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道ならぬ……恋

「うそつき……、 ルリア嬢のうそつき」


 朝、宮殿の執務室へ続く廊下。亜麻色の前髪の隙間から、美しい薄緑の瞳をジト目にして、話しかけてきたのはデイジー様だ。



 先日、テオの執務室で不正の証拠を見抜いてから、やたらとローレンス夫人が執務室での仕事をふってくる。

 先日、デイジー様に「私は便利な雑用です!」と言ってしまったので、今日も執務室に出入りをしているルリアは、デイジー様からしたら<嘘つき認定>という訳だ。


 実際は、お茶を煎れたり、軽く執務室の掃除をするぐらいなので、便利な雑用には変わりないのだけれど。


 何もやる事がない時などは、ルリア用に用意された椅子に座り、本棚の本を読みつつ時間が過ぎるのを待つ状況だ。


 ルリア自身も、本を眺めているぐらいなら、近衛兵の修練を眺めている方がよっぽどためになると思っている。



 ローレンス夫人は、テオが正しい道に戻れるよう、年若いルリアをテオに近づけているのだろうか。 たしかに人妻に恋心を抱くのは色々とまずい気がする。

(テオが人の道を外さないよう注意してあげなくちゃ!!)


 ぐるぐると考えぬいたルリアは、ジト目のデイジー様に協力を仰ぐことにした。



「デイジー様、 テオバルト様の 道ならぬ恋を阻止しようと思います! デイジー様にも協力を―― 」

 ルリアが言い終わらないうちに、デイジー様からは感極まる声が上がった。


「道ならぬ……恋! 素敵ぃ! いいわぁ!! ルリア嬢、阻止なんて野暮よ。 こういうのはね、こっそり観賞するものよ」

 そう言い切ったデイジー様の頬は薄っすらと赤らんでいた。



 ルリアは困惑した。

 ローレンス夫人は年嵩のわりに美しい、それにエレガントだ。

 テオだって、なんだかんだ優しいし、顔も筋肉も特Aランクだ。


 二人を鑑賞!? えーー!!

 なんとも言えない感情がお腹のあたりでうごめく。



 ご機嫌になったデイジー様は、ルリアにも良いものを見せてあげるからと、土曜の朝に中庭に来るよう告げて、その場を去っていった。



 ルリアは、どうしたものかと考えながらも執務室のドアを開けた。


「ん?ルリア、体調でも悪いのか? 腹でも壊したか? 」

 そんな、呑気なテオの声を聴いたからか、ルリアは思わず口走ってしまった。



「テオ、(不倫は)ダメだよ! ちゃんとテオに合った人を好きになって!」


 恋のことなんて何もわからない。お腹のあたりの不快感がルリアに、そう言わせたのかもしれない。


 テオは唖然としたまま、ルリアを見つめている。

(ルリア……、 俺との身分差を気にしているのか? たしかに俺は第三王子だが……)



 テオの中で、何かがカチリと動き出した。

 机にペンを置き、ルリアのもとに歩み寄ると、テオは碧い瞳をまっすぐルリアに落とした。


「ああ、俺は身分差など気にしていない。俺だって―― 」


「ダメだよ!テオ!!」


 テオの決意に満ちた声色を遮り、ルリアはローレンス夫人への報われない恋心を、テオにどう諦めさせるか本気で思案した。


 それぞれの勘違いが、動き出してしまった。




 ――テオは、ルリアが身分差のせいで自分の想いを拒んでいるのだと思った。


 ――ルリアは、テオが人妻への不倫愛を、身分差を越えつらぬき通そうとしているのだと思った。


 ――そしてデイジーは、土曜の朝に、極上の鑑賞でルリアを喜ばせようと目論んでいる。




 誰一人として同じレールに乗っていない暴走列車は、ガチリと噛み合った(と思い込んだ)歯車を回し、全力でとんでもない方向へと突き進んでいくのだった。



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