手段は問わず
更新速度が遅くてすいません。
もう少しだけ、お付き合いください。
鉛のように重い瞼を、気力と根性だけで閉ざすのを阻止する。
でも、視界に映るのは霞んだ景色だけで、よく解らない。色と声だけで、誰がどこにいるかしか判断できない。・・・音も、あまりよく聞こえなくなってきた。うわー、これは真面目にやばい。
女子高校生の私が死ぬ瞬間を、嫌でも思い出すよ。
「貸したモノは、本来の持ち主に返さないとな」
それはつまり――魂ってことか? ふざけるなよ。
拒否権なしに、勝手に貸したモノを必要になったから返せ。と言うのはどうかと思うぞ、刈り取る者。やっぱり・・・殴りたい。殴るまで、死ぬに死ねるか!
いや、死ぬつもりもないんだけど。
ぐっと腕に力を込め、起き上がろうとするけど中々上手くいかない。漸く座り込むことが出来たけど、疲れて動けない。荒い息を吐きながら、ぼやける視界で周囲を見渡した。すれば、オルフェが不透明な壁を必死に叩いている姿見える。あれは・・・刈り取る者が作った結界だろうか?
結界術、使えたんだ。流石は神、と言うべきか。
流石の言葉に嫌味を込めたんだが、悟られなかったようだ。ちっ。
「ルキア、ルキア、ルキア、ルキア、ルキア、ルキアっ」
馬鹿の一つ覚えのように、何度も私の名を呼ぶオルフェの声は酷く掠れている。泣いているのかな? 結界を叩く手も、赤く染まっているように見えるんだけど・・・。あまり、無茶はしてほしくない。
オルフェの肩をレーヴェが掴み、ロイドが何かを言っているけど、距離のせいか声が届かない。まぁ、そのままオルフェをここから遠ざけておいて。ちょっと、無理矢理だけど貰った力を使おうと思うから。・・・うん、刈り取る者相手に使おうと思うんだ。
それがどう言う結果を生むのかは、あんまり考えたくないけど。
「あんた、まだ動けたのか。随分としぶといホムンクルスだ」
「化け物だから、簡単に死なないだけだと思うけどね?」
「ルキアっ!!」
卑下したら、レーヴェに怒鳴られた。
何これ、デジャブ。――じゃ、なくて。
ぐっと足に力を入れ、ふらつきながら立ち上がった。あー、眼が回る。血を流しすぎたかな? 息を吐き出し、浅く吸い込んだ。
うう、お腹が凄く痛い。おのれぇ、刈り取る者。眼にモノ見せてやる・・・・・・。今までの恨み、倍にして返してやろうか。
「何その、反抗的な眼。今すぐに殺してやろうか?」
はは、悪役の台詞。
「それとも、あんたの大切な奴らから殺そうか。ああ、その方がより一層、絶望するな」
自分の言葉が、さも名案だとばかりに言うな。
「それじゃあ、手始めに殺すか」
「簡単に殺せると思うなよ。・・・アンタを殺して、ルキアを助ける」
オルフェよ・・・。
相手が神だと解っての言葉か、それは? 無謀だから、無理だから、無茶だから!
ああもうっ。頭を抱えたい気持ちをぐっと抑え、後ろに一歩ずつ下がっていく。お願いだから、変に刈り取る者を刺激しないで。
刈り取る者と交戦を始めたオルフェを見て、焦りが出て来る。・・・・・・いや、まて私。冷静になって考えろ。これはある意味、チャンスだ。刈り取る者の意識が、不本意だがオルフェに向いている今が私がアイツに反撃できる、絶好の機会ではないか?
・・・ごめん、オルフェ。
そのまま、刈り取る者の気を引いていて!
すぐ、すぐに何とかするから!! レーヴェとロイドも、加勢よろしくっ。
とはお願いしたが何だろう。人智を超えた戦いをしているけど、気のせいだと眼を逸らそう。私は何も、見ていないよ。爆発音とか雷鳴とか、その他諸々の音なんて知らない。
ぐるりと身体を百八十度反転させ、王座に座る雪の乙女に向かって走り出す。・・・いや、お腹が痛いから実際は走っていません。少し、駆け足で近づいています。
ま、まぁそれはともかくとして。
霞む眼のまま、雪の乙女に近づくのは困難だ。あれだ、眼隠しをしてスイカ割りをしている感覚に似ているような・・・いや、違うか? 馬鹿なことを考えていないで、早く傍に近づけ私!
あまりよく聞こえない耳が、刈り取る者とオルフェ達の声を拾い上げる。他の声が聞こえないと言うことは、傍観か。ただ見ているだけなら、案山子でも出来るわこの無能がっ。
おっと、柄が悪くなった。
あ、何かシメロンとルカが参戦したみたい。ノアが結界術を唱えているような・・・感覚がする。うん、感覚って最早、人外だな。
あははははは、否定しきれないほどに化け物になってきたよ。自嘲しかでない。
「っは」
なんて阿呆なことを考えているうちに、なんとか無事に、雪の乙女の場所まで辿りつけました。やったね! じゃな、ない。
肝心なのは、ここかだら。
頑張れ私。
ルキア・クルーニクスなら出来る。
私だからこそ、やれるんだ!
お腹の傷が痛いのと、血を流しすぎて身体を動かすのが億劫だが、自己暗示をかけて右腕を動かした。うう、目眩がする。頑張れ、私っ!
一歩、足を前に踏み出す。指先が雪の乙女の額に触れた。
「ううぅ」
ほんの少し、雪の乙女に触れただけなのに何この脱力感。
反射的に離しそうになった腕をそのままに、さらに雪の乙女に近づいた。左腕も伸ばして、雪の乙女の顔を包むように触れる。うわ、気力が奪われる。
うー、わー、あー・・・・・・目眩どころか意識が朦朧と・・・・・・。これはあれかな? 本来の魂の持主である雪の乙女に触れたから、魂が戻ろうとしているとか?
あっはっは・・・ふざけるなよ。
これは私の魂で、私はまだ生きている。
自己嫌悪に陥って心を壊し、死を願った雪の乙女なんかに私の魂を奪われてたまるかっ。
そんなもの反骨精神で打破してやる!!
雪の乙女の身体を包むように抱きしめ、身体を密着させた。・・・あぅ、宣言撤回していいですか? 雪の乙女の記憶が入ってきて、気持ち悪いとかじゃなくてあー・・・、白旗あげたい。なんかもう、龍皇駄目だろお前。そりゃ、心が壊れるわ。ギブアップしたい。
いやいやいやいや、駄目だよそれは。
刈り取る者に眼にモノを見せるんだから。諦めるなー、頑張るんだ私ー。
「殊勝だな。自分から死に来たのか、あんたは」
刈り取る者の声が間近で聞こえたと同時に、雪の乙女を抱く両腕が激痛を訴えた。血が吹き出て、止まらない。
切断されたと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「ルキア!」
オルフェの声も、近くで聞こえる。続いて聞こえたレーヴェ、ロイド、ついでにシメロンの声も同じように聞こえた。
刈り取る者に右肩を掴まれ、力任せに雪の乙女から遠ざけられた。
身体が後ろに倒れる。視界が廻り、雪の乙女から刈り取る者、そして天井へと変わった。背中が痛い。肘部分が、焼けるような痛みを発する。叫びたいのに、叫ぶ気力すらない。
・・・・・・あー、これは本格的に死亡フラグだ。
「っルキア」
オルフェが私の傍に駆けよって、身体を抱き上げた。うん、痛みすら感じないなんて異常だ。死期が近づいている証拠か? てか、結界はどうした。壊したの?
って、呑気に解析している場合じゃないよ。
「ルキア。ああ、ルキアっ」
こんなに泣くオルフェを、私は初めて見た。てか、泣きすぎだ。
「腕が、血がっ・・・レーヴェ、治せる? 治せるよね?」
「・・・・・・すまん」
オルフェの両隣に現れたロイドとレーヴェが、私の切断された両腕を見て顔面蒼白になる。うん、神霊術で治らないってことは本能的に解っているから、そんな絶望した眼をしないでおくれ。
だから、そんなに謝らないでよ。君達が悪い訳じゃないんだから。
「はは・・・良い様」
楽しげに刈り取る者が笑う声が聞こえた。
どうやらまだ、私の耳は聞こえるようだ。うん、この間にさっさと事を済ませようか。
・・・・・・・・・腕を切られた恨みも追加してやる。
私の名を必死に呼び続けるオルフェを一瞥し、流れるようにロイド、レーヴェに視線を向けた。近くにアーシェやシメロン達がいないのが、少し、残念だ。
眼を、ゆっくりと閉ざす。オルフェが「駄目だ」と叫び、レーヴェが「眼を開けろ」と言う。頬に触れる誰かの手。おそらくは、ロイドかな? 無言で眼を開けることを訴えているのか。
三人には悪いけど、眼を開けるのが億劫でならない。ごめん。
意識が薄れて行く。息をするのが面倒だ。あ、本気で死亡フラグのエンドだ。
心の中で笑って、命が尽きたのを悟った。
雪の乙女がゆっくりと、眼を開けた。
眼の前には両腕を失くした白銀の髪の少女と、少女を囲む三人の少年がいる。皆、涙を流して必死に少女の名を呼んでいた。
ぼんやりとその様子を見ていると、右隣から笑い声が聞こえた。何気なく、視線をそちらに向ければ見覚えのある人物が肩を震わせている。手には、血に濡れた鎌が握られていた。からからに乾いた口で、その人の名を呼ぶ。思いのほか、枯れた声だった。
「っああ――――! ネーヴェ」
「アルマ・・・痛い、よ」
刈り取る者が雪の乙女の身体を力一杯に抱きしめ、嬉しそうに何度も名を呼ぶ。頬を擦りよせ、首筋に唇を落とす。痛みがはしった。
反射的に身体を竦め、逃げようとする雪の乙女をさらに強く腕に抱き、刈り取る者は口角をつりあげた。眼を細め、器用に首を動かして悲しみにくれる三人を見る。
「それだけ出血しながら、まだ生きているとはな・・・。流石は、化け物」
床に落ちた腕に眼を移し、くつくつと喉を鳴らして笑った。
「何を思って、ネーヴェに魂をやったかは解らないが・・・残りの半分も返してもらおうか」
「アルマ・・・」
「ああ、ネーヴェ。そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。あんたの物を、返してもらうだけなんだから」
腕の力をほんの少し弱め、身体の距離を僅かに離す。
刈り取る者の蕩けるような甘い声と、愛おしさを明確に表す双眸に雪の乙女は堪らず顔を伏せた。旋毛に、刈り取る者が口付ける。
「すぐに、残りも手に入れる」
ゆっくりと、名残惜しげに雪の乙女から身体を離し、刈り取る者は立ち上がった。
オルフェウスがルキアの身体を隠すように抱きしめ、レオンハルトとロイドが武器を持って前に立ちふさがる。その姿を、刈り取る者は滑稽だと嘲笑した。
鎌を持ち直した手とは逆の手で、雪の乙女の頬にそっと触れる。名の通り、雪のように冷たい体温だ。それが懐かしくて、泣きそうになった。
この身体に触れるのは、実に何千年振りだろうか――?
失くして久しい体温に、込み上げて来るのは愛慕の情のみ。
「せめてもの情けだ」
刈り取る者が視線を雪の乙女から外し、オルフェウス達に向けた。無造作に鎌を振う。
「一思いに殺してやろう」
「させるかっ」
「人間如きが、抗うなよ」
冷笑し、床に突き刺さった鎌を引き抜く。
人間にしては高い反射速度だとせせら笑い、死とめ損なったと舌打ちをする。早く、一刻も早く全てをネーヴェに戻したいと言うのに。邪魔をされて、苛立ちが募った。
鎌の攻撃範囲から離れたオルフェウスの傍に、レオンハルトとロイドが近づく。それを制するよう、闇の力で影を縛り付けた。ぴくりとも動かない身体に、レオンハルトが舌打ちをして「逃げろ」とオルフェウスに叫んだ。
逃がすはずないだろうに。嘲笑する。
「ああ、ああ。本当に人間は面白くて、くだらない」
鎌を持たない手で、眼許を覆い隠す。
「なんなら、一緒に殺してやろうか。その方が、ルキアも喜ぶだろう・・・・・・?」
「ふざけるな!」
「吼えるなよ、人間。情けをかけてやろうって言う、俺の気持ちを無駄にするなよな」
眼許を隠す手を退け、暗い炎を宿す瞳でルキアを凝視し、刈り取る者は不敵に笑う。
「まぁ、それも嘘だけどな」
「だと思ったよ」
「は?」
ふいに会話に割り込んだ声に、刈り取る者は弾かれたように背後を振り返った。
「ネーヴェ・・・?」
視界に映るのは、先程とは打って変わって人間味溢れる妙に良い笑顔をした最愛の女性で。
認識すると同時に、腹部に重い一撃がはいった。
続けざまに二発、三発と腹部に打撃が加わり、止めとばかりに顔を殴られる。
踏鞴を踏むもバランスを崩し、床に尻もちをついた刈り取る者を雪の乙女は満足気に見下ろした。振り上げた腕を降ろし、硬く握りしめた拳を解く。ふぅっと、一仕事終えたようにかいてもない汗を拭い、清々しい笑顔を浮かべた。
「あー、すっきりした!」
「ね、ネーヴェ・・・?」
「溜まりに堪った鬱憤は、やっぱりこうして発散しないと駄目だよね。手段を問わずに実行してよかった、よかった。・・・・・・かなり痛かったけど」
「あんた、まさかっ」
顔色を青くした刈り取る者を、雪の乙女は冷めた眼で見下ろした。
雪の乙女は腰に手をあて、小首を横に傾けた。
「オルフェ達を殺させないよ」
「るき・・・あ?」
「どんな手を使っても、どんな犠牲を払っても、殺させない」
雪の乙女、改め私はオルフェ達を一瞥し、視線を刈り取る者に戻した。いやー・・・第三者視点で物事を言うのって、結構難しいな。
余談はともかくとして。
刈り取る者はこの身体の主導権が私にあることに気づき、怒りの形相で、唾を飛ばさん勢いで怒鳴りだした。汚いな・・・。
「っホムンクルス! ネーヴェは、ネーヴェはどうしたっ!!」
この身体に居る時点で、ホムンクルスじゃないんだけどなー。ま、いっか。
「いないよ」
「っ」
「いるはずがない」
だって雪の乙女の心は、当の昔に壊れて消えてしまったんだから。
肉体に残っているはずがないのに、そう思っていたこと自体が馬鹿馬鹿しい。いや、恋が成せる妄執か。はたまた妄想か。どっちにしろ、はた迷惑だ。盲目すぎだろう。
やれやれと首を横に振っていると、鎌を振う刈り取る者の姿が眼に飛び込んだ。おいおい、この身体は君が愛した女性のだよ? 中身が私だから、あっさりと処分するのか? 酷い男だ。けたけたと笑って、鎌を避ける。
あ、髪の毛が短くなった。頭が軽いー。
「雪の乙女は復活を望まない。だから、心も殺した。二度と眼覚めないように、混沌に頼み込んで消してもらった」
「嘘だ」
「そう思うなら、混沌に聞けばいい。我らが王は、問われれば答えてくださる。残酷な真実でさえ、ね」
「煩いっ」
おー、おー。怒りに任せて鎌を振りすぎだよ。壁とか天井とか床とか、すっごく傷ついたじゃないか。私やオルフェ達に当たらないから、別にどうでもいいけど。
しかし、相手をするのが面倒くさい。避けるから「逃げるな」って怒鳴られるし・・・。うん、強制退場してもらおうか。刈り取る者は後でちゃーんと、倒さないとね。そうじゃないと、オルフェ達がまた狙われる。それだけは断固阻止!
右腕を伸ばし、ぱちんと指を鳴らす。
「あんたっ」
刈り取る者を飲み込むように、空間が裂けた。うん、上手くいった。力を継承したとは言え、練習なしで成功するとは・・・我ながら恐ろしい。
「この・・・偽物風情が、ネーヴェの力を使うなど」
あー、煩い。ついでに結界術も展開して・・・声を封じてしまえ。
「かごめ」
「!」
静かになった。
うん、すっごく、気分的に晴れやかだ。ざまーみろ。
裂けた空間から黒い手が伸びて来る。あれ、実は混沌の手なんだ。って言ったらどれだけの人が信じてくれるだろうか。嘘だけど。
刈り取る者は逃げることも抗うことも出来ず、黒い手に捕まって空間の中に引きずり込まれていく。黒い手が顔を覆う。刈り取る者が何かを叫んでいるが、生憎と聞こえない。どうせ、罵詈雑言だろうから聞く必要もないけど。
空間が静かに閉じて行く。
そう言えばあの空間、どこに繋がっているんだろう。何も考えずに展開したけど・・・・・・うん。空間転移の天に先を指定していないバージョンだと言うことにしよう。達が悪い気がするけど、気にしない。してたまるかっ。
「ルキア・・・本当に、ルキアなの?」
神様の力を初めて使って、制御できただけマシだ。なんて自分を擁護していると、信じられないと言う声が聞こえた。ロイドの言葉も、尤もかなと思う私は自分で存在を否定していることになるのだろうか? 深く考えないでおこう。
しかし・・・なんかこう、哀しい気分になる。ちょっと仕返ししよう。
「身体は雪の乙女だけど、意識は間違うことなくルキア・クルーニクスだよ。なんなら、昔話でもしようか? そうだな・・・レーヴェが大切にしていた本を実はロイドが」
「ああうん、君は間違いなくルキアだ。だからそれ以上はやめて」
「おい、俺の本に何をしたんだロイド!」
「今、それはどうでもいいよね?!」
うん、迂闊に過去を話さなきゃよかった。ロイドとレーヴェが言い争いしだしちゃった。なんか、ごめん。
そっと視線を逸らして、オルフェに向けた。腕に抱かれた、見慣れた人物に思わず顔をしかめる。うーん、解って入るけど自分の死体を見るのはこう・・・嫌な気分だ。
とか、思っている場合でもないか。
さらさらと、ルキア・クルーニクスの身体が風化していく。床に落ちた腕も、砂のように崩れた。ホムンクルスだから、骨も残らず消えるのかな? だとしたら、何とも悲しい最後だ。
視線を少し遠くにいるシメロン達に向ければ、こちらに近づいて来ていた。オルフェの隣に立ち、私を泣きそうな顔で見つめるシメロン。崩れる身体を見下ろし、涙を流すノア。何も言わず、泣くのを堪えようするルカ。三者三様の姿に、笑えてきた。
何を悲しむ必要があるのか。
君達が願った・・・いや、祖が願ったことは、私が叶えてあげると言うのに。
「ルキア・・・」
オルフェが立ち上がり、困惑した眼を私にむける。さっきまで、ルキア・クルーニクスの死を見送っていた者の眼にしては、やけに悲しみが薄い。あ、私が生きているからか・・・?
いやいやいや、この身体は雪の乙女のであって、ルキアのではない。
「生きてたんだな」
ルキア・クルーニクスは、死にました。
君は確かに、それを見届けたはずなのに。苦笑した。
「私はルキアであって、ルキアじゃないよ」
「それでもルキアだ」
屁理屈め。
いや、確かにルキアだけどさー・・・。あーもう、面倒くさい。そもそも、雪の乙女の身体でいるからおかしいんだ。
よし、ならばこの身体の姿を馴染んだルキア・クルーニクスに変えてしまおう。その方が私も落ち着くし。いやね、雪の乙女の身体ってなんかこう・・・馴染めなくて。違和感しかなくて、妙に落ち着かないんだよね。
他人の身体を乗っ取るって、こんな感じなのかなーとか思ってさ。
乾いた笑いを浮かべて、軽く手を叩いた。
「<変わる、変わる、変わる>」
歌うように、言葉を紡いでいく。
「<姿は魂の記憶に
記憶を体現し、身体は変わる
作りかえる、器を
造りかえる、肉体を
創りかえる、この身を
替える、代える、変える
魂が持つ姿へと、形をかえろ>」
蛍を連想させる光が、青白く輝いて私の周りを飛ぶ。
幻想的で神秘を思わせるその光明はまるで、人智が及ばぬ者が発する煌めきに思えてオルフェは動揺したようだ。私の右手を強く掴み、存在を確かめるように腕の中に閉じ込める。
・・・抱きしめるだけに飽き足らず、ぺたぺたと身体に触れてきた。セクハラか?
いや、それはともかくとして・・・だ。
上手く身体がルキア・クルーニクスに変わったようだ。見飽きた白銀の髪が視界に映る。
「凄い・・・ルキアだ」
何が言いたいんだ、オルフェ? 意味が解らないんだけど。
私を抱く腕を緩め、眼を覗きこむオルフェの双眸に私の瞳が映り込む。うん、この色だけは変わらなかったようだ。流石は神の器。しつこい。
「ルキア」
あの、オルフェ。オルフェさーん。
何故に、キスをしているんですか?
そんな前触れあった? ないよね? あの一瞬で何があったというんだ?
抱きしめる腕の力を強めないでおくれ!! 本当、何この状況? 誰か説明をしてっ。
そして助けて!!




