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盗み見の代償

 土曜日の朝、ルリアはデイジー様に言われた中庭に来ていた。

 だいぶ寒さも柔らかくなり、春の訪れも間もなくだろう。


「ルリア嬢、こちらよ」

 ぎりぎり耳に届く声音で、デイジー様が手招きをしてルリアを呼び寄せている。


 小さめの白いテーブルには、ティーセットが用意されており、カップに注がれた紅茶からは花の香りがほんのりと漂う。ルリアはデイジー様に招かれるがまま椅子に腰を下ろすこととなった。


 まばらに膨らみかけている蕾の生垣から、顔をのぞかせてはオペラグラスで、バラ庭の先を見るデイジー様。その視線の先をルリアも真似て覗き見をしてみると、そこにはシャツ一枚になったテオと、琥珀色の髪の美しい男性が、激しく木刀を交えていた。


「見てっ、 ルリア嬢。 アルベール様の一撃を切なげに受け止めるテオバルト様……。離れ離れだった二人が剣先交えながら、お互いの想いを確かめあっているわ」



「えっ!?(想いを確かめ合っている?)……デイジー様、 テオバルト様の道ならぬ恋のお相手ってローレンス婦人じゃないんですか?」


 ルリアは、アルベールと呼ばれている美しい男性に目を向けながら、頭の中の疑問をデイジー様に投げかけた。



「何を仰っているのかしら? ローレンス夫人はアルベール様の母君よ。テオバルト様が女官長と恋仲になるなんてありえないわよ。だってテオバルト様のお心はアルベール様のものなんですから」


 瞳をうっとりさせ、蒸気する頬を両手で覆いながらデイジー様は悶えている。


 悶えるデイジー様の隣で、執務室でのテオの言葉をルリアは思い出していた。


 <俺は身分差など気にしていない>

(男女の差など気にしていない)


 えーーー!!そういう事だったの!!??

 ルリアの頭の中、瞬時にある事が思い出された。


 ――顔のいい男同士が親し気にしている姿絵はよく売れる——


 パッと浮かんだその言葉が、ルリアの創作欲と、商売欲をうずうずさせてしまった。

 この王宮に自分が来るはめになったのは、姿絵を描いたことから始まったのを忘れて。


 セリーヌさんを筆頭としたアルダン商会withファンクラブも、そろそろ王都に来ている頃だ。うずうずワクワクを抑えきれず、デイジー様の隣でルリアも悶えていると、ふいに背後の生垣がガサッと音を鳴らした。



「おや、私の婚約者様は、またこんな所でのぞき見ですか?」


 そこには、汗で濡れた琥珀色の髪をかき上げ、デイジー様を柔和な笑顔で見おろすアルベール様がいた。


(え!? デイジー様のこと、婚約者って言ったよね? え?ええっ??)

 ルリアは混乱していた。このねっとりと重くて、どろりとデイジー様へ向けられた甘い眼差しに。

耐えられない。逃げてもいいいかな? いいよね? 澄んだ空気を吸わせてぇ!!!




「ひえっ!ア、ア、アルベール様……、 公式はモブを認識しちゃダメです!」

 薄緑色の瞳を潤ませつつも、デイジー様は応戦している。



「貴女の、恋に恋をしているような姿も可愛らしくて私は好んでおりますよ。 ただ、私以外の男にも気持ちを揺るがしているのは面白くない」


 そう告げるとアルベール様はゆっくりとデイジー様を見つめたまま、デイジー様の指を絡めとり、そしてそっと薬指に口づけを落とした。


 ギュッと目を閉じ、うつむくデイジー様をアルベール様は逃しはしない。絡められた指先に口づけを落としながら「そろそろ私の事も、一人の男として意識してください」

 甘い蜂蜜のような囁きにデイジー様の顔は、ひたすら赤さを増していくばかりだった。


 特大のどろりとした甘い空気に、居たたまれなくなったルリアは、この場からそろりと抜け出しテオを探した。

(テオが、こんな場面を見てしまったら傷ついちゃう。 いや、教えた方がいいのかな? 婚約者のいる男性に想いを寄せるなんてダメだよ!ダメ!! )



 中庭の生垣を脱出したルリアは、回廊の柱に寄りかかり、ちょうど上着を羽織り終えたテオの姿を見つけて駆け寄った。


「ルリア、どうかしたのか? まさか体術を教えて欲しいとか言い出すなよ?」


「違うよ、体術というか筋肉の付け方は教えて欲しいけど……。 ちがう!そんな話じゃなくて!」



 ルリアは、まだ熱が引ききっていないテオの胸板に両手をポンと当てて、その碧い瞳をまっすぐに見つめた。いつになく必死なルリアの様子に、テオの表情がすっと真面目なものに変わる。



「テオ、よく聞いて。アルベールさんにはね、デイジー様っていう、すっごく可愛くてお似合いの婚約者がいるの!」


「……? ああ、知っているが」


「へ? 知ってて剣を交えて想いを確かめ会ってたの? そんなのダメだよ! 略奪愛は絶対にダメーー!」


 その言葉を聞い瞬間、テオの体からは嫌な汗が噴き出した。

「剣……? ル、ルリア、ちょっと待て、つまり俺がアルベールを……?」



 一歩下がり腰に両手をあてたルリアが、テオに更に追い打ちをかける。


「私もかっこいい筋肉が好きだから、テオが 男の子を好きになる気持ちもわかるよ。 だけど略奪愛はダメなんだからね!」


 その言葉を聞いたテオは、木刀を地面に置き、一歩ルリアとの距離を詰めた。

 ルリアの背中が、回廊の冷たい大理石の柱にコツンと当たる。

 そのまま、獲物を捕らえるようにテオは、真っ直ぐルリアを射抜く。


「ルリア、おまえ本当にわかっていないのか? 俺は――」


ルリアの肩を掴むテオの手に、じわりと力がこもる。碧い瞳の奥にある、独占という重い欲を向けられ、ルリアは一瞬だけ背筋をぴくりと跳ねさせた。


しかしルリアだって、気圧されてばかりじゃない。



「テオ、少しは自分がどう見られているのか、ちゃんと考えた方がいいよ!」

(テオは良い素材だから、姿絵を描かせて!そして小遣い稼ぎに協力して!)


 テオに対しては、王族への不敬なんて事を思いもしないルリアだから辿り着くお願いだ。



「ん?俺の身分の事か……?」

(ルリアも俺との身分差をやはり気にしているのか……。いっそ今すぐ引きずり込んでしまいたいというのに……)テオは小さくため息をつく。


 ルリアの事となると、ズレた深読みになるテオだから辿り着く思考だ。




 ―― テオバルトとアルベール、美男子の姿を愛でていたいデイジー様。


 ―― 婚約者デイジーの特殊な趣味を愛おしいと思いつつ、抑えられない独占欲のアルベール様。


 ―― ルリアが身分差を気にして、あらぬ妄想にはしっていると思い込んでいるテオバルト。


 ―― テオバルトとアルベールの姿絵で小遣い稼ぎを目論むルリア。



 土曜の朝、それぞれの捻じれた思いが交差した。



(第三部・交差の思惑編・完)



 




 つたない文面をここまでお読み下さり有難うございます!


 執着系イケメンを自給自足で補給していこうと書き始めた物語も王宮にやっとたどり着きました(ばんざーい) 新しいキャラクターも増えてきた物語に自分でもわくわくしてます!



 次は、王都であのグループに再会!?そして……

と、少しシリアスな展開も考えております。が、私が書くとコメディになるのでどうなるかわかりません(笑)


★新章突入は11月15日を予定しております★

と、その前に幕間1話を掲載しようと思っています!

・幕間1:テオ視点予定


 もし「テオの雄み見せてよ!」「ルリアもっと暴走させて!」などなど思ってくださったら、

ぜひ【ブックマーク】【いいね】【★★★★★】で応援していただけると、執着テオを描く燃料になります!


 それでは、幕間・第四章でまたお会いしましょう!

(四章からは更新頻度はゆっくりになると思います。土下座)と言いつつ、また毎日更新してたら悶絶しはじめやがったと思ってください!笑


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