おまえが悪い
清潔な白い襟をあしらい、膝下裾の黒いワンピースのお仕着せは、エレガントな見た目でありながらも動きやすさもある。この美しき宮殿のメイドたちの制服だ。
貴族である女官たちは、高級な布をあしらった自前の豪奢なドレスを纏っているので、掃除や洗濯、雑用は全て下級貴族や、メイドの仕事となる。
ルリアは東の端の働き者の街から来たのだ。当然よく働く。が……、
ダメだ。目の届く範囲に良き筋肉があるのがいけない。
まだ朝晩は息が白くなる季節だというのに、中庭に面する演習場では近衛騎士たちが、額から汗を流し訓練をしている。その様子が大きな2階の窓からよく見えるので、窓拭き掃除の手が止まってしまうのだ。
あの上腕筋、素敵!
(なんでも持ち上げられそう!!)
ルリアは純粋に筋肉に憧れが強く、ついつい見入ってしまう事が多々あった。
そして騎士団ファンクラブの姿絵の需要も忘れていない。
(素材が多すぎ!)
「ルリア、ここにいたのか」
突然。頭上からテオの声が降ってきたので、思わずピャッと身構えてしまった。
「……近衛騎士を見ていたのか?」
テオは声色に少し不機嫌な色をのせつつ、背後から覆いかぶさるようにしてルリアを窓枠に寄せ、眼下の様子を盗み見る。
背中に触れるテオの胸板の熱に、すっぽりと体ごと包み込まれ、ふわりと鼻をくすぐるテオの香りに、ルリアの心臓が鼓動を揺らす。
これ以上、この王子に捕まっているのは危険すぎる。ルリアは頭上の主に訴える。
「テオ! テオ重い!!!」
ルリアの必死の訴えも、全く聞き入れずに窓の外を眺め続けているので、胸の隙間から抜け出しテオを見上げてみると、なんだか耳のあたりが赤らんでいる。
(テオ…… すぐ耳、赤くなるんだよね)
テオの香りに包まれ、そんな事を呆然と考えていると、
「そんなに見るな……」
視線が煩わしかったのか、テオの大きな指先がふいにルリアの頬に触れた。
ひやっとしたその感触にルリアの肩は跳ねる。
そのままルリアの輪郭をなぞるように辿る指先が――むにっと頬を摘まんだ。
「いひゃい!(痛い!)」
ルリアは、抗議の意思で涙目ながらも眼光鋭く睨んでやった。しかし、テオは意地悪く口の右側を少し上げて「おまえが悪い」と一言だけ残すと去っていった。
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