衝撃の事実
お気に入り、ありがとうございます。
予定通り、もう一話、なんとか、本当になんとか、更新できました!!明日は燃え尽きていそうです。
鐘の音が八つ鳴る音で眼が覚めて、無意識からか隣を確認した。
「オル・・・フェ?」
私の右手を掴み、ベッドの端に頭を預けて眠っているオルフェの姿があった。
ぼんやりとした思考のまま身体を起こし、繋がれている手を注視する。はて、どうしてオルフェがそこで寝ているんだろう? いつもなら隣で寝ているはずなのに・・・。そう言えば、アーシェの姿がない? 別の場所に寝ているのだろうか?
よくよく辺りを見れば、ソファにレーヴェとロイドの姿を見つけた。はて、何故この二人もここにいるんだろう? オルフェ共々、部屋で眠ればいいのに。この部屋にいる意味が解らない。
私はそっと、オルフェを起こさないように繋がれた手を離した。オルフェが身動ぎしたが、起きる気配はない。それに安堵し、ベッドから降りた。自分の姿を確認して、首を傾げる。
「パジャマ・・・・・・。何時の間に着替えたっけ?」
そんな記憶、欠片もない。
よもや、誰かが服を着替えさせたのか。そんなことを出来るのは・・・あのメイドさんか!? え、だとしたら何時、私に気づかれず、どうやってやったの?
混乱する私に、答えを出してくれる人はいない。
オルフェ達は私が起きたことも気づかず、未だに夢の中。熟睡と言うより、爆睡している彼らを起こすのが忍びなく、疑問を抱えながらそっと、足音を立てずに歩く。ゆっくりと扉を開けて、静かに閉める。
・・・何だか、隠密スキルが上がった気がする。いや、そんなスキル持ってないけど気分的に。
「誰も・・・いない」
廊下を左右見渡すけれど、人影すら見つからない。はて、本当にどうしたんだこの静けさは。窓に近寄って外を眺めれば、城内とは変わって騎士が忙しなく動いている。メイドさんの姿も見えて、さらに首を傾げた。
会話を聞こうと、開いている窓に近づいて単語を拾い上げる。
――雪の呪。
――死んだ騎士。
――現れた悪夢。
「―――――っ」
思い出した。
暗闇と遭遇した私は、急激に奪われた熱によって意識を失ったんだ。
消えたはずの暗闇の体温を思い出し、背筋に冷たいモノがはしる。それを振り払う様に、頭を振って思考を切り捨てた。
逃げるように窓から離れ、私は足を動かす。目的地なんてない。とにかく、この場所ではないどこかに行きたかった。でも、オルフェ達がいる部屋に戻りたいとも思わない。私は目的を定めぬまま、無意味に足を動かした。
何度、角を曲がっただろう。幾度、階段を上り下りしただろう。解らないほどに、私は歩き続けて、少し疲れてきたところで適当な扉を開けた。
「あ・・・・・・」
そこは、応接室だった。
「懐かしい」
昨日のことなのに、そう思えてしまう。
中に入って、極力、音をたてないように扉を閉める。ゆっくりと足を動かし、ソファに近づいた。背もたれに右手を乗せ、眼を閉じる。昨日のことが、はっきりと脳裏に浮かんだ。三時までは、なんてことはなかった。王城に連れてこられて、色んなことが起こったけど、それでもまだ、自分を保っていられた。
だけど、街で暗闇と遭遇して――もう、駄目だと解った。
時折、ゲームと同じ展開に進みながらも、ゲームと異なる内容になる現実に、心が追いつかない。精神が可笑しくなってしまいそうで、怖かった。だけど大丈夫だと思ったのは、少なくとも、ゲームの物語を知っていたから。
でも、その物語すら狂ってしまった。
私は、暗闇が言った台詞を知らない。
姫の器になるのは、雪の呪に罹ったアーシェだ。けれど現実、アーシェは雪の呪に罹っていない。罹ったのは、街の人間。そして他国の人。眼を開けて、短く息をついた。
これが現実だと言うのならば、随分と私に優しくない。知ってはいたが、これはあんまりだ。それとも、死亡フラグを折った故に、別のフラグがたったのだろうか? ・・・ああでも、死亡フラグに変わりはないか。
姫の器になると言うことはつまり――死を意味する。
「あはは・・・、碌な人生じゃないや」
力なく笑って、床に座り込んだ。縋るようにソファの背もたれに捕まり、泣きたいのを必死で我慢する。
どうして私なんだろう。どうして私が彼女なんだろう。
ルキア・クルーニクスじゃなければ、こんな人生を送らずにすんだのに。
ないもの強請りをするようなことを思って、自嘲した。今更、そんなことを願っても意味はない。生まれた瞬間、定められた運命を覆すのは難しい。存在しているから、現在を否定することは出来ない。実に、馬鹿馬鹿しいことを考えた。
涙がこぼれた。
いい加減、覚悟を決める時なのかもしれない。ルキア・クルーニクスとして生きる覚悟を。
そう、頭では解っていても中々、行動に移せない。臆病な心が、竦んで動かない。仕方ないのかもしれない。死亡フラグの多い世界で、簡単には動けない。だって私は、死ぬのが怖いから。死ぬのが嫌だから死亡フラグを折ったのに、好き好んでそのフラグをたてたくない。
ぐるぐると纏まらない思考に、目眩すら覚えた。
この先、本当にどうしようか。
途方に暮れていると、ふいに気配を感じた。まさか悪夢が現れたのかと警戒し、背後を振り返る私の視界に奇妙なデジャブを抱く。
「君は・・・」
視界の先にいたのは、黒い服に身を包み、眼深く被ったフードで顔を隠した男。おそらく、二十代後半。男は唯一見える口元に屈託のない笑みを浮かべながら、私に近づいてくる。左手には喫煙者らしく、煙草を持っていた。
煙草と言う、この世界では珍しいモノを吸う不審者は紫煙を吐き、左手を無造作に動かした。途端、煙草が姿を消す。その現象に、私は悲鳴をあげそうになった。
戦略技能――空間転移。
それを使えるのは、ゲームの中でもただ一人。まさか、ここでその人物と遭遇するなんて誰が想像できる。
神様に恨みを向けながら、私は眼の前の不審者、基、シメロンを凝視した。胸中で浮かぶのはただ一つ。相方のノアはどうした!! という思いだけ。
いや、本当に、どうしてここに一人でいるの?! ノアは? 嫁は?!!
鬱々とした気持ちすら綺麗に忘れるほど、私は混乱した。解りやすく、瞠目している。いやだって・・・シメロンが、ゲーム中盤で出て来る皆の兄貴分でヘビースモーカーなシメロンが!!!
落ち着け。落ち着くんだ私。これはゲームとは違う。だからこう言う展開があっても・・・・・・駄目だろう。不法侵入は駄目だよ。
こんなことで気持ちが落ち着くなんて・・・何か、屈辱だ。
「君のその髪は・・・」
落ち込んでいる私に気づいてか、いや、気づいていないな。シメロンはフードに左手を当てたまま、私の髪に視線を向けている。何? 私の髪が何? 白銀ですけど、何か?!
若干怯えながらシメロンを見上げれば、右手が私の髪に振れた。思わず身体を引き、後ろに逃げる。あ、シメロンが傷ついた顔をした。なんか・・・申し訳ない。でも、でもだ。初対面でありながら、髪に触れるのは不躾じゃないか?
シメロンは名残惜しげに右手を戻し、しゃがみこんで私と目線を合わせた。
「純粋な、白銀だよね」
確認する言葉に些かの疑問を抱きながらも、首肯する。
すると何故か、シメロンの雰囲気が柔らかくなった。気のせいじゃないなら、花が舞っているような・・・。シメロン、こんなキャラじゃない。兄貴分がこんな花を撒かない。
くそ、シメロンすらキャラ崩壊かっ。
「そうか・・・君がルキア。俺の妹」
「・・・・・・はい?」
とうとう、耳がおしかくなったか。変な単語が聞こえたぞ。
私の名前を知っていることも驚きだが、その後の台詞はもう、何と表現していいことやら。とりあえず、間抜けに開いた口を閉ざそうか私。
「俺はシメロン。君の血の繋がった実の兄だ。覚えては・・・・・・、その表情じゃ覚えてないな。仕方ない。あの時のルキアはまだ、三つになったばかりだからな。じゃあ、久しぶりと言うより、始めましてと言うべきか。・・・兄妹なのに違和感だな」
「えっと、あの・・・」
駄目だ、思考が追いつかない。
シメロンが何を言っているのか、一つも理解できない。
ゲームではくだけた、と言うより荒い言葉づかいだったのに違うんだね。なんて、現実逃避している場合だろうか? シメロンは眼を白黒させる私の頬に、そっと左手を近づけた。けれど、先程のように私が逃げるとふんだようで、指が触れるギリギリの所で動きを止めている。
あの・・・何がしたいの?
困惑のままシメロンを見て、絶句した。
フードを取ったシメロンの髪の色に、何も言えなくなる。
「その・・・色。ぎ・・ん?」
「青味がかっているけど、君と同じ銀だ」
ゲームではありふれた茶髪だったシメロンの髪が、青味がかった銀になっている。
それだけでも衝撃的なのに、銀髪なのがいけない。私は思わずシメロンの髪に触れた。ムラのない色は、到底、染めているとは思えない。けど、眼の前の事実を受けいられなくて私はシメロンに問いかけた。
「本物の・・・銀?」
「ああ、そうだ」
即答だった。
訳が解らない。
ゲーム通りではないとは言え、まさか、登場人物の髪が違うなんて誰が思いつく。予想できない事態に、驚くよりも不思議と安堵がわいた。・・・私以外に、銀髪がいたからだろう。それがこんなに、嬉しいとは思わなかった。
「泣くな」
気づかない内に、私は泣いていたようだ。シメロンが人差し指で涙を拭い、私の身体を抱きしめた。逃げることも、拒絶することも――なかった。
私はシメロンの肩に頭を預けた。涙が止まらない。
「漸く、見つけることが出来た。生きていて、本当に嬉しい」
私を妹と言うシメロンは、本当に嬉しそうにそう呟く。
安堵の息をついてから、シメロンが言葉を続けた。
「突然、妹と言われて混乱しているだろうが、信じてくれ。君は紛れもなく、俺の妹だ。証拠と言われても確かなモノはないが・・・。髪の色だけじゃ、納得してくれないだろうし」
「そんなことっ」
思わず、叫んでいた。だって、この世界で白髪はいない。白に近い灰色の髪も銀髪もだ。だから、私と同じ銀の色を持っているだけで信じようと思える。近親者は、似た色を持つと言うし。
いい例が、レーヴェとラルフレアだろう。あの二人は実に解りやすく、同じ髪の色をしている。
私とシメロンも多少の違いはあるが、同じ銀髪。信じたいと思って何が悪い。
「そんなこと、ない。私は・・・信じたい」
どうやら私は、私が思っていた以上に精神的にまいっていたようだ。
突然現れた近親者を、無条件で信じようとしている。受け入れようとする心が、普段とは違って警戒心を抱かせない。シメロンの言葉に、嘘が見つけられなかったのも要因だろう。
ぎゅうぎゅうとシメロンの背中に腕を回し、縋る様に抱きしめた。シメロンが驚いたのか息を飲む気配がしたが、気にする余裕すらない。
「嘘でもいい。貴方が、シメロンが私と血が繋がっていなくても、実の兄妹でなくても・・・。同じ銀髪だと言うことは、信じたい」
「・・・そこは、全部信じて欲しいものだな」
シメロンが苦笑して、私の頭をそっと撫でた。
不思議な気分だ。
オルフェ達もよく、こうして頭を撫でてくれるけれど、シメロンだと妙に安心する。これは本当に・・・実の兄妹なのかもしれない。そう思えてしまうほど、心が落ち着いた。
「ルキア、よく聞くんだ」
唐突に、シメロンが硬い声でそう告げた。
「君は姫の器として、悪夢達に狙われている」
「知っている」
「・・・悪夢に逢ったのか」
無言で頷けば、シメロンが私から身体を離した。暫し、何かを考える素振りをしてからゆっくりと立ち上がり、私に左手を差し伸べる。その手に右手を重ねれば、ぐいっと身体を上に引っ張られた。
私がしっかりと立ったことを確認してから、シメロンが言葉を紡ぐ。
「なら、ここから逃げないと駄目だ。悪夢達が襲ってくるより早く、聖王都・王冠から出るぞ。急がないと、ルキアも俺も危ない」
「どうして・・・?」
私が狙われているのは解る。だが、どうしてシメロンまで危ないのだろうか? 髪の色で狙われているから? それとも私と血が繋がっているから?
困惑する私に、シメロンは焦れることなく教えてくれた。
「ルキアは器として肉体を、俺は生贄として魂を狙われている」
つまり、生贄と器がそろって初めて――姫が蘇ると言うことか。
思い当たった考えに、心臓が冷たくなった気がした。おそらく、顔色も悪いだろう。シメロンが心配げに私の顔を覗きこみ、安心させるようにまた頭を撫でる。
「それを回避する手立てがない今、ただひたすらに逃げるしかない。大事なモノを失わないために・・・。俺はもう、家族を失いたくない」
「家族・・・」
「ルキアに母さんと父さんのことを話すのは、もう少し心に余裕が出来てからな。今はまず、ここから逃げることが先決だ」
シメロンは廊下へ続く扉を一瞥してから、窓へ視線を向けた。
「あの・・・・・・・・・・・・・・・お、お兄ちゃん」
シメロンを何と呼んでいいのか迷った挙句、そう呼んでみた。シメロンは解りやすく眼を見開き、次いで破顔した。それはもう、心底嬉しそうに。
「なんだ、ルキア」
「どうして私達は、その・・・髪の色だけで悪夢に狙われているの?」
シメロンは笑みを消し、口を閉ざした。
私の手を繋ぐ手に力を込め、短く息をつく。シメロンは私に向きあうように身体を動かし、真摯な眼差しを向けてきた。その揺れる瞳から、シメロンが言葉を探しあぐねていることを知る。
ああ、言い辛いことを聞いてしまったのか。瞬間的に、悟った。
沈黙が流れて、数分――。
シメロンは眼を閉じ、頭を振ってから眼を開けた。その双眸に、先程の揺れは見られない。意をけっしたからか、はたまた・・・。
「悪夢が俺達を狙うのは髪の色だけじゃない」
はっきりと告げられた言葉に、あっさりと納得した。そうだよね。生まれながらの白・・・じゃないけど、白に近い髪の色だからって狙われるのはおかしいよ。確証はないが、私の髪が白銀でなくとも悪夢は私を狙っていた気がする。
いや、本当に確証はない。けど、その考えもこの世界がゲーム通りで動いていない以上、否定できないから・・・。どうしても、悪い方向へ思考が傾いてしまう。ああ、もしかして制作者サイドが敢えて沈黙を貫いた、彼女とシメロンの出生に関することと関係があるかもしれない。
フラグ回避することなく、謎のまま終わらせた二人の出生については、様々な憶測が飛び交ったがどれも真実とは思えなかった。制作者サイドだって、誤魔化して終わりだった。
「俺もルキアも、この身に流れる血によって狙われている」
どうやら、考えた通りらしい。
ゲームでは赤の他人だった彼女とシメロンが、何を間違って兄妹になったのか。それも疑問だが、今は悪夢に狙われる理由を知るのが先決だ。それに・・・いくらその疑問を考えた所で、答えなんて出てこない。
神様は私に意地悪で、理不尽だから。
「俺達の祖先は、悪夢が姫と呼ぶ存在。そして龍皇だ」
「へ?」
予想の範疇を超えた解答が、シメロンから送られた。
逸脱した物語は、私の思考を混乱の海へ落とす。
容赦のない展開は、果たして誰が望んだものか。少なくとも、私ではない。私はこんなフラグ、求めていない。欲しいのは――平穏だけ。
なのにそれすら・・・・・・叶わない。
神様はよほど、私が嫌いらしい。知っていた事実だが、改めよう。私も神様なんて大嫌いだ。死ねばいいのに・・・。
私は唖然としたまま、思ったことを口にした。
「嘘・・・」
「残念ながら、事実だ。もっとも隠匿されて、知る者は限りなくゼロだが」
「あ・・・・・・」
よもや、誰が想像できる。
私が・・・。否、ルキア・クルーニクスが件の姫の末裔なんて。頭痛が酷くて、目眩がしてきた。このまま気を失っても、誰も文句は言わないだろう。むしろ、キャパシティーの崩壊から意識を手放したい。
龍皇よ。あんた、ヤることはヤってたんだな。
下世話なことを考える私は、きっと、悪くない。




