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奇怪な村1

山間の道をガタゴトと進み、小さな集落に日が暮れ始めたころ馬車は辿り着いた。


「セリーヌ嬢様、みな様がた、着きましたぜ」

 そう声をかけられると、ようやく外に出られるという開放感で体がうずうずしだす。

 馬車から降りると、ゴツゴツとした、木も草も生えていない岩肌の山がそびえ立つ。


 東の端の街から、もうどのぐらい離れたのだろうか。



「ねぇ、なんかここ、変な匂いしない?」

「なんか、卵の腐ったような……ね?」

 ルリアとベリーは小声で、違和感を口にする。


「ふふふっ!あんた達、ここは温泉が湧いている集落なのよ。この匂いも温泉の特徴なのよ!」


「「温泉??」」

 ルリアとベリーは顔を見合わせ、何それ?と、セリーヌさんに問いかける。


「お肌がねぇ〜つるつるになるのよぉ」

「地中から湧き出るお湯の事よね!」

 セリーヌさんとジョディは、温泉とは、この世の天国である!言いきっていた。

 そしてこの独特な匂いに身をおくのも、美肌になるための試練とかなんとか。



 黄色く剥き出した山肌。

 立ちのぼる煙。

 温泉地というだけあって、土地自体が暖かいのか、それほど寒さは感じない。


(この変な匂いさえなければ……)

 ルリアはこっそり心のなかで呟いた。



 ふと、視線を感じ、そちらに目を向けると、

 そこには、

 肌は薄黒くただれ、

 窪んだ目の男が立っている。

 何をするでもなく

 立ち尽くしている。


 一人の姿に気を取られたまま周囲を見渡して、息をのんだ。


 よだれを垂らしてニヤつく者。

 ぶつぶつと何かを呟きながら、虚ろな目で宙を見つめる者。

 正気とも思えない人影が、あちこちに立っている。


 この村は何かおかしい。



 セリーヌさんも、ジョディも、ベリーも、

 それこそ全員が、

 この異質で不気味な集落は危険だと、瞬間的に身構え、誰が言いだすでもなく馬車へと引き返した。


「私たち、今夜は馬車でお泊りする事にするわ!」

 セリーヌさんの一言に、護衛兼御者の2人は顔を見合わせ、ごもっとも、といった感じでランプを取りだしセリーヌさんへ手渡した。

「セリーヌ嬢様、くれぐれも馬車を燃やさないでくださいよ。」

 この一言も付け加えて。



 護衛兼御者の2人は、獣避けと暖をとるため焚き火をおこした。

 パチパチと暗がりに浮かびあがる炎は幻想的で、ルリアたちの恐怖心も少し和らいだ。



「そういえば、ルリア、今日は筋肉に食いつかないわね?」

 ベリーの一言に、セリーヌも加わる。

「うちの御者たちの筋肉に見向きもしないけど、あの2人、けっこう鍛えてるのよ!」

「好みの筋肉の質と違うんじゃない?筋肉の違いなんて知らんけど」

 ジョディも興味なさげに会話に加わる。


 幌馬車の中では、ランプの薄い灯りのもと、女子トークが繰り広げられるのであった。


(そういえば、今日は私の中の筋肉欲が動かない……なんでだ?)


 ふと馬車の中から、村の奥にそびえる岩山の方へ目を向けると、朱くゆらめく灯りが岩肌の中腹辺りで列を成して動いている。

 暗闇のなか、その辺りだけが、ぼうっと浮かび上がる様子はなんとも不気味だ。


 ふと、ルリアは昼間ジョディから聞いた「呪われた赤い石」を思い出し、ジョディに話の続きを聞かせて欲しいと伝えてみると、


「呪いなんてものは存在しないわよ!」

 意外な応えが返ってきた。


「え!?ジョディ、怪談ショーするなら今だよ?」

 ルリアも食い下がる。

 不気味な村、絶好のシチュエーションだ。


「こんな場所で、そんな話しをしたら、2人が倒れちゃうわよ」

 ジョディはそのまま話を続けた。

「人の脳や体を蝕む植物ならあるらしいわ。でもそれは、使い方によっては薬にもなるらしい……呪いの伝承なんて、そういうところから生まれるのかもね。」


 さすが医者の娘!

 騎士団オタク全開な姿との落差に、一人困惑するルリアだった。



 翌朝、まだ薄暗く、日が昇りかけの時刻。

 ルリアは幌馬車から一人降りた。


 焚き火の炎は、消えてしまいそうなぐらい小さくなり、パチパチと奥の方ではじけている。

 その傍では、徹夜での警護の疲れで、一瞬深く意識を沈める御者。


 その隙をつき、起こさないよう、そぉっと横を通りすぎ、ルリアは歩きだした。


 辺りが薄く明るくなりだした事で、村の奥にそびえる岩肌の山は、その異様な風貌をさらけ出した。


 ここからだと、かなり遠そうだ。


 昨晩、目にした遠く揺らめく灯りが、どうしても頭から離れない。

 ちょっと確かめるだけだから……

 すぐ戻るから……

 ルリアは誰に向けるでもなく呟いた。


 まだ朝は、かなり冷える。

 ルリアはマーサーに貰った羊毛のストールを、頭からぐるぐると巻いて岩肌の中腹を目指す。



 ◇◇◇


「殿下、この先に湯浴みのできる集落が存在します」


 夜明けの薄暗がりのなか、テオは手綱を握る手を緩めることなく、冷徹な双眸を目的の方向へと向けた。

 異様な山肌、立ち上る奇妙な煙。普通なら警戒して足が止まる不気味な光景を前にしても、テオの表情には微塵の動揺も浮かばない。


「ただの温泉地か、あるいは……」

 腰の長剣の柄にそっと手を添え、その存在を確認した。




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