嵐の前に
お気に入り、ありがとうございます。
23から26日まで不在となりますので、更新できません。ご了承ください。
素敵老後人生を送るため、世界滅亡フラグの回避方法を模索していた私の耳に、とんでもない言葉が飛び込んだ。
「王城に泊まれ」
レーヴェの台詞に、頭が真っ白になった。浮かべていた回避ルート案が全部、綺麗に消えてしまうほどの衝撃だった。
何で? と疑問符を浮かべた私に、レーヴェが言い辛そうに訳を話す。
曰く、教会の人間も雪の呪に罹った。
曰く、教会の子供は皆、魔物に襲われて死んだ。
曰く、ロイドの両親も魔物に襲われて死んだ。
故に、王城に泊まった方がいい。
精神的に、その方が安心するだろう。
――とのことだった。
その言葉に、私はアーシェを見てから確かにと納得した。
アーシェは普通に仲のよかった教会の子供が死んだことにショックを受け、顔を青ざめて驚愕に眼を見開いていた。テオが傍らに立ち、そっと、アーシェの頭を撫でている。
「~~~~~~~~っふぅ」
アーシェは涙腺が壊れたのか、テオの胸に顔を埋めて嗚咽をあげた。
いつもなら顔を赤くして慌てるテオも、この時ばかりは悼むようにアーシェの頭を、そして背中を撫でている。
「・・・・・・子供まで、死んだんですね」
ピセルがぽつりと呟いて、悔しげに唇をかみしめた。歯が唇を傷つけたのか、僅かに血が流れている。
教会にいた時間は少ないものの、ピセルも何かしら思う所があるようだ。
私は隣に座るオルフェを見て、眼を伏せた。
表情は変わらず、何の反応も示していないように見えるけど・・・。私は確かに、オルフェの瞳が動揺に揺れるのを見た。
無意識にか、握りしめた拳が震えている。――怒り、だろうか?
対して私は・・・・・・・・・冷酷なことに、何も思わない。
オルフェとアーシェ以外、教会の人間と交流を持っていないからかもしれない。だとしても、少なからず何かしらの情を抱いてもいいはずなのに・・・。
無関心すぎる。
自嘲して、ロイドに視線を向けた。
呆然とした表情で言葉もなく、口を一文字に閉ざして彼方を見ている。
ショックが大きすぎたんだろうか? 心配になってロイドに声をかけようと、口を開いた。それより先に、レーヴェが言葉を投げる。
「大丈夫か、ロイド」
レーヴェの言葉にロイドはゆっくりと眼を閉じ、一呼吸おいてから眼を開けた。
「・・・・・・・・・うん、大丈夫だよ。ありがとう、レーヴェ」
笑って告げたロイドだが、私の眼にはどうも不安定に映る。
それはオルフェ達も同様らしいが、二の句が告げない。ロイドの空気が、それ以上この話題に触れてくれるなと語っていたからだろう。
居心地の悪い空気が、場を支配した。
暫くして、ラルフレアがカリステゥスを連れて応接室から出て行った。
王様業をしに行ったのだろう。心底嫌そうな顔をして、部屋を出て行くラルフレアの顔が見物だった。隠すことなく、爆笑するカリステゥスには呆れたが。
ピセルも騎士団の仕事が残っていると言うことで、それから数分後に名残惜しげに部屋から出て行った。
残ったのは、いつものメンバー。
けれどそこに、気安い会話はなかった。
重い空気に支配され、誰も口を開かない。
家族が死んだとなれば、当然か。
「・・・・・・・・・」
私は口を一文字に閉ざし、険しい顔をするロイドを一瞥した。
常日頃、家族なんてどうでもいい。あれは家族じゃない。と言っていたロイドはそれでも、複雑な思いを胸中に抱いているのだろう。
自分の感情が信じられないような、苦い表情をしている。
息をついて、私はレーヴェに視線を向けた。
眼だけで何とかして欲しい旨を伝えるが、首を横に振られた。縋る気持ちでオルフェを見ても、同じだった。
アーシェは未だ、テオの胸の中で泣いている。
テオはアーシェで手一杯らしく、頼りにならない。
他力本願できないこの状況。
――さて、どうしたものか。
放置をしたい気もするけれど、それは駄目だと私の中で何かが訴える。ロイドを励ますなり、勇気づけるなり、心を救うのは本来、ロイドの嫁候補の仕事だ。
断じて、私の仕事ではない。
残念なことに、ロイドの嫁候補はまだ表れていない。ならば現状、どうすればいいのか。また、何が最善かなんて――。
考えなくても、出てくる。
私は仕方なしに息をついて、レーヴェに声をかけた。
嫁候補が現れるまで、私がロイドをサポートしよう。だから早く現れておくれ、嫁候補達よ!!
「レーヴェ」
「何だ」
「少し、外を歩いてきてもいいかな?」
「・・・・・・疲れは?」
私が何を言いたいのか察したレーヴェはしかし、私の体調を気遣ってきた。それに苦笑し、大丈夫だと告げれば安堵に表情を緩め、一つ頷いた。
「中庭なら、ベンチもある。季節の花も咲いているし、噴水もあるから気分転換にはいいだろう」
「ありがとう」
私は立ちあがって、ロイドの右手を掴んだ。
「行こう、ロイド」
「気遣わなくてもいいよ。僕は本当に、大丈夫だから」
頭がいいと、何も言わなくても伝わるから楽だ。
けれど、そう言う訳にも行かない。
ゲームでもそうだったけれど、ロイドは悩みやストレスと言ったモノを溜めこみやすい人間だ。長く幼馴染をしていたら、嫌でも解ることでもあるけど。
オルフェだって当然、気付いている。
その証拠に・・・。
「ロイド」
ほら、声をかけた。
オルフェはロイドに視線を向けたまま、扉を指さした。
「いいから、行ってこい。お前が放つ空気が鬱陶しくてかなわない」
・・・オルフェ。
心配から出た言葉だと知っているけれど、その台詞はないだろう。もうちょっとこう、相手を気遣うとか・・・・・・。今のロイドには、これぐらいはっきりと言った方がいいのかもしれないな。
うん、だとしたらぐっじょぶ。
よくやった!
「ほら、行こう」
私はロイドの手を引っ張れば、諦めたのかロイドが腰を上げた。
レーヴェが言う以上に、中庭は趣にこだわりがあった。
なんかもう、王城ってどれだけ金と手間と時間をかけて外観すら整えているの? って、呆れよりも感歎を覚えるほどで。
うん、形容する言葉が出てこない。
凄いわ―と、間抜け面で中庭を見ています。
渡り廊下を歩くメイドさんや騎士達が、微笑ましげな視線を向けてくる。・・・いやはや、敵意も殺意もない視線なんて久しぶりだ。
あれ、ちょっと・・・感動しているみたい。涙がっ。
「桜と椿に、藤の花・・・芝桜の絨毯が見事だね」
他にも春の花が咲いていると、穏やかな口調でロイドは呟いた。
私は眼許に溜まった涙を乱暴に拭い、同意を示して頷いた。手を繋いだまま、噴水がある中央まで歩く。
国章である王冠が刻まれた噴水には、初代聖王の像が飾られていた。
・・・これだけ違和感だ。
「そうだ、ロイド」
「何?」
「レーヴェ達の親・・・先代聖王様はどうしたの? さっき、姿を見かけなかったけど」
誰も触れないから、忘れかけていたけど本当、どこに行った?
ゲームでは生存しているはずだが・・・。よもや、死亡を隠匿された? なら、逝去したって話を聞かないのも納得できるんだけど・・・。
「隠居したそうだよ」
あら、違った。
「優秀な息子が二人もいるなら、政務から離れて嫁と第二の人生を送るとか言って、ある日を境にふらっと、王妃様と一緒に姿を消したそうだよ」
うわ、はた迷惑。
王城がパニックになっただろうなー。
「もっともこれは、公にされていないけどね」
「・・・私が知らない訳のも、当然だね」
「僕も、レーヴェが愚痴った時に知ったからね。聞いた時はそれでいいのか、この国! って思ったよ」
安心して。それ、私も思ったから。
優秀と称された息子の一人、ラルフレアに対してだけど――。
私は空を仰いだ。
空の色からして、夕暮れ時はまだ遠い。最後に聞いた鐘の音の数は確か、三つ。
三時・・・。ああ、だからレモンパイか。
あれからまだ、鐘の音は聞いていない。とすれば、三時半ぐらいだろうか? 憶測をつけて、私はロイドの手を引いた。
「ねぇ、ロイド」
ロイドが首を傾げて、私を見下ろす。
「街に行ってみない?」
「・・・え?」
「気持ちの整理、つけに行かない?」
「ルキア・・・」
ロイドは泣きそうに顔を歪め、私の視線から逃げるように俯いた。
「どうしてだろうね」
ロイドが絞り出すように、声を出す。
「碌な死に方はしないって解っていたのに、いざ、そうやって死なれて困惑したんだ。悲しまないと思っていたのに、心がざわめいて痛むんだ。両親が死んでも、何の情も湧かないと思っていた」
私に問いかけているようで、その実、自問自答しているロイドの言葉に私は割り込まない。ただ静かに、ロイドの声に耳を傾けるだけ。
掴んだ手に、力が込められた。
「愛情を与えられた記憶、愛された過去もない。干渉の少ない、育児放棄に近い環境で育ってきたんだ。肉親の情なんて抱くはずがないのに。それなにどうして僕は・・・」
曖昧に言葉を切って、ロイドは顔を上げた。
「こんなに、胸が痛むんだろう」
嗚咽をこぼさず、涙を流すロイドの身体を抱きしめた。
女子高校生の私ならいざ知らず、今の私に両親はいない。家族に等しいオルフェやアーシェはいるけれど、肉親は不在。
ロイドの気持ちなんて、当然ながら解らない。
けれど、解っていることがある。
「何の情も抱いてないなんて、嘘だよ。ロイドは両親を嫌っていた。憎んでいた。疎んでいた」
私と違って、ロイド。君は両親に対して感情を向けていた。
「・・・無関心じゃなかったから、情を抱いたんだ」
愛情の裏返しが無関心とは、よく言った。
「だから・・・胸が痛いの」
ロイドは何も言わず、静かに泣き続けた。
――どれだけ経っただろうか?
ロイドが私から身体を放し、涙を袖口で拭った。ごしごしと擦るロイドの眼許は予想通り赤くなり、泣いたことが一目瞭然で解る。
それがおかしくて笑えば、ロイドが不機嫌に顔をしかめた。
「ごめん、ごめん。・・・それで、どうするの?」
「そう、だね」
ロイドは私と繋いだ手を見てから、空を仰いだ。
つられて見れば、鷹が鳴き声を上げながら西へ向かって飛んでいく。無意識に眼で追いかけ、繋いだ手に力がこもったことにはっとしてロイドへ視線を向けた。
「家に帰って、何か変わるとは思えないけど・・・気持ちの整理は付けたいと思う」
涙で枯れた声で、確かにロイドは告げた。
「それじゃあ、善は急げ。だね」
「・・・ルキア。レーヴェが中庭だけって言ってただろう? 今日は無理だよ」
笑顔で街へ行こうと誘った私に、ロイドはばっさりと否定を口にした。
ふ、ふ、ふ・・・。甘いね、ロイド。
「私は、外へ歩いてきてもいいって聞いたんだよ?」
「だから、レーヴェが中庭・・・・・・。ルキア、君は」
「私、了承はしていないから」
たぶん私はきっと、輝かしい笑みを浮かべているんだろう。
ロイドが困ったように笑って、肩を竦めた。
「まったく・・・。後でレーヴェ達に怒られてもしらないよ」
「その時はロイドも一緒。一蓮托生ね」
私の言葉にロイドは呆れ、けれど拒絶を示すことなく歩きだした。
うむ、どうやら私に従ってくれるようだ。
そのことに安堵しながら、私は不謹慎ながらも胸を高鳴らせていた。
「こんな時に言うことじゃないけど、嬉しいの」
私の言葉に、ロイドは不思議そうに首を傾げた。
「嬉しい? どうして?」
「だって、初めてロイドの家に遊びに行けるのよ?」
「・・・そうだね。いつもは僕達が教会に行って、一緒に過ごすのが日常だったから」
ロイドは不謹慎な思いを抱いた私を怒るではなく、同調して微笑んだ。
「僕も、嬉しいよ。こんな状況だけど、君を・・・家に招待出来て」
・・・その笑顔は反則です。
嫁候補に見せて!! きっとイチコロよ!!!
顔ごと視線をそらすことで赤面を間逃れたが、心臓が痛いほど鳴っている。運動した後みたいにバクバク言って、正直、気持ち悪い。
ロイドにばれないように深呼吸をし、漸く落ち着いた心臓にほっとしてから視線を戻す。
「何だかこれ・・・かくれんぼみたいだね」
よかった。
ロイドは挙動不審だったであろう、私の態度に気づいていないようだ。
「じゃあ、ばれない内に帰ってこないとね」
「ばれたらきっと、二人して説教コースだね。それも三時間の」
「オルフェ、レーヴェ、アーシェの?」
「そうそう」
他愛もないことを話しながら、私達は隠密行動を取りながら城門を出た。
アーシェの閑話がいるか、ちょっと悩みだした今日この頃。・・・話はあるけど、更新するべきか否か。




