちてしまえ。狂気に染まれ。世界の全てよ、絶望しろ』
雪の乙女は最後の最後で、壊れた心のままに呟いた。
それを白の六騎士が聞き届け、言葉のままに魔に堕ちた。――六つの悪夢の誕生である。
刈り取る者は長い息を吐き出し、ゆるりと首を横に振った。その動作に、オルフェ達が警戒をする。・・・警戒したって、神相手じゃどうにも出来ないのに。
不自然にならないように、オルフェ達の前に出ると、私の行動理由を悟った刈り取る者が喉を鳴らして笑ったのでイラっとした。殴ってやろうか、この野郎・・・。怒気を隠しつつ、こっそりと拳を握る。
「場所を変えよう。ここじゃあ、駄目だ」
「・・・・・・どこへ、行くつもりだ」
もう、態度と性格が百八十度も変わったラルフレアに、私は何も言わない。形相すら違うって、一体、私が知らない間に何があったんだ。興味ないけど、聞いてみたい。
「猊下に逢ったこと、あんた達はあるか?」
問われた言葉に、ラルフレアもレーヴェもすぐには解らなったらしい。間をおいてから、無言で首を横に振っている。
刈り取る者はその反応を予想していたのか、滑稽とばかりに笑いだす。
「歴史に残る猊下は全て、偽物。本物はずっと、隠されたまま」
王族二人だけではなく、怪我の治療を終えたカリステゥスやピセル、テオ達も怪訝にしている。喚くだけで煩かったクラウディアも、頭に疑問符を浮かべているようだ。アニマが泣き続けるロゼットに意味を尋ねるも、返答はない。・・・父親の死を、少しは悲しんどけよ。なんでそう、平然な顔をしているのさ。精神年齢が幼いのか? ・・・はぁ。
オルフェ達も解らないらしく、戸惑いを見せていた。当然、シメロン達も知らないようだ。
訝しいとばかりに、刈り取る者を凝視する眼。
それを気にせず、刈り取る者が口を開く。
「場所を移す前に、続きを語ろうか」
白い仮面から、一筋の涙が流れたように見えたのは・・・気のせいかな?
悪と位置付けた六つの悪夢が世界を滅ぼそうとするのを、龍皇は傍観していた。雪の乙女がいない世界に、価値を見出せなかったから。けれど、悪夢が雪の乙女の死骸を求めたが故に、結果的に六つの悪夢と対峙することとなった。
幾度の死闘を繰り広げ、数多の種族や同族の犠牲を払って封じることが出来た六つの悪夢は最後まで、雪の乙女に固執した。それが癪に障ったんだろう。龍皇は己が魂を使い、雪の乙女の魂を取り込んだ。ここは黙示録通り、魂を持って封印の楔にした。そうすることで、六つの悪夢が手出しできないようにした。
「だが、俺が雪の乙女の魂を龍皇の元から奪い取った」
意味深に、私達を見るな。
「ボロボロだった魂を歪ながらも修復し、雪の乙女の子に預けた。番が生まれず、血が残せないと未来を危惧する雪の乙女の末裔に、ホムンクルスを作れと命じたのも俺だ」
「ホムンクルス・・・?」
「人に似た、けれど人ではない生物のことだと言えば、解りやすいか? そいつらの髪が銀なのは、遺伝子を操作して生み出されたホムンクルスの証拠。特有と言い換えるべきか?」
けたけたと笑う刈り取る者の言葉よりも、畏怖の眼で私達を見て来るオルフェ、ロイド、レーヴェ、アーシェを除いた眼が痛い。・・・ロゼットまで、化け物を見るような眼で見ないで欲しい。
・・・いや、化け物か。心の中で、せせら笑う。
自嘲していると刈り取る者は、ホムンクルスを作る過程で必須である、雪の乙女の魂が定着できる存在のことまで語っていた。展開が早いな、説明が追いつかないよ。――なんて、馬鹿馬鹿しいと、また自嘲。
「そうして母体と呼ばれる、始まりのホムンクルスを元に何度も子は生まれ、近親相姦から遺伝子は劣化し、欠陥を生み出して段々と短命となっていった」
刈り取る者は、心底楽しげに語る。
「繰り返し、繰り返して生まれた、最後の子こそが雪の乙女の魂を持った存在」
皆の視線が、私に来る。やめろ、見るな。
「・・・余談は終わって、話を戻そうか」
お前が勝手に、脱線させたんだろうが!! ああもう、殴りたいっ。
六つの悪夢と戦いながら、機械王を除く、すべての王が雪の乙女の死骸を欲した。
理由は単純明快――。雪の乙女の身体を使って、結界を作ろうと考えたからだ。
六つの悪夢を封じたと思ったら、今度は悪夢が生み出した魔物の脅威に怯える日々。けれど、悪夢が執着する雪の乙女が国にあれば、魔物は襲ってこないのでは? そう考え、龍皇の死後、雪の乙女の身体は五体不満足になった。
右腕は空中要塞・第七天国へ。
左腕は魔都・伏魔殿へ。
右足は海洋都市・海霧へ。
左足は常夜の都・不死鳥へ
右眼は神域へ。
左眼は百獣へ。
頭部は白の都・永久凍土
残った部分は聖王国・王冠へと渡った。
果たして――王達の目論見は当たった。
魔物は国を襲わず、周囲を根城に様子を窺うのみ。その光景に王達は歓喜した王達は深淵魔術、神聖魔術、死術、無属魔術・・・機械術を除いた全ての術を使って雪の乙女の骸が朽ちぬように施した。
それは六つの悪夢が国を滅ぼすまで、否、雪の乙女は国が滅ぶまで、骸を良いように利用され続けた。
刈り取る者が口を閉ざした瞬間、ぱちんと静電気がはしったような音がした。と思えば、眼の前の景色が一変して周囲から短い悲鳴が聞こえる。アニマとクラウディアの声が煩くて、もう、耳が痛い。
ああもう、私のせいにしてもいいからちょっと、黙れ。
「ここは・・・」
ラルフレアはこの景色に見覚えがあるのか、大きく眼を見開いて絶句した。
王城とは比べ物にならないほどに質素で、こじんまりとした城。はて、こんな城が聖王国・王冠に在っただろうか? 首を傾げるのは私だけではなく、オルフェやロイドも同じだ。
アーシェは状況についていけないのか、眼を白黒させていた。
シメロンが私の右側に立ち、ルカが反対側に立った。ノアが背後に立って、そっと両肩に手をのせる。隣に立つ理由も、肩に手をのせる意味も解らないんだけど?
刈り取る者の言葉で私がダメージを負っていると思ったからの、気遣いか? それともオルフェ達を除いた畏怖やらの視線から護るためか? どっちにしろ、そんな優しさはいらないよ。私は彼らからの視線も、刈り取る者の台詞にも傷ついていないからね。
「他の国は、悪夢に酔って滅ぼされた」
おっと、刈り取る者がまた口を開いた。
はずなのに、何でまた、景色が変わっているの? おかしいな。現実逃避はしていないはずなのに・・・。さっきみたいにぱちんって音もしなかったよ?
・・・神だから、で終わらせよう。あんまり考えると、頭が痛くなる。
「さて、問題だ」
変な空間だ。
窓が一切ないのに明るくて、どこまでも白い壁が続いている。天上も、床も、全てが白。何かを暗示しているようで、薄気味悪くもあった。アニマとクラウディアが女らしく、「怖い」やら「不気味」やらと呟いてレーヴェに抱き付いた。
わー、流石はレーヴェの嫁候補。やるねー。
・・・でも、時と場所を考えてやれ。今、すっごく鬱陶しいからその行為。
「国が滅びて、雪の乙女の骸はどうなったと思う?」
問いかけに、誰も答えない。
「答えは簡単。残った国に、別れた部分が引き寄せられるように集まる」
首とか眼球とか、その場から消えて三流ホラーのように別の場所に現れるの? それ、何て言うホラー?
・・・だから、アニマとクラウディアが煩いから。アーシェを見習え。静かにオルフェの背中にくっついているから。
ピセルとロゼットは平然としているから、論外。あ、でも二人の視線が相変わらず私に向かっていて痛い。突き刺さる。穴があく。よし、頑張って無視しよう!
「だからほら」
刈り取る者が、眼の前に現れた扉を両手で押しあけた。
いや、だから本当、なんであるの? さっきまで気が遠くなるほど長い、白い壁が続く道だったよね? 扉なんて、欠片も見えなかったよねぇ!?
・・・・・・神だから、で納得しておこう。
扉が開いて、誰かが短い悲鳴を上げた。
声からして、女性だろう。誰かは特定できないが、それは問題じゃない。
眼の前の悪趣味な玉座に座る、床の色を隠すほどに長い髪をした女性と比べれば・・・。
「白い・・・髪」
両脇の二人を乱暴に振り払ったレーヴェが、私を見た。うん、こっち見んな。
あー、えー・・・話しの展開からして、王座に座る彼女が雪の乙女だろうね。いやー、雪の乙女の名の通り、雪を連想させる髪の色だ。閉じられた瞳も、私と同じ金色だろうね。
「神の証である、金の瞳」
ぽつりと、刈り取る者が呟いた。
「それが濁り、淀み、暗く輝いた時は我が眼を疑った」
一歩、刈り取る者が足を進める。
しかし、刈り取る者よ・・・。君の言葉、誰も聞いてないよ? あ、いいの。聞かせるために話している訳じゃないのか。独り言なら、もっと静かにお願いします。
「兄上」
レーヴェが硬い口調で、ラルフレアを呼んだ。心なしか、眼もきついような。
「知っていましたか」
「・・・」
「何故、黙っているんですか? 王族は・・・俺達は一体、何を猊下としていたのですか!?」
レーヴェが吼えるも、ラルフレアは顔を俯かせた。
空気が重いし、悪いんだけど。換気したらよくなるかな? ならないか。
「架空の存在を猊下とし、役割も役目も全て聖王が行う。そうすることで聖王国・王冠は真実を隠し続けてきた」
ぽつりと、ぽつりと告げるの顔を俯かせたままのラルフレア。レーヴェの形相が鬼みたいになっているんだけど・・・誰も気にしないんだね。両隣にいる女性もスルーか。
恋は盲目・・・すぎるだろうが。
「聖王しか知らない事実。聖王のみ知る真実。隠し続けなければいけない歴史。父上にほのめかされただろう? 『聖王になる者は、どのような過去でも受け入れなければならない』と。だから私もお前も、聖王になるのを嫌った。が、結果として私は聖王となって全てを知った。・・・拒み、逃げたお前にとやかく言われる筋合いはない」
顔を上げたラルフレアが、憎らしげにレーヴェを睨んだ。
一色触発の空気が流れる中、足を止めた刈り取る者が胡乱に二人を見た。纏う空気が冷やかで、凍土を思わせる。くしゃみをしたら、空気を読めと怒られるだろうか? ・・・むしろ、この空気を壊すべきか。
「機械王に王としての教育を受けた・・・いや、洗脳でもされ故の決断だろう? 今更、ごちゃごちゃと煩いな」
なんて考えている間に、刈り取る者が静かに怒声をあげた。
「何で知っている、って顔だな。理由なんて、考えなくても解るだろう? 万能でも全能でもないが、神が知らないことはない」
矛盾しているよ、刈り取る者。
溜息をつけば、何だか含み笑いをしながら私に視線が向いた。刈り取る者だけならまだしも、全員が何で私を見る。シメロンもルカもノアも、見ないでくれない?
まぁ、たかだが視線で怯えるほど柔な神経はしてないからね。もう、本当精神面が成長したよ私。・・・泣いていい?
「それで、話は終わり?」
「話は、な」
白い仮面を外し、憂いを帯びた素顔をさらす。・・・神は美形って言うのが、セオリーなのか。場違いなことを思って、すぐに脳裏から消した。
右隣に立つシメロンが、ぎゅっと私を抱きしめた。今、それいらないからやめて。べしべしとシメロンの腕を叩くが、この野郎。離す気がまったくないな。逆に強くなった拘束に、呆れしかないんだけども。
「なら、このくだらない茶番は終わりでいいのかな?」
「茶番って・・・どう言うことですか、ルキア?」
「少しは考えてよ、テオ。どうして、今その話をする必要があるの? 昔話を今日聞く理由はあった?」
はい、皆ちんもーく。
「それも踏まえて、本題を話してくれるよね?」
「怖い、怖い」
私如きの言葉に、何が怖いだ。この嘘つき男。
笑った顔が余計、嘘くさいんだよ。
もっとも、説明してくれなくても大体は予想つくけど。
「雪の乙女の魂を龍皇から奪ったのは、刈り取る者。それがきっかけで封印が弱まったから、原因も刈り取る者。なら、悪夢に器を与えたのも刈り取る者」
「根拠は?」
「嘘つきの言葉を信じなかっただけ。根拠なんて、継承したモノで大体解るよ」
「記憶はないのに、よくもまぁ」
「記憶以外は、継承したからね。だから、大体だって言ったでしょ?」
刈り取る者がおかしげに笑って、オルフェ達が瞠目した。
うん、話についていけないならそのまま黙っていて。シメロン達も、口を閉ざして静かにしていてね。話の腰を折らないでよ? 特にそこの、女子二人!
「ネーヴェと」
視線を王座に座る雪の乙女に向け、次に刈り取る者を見た。
「アルマ」
私の記憶にないはずの、自身の名を呼ばれて刈り取る者は動揺を見せた。
「恋人同士だった二人の神はしかし、愚かな者によってその絆を、繋がりを断ち切られてしまった」
雪の乙女の魂が完全に私と同化していないからか少し、胸が痛い。涙で視界が滲むのは、雪の乙女の感情に引きずられているからか。
だとしたら、止めて欲しい。
この身体は私の物で、私以外の感情が勝手をしないで。
「刈り取る者・・・いや、アルマ。君の望みは世界を壊すこと。ネーヴェを失うきっかけとなったこの世界を滅ぼし、再びネーヴェと共に生きる未来」
「・・・・・・・・・」
「だから雪の乙女の末裔を、何が何でも生かし続けなければならなかった。だって魂があっても、器がなければ意味がない。かと言って、バラバラになった元の身体に魂を入れるのは忍びなかった。・・・でも、元の身体も欲しかった。この世界に存在することが許せなかったから。置き続けることに、我慢できなかったから」
刈り取る者からの言葉は、ない。
私はシメロンの腕の中から抜け出し、一歩、前に出た。右腕を伸ばし、刈り取る者に指先を向ける。オルフェが不安げに私の名を呼んだ。返事はしない。
「さぁ、ここまでは君の筋書き通りだ」
刈り取る者が笑った。
「でも、元に戻った身体を見て君の気持ちは変わった。だから、筋書きも変わった」
「ああ、そうだな」
「・・・・・・私を殺して、その身体に魂を定着させるんだね」
「!」
「解っていても、あんたが逃げることは出来ない」
逃げることは出来ない、ね・・・。
何度、その言葉を聞いたことか。まったく、嫌になるよ。やれやれと首を横に振れば、私の前に懐かしい背中が現れた。両隣に、見知った気配がある。ロイドとレーヴェだ。
「ルキアは殺させない」
その気持ちだけで、十分だよ・・・オルフェ。
レーヴェもロイドも、ありがとう。
オルフェの背中にそっと手を触れ、そのまま身体を横に動かして前に出た。そのまま刈り取る者に近づこうと歩きだしたんだけど、右腕をオルフェに強く掴まれてそれも出来ない。反動で身体が後ろに傾いたよ。・・・転ぶかと思った。
「行くな」
小さな声で、懇願された。
「俺の前から、消えないでくれ」
「・・・」
「お願いだから、俺の傍にいて・・・。ルキアっ」
ごめんね、ありがとう。
オルフェが私を好きなこと、ずっと知っていたよ。でも、私は答えるつもりがないし、アーシェとくっつけばいいなって思っていたから。知らないふりをしていた。それはたぶん、誰にも気づかれていないと思う。
そっと、腕を掴むオルフェの手に手を重ねた。
はっとしたようにオルフェが私を見て、泣きそうに顔をゆがめる。視界の端にロイドとレーヴェも見えるのにどうしてかな、オルフェしか意識出来ないなんて。
「大好き」
「っ」
好き、なんて恥ずかしい台詞がよく言葉に出せたものだ。
「大好きだよ」
たぶん、異性として。
「さようなら」
だから私は、好きと述べた口で別れを告げる。
継承された雪の乙女の力を使い、強制的にオルフェの身体を操る。意思とは裏腹に動く手にオルフェは戸惑い、眼を大きく見開いて私を凝視した。
ごめんね、オルフェ。
私は君を、傷つけてしまう。
オルフェの身体を力で縛ったまま、後ろに後退させた。オルフェは必死に私に何を言おうとして、声が出ないことに愕然としていた。ごめん、声も奪わせてもらったよ。
オルフェだけじゃなくて、この場にいる全員のだけど。
「これこそ、茶番だな」
刈り取る者の声がしたと思ったら、腹部が異様に熱かった。痛い、と感じる暇もないまま腹部に刺さった死神らしい鎌が横に薙ぐ。ぐらりと、視点が変わる。身体が横に傾いて、そのまま白い床に倒れ込んだ。
赤い血が、白を侵食する。
「安心しろ。あんたを一人で寂しく、死なせはしない」
刈り取る者は悪夢に似た、狂気を瞳に宿して笑う。
視界がぼやけてきた。
身体が寒い。
「すぐに、仲間と逢えるからな」
瞼が重くて、眼が開けていられない。
「さて、世界を終わらせようか? なぁ、ネーヴェ」
誰かの慟哭が、聞こえた気がした。




