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再会

次の更新もまた、ゆったり目です。すいません。

 猛烈な眠気に襲われ、頑張って抵抗したけど白旗を上げたのは果たして何分前だっただろうか。いや、もしかして・・・何日か前か? あはは、まさかそんなに日が経っているとか、そんな現象はないよな。うん、ないない。ありえない。

 あー、とにかく、変に現実逃避はやめよう。

 現実と向き合うんだ、私。

 それが例え、夢オチ希望で認めたくないようなことだとしても、だ。


 ・・・血の海と表現していいほどに紅い地面は、やっぱり見なかったことにしたいんだけど。駄目だろうか?


「これはまた」

 シメロンが硬い声でそう言い、私を姫抱きしたまま歩きだした。どうやら、私が起きていることには気づいていないようだ。よし、このまま寝た振りをしよう。

 面倒な展開は、狸寝入りの術で回避しよう。・・・出来るかな?

「騎士の死骸ばかりだな」

「それにしても、バラバラな死体が多いですね」

 平然と死体が見れている姉弟が怖いよ! 私は視界に入って五秒は固まって、一分後には眼を逸らしたぞ!! そして絶賛、狸寝入り中ですよ!!! 威張ることじゃないな。

 うう・・・しかし。ノアの言葉を聞くに、この惨劇を起こしたのは確実に、最後の悪夢(オッセッスィオーネ)である女王だ。

 黒い風を纏わせた鞭で、腕やら足やら首やらを切断したんだろう。スチルはなかったけど、そんな描写がゲームであったし、間違いないと思う。他の悪夢同様、そう言うのはゲーム内容通りだったから、確かだろう。

 ロゼットがいたら、絶対に同意した。

「血の後は・・・こっちに続いているな。どうする、行って見る?」

 あえてなのか、おどけた口調で語るルカにノアが溜息をついた・・・ような気がする。

「むざむざ、危険な場所に行く必要はないと思うのですが」

「ま、それもそうだ」

 すんなりと肯定するなら、初めから言うなよ。

 呆れた私の耳に、シメロンが渇いた声で笑う音が届く。はて、何か笑う状況でも起きたのだろうか? 怪訝に思って、薄眼を開けてみるが・・・何も見えない。

「そう言う訳にも、いかないらしい」

 いや、何で? 私の眼には、何も見えないんだけど?

「魔物の大群の、お出ましだ」

「あー・・・、ワイバーンにアラクネ、モスマンにデュラハンの混合チーム?」

 ルカの言葉に、思わず叫びそうになったが耐えた私、偉い。

 いやいや、自画自賛している場合か。え、ワイバーンにアラクネ、モスマンにデュラハンですと?! 生息地が違う魔物が、何で聖王国・王冠(レアーメ)にいるのさ。出張ですか? なんて、冗談を言っている場合かっ。

 これはあれか? 悪夢が魔物を呼び寄せた・・・んだろうか。断言するには早計だが、それ以外に思い付かない。うう、頭がよくなりたい。嘆いている場合でもない!

「逃げるぞ」

「流石に、あの数を相手にするのはキツイですしね」

「賛成。はい、逃げる!」

 ルカが言い終わると同時に、何かが爆発する音が聞こえた。爆弾か? 爆弾なんて物騒な物、常備しているのか! お、恐ろしい・・・。

 いやいやいや、戦いている場合でもないだろう! 変に呑気だな、私!!


 シメロンが私を抱え直し、駆ける速度を上げた。

 揺れが少ないため、酔いはしないがシメロンに負担をかけていることが申し訳ない。が、眼は開けない。意地でも、開けてやるか。私は現実を直視しない! 

 ちょっとぐらい、逃避したっていいじゃないか・・・。誰にともなく、言い訳してみた。

「ねぇ、なん・・・、だか」

 ルカが途切れ途切れに、言葉を発する」

「進行方向、で、破壊音が聞こえる、んだけど!」

「戦闘中、なんでしょうから、聞こえるのは、当り前でしょう」

「肯定、しないでほしかった、よ!」

 うん、私も切実に同感だ。

 薄眼を開けたまま、自然な動作で前を見ればほら。戦っているオルフェ達の姿が・・・・・・・・・ない。え、戦っているの、テオとカリステゥスとピセル姉さんだけ? は? え、何で? あれ、じゃあ、あそこで喚くだけ喚いている女性は・・・何?

 あれ、気のせいでも他人の空似でもなければクラウディアだよね? レーヴェの許嫁のクラウディア・エノク・ハーヴェだよね? 槍持っているから、戦えるよね? ゲームでは勇敢で、王族を護るためなら命を惜しまない性格のはずなのに、何でラルフレアを盾にしているのかな?

 ゲームと違うから、で説明を終わらせるにはちょぉぉぉぉっと、どうかと思うんだけど。王族を護る騎士の家系でありながら、王族を盾にするって、本当、どう言う神経をしているのかな? 

「あたくしを護ってください、ラルフレア様っ」

 ラルフレアに抱き付き、泣きだした。

 いやいやいや、槍持っているのに何で「護ってください」なのさ。戦えよ。男装は趣味か? その槍は形だけの役立たずなのか? 正直、幻滅だ。

「あ、あたくし、あたくし・・・あんな相手と戦うなんて、無理です!」

 力説して言うことか。


「子犬がきゃんきゃんと、喚くな。耳障りじゃ」

 女王が嫌悪に呟き、鞭を振った。

 鞭の音で反射的に眼を瞑ってしまったので、どうなったのかは見ていない。が、耳で聞こえた声は男のものだった。ラルフレアではない、別の誰か。

「ぎゃあ?!」

「兄さん!」

 ゲームで聞いた声がする。その声を頼りに女子高校生(むかし)の私の記憶を掘り起こせば、脳裏に蘇った映像は対照的な体格をした双子の姿。

 と、すれば。兄さんと呼んだ声の主は弟のリルド・ガルム。叫んだのは兄のラグナ・ガルムだろう。・・・想像の中で、首と胴体が別れたラグナの姿を思い描いてしまった。うう、吐き気がする。

「いや、だ。嫌だ、嫌だ兄さん。俺を置いていかないでよ、兄さん!」

「じゃから、喚くなと妾は言っておるのじゃ。少し、黙れ」

 また、鞭が振う音が聞こえる。その直後、短いながらも悲鳴がして、沈黙した。多分どころか確実に、リルドも死んだ。


「後方の魔物。前方の悪夢。どっちらにしろ、最悪ですね」

 ノアが呟いて、どうするかをシメロンに問いかけた。シメロンは数秒だけ沈黙し、舌打ちをして私を抱き直す。ついでとばかりに、ぎゅっと身体を抱きしめた。何でさ。

「空間転移は出来ないのか?」

「出来たらしている。どうしてだか、使えないんだよ」

 苛立ちにルカの言葉に返答し、シメロンは長い息を吐きだした。

「誰が死のうが、俺には関係ない。俺は妹と、従姉弟(おまえら)がいればそれでいい。が」

 曖昧に言葉を切ったシメロンが気になって、そっと眼を開けた。

 シメロンはルカもノアも見ず、女王がいる場所を見ている。こっそりと視線を動かせば、戦闘に介入するオルフェ達の姿が見えた。・・・何だか随分と、懐かしい気がする。あ、泣きそうだ。

「あのクソ餓鬼達が死ぬのを、ルキアは嫌がるだろう」


 うん、嫌。 

 世界が滅んでも別にどうでもいいけど、オルフェ達は助けたい。

 だから私は刈り取る者の手をとった。その後に聞かされた事実にはまぁ、戸惑って認めたくない気持ちがまだあるけど。逃げることも出来ないから、受け入れるしかないんだよね。だから私はいつも通り、諦観するだけ。

 ・・・変わりに、オルフェ達は何が何でも助けようと心に決めたんだ。


 だって私の世界って――オルフェ達がいるからこそ、動いたんだから。


「ノア、ルカ」

 シメロンが二人の名を呼び、視線を動かしたので慌てて眼を閉ざした。

「他の奴らは放っておくが、ルキアの・・・腹立たしいが大切な存在に手助けしたい。手伝ってくれるか?」

「・・・大切な存在って、あの黒髪の眼帯と大剣持った金髪と、銃を構えた灰色の男?」

「あとは桃色の見た眼と裏腹に、可愛げのない女だ、ルカ」

「りょーかい」

 ルカが笑った気がする。

ぽきぽきと音がするのは、手の骨を鳴らしているからだろうか?

「仕方ありませんね」

 ノアが呆れながら、そう言った。

「命が危ないと思ったら、迷わず撤退しますよ? 私達は、祖の願いを果たさねばならないのですから」

「解ってる。それまで、俺達は死ねないし死なない」

 祖の願いって何? 聞きたいけど、狸寝入り中じゃ会話に割り込めない。ああ、何で寝たふりなんてした。


「シクストっ!!」

 ロゼットの声が聞こえた。

「有翼人がエルフを庇ったようですね。右足と左腕が鞭で切断されてもなお、エルフを護ろうと絶つなんて」

 ノアが状況を説明してくれた。ありがたいと思うよりも、この展開がまたゲーム通りで苛立ってきた。

 大切な者を庇って腹部を抉られ、右足、左腕を切断されて地に伏せるシクストゥスのスチルが脳裏に蘇ってくる。やめろ、思い出すな。虚ろな眼で大切な者を見つめ、護れたことに安堵する表情は死に逝く者とは思えないほどに穏やかで。思い出すな、私!

「いや、いや・・・ああ、あああああああああ、あぁっ」

 ロゼットの泣き声が聞こえた。おそらく、ロゼットもスチルを思い出したのだろう。

 数あるシクストゥスの死亡フラグの中で、死に方は違うが何故だか異様に多い、誰かを庇って死ぬ場面。今起こったのは好感度がMax状態で結婚している且つ、一定以下の敗北と選択によって発生するもの。


 ああ、そんなことはもう関係ないか。

 ゲームと違うんだって、いい加減に解りきれよ。


「死な・・・ないで、シクスト」

「・・・ろ、ぜ」

「喋ったら駄目!」

 声が聞こえたと言うことは、シクストゥスはまだ生きているのだろう。喋った相手を叱り、涙声ながらもロゼットが必死に水の神霊術(アルカナ)を発動させた。しかし、だ。

 ロゼットは全ての神霊術を扱える変わりに、威力が弱い。

「どうして私の力は、こんなに弱いのっ」

己が力の無さを悔いているロゼットの声が耳に届く。

「変わって! 私が治します!!」

「アーシェ・・・お願いっ。シクストを、シクストを助けて!!」

「出来る限りのことは、するよ」

 

 いつからそこにいたのか不明だが、アーシェの声が聞こえた。同時に、水の神霊術を発動させる声も耳に届く。

 しかし・・・。いくらアーシェが水の神霊術が得意でも、シクストゥスを治すことは不可能だろう。例のスチル通りの身体になっているのならば出血量やらなんやらで・・・・・・いや、やめよう。希望を持たないでどうする。


「さて、行こうか」

 ルカが告げて、気配が遠ざかっていくのが解る。その後、ノアがついていったのも。

 ああ・・・二人は女王の元へ行くのか。眼を閉じるのを止めて、瞳を開けた。シメロンが私を見下ろしていた。

「ルキア・・・?」

「降ろして」

「ルキアは安全な場所に」

「お兄ちゃん、降ろして」

 シメロンの言葉を遮って、私の願いを口にする。すれば、シメロンが渋々と私を降ろした。地面にしっかりと足をつけ、息を吐きだす。


 さぁ、現実逃避は終わりだ。

 いい加減、全てを受け入れよう。いつも通りの――諦観で。


「大丈夫」

 シメロンが何を言う前に、言葉を告げる。

 鼓膜に、オルフェ達が女王と戦う声が届く。・・・スキルや神霊術を使っても、女王は倒せないよ。ゲーム知識じゃない、雪の乙女の知識が私に教える。本当にもう、記憶(・・)以外は継承しちゃったんだな。自嘲して、息を吐きだした。

「行こう、お兄ちゃん。女王は、私が何とかするから」

「ルキア・・・」

「それとも、お兄ちゃんが何とかする? 機械王から貰った、これで」

「!」

 首に下げたネックレスをシメロンに見せれば、明らかに顔色が変わった。「どうして知っている」とでも言いたげな表情だ。

 いやはや、こんなチート的な能力望んでないんだけど。あるなら活用しようか。

 ネックレスに宿る残留思念から読み取った情報は、機械王とシメロンの密談から始まり、このネックレスに宿る力のことで終わっている。力のことを考えれば、確かにこれはお守りだ。

「王の写本と、空間転移の力が宿っているよね。これで、女王の力を無効化してここではない何処かへ飛ばせるね。・・・今、空間転移が使えないのは、このネックレスに力を注いでいるから、で合っているかな?」

「・・・・・・ああ、そうだ。けど、どうしてそれを」

「私がもう、人じゃないからかな?」

「そんなことはない!」

 おどけて言えば、シメロンに怒鳴れた。

 いやー、残念ながら事実なんだよね。雪の乙女の魂を持って、ホムンクルスの身体である時点でもう人ではないんだけど。


 これじゃあ、八つ当たりみたいだな。

 また、自嘲がこぼれる。


「カリスっ!!」

 ピセルの声が聞こえて、弾かれたようにそちらを見た。何かが宙を舞っている。赤い飛沫を飛ばし、くるくると回転するソレ。・・・確認する必要はないか。

 肩口からすっぽりと無くなった、カリステゥスの右腕だろうし。

 ピセルは持っていた棍棒を投げ捨てるように手放し、額に脂汗を流して苦悶に唸るカリステゥスの傍に駆けよった。おいおい、テオが一人で奮闘しているよ? いいの、放っておいて。見覚えのない人間も、応戦しているけどさ。

 オルフェ達が加わっても、女王相手には人数が足りないのに。あ、ルカとノアが参戦した。雷の神霊術を威嚇がわりに使ったのか、ルカ。地面が抉れて焦げるってどんな威力?

 誰だと警戒心を強めるオルフェ達に、ルカが挑発するように笑った。

「まぁ、敵じゃないから安心しろよ」

 嫌悪丸出しの顔で言う台詞か、それ?

 やっぱりと言うか、当り前ながらオルフェ達は警戒を強めてしまった。何がしたかったんだよ、ルカ。ノアも、見てないで止めて。

 呆れていると、誰かの怒鳴り声がした。

「誰でもいいが、敵じゃないなら手伝え!」

 うん、正論だろうが誰? 視線を向ければ、ゲームで見たことのある人物がいた。わぁお、扱いの難しいダブルソードを持ったシド・アルデリスと双剣を構えたエレン・バルバロッサがいる。

 生き残りが、聖王国・王冠に集合したってどんな皮肉だ。

「怒鳴らないでくれる、おっさん」

「おっ・・・! 俺はまだ、若い!!」

「はいはい、喚かない」

 戦いつつ文句を言えるなんて凄いね、シド。思わず、拍手を送りたくなるよ。しないけどって、おや? エレンがルカとノアを見て、驚愕したような顔をしている。龍族だから、二人が誰か解ったのかな。


 しかし、悪夢が全員眼覚めた時点で神霊術もスキルも効かないと言うのに、頑張るなー。堕ちたとは言え、元は神の眷属。その相手に、神霊術なんて効くはずないのに。

 全員が眼覚めていない状況だったら、効いたけど今はもう無理だね。うん、不可能。

「スキルは世界が与えた力だから、世界樹(ユグドラシル)と深く関わった者には効果が薄いんだよね」

 小さく呟いてから、また自嘲する。

 私も近いうちに、スキルが効かなくなる。猶予がないって、残酷だ。嫌だ、嫌だ。逃げ出したい。・・・逃げたら即効、死亡フラグなんだろうーな。笑えないよ。

「ルキア?」

 シメロンが心配げに私を見るけど、無視をしてわざと大きな音を立てて皆の前に出る。あれー? クラウディアとアニマの視線が痛いぞ?

 いや、それ以前にアニマ。君、どこに隠れていたの? 何で今、出てきた?

 ――どうでもいいか。


「おお、おお!」

 女王が歓喜の声を上げる。姫の器に逢えたのが、そんなに嬉しいのか。あははは、残念だな。私は器にはならないぞ。

 いや、なれないと言った方が正しいか。

「探したぞ、妾の大切な姫の器。テネブローレも、ヴェントも、ファータも、ストゥレーガも、突然いなくなったから心配しておったぞ」

 刈り取る者に足枷を外して貰って、変な空間であの場所から逃げたからね。どうやって逃走したのか、疑問に想っただろーな。はっ、ざまあみろ。

 ・・・ガラが悪くなったな。

 背後から聞こえる、クラウディアとアニマの喚く声が煩い。オルフェ達を除く、ピセル達の視線が痛い。殺意を感じるのは、気のせいじゃないな。やだ、やだ。なんか、知らない所で死亡フラグが増えたよ。

 シクストゥスはどうも助からなかったらしく、ロゼットがその亡骸に縋りついて泣いている。アーシェが「ごめんなさい」と何度も謝罪し、泣くのを必死にこらえているのが見えた。・・・やっぱり、助からなかったか。見ているのが辛くて、視線を女王に戻した。

「さぁ、妾と共に行こう。ここは、姫には相応しくない」

「一緒に行って、それで?」

「姫を陥れた世界を滅ぼす」

 はっきりと断言した言葉に、オルフェ達が息を飲んだ。反対にエレンの顔色がみるみる悪くなる。どうやら、女王の言葉に思い当たる物があるらしい。

 目聡く気づいたシメロン達が、射抜くようにエレンを見た。

 まぁ、龍族だし龍皇の血縁だし、知っていてもおかしくはないよね。

「私の願いとは違うね」

「器の願いなど、どうでもよいわ。全ては姫のため。姫が願い、望んだことを叶えるのが妾達の努め。故に器よ、貴様の意思なぞ関係ないのじゃ」

 はっきりとまぁ、言ってくれる。


「自らの意思で来ぬと言うのならば、力づくで来てもらうぞ。そう・・・貴様以外を殺してでものぉ」

 かっかっかと言う、独特な笑い方をする女王に失笑したくなった。

 ああ、馬鹿馬鹿しい喜劇だ。

「オルフェ達は殺させない」

 護りたいと願った存在を、私が殺させるはずがないだろう――?

「悪いけど、ご退場願おうか」

 首に下げたネックレスと取れば、シメロンが私の名を呼んだ。使えるのか、とでも聞きたいんだろう。嬉しくないことに、使えるんだよね。

 機械王はお守りと言っておきながら、私でなくシメロンに使わせる予定だったんだよね。人生って、ままならないなー。はい、現実逃避は終了。


 歯車を強く握ったまま、手を前に突き出す。

 女王が訝しそうに私を見て、せせら笑った。何も出来ない癖に、とでも言いたいのか。ああ、そうだね。私は結界術しか使えない。ノアみたいに結界術を使って攻撃を仕掛けることも出来ない。――私はね。

 歯車を握る手に力を込め、そこに意識を集中させた。掌が熱い。

「<力の消失>、<無力化>、<束縛>、<空間移動>、<転移開始>」

「っ何を?!」

 自分の身で起きたことが、解らないのかな? まぁ、説明するつもりはないから知らないままでいいんだけどね。私は困らないし。


 とか思っていたら、女王の鞭が飛んできた。あれま、まだ動けたのか。束縛の力が弱かったのか。・・・まだ、力が馴染んでいないのかな?

 ぼんやりと迫る鞭を見ていると、見知った背中が視界を埋め尽くした。シメロンだ。

 宣言通り、私を護ってくれるのか。何だか、申し訳ないな。

 悪夢の攻撃は多分、もう私には届かないのに・・・。

「ルキアを護るのは俺だ!」

 ・・・・・・シメロンの身体を蹴飛ばし、オルフェが鞭を切った。美味しい場面を横取りとは、流石は主人公。恐ろしい奴。

「ルキア・・・」

 内心で戦いていると、オルフェが涙ぐんだ眼で私を見る。ゆっくりと、傍に近づいたかと思えば剣を持っていない手で私の頬に触れた。

 あ、泣いた。

「無事、だったんだな」

「オルフェこそ」

 剣を持ったまま抱き付いたオルフェに、私はそれ以外の言葉を返せない。むしろ何を言えと? 空気を読まずに、剣が危ないから抱きつくなとでも言えばよかったのか?

 馬鹿馬鹿しいことを考える思考を瞬時に捨て、私は眼を動かした。


 女王はまだ、この場にいるんだけど・・・解っているのかな、オルフェ?


 ほら、女王が黒い風を使おうと両手に力を集めているよ。レーヴェとロイドが気づいて、まだ動けるテネやシド、エレンと一緒に何とかしようと奮闘しているよ? 君も行くべきじゃないか? ・・・気づくどころか、完全に無視だな。それでいいのか、主人公。

「<遥か彼方>、<遠い距離>、<二度目はなし>、<この場での戦闘は不許可>、<来襲不可>、<来訪不可>」

 溜息をついた後、私はオルフェに抱きつかれたまま、言葉を紡いだ。

 蹴られたシメロンが立ち上がり、オルフェを私から離そうと躍起になっている。うん、後でして。

「<管理者権限により、発動>」

 抱き付いたオルフェだけではなく、私の声が聞こえた全員が驚いた顔をした。

 オルフェが私から僅かに身体を離し、マジマジと眼を直視する。やめて、見ないで。


「<悪夢はこの場から立ち去れ>」

 最後の言葉を口にしたら、あら不思議。

 女王は大きく眼を見開き、何かを言おうと口を開いたまま姿を消した。当分と言わず、永遠に姿を見せるなよー。・・・無理か。

 

 さてはて、女王と言う脅威はいなくなった。

 死者には後で花をたむけて、丁寧に埋葬しよう。

 問題は・・・・・・・・・この何とも言えない空気だよねー。あはははは、どうしよう。違う意味で、皆に視線が痛い。

 あ、嫉妬やら憎悪の視線もある。クラウディアとアニマも飽きないなー。その視線の主にピセルやラルフレアがいることが、悲しいけど仕方ないか。まぁ、これは仕方ないとして放置して。・・・何から話そうか。


「いや・・・私が話すより、彼が話した方が理解してくれるかな?」

「ルキア?」

 シメロンにより、私から離れたオルフェが不思議そうに瞬いた。

「何だか・・・ルキア、変わったね」

 そりゃ色々あったら否応なしに変わるよ、ロイド。

 眼を瞑って、息を吐き出す。吸うと同時に、眼を開けた。レーヴェが瞠目し、私に近づいて顔を凝視した。や、だからそんなに見るな。やめて。

「その眼、どうしたんだ?」

 眼って、別に何とも・・・・・・・・・ああ、アレかな?

「なんで、金色に変わったんだ?」

「それも含めて、説明するよ。でも、その前に」

 私は周囲を見渡し、身体を小さくするエレンに気づいて微笑んだ。怖がられ、エレンの顔色がさらに悪くなった。眼が合っただけなのに失礼な奴だな、おい。

 肩を竦めて、私は口を動かす。


「刈り取る者」

 名を呟けば、シメロン達の纏う空気が一変した。

 解りやすい警戒だな。刈り取る者に一体、何をされたんだか。

「君が知る過去を、嘘偽りなく、事実のみを真実として語ってくれないかな?」

 私に語ったことは、全てではないが嘘だと言うことはもう解っているんだよ。

「ほら、これは君が望んだ展開でしょ? 語るなら、今だと思うんだけど?」

「お膳立てをしたとでも、あんたは言いたいのか?」

「!?」

 私の背後に、前兆も気配もなく現れた存在にオルフェ達は驚いたようだ。けど、それも一瞬ですぐに武器を持って警戒を強める。止めておきなよ、これでも一応、神の一人だから。名前からして、死神と同義だと解っているのかな?

 ・・・解らないか。


「もともと、現れるつもりだったんでしょ? なら、早いか遅いかの違いだけで、大差問題はないと思うんだけど」

「それもそうだな」

 あっさりと同意した刈り取る者に、何だか無性に疲れてしまった。精神的疲労って、半端ないわ。


「そうだな」

 刈り取る者が武器を構える皆を一瞥し、不敵に笑う。・・・仮面だから、表情はよく解らないけれど侮蔑を宿している気がした。

「少し、昔話でもしようか」



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