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眼覚めた悪夢 暗闇

お気に入り、ありがとうございます。

暑さでスローペースになりそうですが、気力と根性でせめて二日に一話か二話・・・更新したいです。

 誰にも見つかることなく、無事に街へ辿り着けました! 

 やったね。


 奇妙な達成感を二人で味わってから、夜のように静まり返った街を歩く。

 滅多に街に来ないけれど、この静寂は不気味すぎる。私達以外で街を歩くのは、甲冑姿の騎士だけ。

 街の人間の姿は影も形もない。


 ――全員、病院にいるのだろうか?


 助かるだろうと安易に考えていたが、現状、無理そうだ。希望を抱き続けるか、諦めて冥府に旅立ってくれ。

 私は何も出来ないから、期待しないで。

 あと、ピセルには気をつけて。長生きしたいなら、下手なことは言わない方がいいよ。あの時のピセルは・・・・・・本気の眼だった。間違いなく、殺す気だったよ。


 つらつらと思考を動かしながら、馬鹿なことを考えているとふいに、二人組の騎士と眼が合った。

「!」

 騎士は私の髪を見ると眼を見開き、けれど嫌悪も憎悪も浮かべることなく通り過ぎていく。反射的に身構えた私は、呆気にとられた。

 いつもなら、私を見るなり暴言や暴力があるのにそれがない。

 変な気分だ・・・。

 

 戸惑う私に気づいたのか、ロイドが苦笑した。

「粛清されなかった人間だけ、この国に残っているみたいだね」

 成程。白が不吉と思わない人間だけが生き残ったのか。

 どう言う審査方法で判断したのか、とても気になる。

「ここだよ、ルキア」

 思考を違うことに向けている間に、ロイドの家についたようだ。

 至って普通、と言ったら失礼か。こじんまりとした、レンガ造りの二階建て住居。街並みもそうだが、ヨーロッパ風だよなー。

 行ったことないけど、テレビで見たのとそっくり。


「おじゃまします」

「どうぞ、いらっしゃい」

 なんて言葉を交わしながら、ロイドに手を引かれるまま家の中に入る。

 質素でだが、家主の趣味なのか花の絵画が壁の至る所に飾られていた。ロイドが花に詳しいのは、両親の影響だろうか?

 それ以外は特に変わりのない、普通の民家。

 廊下を歩き、リビングを通り過ぎて階段を上る。階段にもやはり、花の絵画がある。

「凄いでしょ? 母さんは花が好きで、父さんは絵が好きだったんだ。二人の好みを合わせた結果、こうなったんだ」

 それはまぁ・・・仲のよろしいことで。

「今は春の花ばかりだけど、他の季節の花の絵も、ちゃんとあるんだよ?」

 随分、お金をかけてそうだ。

 思わず出かかった言葉を飲み込み、適当に相槌を打つ。


 そうして案内されたのは、ロイドの部屋。

「すっごい・・・本の数」

 実にロイドの性格を表した、本に溢れた部屋だ。

 一人掛けのソファにベッド、機械神(デウス・エクス・マキナ)が作った音楽プレーヤー。小さな観葉植物が窓に並び、作りかけのホロスコープの隣に真新しい天文球がある。

 よくよく本棚を見れば、星に関係する蔵書が多い。

「本当、好きだよね」

「ん? ・・・ああ、うん。星は好きだよ」

 照れくさそうに笑って、ロイドが天文球に触れる。


「星を見ていると、現実を忘れられるから」


 切なげに眼を細めて、ロイドは言葉を続けた。

「父さんと母さんは、僕の髪のせいで苦労が多かったみたい。でも、僕を殺すことも捨てることもなく今まで育ててくれた。・・・ヒステリックで、癇癪みたいに騒ぐぐらいならいっそ、生まなければよかったのに、なんて思う時があったんだ。口にしたら絶対、騒ぎになるから言わなかったけど。そんな日が続いて、僕も気が滅入ってたんだと思う」

 天文球から手を放して、ロイドが私を見る。

「四歳児が、死を決断したんだ。信じられる?」

 信じられない、と答えるのは簡単だけど、私は敢えて沈黙を貫いた。

 ロイドは苦笑し、窓に寄り掛かって視線を天井へ上げる。ゆっくりと眼を閉じて、息を吐き出す。開いた双眸が、私を通り過ぎて彼方を見ていた。


「子供でも簡単に死ねる方法を探して、王国図書館に行ったその時に、僕は星にまつわる物語と出逢ったんだ」

 普通の四歳児の行動ならば空恐ろしいモノを感じるが、天才と言っても過言でないロイドだと普通に思えてしまう。

 昔から、同年代と比較するのが可哀想なぐらい、優れていたからね・・・。


「星には様々な伝承があって、僕はそれを知る度により詳しく知ろうと本を読み漁った。夢中になって色んな物語を読んで、気が付いたら死ぬ方法を探すのを忘れて星に魅了されていた」

 星に興味を持った瞬間、星が好きになった。と言うことだろうか。

「何だか死ぬのが勿体なくなって、そう思ったら両親の行動も言動も、あまり気にならなくなったんだ。それからかな? 両親の機嫌を適当にとって、相槌を返す仮面家族になったのは」

 失笑して、ロイドが身体を窓から放した。

 ゆっくりと足を進め、私の右手を掴む。促すようにベッドへ進み、二人揃って腰を下ろした。


「ありがとう」

 ロイドが唐突に、私に感謝を述べた。

「一緒に来てくれて」

「誘ったのは私だよ? お礼を言われることじゃ、ないと思うけど」

「それでも、ありがとう」

 苦笑する私に、ロイドが優しく微笑んだ。

 繋いだ手を持ち上げ、ロイドが両手で包み込む。

「ルキアのおかげで、まだ少しだけど・・・気持ちの整理がつけられそう。さっきの言葉が効いたのかな?」

 茶目っ気に笑って、ロイドが私に顔を近づけた。

 え? 何? 頭突き? 私、ロイドに何かしたっけ? はっ! よもや一蓮托生にしたことを根に持っているとか?!

 だったら謝る。謝るから、無言で顔を近づけないでぇぇぇぇぇぇえぇええぇぇぇっ!!


 動揺あらわにロイドの行動を見守っていると、こつん、と額にロイドの額が当たった。

「へ・・・?」

 頭突き・・・か、これ? 瞬きながらロイドを見れば、含み笑いをしていた。

 もしもーし、ロイドさーん。

 貴方、何がしたいんですか? いや、本当に。

「ロイド・・・?」

 何がしたいのか聞こうとした途端、けたたましい音を立てて鐘が鳴った。

 それはもう、耳が壊れるんじゃないかって思うほどの騒音で。事実、ロイドの家の窓は震えただけだが、他の家の窓は割れたようで街路から声が聞こえる。


 私はロイドの行動を追及せず、違う話を割り振った。

 だって、こっちの方が気になるでしょう。鐘があんなに変な風に鳴るなんて、暮らしてから一度も聞いたことがないよ。


「さっきの鐘の音、変だったね」

「・・・・・・確かに。鐘が落下したような、そんな感じの音だった」

 ロイドが私の手から手を放し、窓に近づいて外の様子を窺った。それに倣う様に私も立ち上がり、窓から外を見下ろす。

 街路にはやはり、窓ガラスが散乱している。

 太陽に反射して嫌いだけど、歩く時に注意しなければ。転んだら大惨事で、眼もあてられない状況になりそうで怖い。

 ふいに、騎士が街路を慌てたように走って来た。

 何事かを叫んでいるが、よく聞き取れない。おかしいな。この距離なら普通、窓を開けなくても聞こえるはずなのに・・・。

 最後尾を走っていた騎士が腰に差した剣を抜いた瞬間、空が暗くなった。

 まだ、夜になるには早い時間帯。


「太陽が・・・」

 ロイドが呆然と、信じられないように呟いた。

「太陽が、呑みこまれた」

「え・・・?」

 

 この世界で日食が起きた事例は過去、一度だけ。それ以外で日食があった記録は、ない。

 恐る恐る、空を見上げる。

「あ・・・」

 ロイドが言ったように、太陽が闇に呑みこまれていた。正確には、月が太陽を隠しているのだけれど・・・。


 ――皆既日食――


 これがゲームで起こるのは、アーシェが雪の呪に罹って六つの悪夢オッセッスィオーネが眼覚めた時。

 だいぶ摩耗したとは言え、女子高校生(むかし)の私はプレイ画面でこれを見た記憶がある。ゲームでは確か、この日食が起きた後にアーシェの前に悪夢の一人が現れていた。

 名前は確か・・・・・・。


「『最初に訪れたのは悪夢に相応しい暗闇だった。暗闇は世界から光を奪い、希望を喰らってしまった』」

 ロイドが黙示録(アポカリッセ)の冒頭を口にする。

 ああ、そうだ。暗闇の名を持つテネブローレだ。


「ひぎゃああああぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」

 突如、耳を劈く悲鳴がした。

 その後に続くように、外から無数の悲鳴が聞こえてくる。声は徐々と近づき、悲鳴の数も増えて行く。先程見た騎士達が、上げているのだろうか・・・?

 ロイドが私の身体を引き寄せ、窓の死角へと隠れた。緊張した顔でそっと窓の外を覗き、様子を窺っている。


 日食。

 ゲームの展開。

 眼覚めた悪夢。


 私の脳裏に、最悪のシナリオが浮かんだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

 暫くして、悲鳴が聞こえなくなった。

 脅威は去ったのか、あるいは・・・・・・――。

 私はそれを確認するため、ロイドの腕から抜け出して窓へ近づいた。

「っ!?」

 街路に広がる光景に、ロイドが口を押さえてくれなければ悲鳴を上げていただろう。それ程までに、外は悲惨の一言だった。


 元の色が解らないほどに、赤く染まった街路。

 甲冑姿の騎士が無残に四肢を散らばせ、あらぬ方向へ首を曲げた姿。散った四肢から白い骨が見え、思わず吐き気がした。

 窓を開けていたら、血と死臭に気を失っていただろう。

 正直言って、今、物凄く気を失いたい。見なきゃよかったと、心から後悔しています。

「これ以上は見ない方がいい」

 そう言ってロイドが、私を窓から遠ざけた。

 ううう・・・ありがとう。でも、私の自己責任だから気にしないで。ああもう、そんな顔をしないでよ。ロイドが悪いんじゃないから。


「ぐああああああぁぁぁああぁあああああぁぁぁっ」

「愛しい、愛しい姫はどこにいる? 私達おれの可愛い、可愛い姫は」

 一際大きな悲鳴の後、誰かのやけに通る声が聞こえた。

 大声を出している訳ではない。かと言って、小声でもない。至って普通の音量で話しているはずなのに、誰かの声は不思議と耳に届いた。

 その声に、私は戦慄した。


 血の気が引いていくのが解って、身体が恐怖で震えた。

 ロイドはそんな私に気づかず、窓の外を凝視している。そして見つけたのだろう。街路を悠然と歩く、藍色の髪をした青年の姿を――。

「あれは・・・?」

 眼を見開くロイドとは真逆に、私は硬く眼を閉じた。

 脳裏に浮かぶ、記憶の姿。

 狂喜に歪んだ虚ろな瞳をして、眼の前の人物を通して別の誰かを見ている青年。暗闇を擬人化したら、こうなるであろう形をした存在。

 

 ここにいては駄目だ。

 見つかったら、あの騎士と同じ末路を辿ってしまう。


「逃げよう、ロイド」

「え、ちょっ、待ってルキアっ」

 その恐怖からロイドの右腕を掴み、私はロイドの部屋から出た。階段を急いで下り、玄関に向かおうとして、二の足を踏む。

 街路には暗闇(テネブローレ)がいる。

 ここから逃げたら、確実に見つかって・・・殺される。ぞっと背筋に冷たいモノが流れて、別の逃げ道を探すため周囲を見渡した。

 窓・・・は、開けた時に音がして気づかれるかもしれない。それに、小さすぎるから論外。

 他の出口・・・出口は。

「キッチンから外に出られるよ。こっち」

 動転する私を見かねてか、ロイドがキッチンへ案内する。ロイドの腕を掴んでいた手はいつの間にか放されていて、変わりに指と指をからめるように繋がっていた。

 キッチンへ行き、ロイドに引っ張られるまま外に繋がるドアを開けた。

 むせ返る血の臭いに、気分が悪くなる。


「ひぃぃめぇぇぇ、ひぃぃぃぃめぇぇぇ」

 泣き声に似た声が、すぐ近くから聞こえてきた。

 

「どうしてだ、どうしてなんだ。姫、姫、姫。私達おれの愛おしい白雪の姫」

 何かを引きずる音と共に、ゲームで聞いたままのテネブローレの声が耳に届く。

「私達の唯一無二の、大切で、大事な、愛すべき姫」

 擦れた声で、ゲームと同じ台詞を口にした。

「何故、この世に姫がいないっっっ」

 言葉を終えると同時に、辺りが闇に呑みこまれた。

 おそらく、テネブローレを起点として闇の力が発生しているのだろう。ゲームでもそうだった。流石は暗闇の名を持つだけはある。

「こっちだ、ルキア」

 混乱に現実逃避をしていた私の手を引き、ロイドが走りだした。

 私達が先程までいた場所は、見事に闇に食われてしまって・・・。ロイドの家が、跡形もなく消えた。

 ロイドは何も言わない。

 振り返りもせず、闇から逃げるために必死に足を動かしている。


「っ!?」

 けれど、眼の前に転移でも使ったのかテネブローレが現れ、それ以上走ることが出来なくなった。逃走しようにも、テネブローレが発する空気に身体が畏縮し、ぴくりとも足が動いてくれない。

 ロイドだって怖いはずなのに、私を背後に隠して護ろうとしてくれる。

 テネブローレが無造作に腕を伸ばし、こてりと首を傾げた。やけに演技がかった動作で、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 その顔は先程の嘆き声が嘘のように、歓喜を表していた。

「ああ、ああ。なんて喜ばしい日だ」

 ゲーム越しに何度も見た、狂喜の瞳が私を映し出す。

「姫の肉体に成りうる存在が、ここにいた」

 ゲームでアーシェに向けた台詞を、私に告げた。

「姫がもう一度、私達おれの元に帰ってくる。蘇るんだ!!」

 言い終えた直後、轟っと音がした。

 何てことはない。テネブローレが無造作に右腕を振い、影を使ってロイドの体を真横に弾き飛ばしたのだ。

 無抵抗に飛ばされたロイドの身体は建物に衝突し、瓦礫と砂埃に隠れて見えなくなる。呻き声一つ、聞こえない。

 神霊術(アルカナ)を発動した気配すらない。ロイドが瓦礫から出てくる様子もなく、大怪我を負って動けないのではと不安になった私は、眼の前の存在を忘れて駆けだそうとした。


 けれど、それは出来なかった。

 当然だろう。

 私の右腕を冷たい手が掴み、この場から逃がそうとしないのだ。

 腕の相手は見なくても解る。――テネブローレ以外に、誰もいないのだから。


「嬉しい、嬉しい日だ」

 テネブローレが感極まった声で呟き、私の手を掴む手にさらに力を込めた。血管を圧迫させるほどの強さに、指先の感覚がなくなる。

 痛みに顔をしかめる私を無視して、テネブローレが言葉を続ける。

「蘇ったその日に、姫の器を見つけることが出来た。ああ、ああ。彼らも喜ぶだろう。姫の器になれる人間なんて、早々にいないのだから。だって姫は、姫の器になれる存在は――生まれながらに白い髪をしていなければならないんだから!!」


 その言葉に、私は息を止めた。

 違う・・・やっぱり、違う。ゲームと異なっている。

 だってゲームでは、雪の呪に罹った者が姫の器になれるとあって。けっして、生まれながらの白髪だとは出ていない。


「ちが・・・う」

 弱々しい声で、否定を口にした。

「私・・・私の髪は、白じゃ、ない」

 白銀だけど、白ではない。


 首を横に振り、違うと何度も言葉にするけれどテネブローレは聞き入れてはくれない。私の腕を引き寄せ、近づいた身体を抱きしめる。

 冷たい体温に、恐怖とは別に身体が震えた。

 歯が噛み合わず、音を鳴らす。吐き出す息が、白くなった。


「愛しい器。大事な姫の依り代」

 熱を含んだ声音で、テネブローレが告げた。

「君がどれだけ否定しようと、拒絶しようと、私達(おれ)は君を手に入れる。君の全てを奪い、君の身体を使って姫を蘇らせる」

 急激な体温低下で、眼が霞む。

 意識が遠ざかっているのが解っているのに、私は抵抗すら出来ずに身体をテネブローレに預けている。それが無償に、嫌だった。

 上手く動かせない唇で、助けを呼ぼうと名を紡ごうとして――はたっと考えた。

 私は誰の名前を呼べばいいんだろうか? ・・・解らない。

「後は魂だ。姫の魂を呼び寄せる生贄を探さないとね」

 不吉な単語が聞こえた。

 どう言う意味か問いただしたいのに、意思とは裏腹に唇が動かない。瞼も重くなって、開けているのが億劫だ。


「さぁ、行こう。――私達おれがいるべき世界へ」

 意識が、途絶えた。


ルキア視点でできないので、次はロイド視点で行こうと思います。もしかしたら、別の視点かもしれませんが、あしからず。

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