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夜会話 幼馴染

オルフェ・レーヴェ・ロイドの幼馴染三人の会話。

短いです。

 オルフェウスは眠るルキアの右手を掴み、祈るような気持ちで眼を閉じた。


 あれからルキアの体温は戻り、低体温症は治ったが意識は戻らない。深夜に差しかかった現在も眼を覚ます気配はなく、昏々と眠り続けている。

 もし、このまま眼を覚まさなければ・・・。そんな不安に襲われて、オルフェウスは眼を開けた。視界の先には、規則正しく呼吸をするルキアの根姿がある。握った手に僅かだが力をこめ、椅子に座り直す。

 温かい体温に、そっと詰めた息を吐き出した。


 扉を叩くノック音がした。

 返事を返さず、扉に視線を向ければレオンハルトとロイドが室内に入って来た。

「まだ、起きていたのか」

 呆れた声で告げるレオンハルトに、オルフェウスは何も答えない。視線をレオンハルトからルキアに戻し、握る手の力を緩めた。

 ロイドが近寄り、眠るルキアの顔を覗きこんだ。

「顔色もよくなっているね・・・。この分なら、明日にでも眼が覚めるんじゃないかな?」

「・・・そう、か」

「あのね、オルフェ。僕達が勝手に外にでなければ、こんな事態にはならなかったんだ。だから、オルフェが気に病む必要はないよ。助けに来てくれただけで、十分じゃないか」

「でも俺は、また護れなかった。・・・約束したのに、果たせなかった」

 悔しげに唇を噛み、顔を俯かせるオルフェウスにロイドは困った顔をした。縋るようにレオンハルトに眼を向けるも、レオンハルトは肩を竦めるだけで何も言わない。

「俺は二度も・・・約束を護れなかった。ごめん、ごめんな・・・ルキア」

「なら、君が責めるべきは・・・僕だろう? 自分を責めることはないんだ」

「・・・」

 オルフェウスは沈黙した。


 レオンハルトはそんな二人の姿を尻目に、オルフェウス達がいる位置から真正面に向かって足を動かした。ベッドサイドに腰を下ろし、ルキアの前髪にそっと触れる。

「姫と同じ髪・・・か」

 シーツに散らばった白銀の髪を指に巻き付け、レオンハルトは暗闇が告げた言葉を思い出す。あの台詞は、姫に対する並々ならぬ執着の深さを明確に知らしめた。

 ルキアを見下ろし、レオンハルトは嘆息した。

「ルキアは生まれながらにして、悪夢(オッセッスィオーネ)達に眼をつけられていたのかもしれないな」

 戯れるように髪を弄り、顔をルキアに近づける。指に巻き付けた髪を解き、額に触れる。手を滑らせるように頬へ触れ、レオンハルトは眼を閉じた。


 閉じていた眼を開け、顔を上げてオルフェウスを凝視する。オルフェウスの視線は下を向いたまま。

 その態度に腹がたち、苛立ちに口を開いた。

「いつまでもうじうじ、ぐだぐだしているつもりだ。オルフェ」

「・・・」

「ルキアを護ると決めたお前の気持ちは、所詮その程度のものか。弱い意思ならば、弱い思いならばいっそ抱くな。そんな不安定な感情ならば、最初から約束をするな。果たせないと思うのならば、さっさとルキアの前から姿を消せ。邪魔だ、鬱陶しい」

「それは言いすぎだよ、レーヴェ!」

 ロイドが吼えるが、構わず言葉を続ける。


「たかだか二度、約束を護れなかったぐらいで失せる思いなら捨てろ」


 非情に言葉を告げたレオンハルトに、オルフェウスがゆっくりと視線を向けた。揺れる瞳がレオンハルトを映し、次いでルキアに向く。

「違うと言うのならば、証明しろ。今度こそ――ルキアを護ると言う気概を見せろ」

 再びレオンハルトに戻ったオルフェウスの瞳に、強い輝きが見えた。

 それを確認しながらも、レオンハルトはあえてきつい言葉を告げる。

「その気概も、根性もないならルキアの傍にいるな」


 オルフェウスから返答はないものの、双眸には確かな意思が見える。――ルキアを護り抜くと言う、硬い決意の表れだろう。

 これでもう、オルフェウスはくだらないことで悩むことはなくなった。二人の様子を見守っていたロイドはそっと安堵し、胸を撫で下ろす。同時に、意外に繊細で、臆病者のオルフェウスの悩みをあっさりと瓦解させるレオンハルトに、僅かながらに嫉妬を抱く。けれどそれは場違いな嫉妬だと思考を切り捨て、思う。


 レオンハルトに出来ないことを、自分がすればいいのだ――と。


 三人で助けあい、お互いに力を高め、成長していけばいい。

 そう思えば、気持ちが楽になった。


 オルフェウスは繋いだルキアの手に唇を寄せ、そっと眼を閉じた。

「約束を護れない俺だけど、誓わせて欲しい」

 眼を開け、額をルキアの額に重ねた。

「もう、悩まない。後悔しないために、俺はルキアの傍に居続ける。例え、ルキアが嫌がっても、離れない。――裏切らない」

 懇願する声に、返答は当然ながらない。

 自分勝手だと解っていても、オルフェウスの胸中は満足していた。名残惜しげにルキアから顔を離し、苦笑を浮かべる二人を見やる。

 少しの気恥ずかしさを抱きながら、それを上手く隠してオルフェウスは言葉を告げた。


「俺だけじゃ無理だから、手を貸して欲しい。俺達三人なら・・・ルキアを護れる」

 その言葉にロイドが失笑した。

「アーシェやピセル姉さんが仲間はずれにするな、って拗ねそうな台詞だね」

「テオドールも笑顔で文句を言うだろうな」

「う・・・」

 容易に想像出来て、オルフェウスは思わずうろたえた。視線を彷徨わせ、気持ちを落ち着かせるようにルキアの手を握り締める。握り返してくれることはないが、触れた体温に心が安定した。

 一つ息を吐き出してから、レオンハルトを、そしてロイドに眼を向けた。


「それで、手を貸してくれるのか? くれないのか?」

「不機嫌にならないでよ。当然――手を貸すよ」

「お前が言うように、ルキアが嫌がってもな」

 ロイドは可笑しげに笑いながら、レオンハルトは不敵に笑って告げた。

 拒絶はないと解っていても、口にして言葉を出されると安心する。オルフェウスはしかりと頷き、視線をルキアに戻した。

 眠るルキアがこの会話を知ったら、どう思うだろうか。


 嫌がるだろうか。迷惑に思うだろうか。それとも・・・。考えて、鬱々とした気持ちに支配されかけた。慌てて頭を振り、気を直す。

 先程の決意を、無に帰すところだった。


「・・・?」

 ふいにレオンハルトが立ちあがり、意味あり気にオルフェウスを見下ろす視線に気づく。怪訝に見上げれば、人の悪い笑みを浮かべていた。嫌な予感がして、顔をしかめる。

「お前がルキアを襲うとも限らないから、俺もここで寝ることにする」

「なっ!!!?」

 告げられた言葉に、顔が熱くなった。

 耳まで赤くなったであろう顔を隠すことなく、動転したオルフェウスは信じられないとばかりにレオンハルトを凝視した。何時、気持ちに気づいた。その思いしかなく、まともな言葉が口から出ない。

 知られていないと思ったオルフェウスに苦笑し、ロイドが追撃をかける。

「オルフェの気持ちに気づいてないの、ルキアだけだよ」

「!!!?!?!?!」

 顔を赤くしたり、青くしたりで忙しいオルフェウスに二人は笑った。


「レーヴェやロイドだって」

 遊ばれていることを知りながらも動揺を消せず、けれど悔しさ混じりにオルフェウスは二人に反撃した。

「ルキアを気に入ってる癖に」

「気に入っている=恋愛対象とは限らないよ」

 ロイドは困ったように告げた。

 それにオルフェウスは口を閉ざし、悔しげに顔をしかめた。


 レオンハルトはそんなオルフェウスを見ながら、口角をつりあげた。

「俺は好きだよ、恋愛的に」

「!?」

「異性として、ルキアを好きだ――って言ったら、どうする?」

 挑発的なレオンハルトの態度に、オルフェウスは敵対心をあらわにした。

「選ぶのはルキアだ。けど、譲るつもりはない」

「正論だな」

 楽しげに喉を鳴らすレオンハルトをオルフェウスは睨みつける光景に、ロイドが人知れず溜息をついた。

 レオンハルトが本気でルキアを異性として見ているのか、はたまた妹分として見ているのか判断に困る。オルフェウスよりも感情を悟らせぬレオンハルトの真意は、ロイドですら知りえない。他の人間なら、簡単に解ると言うのに・・・。

 もう一度溜息をついて、静かに切って落とされた恋愛バトルに頭が痛んだ。


 ルキアが誰にも恋愛感情を抱いていないことを知ったら、どうなるやら。


 何も知らないまま眠るルキアに若干の恨めしさを抱き、軽く額を叩いた。小さく呻く声がしたが、起きる様子はない。


 ――人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死ぬ。

 そんな末路は嫌だなと思いながら、険悪な雰囲気を消して常と変わらぬ態度で会話をする二人から眼を逸らした。

「・・・はぁ」

 ルキアに抱くこの感情が、恋愛にならないことを切実に願う。

 この二人に勝てる見込みがないロイドは、心を制することに努めた。そしてそんな二人に好意を向けられるルキアに、胸中で合掌した。

 きっと、逃げることは出来ないだろう。


キーワードに恋愛があるけど、はたしてこれは恋愛・・・なのか。自分で書いておきながら疑問がわきえます。

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