実感
お気に入りありがとうごさいます。
サブタイトル、変更しています。
「聞き間違いか」
悪魔は笑顔を張り付け、機械王に問うた。
「消えろと、お前如きが口にした気がしたんだが」
<長く生きて、耳も悪くなったのか。長生きもいいものではないのぅ>
かっかっかと笑う機械王は臆することなく、悪魔と対峙している。流石は、龍皇と共に悪夢と戦った一人だ。歴戦の兵と言う雰囲気は、一切ないのにね。
機械王がちらりとオルフェ達を見やり、目線だけで下がるように命じた。それにオルフェ達は素直に従い、警戒を解かないまま私の元へ戻ってくる。カリステゥスがあからさまに、安心したように息をついた。
「レオンハルト様に何かあったら、俺の命が危ない」
自分の身の心配か。
<これ以上、ワシの国を壊されては堪らん>
「どうでもいい」
<姫以外、相変わらず興味が薄いのぉ>
素っ気ない態度を取る悪魔に、機械王は懐かしむように笑った。けど、それもすぐに消え、硬い声で悪魔に再度告げる。
<ここから消えろ。貴様がいくら姫を欲しても、彼女を渡しはしない>
二人称が変わった! いや、驚く所はそこじゃなくて。
機械王は、私を護ってくれるの・・・? 唖然としながら機械王を見つめて、信用に値するのか確かめ始めた心に失笑する。こんな状況ですることか。
<去れ、悪魔よ。そして伝えるがいい>
言葉を切って、機械王は声を高らかに宣言した。
<ワシは姫の末裔を護るため、此度も貴様らの敵となる。この命を持って、貴様らを今度は滅ぼそう>
姫の末裔と言う単語にカリステゥスは、予想に反してあまり驚いていなかった。ただ納得したように頷き、頼もしそうに機械王を見ている。
意味が解らん。
「ほぉ」
くつりと、悪魔が笑う。
「また、僕達と戦うつもりか。それも――今度は滅ぼすと嘯くか」
実に楽しげに笑って、悪魔は表情を消した。
「吼えるな、雑魚が」
息をするのも苦しく、肌を刺すほど鋭い殺気が悪魔から発せられる。感情を完全に消し去り、能面で機械王を見る悪魔の眼は侮蔑に染まっていた。
ゆらりと、悪魔が身体を左右に揺らした。
「姿を現さない臆病者が、戯言を語る資格はない」
機械王の前に悪魔が姿を現し、斧槍を縦に振って立体映像を壊す。
轟音が鳴り、砂煙が立つ。スパークを放ち、壊した機械を無表情に見下ろす悪魔はしかし、地面に亀裂を作った斧槍をそこから動かさない。悪魔が舌打ちをした。
<ああ、ああ。ワシは臆病者だ>
先程まで悪魔がいた場所で、立体映像の機械王が姿を現す。
<だから、策を巡らせる>
機械王がすっと、右手を持ち上げて悪魔を指差す。悪魔が億劫に、機械王を見た。
<罠を張り、貶める>
悪魔がいる場所に、金色に輝く魔法陣が浮かび上がった。
それは一つではなく、頭上に、左右に、悪夢を囲むように現れる。カタカタと、歯車が鳴るような音がした。よくよく見れば、魔法陣ではなく歯車って。何だそれ。
呆気にとられた私に構わず、ロイドが感激したように声を上げた。
「凄い・・・っ! まさか機械王の戦略技能を見れるなんて」
あれ・・・スキルなの? 歯車で何をするの? 上下左右に展開させて、何が起こるの?
てか――機械王って、戦えたのかよ!! いや、龍皇と一緒に悪夢と戦ったんだから、出来て当たり前なんだろうけども。あ、駄目だ。形容範囲を超えて熱が出る。
「へぇ。あれが対象の力を劣化させる王の写本か」
何で知っているのか、そこんとこ是非とも教えて欲しいんですけどお兄ちゃん。
<これで――貴様は力を使えない>
機械王が淡々と言葉を紡ぐ。
<貴様を殺す力がないことを、悔しく思うぞ>
「ほざけ」
悪魔が斧槍を振い、金色の歯車を一つ壊した。おいおい、力を劣化させるんじゃなかったのか?!
「お前如きの力で、僕を押さえることが出来るなど――自惚れるな」
そう言って悪魔はまた一つ、金色の歯車を破壊した。
ちょっとこれ、悪魔を怒らせただけなんじゃないの?!
慌てる私とは違い、何故かオルフェ達は落ち着いていた。おい、危機感を持て! 悪魔が金色の歯車を壊すのは、時間の問題なんだよ!!
「大丈夫だから、落ち着け」
落ち着けるレーヴェが、逆に心配なんだけども!? ぽんぽんって私は子供か!! それで落ち着かせているつもりかっ。逆に心が荒ぶるわ!
<押さえるなんて、思ってはおらんよ>
・・・・・・・・・はい?
<王の写本の真の力、見せよう>
機械王は伸ばした右腕を横に動かし、何かを掴む動作をした。
<対象拘束。範囲固定。術式発動。術式固定>
壊れたはずの金色の歯車が、何事もなかったように元に戻った。それだけじゃない。さらに数を増やした金色の歯車が、悪魔の姿を隠すように周りを取り囲んでいる。
何・・・これ?
<情報分析。対象の能力を剥奪。・・・剥奪を確認>
金色の歯車がカタカタと音を鳴らしながら、光を放った。
<この領域で、いかなる力の発動も許可しない>
それは・・・オルフェ達の力も封じてないか? あ、範囲固定って言っていたし、オルフェ達は大丈夫か。ほっ。
<全能力を劣化させ、朽ちるがいい>
効果はすぐにあらわれた。
悪魔が持っていた斧槍が朽ち果て、砂のように手から消えていく。悪魔の周囲を漂う黒い霧も次第に色を失くし、空気に解けて消えた。――なのに、消えない不安。
「これで僕の力を封じたつもりか」
無力化されたと言うのに、口元に笑みを浮かべて悪魔は言う。
はったりではなく、余裕を態度に表す悪魔にオルフェ達も漸く武器に手をかけた。シメロンは私の両肩を掴み、距離を置こうと後退する。
「舐めてくれるな」
くつりと、喉をならして冷笑する。
「僕達の恐怖を忘れたのならば、もう一度、その身で味わえ」
無造作に持ち上げられた左手に、黒い炎が宿った。それは金色の歯車の力を持ってしても消えず、逆に金色の歯車を風化させている。あの炎は、何だろう・・・?
機械王が驚愕に眼を見開き、最大限の警戒をしている。その様子に悪魔が恍惚の表情をし、炎をさらに大きくさせた。バスケットボールほどに大きくなった炎が、宙に浮いた。
「甘美な声で――――鳴け」
警報が激しく鳴った。
「かごめっ」
咄嗟の判断で私は結界術を張った。結果――それは功を奏したようだ。
悪魔の言葉と共に爆発した炎は周囲を燃やし、さらなる暴発を起こして炎上した。結界の外にいた機械人形の身体が認識できないほどに黒く焦がれ、むき出しの機械部分が損傷の激しさを教える。飛び火が建物を焼き、黒煙を上げていた。
何、あれ。私はあんなの、知らない。
「そんな力を使わなくても、姫の器と生贄は死ななかったのに」
悪魔が困ったように呟いた。
「どうしてそいつらまで、護るんだ」
私の動揺なんて知らない悪魔が、至極残念そうに肩を落とした。
あれはまるで、教科書でしか知らない核爆弾みたいじゃないか。実際のことは知らないけど、周りの光景は教科書で見たのとまるで同じ。あれが直撃していたら、オルフェ達もあの機械人形達と同じ末路になっていた? 黒焦げになって、誰が誰と認識出来なくなっていた?
――冗談じゃない。
今回は運が良かった。けど、次は防げるか解らない。だって悪魔は、私達兄妹を巻き込まないよう、威力を調整していたんだ。次も護れる自信なんて、私にはない。
恐怖と喪失から身体を震わせる私を、シメロンが抱きしめた。
オルフェ達を死なせたくないのに、私じゃどうにも出来ない。その事実をつきつけられて、愕然となる。私、は――――。
「・・・・・・?」
悪魔が不思議そうな顔をして、自身の両手を見た。その手に何かあるのかと警戒するオルフェ達を尻目に、悪魔は忌々しそうに顔をしかめる。
「っち」
苛立ちに舌打ちをしてから、悪魔は名残惜しげに私を見る。反射的に身体が竦む。そんな私の眼を、シメロンが隠した。見るなと言う、ことだろうか? けど、現状じゃあ最善の行動だとは思えない。
悪魔の一挙一動を、耳が敏感に拾い上げてしまう。
「今度は」
ねっとりとした狂気に、身体を這われている気がした。ぶるりと、身体が震える。
「連れていく」
確固たる意志を持って、悪魔は宣言した。
「それまで元気で。――姫の器」
悪魔の気配が、消えた。
私は震える手で眼を隠すシメロンの手に触れ、恐怖から戦慄く口で何とか言葉を紡いだ。
「もう・・・いない?」
「ああ、いない」
言って、シメロンが手を離してくれる。光が眼に痛かったのは数秒で、慣れた双眸が周囲を映し出す。
立体映像の機械王が、難しい顔で悪魔がいた場所を睨んでいる。視線を動かしてオルフェ達の姿を探せば、テオとピセルの傍にあった。医療型機械人形と看護型機械人形に状態を聞いているようだ。ここからでは声は聞こえないが、表情から見て危険な状態ではないようだ。
安心したら、身体の力が抜けた。ぺたりと地面に座り込み、肺が空になるほど息を吐き出す。深く息を吸い込み、深呼吸をした。
「生きている・・・」
実感が湧かないのは、悪魔が放った最後の攻撃故だろう。
あれはスキルなのか、それとも術なのか。どうにも判断がつかない。機械王はアレを知っているようだけど・・・。ちらりと機械王を見て、眼を伏せた。今は無理だな。
壊れた、いや、死んだ機械人形を哀悼の眼で見ている。今は、そっとしておこう。
「ルキアちゃん!!」
アーシェの声が聞こえて、そちらに眼を向ける。息を切らしながら、こちらに駆けてくるアーシェと、何故かラルフレアの姿を見つけた。
「怪我は!?」
第一声がそれとは、実にアーシェらしい。思わず苦笑する。
「ああ! く、首、首に怪我っ」
あ・・・忘れていた。何気なく首元に触れれば、ぴりりと鈍い痛みがはしった。 指先が凝血に触れて、間違って爪でひっかいてしまった。アーシェが眼に見えて動転している。
「これどうし、ああ違う、それよりも治さないと」
泣きそうな顔をしながら、水の神霊術を発動させたアーシェ。
「癒しの雫」
水色の光に包まれながら、私は思案する。
怪我を負った理由を、どう説明すべきか。下手に嘘をついても、オルフェ達に暴露されて泣かれるのは眼に見えている。正直に話したら泣きながら説教されるだろう。
・・・どっちにしろ、泣かれるのか。
仕方ない。甘んじて説教を受けよう。
アーシェに怪我を治してもらいながら、私はレーヴェの傍で何やら話をしている ラルフレアを見た。常にない真剣な顔を見せるラルフレアに、首を傾げた。弱気な態度もどもる様子もなく、何を一生懸命に語っているんだろう?
話を聞いたレーヴェも、眼を見開いているし。何か、聖王国・王冠で起こったんだろうか? やばい、不安になってきた。
「アーシェ」
名前を呼べば、返事はなくともアーシェが私を見た。指先をラルフレアに向けながら、尋ねる。
「何かあったか、知っている?」
無言で首を横に振られた。そっか・・・。
あ・・・テオとピセルが担架で運ばれている。病院・・・って、ここにないじゃないか。研究施設の医療室にでも連れて行くのかな?
<姫の末裔>
その名をここで出すな。ほら、アーシェがきょとんとしているじゃないか。誰が説明すると思っているのさ。私はしないよ、そんなこと。ロイドに丸投げしてやる。
<どうやら無茶をしたようだの>
何故知っている。見ていたのか、見ていたんだな!
<機械神はワシの庭、ワシの眼、ワシの耳じゃて>
どこにいても監視されているって言いたいのか。そうなのか。それってつまり――あんなことやこんなことまで、覗き見をしているってことだよね?
思わず、白い眼を向けてしまったが私は悪くない。
<ごほん>
わざとらしい。
<皆にも聞いて欲しい>
声を張り上げ、機械王は視線を周囲へ向けた。
機械人形は頭を垂れ、機械王の言葉に耳を傾けている。オルフェ達も視線を向け、話を聞く体制を取っている。内容を知っているらしい王族兄弟は、難しい顔で機械王を見ていた。二人で話していたことと、関係があるのか。
<聖王国・王冠が襲われた。襲ったのは――暗闇だ>
ざわりと、空気が震えた気がする。
<外れの村とは言え、悪夢に襲われたのは事実。君達は一刻も早く、国に戻るべきだ>
視線をオルフェ達に向けたと思えば、機械王はすぐに逸らして私達を見る。含みのある目線に、首を傾げた。
<姫の末裔はここで預かろう>
「断る」
機械王の言葉にオルフェが条件反射の如く勢いで、即答した。
<不安定な状況である聖王国・王冠より、こちらの方が安全だと保障しよう>
いや、今さっき、悪魔に襲われていたよね? どこが安全だ。そんな私の思いを、変わりにオルフェが言葉にしてくれる。
「現実を見てから言え」
「オルフェ、オルフェ! 相手は機械王だから、言葉遣いは丁寧に」
ロイドは言葉遣いだけを改めるよう言うだけで、止めようとしない。眼にはありありと、不快が浮かんでいる。
「有難い話ですが、機械王」
ラルフレアが一歩、前に出た。
堂々たる雰囲気は、立派な聖王様みたいな感じがする。一体、この短時間で何があったと言うんだ。最初の頃のへなちょ・・・ごほん、頼りない印象が綺麗になくなっていて怖いんだけど。よもや、ラルフレアの偽物か――?
疑いの眼を向けたまま、ラルフレアを見守る。
「国には私と、カリステゥス。そして怪我を負った二人の騎士だけが戻ります。我が弟とその友には、悪夢から彼女――姫の末裔を護るための旅に出て頂く所存です」
「ラルフレア様」
カリステゥスがこれでもかって程に眼を見開き、ラルフレアを見ている。そりゃそうだよね。今まで王座は嫌だ。聖王家業なんてごめんだと逃げていた人間が、そんなことを言うんだから。
あ、「成長して」って言いながら涙している。
「レオンハルト」
「はい」
「私は聖王として国を、お前達が帰る場所を護る。だから――お前はお前の出来ることをしろ」
・・・・・・・・・場違いだと、解っているが言いたい。
聖王として国をって、覚悟を決めたのかラルフレア。今まで散々、子供みたいに駄々をこねていた癖に。何だか付き合いの浅い私まで、感動に涙をしそうだ。アーシェはしているけど。
<いたしかたない>
はっ! ラルフレアの成長を喜んでいる間に、何があった。会話がよく解らない!!
<だが、今日は我が国でその身を休めるがよい。疲れを負ったままの旅は、きついからのぅ>
「お心遣い、感謝します」
王族兄弟が同じタイミングで、同じ言葉を告げた。
・・・えーと。
「つまり、今日はこの国で一泊して、次はラルフレア様と別行動。てことでいいのかな?」
「そうだね」
いつのまに傍にいた、ロイド。・・・いや、もう驚かないよ。君達が気配もなく現れたりするのには、慣れた。ああ、慣れましたとも。心臓に悪いけどっ。
まぁ、それはともかく。
道筋はそれたけど、ゲームと同じ展開だな。・・・と、思えば気が楽になるかと思ったけど。私のせいでオルフェ達は故郷に帰らず、旅を続けるのかと思ったら申し訳なくて居た堪れない。
「何か・・・ごめん」
「ルキアのせいじゃないよ」
それに、とロイドが穏やかな声で告げた。
「帰りたくなったら、帰ればいいし」
そう言う問題だろうか? 首を傾げる私の頭を、ロイドが優しく撫でた。




